前回のあらすじ
・統制射撃(斉射)にあと音と光があればなー
・のじゃろり襲来
・ていうか内乱終わってなかったの?
<和樹視点>
のじゃろりっ子の衝撃と国際情勢の情報が頭の中をぐるぐる飛び回りちょっと混乱が止まらない。ちょっと待ってほしい、待ってほしいがまず頭を下げよう。相手は王女様のようだし。
「こ、これは失礼しました。第一王女様をお迎えするに足りる用意はできかねますが、心より歓迎いたします」
「し、しばしお待ちいただけないだろうか、帝国とDシャア朝は十字軍に参加する際に反乱を終結させ、反乱軍と馬賊を指揮下に置いたを聞いております。であればあなたたちは……」
こちらはなんとか外交的儀礼にのっとったつもりの対応が取れたものの、デオダトゥス将軍は驚きを隠せず先に突っ込みをしてしまったようだ。
でも確かにデオダトゥス将軍の考えも理解できる。まず我々に入っていた情報ではDシャア朝反乱軍は、現体制に対して反乱を起こした不平貴族部隊だったはず。ところが目の前にいる部隊は「各地で抵抗を続ける」Dシャア朝部隊の一部のような発言をしていた。
つまりは我々の入手していた情報は間違っていたか、それとも意図的にそう伝わってきたかということだ。これは国際情勢について全面的に信用できなくなってきた。
他国と違い本格的な諜報機関のないノルドール側としては、どうしても商人などが荷物と一緒に運んでくる噂話を重要な情報源とするしかない。これは十字軍関係はあえて噂を流しているということがかなりありそうだ……
「よいよい、わらわが直々に話してしんぜよう。まずはどこぞすわらぬかぇ?」
「はっ、それでは皆々様、要塞入り口の作戦会議所までどうぞ」
「……すまんが先に会議室へ向かわせていただく。王女殿下にも大変なご無礼、失礼いします」
「まぁ、よかろ。わらわはひろーい心をもっておるからの」
今回の十字軍関係とは関係なしに長年戦争を続けているのもあり、割とデオダトゥス将軍との間でピリピリしそうなので、先に視線でラトゥイリイに作戦会議室へ案内するように伝えたところ無事通じたようで、まとめて作戦会議室とその前に移動し始めてくれた。
たしかに先日はまで国境線で戦争状態で、やっと停戦交渉が始まったと思ったら十字軍として攻めてこられたんだからそりゃ信用もしてないし恨みつらみだらけだろう。1939年のヨーロッパ状態である。
しかし少なくとも少数ではあるが味方が増えるかもしれないならそれに越したことはない。だけれども十字軍だけではなく最悪停戦したばかりのDシャア朝と本格的に開戦する危険性も……まぁともかく今皆さんに向かってもらった『作戦会議室』にはいろいろと仕掛けもあることだし、いざとなれば……ってね。
───<作戦会議室にて>
作戦会議室に到着するとのじゃろり王女様がラトゥイリイが引いた椅子にどかっと座り腕を組んだかと思えばすっごい偉そうにしている。すごい、典型的なのじゃろりだ……
「では、わらわが直々におぬしらの誤った大陸情勢知識を正してやるのじゃ」
「……ほう、誤っている、と?」
「我々ノルドールは森の中に籠っているから世界を知らないということでしょうか?」
「まぁまぁお二人とも、ここはまず第一王女様に貴重な大陸情勢についてご教授いただきましょう」
「うむ、かずきとかいったかの? 他者へ素直に耳を傾けられるのはよいことじゃ。なかなかに得難き事じゃぞ?」
のじゃろり王女様に誉めてもらったが、あえて言おう『世界の敵らしいのですが、会議室の空気が最悪です』と。
デオダトゥス将軍はまぁわかる、さっきも言った通り長年の敵なうえに停戦交渉中に再び襲ってきたわけだし。ラトゥイリイはまぁ……人間族嫌いだからなめられていると思ってるんだろうなぁ。
そうすると特にDシャア朝への恨みつらみもないし人間族への抵抗感もない俺が間に入るしかないんだよなぁ……偉い人相手は緊張する。
「では誰か地図をもって……いや、すまぬの。砂盤を貸してはもらえぬかの?」
「いいでしょう、帝国の砂盤はノルドールの技術によって使いやすさは向上しているのでさぞ驚くでしょう。では中規模の物を持ってこい」
「はっ!」
デオダトゥス将軍はやけにどや顔で兵士に命じるとこの作戦会議室にはちょっと大きい中程度の砂盤を持ってこさせた。自慢したいんだろうか?
ちなみにさっき将軍が言っていたノルドールの技術というのは単純で、この大陸で使われていた砂盤と呼ばれるものはあくまでサラサラの砂に棒で線を引いていわゆる作戦地図を描くだけだった。
しかし今回俺がノヴォルディアや帝国に持ち込んだのは小隊~大隊規模での散兵戦術や塹壕線の配置、砂を濡らして地形を再現ししたり、再現した地形から射撃が通るかどうか考えるといったまぁ『要塞防衛戦』の事前計画のために作ったのだ。それがいつの間にか単純な作戦図から詳細な作戦計画を練るのに使われるようになってしまった。なんでもどこまでもサイズを大きくできて、しかも修正が容易なうえ後に残らないので防諜上も大変よろしいそうだ……首都の作戦会議室に間諜が入るぐらい帝国はやばいんですね、はい。
「ほほう、便利そうじゃな。では説明するぞ? まず十字軍に参加した国は国内が鎮まり、参加しなかった国には災いが……というのは真っ赤な嘘じゃ。 そもそもおぬしら帝国と和平交渉していたのはわらわ達で、今十字軍に参加し正規軍づらしておる奴らの方が反乱軍じゃ。十字軍参加により教皇軍の援護を受けて馬賊とつるみわが軍を都より追い出して国を乗っ取ったのじゃ! しかし反乱軍の族長は血統も武力も悪いわけではないが致命的に人を見る目がなくてのぅ、あやつの周りには金・暴力・色欲の塊のような奴しかおらんわ!
「……それを証明するに足りる根拠は、何かあるのでしょうか。『敵国』の『第一王女』を名乗る者の言う事を全面的に信用するとでも?」
「良いことを言いますね。ノルドールとしても、あなたの身分を保証できるニンゲンが居れば話は別なのですか」
「そちらの皇帝に会わせてもらうわけには……いかぬじゃろうなぁ」
うーん、どうにも本物っぽいけれど、これが何かしらの罠である可能性も捨てきれないわけで。暗殺者に子供はぴったりとか言うけれど、今デオダトゥス将軍を暗殺したところで帝国軍への影響は限定的だ。確かに名将で名高い将軍ではあるがそもそもこれだけの物量差があるのにわざわざ暗殺なんかするだろうか?、暗殺に対する報復でむしろ団結して士気が向上しそうだ。かといって大陸的にはほぼ無名のラトゥイリイを狙うのも考えづらいし、そもそも俺を暗殺してしまったら十字軍の大義名分がなくなってしまう。これから十字軍を名目に帝国やノルドール連合の領土や財産をむしる気なんだからその線もなさそうだ。
暗殺という単語が思いついたのでふと後ろにいる護衛のカルディナ(セイレーネ達は会議室外に待機中の隊商の皆さんの護衛中)を見ると、すさまじい形相で左手を少し大きめに握りしめて、右手は逆手に剣の握り手にかけている。あれですか、何かあったら右手の剣で払ったり守ったりして左手に握りこまれた暗器で仕留めるんですね。やっぱり最近のうちの部下たちが何か怖い……
「安心、して? 絶対守る」
「あ、あぁありがとうな」
視線を感じたのかカルディナが微笑んでくれた。顔は笑っているんだけどいつでも人を殺せる体制のまま笑われてもちょっとやっぱり怖い……
「まぁよい。わらわから先に一応願いだけ伝えておくのじゃ。敵反乱軍は血統を御旗に正当性を強調するだけじゃ、部族法的に考えればわらわらに正当性があるのじゃが、それでは納得いかんのであろう。すなわち、まずは反乱軍の族長他、名を連ねた反乱軍側の族長をある程度滅ぼせば、日和見中の部族もわらわらの支配下に戻ると考えておる。どうか一戦、二戦でも協力して戦ってもらえぬじゃろうか?」
……うまくいけばDシャア朝の十字軍からの離脱、しかも場合によっては義勇兵の派遣を見込めるかもしれない超お買い得イベントだ。しかしそうも都合よくそんな事が起こるのだろうか?
正直『イイ話』すぎるのだ。何か裏があって考えてもしょうがないだろう。
「帝国軍司令官兼方面軍司令官として申し上げる。はっきり言わせていただくがDシャア朝の部隊とは共闘できない」
「そうじゃろうなぁ───「しかしだ」」
デオダトゥス将軍がきっぱりと共闘を断ると、わかってはいたのだろうが王女は落胆して泣きそうな顔をした。すごい罪悪感を感じるが背後からの殺気で目を覚ます。いかんいかんこれも罠かもしれない。なんて思っていたのだが、デオダトゥス将軍はにやりと笑い言葉を遮ると、俺の肩をつかんで王女の前に突き出してきたのだった。
「このノルドール連合のカズキ殿は初陣で賊に襲われる隊商を救うための戦かった義侠心の持ち主で、また多くの兵士と市民を守るため北方では圧倒的な戦力差の中でヤツ族と戦ってきた守護者だ。『隊商を襲う正規軍崩れ』に対しこの拠点をもって迎撃戦を行うのに何らためらうことはないだろう。その上『隊商長の幼き娘』を奴隷に売りさばこうとする悪辣な『正規軍崩れ』相手には男として戦うことに何らおかしなことはないな」
「……さすがはデオダトゥス将軍。帝国軍の勇将であり真の将軍であらせられますな。むろん和樹隊も幼子の命守るためなら拠点によって戦うことに何ら異議はございません」
なんだか将軍のすごいわざとらしい口上を聞いてしまったのでこちらも悪乗りしてみた。すると背後では和樹隊の面々から「まぁ幼女を守るためなら」とか「幼女ならしかた、ない?」など怪しい声が……帝国軍の方々も苦笑いしつつ頷いている。
これにはさすがの王女様も目と口が○になって呆然としている。確かに普通だったら尋問や状況検証のために軟禁とかされるよなぁ。
「よ、よいのじゃろうか? 共に戦ってもらえるのじゃな?」
「『一般市民のしかも女子供を狙う正規軍崩れ』相手なら軍規上何の問題もありませんな。出撃して殲滅をとなるとさすがに難しいですが」
「追撃してきた愚かな『正規軍崩れ』を完膚なきまでに叩き潰して、数度『賊長』を罵ればまた攻めてくるでしょう。それを一方的に叩けば『帰り道が心配な隊商』の皆さんも無事祖国で待つ『護衛兵』に合流できますよね」
「そ、そうじゃな。しかしこの要塞はそんなにすごいものなのかえ? 先ほどの戦は確かにすさまじいものじゃったが……いや、『隊商長の娘』があまり軍人さんを困らせるものではないな」
「物わかりのいいニンゲンは嫌いではないですよ。カズキ隊隊長殿? 皆さん今日は疲れているでしょうしまずはお風呂でも勧めては?」
「そうだね、では『隊商の皆さん』はまずはゆっくり風呂にでも入ってお休みください」
あれよあれよという間に帝国軍とノルドール連合軍はこの『イイ話』に乗ることになってしまった。すべてが本当だとはさすがに思わないがまぁそこは将来の可能性に期待ということで。
そんなことよりラトゥイリイさん? お風呂だなんて聞いてませんよ? 何勝手にお風呂の日にしちゃってるんですかね。あのでかい公衆浴場を温めるのにどれだけの薪が……あ、体力訓練もかねてそういえばここ最近だいぶ薪割りさせてたなぁ……ま、まぁいいか。隊商の皆さんが入った後、俺たちも入ることにしよう。何か今日は疲れたし……
会議が終了し、割り当てられた将官室でぐったりしていると、セイレーネがさっき作られたのであろうお風呂割り当て表と酒を持ってやってきた。勤務時間もおおよそ過ぎていたのでかなりラフな格好でいたところをばっちりみられてしまい、現在セイレーネは自分の鼻血にまみれて部屋の入口に倒れている。なんというか、この癖というか持病は治らないんだろうなぁと彼女へちょっとズレた同情心を抱きつつ、持ち込まれたお風呂割り当てを見てみることにする。
すでに来客用の時間は終わり、もうすぐ将官・士官の時間のようだ。時間の後ろに何か但し書きが書いているようだけれど鼻血で読めなくなってしまっている。まぁ入り口に覗き防止のために警備兵もいることだし、何かあったら入り口で帰ってくればいいだろうという考えでお風呂セットと共に部屋を出る。
セイレーネ? いや、さすがに床でエヘヘと笑いながら鼻血の海に沈む部下はそっとしておかないとね。関わらない関わらないっと……
お風呂に付くとラトゥイリイ傍仕えの女性兵士が警備兵として入り口に立っていた。俺が来たのにだいぶ驚いているようだけれど、どうしたのだろう?
「カズキ隊長? この時間にお風呂へどのようなご用件で?」
「いや、さっきセイレーネから風呂の割り当て表をもらったんだけれどちょっとアレでね、ほら」
「あぁそうでしたか、でしたら……いえ、うふふ、いえいえ、ふふふ」
「ん?」
女性兵士は血に染まった割り当て表を見ると察したように苦笑いした後、なにやら楽しそうに笑い出した。ちょっとどうしたのかな? 服装に問題でも……いや、鼻血もついてないし服装も大丈夫だ。どうしたんだろう?
「なにかやっちゃったかな?」
「いえいえ、確かにこの時間は『将官・士官』の割り当てです。どうぞお入りください。カズキ隊長は将官ですから入って左のお風呂にお願いしますね」
「了解、先にひとっ風呂浴びさせてもらうね」
「どうぞ『ごゆっくり』……」
なんだかすごーい含みのあるごゆっくりだったけどなんだろう、まぁとにかく疲れた。お風呂入ってさっぱりしよう……
───ラトゥイリイ視点
私の名前はラトゥイリイ
ノルドールの聖なる森に貧乏な平民として生まれ、森を汚す汚らしいニンゲン相手にずっと少数の兵で戦い続けてきた。
貴族にアゴで使われ地獄のような戦いも何度かこなしてきた。そしてノルドールとしては若輩ながら警備隊を率いる立場となった。
しかしあのノヴォ村長の村に突然現れたニンゲンにより私を取り巻く環境は大きく変化した。
ノルドールは国家という概念を理解しノルドール連合という首長連邦とでも言うべき国家として帝国と戦い、そしてサーレオン王国とある程度の友好関係を築き、ついには北方のヤツ族にある程度の損害を出させ、ヤツ族穏健派を支援することによりすべての国境で平穏を手に入れたのだ。
そして北方でのヤツ族との戦いに合わせて行われた貴族による反乱とその鎮圧により、この国には表立った身分差別は消え、平民出身の私は南領警備隊隊長に代わり西領警備隊隊長の役職を得たのです。
しかしその平和も長く続かなかった。
ノヴォ村長の村に現れたニンゲンが世界に厄災を振りまくという予言により、教皇を中心として十字軍が編成されたのだ。
しかし一つニンゲン共には誤算があった。ノルドールがすでに国家として各国との外交関係を構築していたからだ。
これにより帝国はノルドールへの全面協力を決め(ノルドールへの侵攻ついでに攻め込まれ荒らされるのが分かり切っていたのもあるが)サーレオン王国もノルドール側への義勇兵派遣を含むノルドールよりの中立立場を明確にしたのだ。
これによりペンドール大陸は大陸西半分と北方対南方と中東部の戦いを呈してきたのだ。
しかしながら帝国軍はノルドールとサーレオンとの闘いで疲弊し、その上続々と別の大陸から上陸してくるスネーク教徒と戦い、十字軍によってDシャア朝との和平交渉は中断され……国内は荒廃し実に悲惨なことになっているようだ。
それにしてもあのカズキとかいうニンゲンは一体何なのだろうか。
突然現れたと思えばノヴォ村長の村だけでなく、ノルドール全体に医療技術や法律・文学・経済の数多くの新技術・新概念を持ち込み一気に発展させたのだ。
そのノルドールと結婚しノルドールとニンゲンの混成部隊を率いて圧倒的数のヤツ族からの攻撃から北領を守り抜いた……
しかしながら私が『ニンゲン』と彼を呼ぶので彼も『南領警備隊長』と呼び、最近は『西部戦線中部方面軍副司令官殿』などと言ってくることもあるのであまり仲が良いとは言えない。
その上で一つ彼に言ってやりたいことがある。いくら私の胸がつつましいからといって私の事を知り合って一年はたつというのに男だと勘違いしているのはどういうことだろうかと。
───かぽーん
なぜか誰もいない湯船で聞こえるこの音、なぜかは知らないがあのニンゲンの故郷では必ず聞こえる音なのだそうだ。
いや、落ち着こう。なんであのニンゲンの事を考えてわざわざ湯船でいらいらしなければいけないのでしょう!
───ガラガラガラ
ん? 誰か来たようだ。入り口の警備兵に聞いた限りでは今の時間は『将官・士官 ※女性時間』だったはず、私は今将官用の方に入っているが私のほかに女性の将官はいただろうか? 一応カルディナ達カズキ隊の護衛兵は士官用のはず。Dシャア朝の王女がまた入りにでも来たのだろうか?
あの王女め……胸もみ魔であることが分かった以上、明日はただではおくまいぞ……
───和樹視点
「えっ」
「えっ」
……ありのまま起こったことを話させてほしい。これは弁明でも懺悔でもない。単純に事実をのべさせてもらう。
風呂場の扉を開けたら全裸のラトゥイリイが居た。しかもどうみても体つきが女性である。お風呂からあがったばかりなのか何とかも滴るイイ……う、うぁああああああああああわぁああああああああ」
「突然奇声をあげてどうしたんですかニンゲン、寒いので早く扉を閉めてください」
「え、あ、はい。いや、えっ?」
「そんなところに立っていないで早くかけ湯でもしたらどうですか? それとも人前で全裸でいることに快感でも感じるのですかこのニンゲン」
「ちがっ、えっ、ていうかおまえ「ラトゥイリイ」いや、だって「ラトゥイリイですニンゲン、私はお前ではありません」す、すまないラトゥイリイ」
「やっと人の事名前で呼びましたね。まったく、いつも肩書で呼ぶわ男だと勘違いしているは困ったものです」
ふふんとどや顔すると湯船で半身浴を始めるラトゥイリイ……誰か助けてください。状況に完全に頭が追いつきません。さっきののじゃろり王女にしかりラトゥイリイが女の子だった件にしかりなにが一体どうなっているんですかね。ビーディー提督もびっくりなぐらい「今日の要塞は何かがおかしいんじゃないか?」状態だ。
というか恥ずかしがらないんですねラトゥイリイさん。その、少しは隠してくれると既婚者的にはうれしいかなって……
「なんですそんな恥ずかしがって? 私はこれでも平民出身でずっと軍籍に身を置いてきました。ニンゲンであるカズキの数十倍もです。いまさら男性兵士に裸体を見られたぐらいで恥じらうとでも?」
「いや、それにしたってもう少しだけでもいいから慎みを持ってもらってほしいなと」
「なるほど、他人の裸体を見るとは妻に申し訳ないと……すばらしい考えです。頭が発情期のサルなニンゲンとはやはり違いますねカズキは」
ナチュラルに人間をなじりつつなんか誉めてくるラトゥイリイさん。なんだかずいぶん今日はツンツンしてないな。いつもならもっと罵られそうなものだけど。とりあえず突っ立てるのもアレなのでかけ湯して頭を洗おう。無心無心……明鏡止水……
「ふふっ、照れてるんですか? では背中でも洗ってあげましょうか。なに軍では当たり前の事です。なにを恥じらう必要がありますか」
「……だーっ! なんで俺ばかり緊張したり焦ってるんだ恥ずかしい!! よし、背中は任せた!」
なんだか俺だけハズいのはアホくさい気がしてきたので開き直ろう。体をジロジロ見なければOKだろ。とは言いつつも後でセニアにばれたら怒られるんだろうなぁ……
考え事をしていると背中にごしごしと草スポンジあたる感覚がしてくる。本当に背中を流してくれているようだ。いやだからいつものツンツンぶりはどこいったんだ?
「カズキ……一つ、一つだけ聞いていいですか」
「ナンデショウ、コタエラレルコトナラナンデモ」
「カズキの居た世界での歴史を、イスルランディア殿から聞かせてもらったことがあります。カズキの国では過去大きな戦争があり多くの人が亡くなったと、しかしあなたはその後数十年続く平和な時代を生きてきたと聞いています。であれば、さきほどの一方的な攻撃の後、どうして平然としていられるのですか? まるで『目の前で人が死んだ』なんて思ってもいないように」
なるほど、たしかに部隊のみんなとわりとさっぱり全滅させたから驚いているのか。戦場で共に戦うのは初めてだから余計に驚いているんだろう。でも正直北領防衛戦の方がもっと悲惨だったし、正直人の死体になれてしまったこともありそんなにすごいことをした気分にならないのが不思議だ。やっぱり射撃戦はなんというか、罪悪感があんまりでないから楽でいいってものあるかなぁ……
「うーん、こっちでの初めての戦いはそれは怖かったよ。初めて人を殺めた感触はきっと忘れない」
「ノルドールでも平和な生活を長く続けていた人が急に戦場で命を殺めるとどこか変わってしまうものです。しかしセニアさんやあなたの護衛騎士に聞いても特に変わったことはないと答えます。なぜですか?」
「じゃあそういうラトゥイリイは?」
「質問に質問で返さないでください。しいて言えば……ヒトをニンゲンという害虫としか思わなくなったことでしょうか。害虫だからこそ命を奪っていいのだと思うようになりました」
「そっか……確かに、俺も命の重みについて考えたことがあったよ。初めての戦いの後なんて色々と泣いてしまったくらいさ。でも俺の世界ではこんな言葉があるんだ。『一人の死は悲しいことかもしれない。だが100万人の死は統計学上の数字でしかない』って。それを思い出したら歴史を学んでいたときに『戦死者』の数がもっと多い物も何度も見てきたし、戦場の光景も何度も見てきた。だからかな、目の前に『敵兵』が50人倒れていても『たった50人』なんだ。もっと多い『数字』を見てもなんとも思わないし、そんな数字に慣れているとなんだろうな、あんまり驚きっていうのを感じないっていうか」
……なんかベラベラしゃべりすぎている気がしないでもないけど、改めて考えると今回も『少数の敵を撃滅』しただけであって、圧倒的な射撃力による制圧だし、直接切り結んだわけでもないから事務的に処理しちゃったんだよなぁ。装備剥ぎしようとしたらカルディナに止められたから今回はしなかったけど。
「……ではカズキの知る歴史ではどれほどの戦死者が?」
「うーんひどい戦いで有名なものであればソンムかなぁ。両軍合わせて百万人の死傷者を出したわけだし」
「ひゃ、百万……何百年続いた戦争なのですかそれは!?」
「いや、三か月だけ。しかもこの戦いで若干戦線が前後しただけで大勢には影響がなかった」
「三か月で……カズキの世界では命は軽いのですか? 『ロム兄さんごっこ』をするほどには正義や人命を尊ぶ精神はあるように感じますが」
「そうだなぁ、俺の考え方や行動は誰かの受け売りって事が多いから、こんな時ならあの人だったらこうするだろうなって考えるとだいたいうまくいくのさ」
実際にファーストコンタクトではロム兄さん、セニアとの夫婦生活は両親、隊長の仕事は異世界自衛隊の隊長さんとか。異世界での医療や建築はエウメネスや江戸時代に行ったお医者さんなど、参考にできる『先駆者』がこれほどいるわけで。俺自身の能力がなくてもそうした事前に通った道を可能な限りなぞることで最適解に近い道を進み続けられるのが得意なのかもしれない。
だからといって事はなんでも知っていることばかり起きるわけじゃないからどうしたって限界はある。でも周りの人たちに助けられていつの間にかノルドール連合国の一将官として要塞防衛を任されるまでになった。能力以上の職についている以上、自分の能力を伸ばしつつなんとか職責を全うできるようにもっと多くの人のやり方を参考にして効率化しないといけない。
それが自分より何倍、何十倍も生きるノルドールの妻を持った責任なんじゃないかと思うようになった。それだけじゃない、妻や子供の生きる未来に何かを残さないといけない、きっと子供以上に長く残される妻のために何か残さないといけない。自分の命が十字軍によって大勢に狙われていること感じてから、そう強く思うようになった。
「……最後に一つだけ、聞いてもいいですか?」
「どうぞ、こ、答えられることならね?」
「北領防衛戦でイスルランディア殿に送った手紙の内容、あれも誰かの受け売りなのですか?」
「うん、あれは俺の祖国で最後まで守り続けて戦死した将官の報告文を使わせてもらったんだ。文字にして起こすと覚悟も改めて自覚するよね」
なんというか玉砕覚悟の手紙を他人が知っていることでちょっと恥ずかしくなったので頭をかきながら背中を流そうとつい振り返ってしまうと、ラトゥイリイは怯えたような、怖がるような表情をして固まっていた。あれ? 何か怖がらせることを言っただろうか?
あとがき
え、エタらないように……
拍手レス
>SYさん
>>サゲ更新と言わず
恐る恐るアゲてみました。ビクビク