───とある夏の日のノヴォルディア
<和樹視点>
真っ暗な部屋、照明は一本の蝋燭のみ。涼しげな夜風……ぶっちゃけ雰囲気だけでトイレに行けなくなるような部屋にいつものメンバーがそろっていた。
せわしなく周りを見て警戒する兄上様、手がぷるぷる震えてますよー
「か、カズキどうしたのだこんな夜遅くに呼び出して。俺は明日仕事があるのだが……」
ノヴォルディアの特産物となった日本式団扇をあおいで涼しげな顔をしているレスリーさん。この雰囲気に動じないのはさすがです。
「わざわざ夜中に呼び出すのですから、何か重要なことなのでしょうか?」
あくびをしながらレスリーさんに体重を預けてうとうとしているカルディナ。ふふん、大体9時ごろになると眠くなるあたりがかわいいやつよのぅ。
「よーじ……まだ?」
一人黙々とまんじゅうを食べてるカザネ、ほっぺいっぱいに頬張って顔は幸せそうだ。
「モグモグ……」
全身ぶるぶるしながら顔を青ざめて、何か物音がするたびにびくびくするデニスとレッドさん。二人とも抱き合って、始まる前からかなりビビってます。
「な、なぁアタイはとっとと帰りたいんだけど……」
「ぼ、僕も夜はちょっと─ガタンッ─きゃっ!? あわわわわっ!?」
前述の二人とは対照的に特に怖がるわけでもなくお茶をすすっているセイレーネとラトゥイリィ。
「どうしました主?」
「夜中によびだしたのですからとっとと始めてくださいニンゲン」
そんでもって俺の横でこれから何が始まるかわからなくて、不思議そうに頭をかしげているセニア。うーんそのしぐさ一つ一つがかわいくてしかた(ry
「どうしたのあなた?」
そう、夜中に皆で集まると言えば……怖い話しか無かろうてっ!!
番外編その5 「どっきり怖い話」
「さて、夜中に集まってもらったのはね……俺の国じゃ夏の夜、怖い話をするのが一般的でね。というわけでやってみたくてさ」
「アホですかニンゲン、そんなことにつきあってられますか……私は自室に戻ります。」
「……死亡フラグ」
「次の朝、そこには死体になったラトゥイリィの、姿が?」
「え、縁起でもない事言わないでくださいっ!!」
おーおーさっそくラトゥイリィがビビってるな、というか完全に4人娘は俺のネタ類を把握してるなぁ。たぶんもうネット世界に出しても大体ついて行けそうだ。
というかもう頬張ってた分飲み込んだのねカザネは。
「こ、こここ怖い話ならアタイはえ、遠慮したいかな、な、なんて、なんてねっ!?」
「ぼ、僕もちょっとそういうのは怖いというかいや別に怖いといっても戦場で隊長を守る護衛兵が恐れる事はないとはいえですけど幽霊とかそういったものはですね僕もっちょっとですね、えと、ええと」
「ふん、ビビり過ぎだろうお前たち。お、俺は脚がしびれただけだ、しびれただけだっ!」
……こっちは始まる前から雰囲気だけでこれかい、大丈夫……俺がガチでビビったのは以前部活での合宿中……ふふふ、このネタで攻めてみようか。
「んじゃまー言いだしっぺなんで、俺から行くね?」
ふふふ、さぁペンドール大陸の皆さんにはジャパニーズホラーはどう効くかな?
「俺が部活の合宿で山の宿で泊まってた時の話なんだけど……その日はちょうど夜遅くまで練習があってね、みんな食堂に集まってたんだよ。天気は最悪でずっと雷は鳴ってるし大雨に強風、まさに台風の天気だったね。」
もうこの時点でレッドさんとデニスが抱き合いながらぶるぶると震えあがっている。カルディナもすました顔をしているレスリーさんにしがみついているみたいだ。
いや、セニアももう少し怖がって俺に抱きついてもイインダヨーグリーンダヨー?
「そして練習が終わってすぐ、ものすごい轟音と共に照明が消えたんだよね……たぶん雷が近くに落ちてそれで照明が消えたんだと思う。外は最悪の天気だし、暗いし、夏なのにすごく寒いんだよ……どうにもみんなそれで不安になって一か所に固まったんだよね」
「照明? 雷でなぜ消えるのですか?」
「ああ、主の世界では照明は一般的に『でんき』というものでつくそうだ。雷が落ちると『でんき』を使う物が使えなくなったりするそうらしい」
「なるほど……べ、別にニンゲンの世界の話などどうでもいいですが、一応確認したかっただけです。」
まだ多少余裕のありそうなラトゥイリィと、全然余裕そうなセイレーネ。ビビり二人組はそろそろ震度計が反応しそうなレベル。
「それでね、いつになったら天気が回復するのかなと思ってラジオで天気予報を聞いてたんだよ。そしたらさ……山のちょっと下にあるラジオ局からの放送だと『現在空が澄み渡って綺麗です、星空を鑑賞するには最適』って言ってるんだよ。おかしいでしょ? だって俺たちの止まっている宿の外からは豪雨と強風、それに雷の音が鳴り響いてるんだからさ……」
「『らじお』?」
「カズキの世界の機械で、天気予報やニュースなどを配信場所と離れていてもほぼ同時刻に聞くことができるそうです」
「えっと、私には少し用語が難しいですね」
「そういえばラトゥイリィはカズキと話したことがあまりありませんからね」
うーん、ラトゥイリィには日本的な物とか考えとか用語を説明していないから、どうにもついてこれてないみたい。ちょいといつものメンバーの理解度を基準にし過ぎたね。
というかレスリーさん、小声で「山の天気ですから」とか言わない、冷静すぎるって。
「それでさ、皆その話を聞いた直後みんな一斉に窓を見たんだよ、もう一度天気を確かめるためにさ。そしたら……あったんだよ」
「な、何があったんですかあなた?」
「あった?」
「……非科学的現象?」
「さて、なんでしょうか」
もはやまともに反応できるのがレスリーさん、セニア、セイレーネだけという……兄上もさっきから完全に微動だにしない。さて、そろそろいくかな。
「そう……もう一度雷が光った時、雲ひとつない空と、窓一面にびっしりとこっちを見つめる目があったんだよっ!!」
───ガタッ!
「「「き、きゃぁーーーー!?」」」
よしっ! デニスとレッドさんは物音をたてた瞬間完全にビビってくれた、カルディナも悲鳴をあげつつレスリーさんにギュッと抱きついてる。
やはりというかなんというかレスリーさんは涼しげな表情だ、怖がっているカルディナを撫でて落ち着かせてるし。セニアもびっくりして俺の腕をつかんではいるものの、あくまでびっくりしたってレベル。セイレーネは物音に反応して剣に手をかけただけ、兄上様は微動だにしない。カザネに至ってはまたまんじゅう食べてるし。
「こ、怖い?」
「大丈夫ですよ、私がついてますから」
「うん……姉さんと一緒なら、大丈夫?」
「き、ききき急に音たてんなバーカバーカッ!!」
「隊長のばかっ! こ、怖かったんですよ!?」
「……モグモグ」
「いきなり脅かさないでくださいニンゲン、少し、少しですよ? 少しですが驚いたではないですか」
「いきなり驚かせないでください主」
「び、びっくりしました……もぅ、ばか」
「あはは、ごめんごめん。まぁこんな感じで怖い話をしていくってわけ」
うん、なかなか良い反応と言えるだろう。さてさて……他の人の怖い話はどんな感じかな?
「じゃあ次だれがやる?」
「「つ、次っ!?」」
「まだ、やる?」
「……モグモグ」
「私はもう遠慮したいのですが……これ以上ニンゲンの話に付き合ってられません」
「では私が」
「れ、レスリー!? あなたがやるの?」
「ほほう、主を怖がらせることのできる内容だといいが」
さてさて、ではレスリーさんの怖い話のお手並み拝見と行こうか……
「昔友人から聞いた話なのですが、ある日友人に手紙が届いたそうです。その手紙は所どころが赤黒く変色していて、内容には『赤い服を着た女が俺を見てる、殺される、死にたくない』とだけ震えているような筆跡で書いてあったそうです」
「こ、ころされ……?」
「……モグモグ」
「そして次の日、その友人はどうしても寝付けなくて困っていました。なぜかのどがからからに乾いて水を飲もうと思って目を開けると、部屋の隅でたっている女の子が見えたそうです……その女の子は赤い服を着ていて、よくよく耳をすませるとくすくすと笑っていたそうです」
ま、まてよ……なんだか嫌な予感がしてきたぞ。ん? んなっ!? こ、この俺が震えているだとっ! し、静まれ俺の腕、うぐぐ。
ビビり二人組はもう少しで泡をふきそうだし、レスリーさんに抱きしめられているカルディナは目を見開いて恐怖にうちふるえてる……あのレスリーさんから発せられてるあのオーラに一番近い所に居るんだし、生きた心地はしてないだろうね……というかセニア痛い痛い、爪、爪が食い込んでギギギ!?
「友人は怖くなってすぐ目を閉じ、耳を塞いで寝ようとしました……でも聞こえるんです、女の子の笑い声が。見えるんです、女の子がこっちを見ている姿が。眠れないんです……女の子が自分の喉を絞めているから……っ!」
「……モグ……」
「な、なんだ、主は怖がってるようだが私はまだまだだな」
「が、ガクブルっ!?」
「あわわ……」
「はわわ……」
「……」
「もう、部屋に帰りたい……やだやだ、聞きたくない……」
「あ、あなた……だ、抱きしめてください。私、怖い……です……」
「う、うん……正直俺も話の内容より、レスリーさんがガチで怖い」
もはやすでにレスリーさんのオーラで全員ガクブル状態。ちなにみさっきからずっと静かだった兄上様は、すでに目を開けたまま失神しているようです。やっぱり怖かったのね。
「そうそう、セイレーネ? この話には続きがあって、どうにもこの話……この話を誰かから聞くとその赤い服の女の子が自分の部屋にも現れるそうですよ……ほら、今ももうあなたの後ろに居るじゃないですか?」
───クスクスクス
「「「「「ひ、ひぃやああああああああ!!??」」」」」
「……(ポトリ」
き、聞こえた……聞こえちまったっ!? いやこの笑い声はネタというか仕込みなのはわかってる。だけどマジでこええええええ!? ば、馬鹿な、ジャパニーズホラーがペンドールホラーに負けるだと!? 認めん、認めんぞおぉおお!
というかセニア抱きつくにしても首はやめて、マジでしまって……げふぅ……
そう、抱きつかれたセニアのよって意識が刈り取られる直前、かろうじてレスリーさんの声が聞こえた気がする……ネタばれだったような、あれ? そんなことを考えている途中に俺の意識は完全になくなった。
「さて、笑い声のエキストラは呼んだ覚えがないのですが……さて?」
ちなみに次の日、怖い話に参加した人全員が目の下にクマを作って朝会に参加したのは言うまでもない。
あとがき
とりあえず生存報告を兼ねて番外編を投稿します。本編もまもなく完結ですので、更新ペースは落ちますが頑張ります。