前回のあらすじ
・主人公は兄上様、俺モブ
・拾った死亡フラグは警察に届けてはいけません
<セニア視点>
馬の足音が聞こえる、兄上とカズキは無事に帰ってきたようです。でも馬車のような音もするので、どうやら二人だけではないようですね……何があったのでしょう。私は少し不安になりながらもきっと大丈夫だと自分に言い聞かせて兄上たちを迎えにいこうと家を出ました。
最初に目に映ったものは馬車に乗せられて、左腕に血がびっしりとついた布を巻いているカズキ、そして返り血を浴びている兄上。
兄上たちの後ろからは怪我をしたニンゲンが数人と武装したニンゲンが5人。そうか、カズキが怪我をしたのも、兄上が武装したニンゲンを村に連れてきたのも、ぜんぶ……アイツらがっ!
「貴様らっ!カズキに何をしたっ!!」
私はカズキを傷つけ、兄上を脅すニンゲンどもに対して入り口の横に立てかけておいた弓を構えました。前回カズキに助けられた時は無かった怒りと覚悟を持って、ニンゲン相手に一矢報いて見せましょう!
「ご、誤解です!私たちは彼らに助けてもらって、それに彼を早く治療しないといけな───」
「嘘だ!兄上がニンゲンをそんな簡単に連れてくるはずがないっ!!」
「落ち着かんかっ!セニア、武器を向けるでない。おぬしの兄が連れてくるほどなのだ、よほどの事態なのだろう……よかろう、歓迎はできんが村へ入ることを許可しよう。じゃが武器は入り口でおいてってもらうでの」
先ほど発言したニンゲンの後ろにいたフルプレートを着けた3人から不満と反論が聞こえる。大ババ様に私とノヴォ村長はカズキの世界で言う『ほんやくこんにゃく』という物をもらったのであのニンゲンが何を言っているのかは理解できる。先頭のニンゲンの”女性”はすぐに帯刀していた剣と背負っていた弓をその場で投げ捨て、後ろのニンゲンにも促した。
……落ち着きなさいセニア、カズキは彼女の言う通り早くしないと危ないかもしれないのです。武器を捨ててまで誠意をあのニンゲンは示したのです……信じましょう、兄上とカズキを助けたいというニンゲンを。
「……失礼しましたニンゲン、彼をこちらの家へ。医術に詳しい方がいるなら一緒に来てください」
「あいよ、じゃアタイがついてくよ。医術なら学んでる」
赤い髪をしたニンゲンが武装したニンゲンの後ろの馬車から出てきて、兄上と先ほどのニンゲンと一緒にノヴォ村長の家に向かってくる。
先ほどの失態で少し場に居づらかったので。私は一足先に村長の家で治療の準備を始めました。
<和樹視点>
セニアさんまでテンパってるなんて……みんなには心配かけたなぁ。初出撃でいきなりアィイイ!だもんなぁ、鍛錬場でLv3になるまで古参剣闘士の筋肉ムキムキマッチョマンにしごいて貰うかな。
日ごろの兄上様を見てると訓練スキルと戦略スキルは4とか5ぐらいありそうだけど。あ、でも知力的な意味でもっと低いか、いや失礼だな。
そういえば……馬車から降ろしてもらって、家まで運んでもらったんだけどこれって人生初めてのお姫様抱っこの相手は兄上様か。普段はニンゲンニンゲンと鬼の形相で追い掛け回してくるのに、いざとなったら誠意を持って対応してくれるとか、普段の態度がとてももったいない気がするぞ兄上様!
などと痛みから気を紛らわすために一人でアレコレてたら、人間族っぽい赤い髪の女の人がやってきました。
「あー、考え事をしてる所わりぃが傷口を見せてくれないか?」
「あ、すいません。どうぞ」
「そういやあんた……ノルドールじゃないね、アタイらと同じ人間だろ?」
「あははーいろいろありましてー」
「ふーん、いろいろで名前で呼んでもらうなんてノルドール相手だとめったにないけどなー」
「あはははー」
いかん、一人称がアタイなんてこれまた珍しいぞ。いやまてノルドールでないことばれた、なぜばれた……って今ヘルメット取ってるから耳でばれたか。どっちにしてもこのことが知られるとノルドールの立場というかなんというかいろいろまずいのでは? 村に迷惑をかけるわけにはいかないし
でも口封じなんて無理だしどどっどどうしよう!?
「ま、細かいこたぁきかねーよ。ちょいと傷縫合するから我慢しろよー」
ニカっと笑って気にしない宣言、すごいイケメン力だ。女性だけど。しかしまてまて、縫合ってまて、その布袋から出した状態の針でやるの!? 衛生的に……って、ノルドールの間でしか普及してねーですよ。やばいって破傷風とか感染症とかやばいって!
「ニンゲン、まず縫合するのなら消毒してください。そこの棚にある『あるこうる』を『だっしめん』につけて針を拭くんですよ」
「へ?」
「わからないのでしたら消毒は私がやります、カズキから離れてください」
ちょと、横にいたセニアさんなに怖いオーラ出してるんですか? 医者っぽい女性は相当びっくりしてますよ。気持ちはありがたいけれど、折角治療してくれるようなので(消毒云々はともかく)ここは穏便に収めないとね。
「あのーセニアさん、いきなり怪我して帰ってきたのは謝りますんでどうかお怒りをお静めくださいませ」
「怒ってません、怒ってませんけど怒ってますっ!」
俺が怪我して帰ってきたから怒ってるんですねってことにして女医さんへの攻撃をこちらに向ける作戦だったのに、なぜかヒートアップするセニアさん。ちょっとアルコール脱脂綿にしみこませすぎじゃありませんか?
「怒ってるじゃありませんか」
「怒ってません」
「いやいや、怒ってますよね」
「怒ってませんっ!」
「アタイから見ても怒ってると思うんだけど?」
「はい2対1で民主主義的に怒ってることになりました」
「お、お、怒ってませんっ!バカっ!カズキのバカっ!」
「うわーんっ!」とか言いながらセニアさん出てっちゃいました、というかアルコールでベジョベジョの脱脂綿顔面に投げつけないでください。目とか鼻とかいろんなところがスースーしてヤバイです!
「ほー……ふーん。ああごめんよほれとってやる」
「うぅ、ヒリヒリする……助かりました。えっと、その、とりあえず針消毒してもらえます?」
「『しょうどく』?」
えっ、消毒知らない? そうか衛生概念が無いのは分かったけど、まさかの器具の煮沸とかも無いのかもしれない。さっきセニアさんに怒られてきょとんとしてたのは、びっくりしたからじゃなくて本当に知らなかったからなのか。
「わしがしておくでの」
「お、おう。じゃあその『しょうどく』とやらを頼むよ」
折角女医さんとお知り合いになれたので、この世界の人間族の医療技術といざという時のための(怪我しやすい体質なもんで)家庭の医学を流し読みした俺の現代医学知識とのすり合わせするのもいいか。俺が医者キャラ……ないな、幕末に行った某先生にはなれっこない。
ノヴォ村長が消毒を終えてこっちに戻ってきた。おうふ、女医さんが縫合を始めたけど麻酔無しなんですね。麻酔なしって痛いんですね、声もでなあばばばばばばばばあばっば
───1時間後
「おーい、大丈夫かー」
だ、大丈夫ですよー。痛いの痛いのどんでけー いやー矢じゃなくて槍が腕に突き刺さりましたからねー 傷口見たくないなぁ……
痛みで意識が飛んでたせいか、あたまがぼーっとする。視線を声のする方向へ向けると、セニアさんと兄上様とノヴォ村長、大ババ様に女性2人がこっちを見てる。この女性二人誰だっけ?
うーん、いかんいかん、考えようとすると痛みが増して、痛みを感じないようにしようとするとぼーっとする……
「あの、えっと──」
「あ、そういや自己紹介がまだだったな。アタイはレッド・ガイディア、流れの医者をやってる。」
「初めまして、今回は救援感謝します。私は隊商護衛兵の隊長、レスリーです」
「ご丁寧にどうもありがとうございます。自分は加藤和樹、この村でお世話になっています。」
なるほど、勝手に女医認定してましたけどレッドさんやっぱり医者だったんですね。それとレスリーさん、切られそうになっていた女性兵士さんですね。本来以上に胸部が膨らんだフルプレートはイケナイと思います。
「悪かった、キサマを守れなかった」
「いえ、俺のほうこそ一人倒したからって油断してました」
「……むぅー」
お互いの自己紹介してるだけなのにどうやらセニアさんは気に食わないようだ。やっぱり人間族とノルドールの壁はまだまだ厚いなぁ。
あとがき
コンパニオン登場っ!
今回は会話を多めにしてちょっと会話文中心の練習をしてみました。