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No.12843の一覧
[0] Lovefool 【化物語SS】[shizu](2009/10/24 18:17)
[1] Lovefool-2【化物語SS】[shizu](2009/10/24 18:18)
[2] Lovefool-3 【化物語SS】[shizu](2009/10/24 19:00)
[3] Lovefool-4 【化物語SS】[shizu](2009/11/02 00:15)
[4] Lovefool-5 【化物語SS】[shizu](2009/11/02 01:59)
[5] Lovefool-6 【化物語SS】[shizu](2010/04/12 07:29)
[6] Lovefool-7【化物語SS】[shizu](2010/06/06 20:54)
[7] Lovefool-8【化物語SS】[shizu](2010/06/08 22:16)
[8] Lovefool-9【化物語SS】[shizu](2010/06/10 18:51)
[9] Lovefool-10【化物語SS】[shizu](2010/06/14 17:12)
[10] Lovefool-11【化物語SS】[shizu](2010/06/15 19:22)
[11] Lovefool-12【化物語SS】[shizu](2010/11/07 01:56)
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[12843] Lovefool-2【化物語SS】
Name: shizu◆c84b06a2 ID:ec097600 前を表示する / 次を表示する
Date: 2009/10/24 18:18
 ●

「なんじゃ、今日も夜の散歩か」

 頻繁に過ぎる、と忍は思う。
 最近、暦は毎日、夜に外に出かける。出かける前に忍を呼び出すのが常だ。呼び出すと、無言のまま、首を差し出す。忍が意図を問うても、暦は答えない。頼む、とだけ彼は言うのだった。訴えるような、哀しげな目で忍を見つめながら。
 既に忍は暦を問いただすことを諦めていた。どうせ、この主人兼従僕は例によってどこぞで手足どころか身体全体で人のために自ら命を張っているのだろう。主人の酔狂に付き合うつもりはない。ただ、自身が人助けに手を貸すのは業腹だったが、忍がしているのは暦の血を吸っているだけだ。求められることがそれ以上でない限りは、忍は黙認を続けるつもりだった。
 今や、半ば常態化した習慣だった。血を適度に吸って、暦を半吸血鬼化する。

「ふむ、こんなところかの」

 と言って、忍が離れようとした刹那。
 暦が忍の身体を抱きしめた。

「こ、こら、何をする」

 忍は、手足を動かして抵抗した。暦の血を吸ったせいで、身体は、幼女から少女へと変化を遂げている。肌に感じる男の筋肉と気配にたじろいでいた。
 悪い、俺もお前の血を吸うぞ、と耳元で暦が囁く。同時に、忍は全身を快感に包まれた。吸血鬼にとって、吸血という行為は一種の性行為だ。血を吸われながら、久しぶりの感覚に陶酔する。お前も吸え、という声を契機に、忍も再び歯を突き立てた。肉を割く感触と血の味に酔いしれる。音を立てて、血を嚥下すると、暦が低く呻いた。その声にさらに感情が高ぶる。身体の奥から頭の中へと興奮が全身を駆け巡る。首から垂れた血を舌で舐め取って、行為を続けた。
 時間にして数分、互いに抱擁し、吸血を繰り返した。忍は快感に溺れ、暦は快感を貪っていた。行為の最中、暦の表情が何度か忍の視界に入った。眉間に皺を寄せて、何かに耐えているように見えた。瞳の光は揺れて、表情に力はない。

――いったい、何をしておるのじゃ、お前様は。

 忍はそれを声には出さなかった。自分に求められているのは、目の前の男を慰めることだとわかっていたからだ。暦が他の誰でもなく自分を頼っている。その事実も忍を酔わせた。既に行為は終わっている。しかし、暦は忍の身体を離そうとしなかった。忍は黙って身を委ね、そっと手を回して抱きしめた。首の肉に浮き出た傷跡を指で弄った。吹き出た血をすくいとって舐める。痛いな、という男の呟きを愛おしく思った。
 しばらくして、暦が身体を離した。

「悪いな、助かる」

 そう言って、窓から身を乗り出した。口の端、鋭い牙が見えた。忍が少女から女性となり吸血鬼と化したのと同様、彼もまた自らを怪異と化している。その身体も纏う空気も、人間のものではなかった。
 忍は浮かれていた。今の暦は、彼女の「仲間」だ。今の暦を人間と規定することは難しい。ならば、彼は今彼女の同類であり、運命をともにする存在だった。行為の後の余韻が、その感傷を後押ししている。忍の身体は未だにある種の熱を保っていた。
 戯れに聞いた。
 意地悪い気持ちがそこには混じっている。暦は、果たして、何と答えるのだろう。そんなことを考え、暦の答えに期待をふくらませている自分に忍は苦笑した。頬がゆるんでいるのがわかる。

「しかし、あの女、仮にもお前の恋人であろう……あやつには何も言わないでよいのか?」

暦は首を振って、それに答えた。

 ●

 雨の中、翼は目的地目指して、一心に足を動かしていた。夜になって降り出した雨は激しさを増し、傘に当たる音は次第に強く激しくなっている。空気は冷たく肌を刺してきた。雨に濡れて、衣服を重たく感じる。重たい湿気が肌にまとわりついてくるようだった。
 翼のはき出す息は荒い。抑えようとして、足が速くなるのを抑えられないのだ。自分の鼓動を強く感じる。重い鉛を腹の中に流し込まれたような気分だった。ともすれば不安に押しつぶされそうになるのを必死でこらえている。
 大丈夫、きっと大丈夫。そう心の中で何度も呟く。胸を締め付けるのは、不安と焦燥だった。神様に祈る趣味も嗜好も彼女は持ち合わせていない。人生において、祈るたびに与えられたのは絶望だったからだ。天から蜘蛛の糸を垂らしてくれる存在など、人間が勝手に作り出したありもしない幻想。それくらいのことはわかっている。しかし、今、彼女は友人のために祈っていた。対象も定かではない祈りに効果があるのかはわからなかったが、それ以外にできることはなかったのだ。

「あっ、ごめんな……」

 下を向いて歩いていたので、気がつけなかった。人とぶつかる寸前だった。向こうも急いでいたのだろう、すれ違い様に傘が相手の身体に当たってしまった。翼はよろけ、さらに肩で相手とぶつかった。強い衝撃を身体に感じる。相手は傘を差しておらず、全身濡れていた。翼は、反射的に謝罪の言葉を述べたが、返事はなかった。気分を害してしまったのかもしれない。無言のまま、足早に遠ざかる後ろ姿に、翼は、もう一度、すいませんでしたと声をかける。
 そして、我に返った。視界の端には、既に私立直江津高校の建物がある。彼女が目指しているのは、昔の母校だった。思い出の詰まった空間だったが、感傷に浸る余裕は今の彼女にない。まっすぐにグラウンドへと足を運ぶ。
 単なる直感だった。

――阿良々木君は、きっとここにいる。

 翼は、阿良々木家に立ち寄り、暦の部屋で忍に会っている。夜の塾講師のバイトを終えてから向かったので、時刻は既に遅かった。そして、自身の判断ミスを翼は悔やんだ。バイトなどキャンセルして、即刻暦と会うべきだった。歯噛みしても遅い。忍は、艶やかな女性の肢体を誇って翼に暦の留守を告げたのだった。

「なんじゃ、久しぶりじゃの、人間。あ、暦か、あやつなら留守じゃ……散歩に出かけておる。ところで、お主、人を訪ねるのに、土産もなしか? 儂の好物くらい知っておるであろうに、気が利かぬなあ」
「忍さん、その姿は……」
「ん、これか……先ほど暦とちょっと『いたし』てな。完全に昔のままとはいかぬが、これでなかなか儂も捨てたものではなかろう? お主ほどではないが、胸もあるぞ」

 ほれ、と言って、忍は、自分の胸を掴んで寄せた。嬉しそうな声だった。軽い口調、上気した頬に濡れた瞳。吸血鬼の浮かれている様を別世界の出来事のように翼は感じた。現実から自身の存在が遊離していく、あるいは自身の世界が現実から遊離していく感覚がある。
 階下にいた妹たちは、最近の兄の不審行動を語った。深夜に頻繁に出かけているようだと言う。

「なんだ、やっぱり今日も出かけてんの、兄ちゃん?」

 兄の留守を知って、一人が眉をひそめて言った。

「『やっぱり』って、どういうこと?」

 翼の問いに、もう一人が言葉を継いだ。

「最近、兄ちゃん、何だか変なんですよ。夜になると、こっそり街に出ているみたいで……あと、なんか、最近の兄ちゃんは怖いっていうか……あまり話さないし、話しかけても上の空で聞いているんだか聞いてないんだかわかんないし。むっつりなのは昔からだけど、最近の兄ちゃんは何を考えているのか、よくわかんない」

 翼は、グラウンドを睥睨して歩きながら思い出している。妹の話。忍の姿。そして暦の部屋。部屋には暦の行き先を告げる手がかりどころか、何もなかったのだ。四畳一間。ベッドに机。机には若干の本と書類。ベッドの脇の灰皿、そして詰め込まれた吸い殻。それだけだった。他に何もない。生活感どころか、人間の生きている匂いを感じることのできない部屋だった。
 強い違和感がある。彼の部屋は、高校生のときもこんな有様だっただろうか。翼の記憶はそれを否定した。あそこには漫画もあれば、ゲームもあった。翼が眉をひそめ、あるいは、笑みを浮かべて暦をからかう種となるような、いかがわしい本も数多くあった。そういったものが暦の部屋から全て消え失せている。「なぜ」そして「いつ」とという問いが頭の中を駆け巡る。
 惑乱の中で聞いた。
 ぐちゃ。

――何の音だろう?

 それは今まで翼が耳にしたことのない音だった。鈍く重い低音。翼は足を止めて耳をそばだてた。
 雨はさらに強さを増して、天からたたきつけるように落ちてくる。傘を重く感じる。雨と闇に押し包まれてしまいそうな錯覚に陥る。濡れた服は冷気にさらされて一層冷たさを増し、身体から熱を奪っていく。
 激しい雨の中、音がどこから来ているのか聞き分けようと、翼はあたりに目をやって、耳を澄ませた。闇の向こう、小屋があるのが目にとまった。体育倉庫だった。かつて暦が絶望に喘ぎ、助けを求めて震えていた場所であり、翼が暦を迎え、慰め、そして送り出した場所だった。
 記憶が脳裏を走った刹那。
 大きな音が響いた。
 倉庫のドアが弾け飛んだのだった。開いたドアから大きな塊が飛び出した。獣だろうと翼は思った。その塊は動いたからだ。よろめいて、土の上を這い回る。進もうとして果たせず、蹲る。そして、また蠢く。何かに追われ、何かから逃れようとしているような動きだった。事実、それは何かから逃げようとしているのだろう。遠目にも無様な動きは、恐れと生存への強い意志を感じさせる。死に瀕した動物が迫り来る死を逃れようとして、足掻いているのだと翼は思った。
 正体を見極めようと目を凝らしたとき、その獣が自分を見たと感じた。錯覚ではない。確信があった。見られたと思い、次に逃げなくてはと思った。それは動物的な直感に近い。その獣は捕食する強者で、自分は捕食される弱者だ。翼の本能が危険を告げていた。

「女……運が悪かったな」

 突然、頭上から声がした。闇の中、光る目が翼を捉えていた。乱れた髪の毛とカチューシャ、口の端の牙が目についた。いつの間に移動したのか、目の前にそれはいる。
 それは明らかに獣ではない。獣は人語を解さないし、発さない。しかし、これは人間なのだろうか、と翼は思う。そう呼称するには、必要なものが欠けていた。
 四肢がなかった。
 あるのは、巨大な体躯だけで、右手は肘から先が、左手は肩の付け根からない。足は左右ともに太股から先がなかった。雨に混じって赤い血液が止まることなく滴り落ちている。

「あ……」

 声は出なかった。叫ぼうとして果たせない。喉の奥、締め付けられているような感覚がある。足が竦み、身体が震える。震えた手から傘がこぼれ落ちた。とたんに全身が雨で濡れた。
 自分は、これを見たことがあると翼は思った。しかし、思い出せない。いつだったか、目の前の存在とすれ違ったことがある。なのに、わからない。恐怖に支配されて、頭が動かない。動け、動けと念じても、頭も身体も止まったままだ。

「この通りの有様でな、このままでは私は死ぬ。だからな、女……」

 それは息を継いで言った。

「お前の血をもらうぞ」
 
 悪く思うな、と呟くように付け足した。そして、それは大きく口を開く。闇の中、牙が光るのが見えた。
 え、悪いよ、と翼は思う。私、死ぬんだな、と次に思った。口の奥で奥歯を噛みしめて、足に力を入れた。

「死ぬのは、羽川じゃない……お前だよ」

 声がした。聞き慣れた声だった。
 肉の裂ける音が続いた。

「え……」

 翼は目を見開いて、それを確かめる。眼前のものを信じられず、目を何度か瞬いた。
 目の前に心臓があった。
 血が飛んで翼の顔を汚した。巨大な身体の中心を手が貫通している。その手には心臓が握られていた。どくり。肉の塊が音を立てて動いた。
 
「あ……が……」

 呻き声。それは言語ではない。分節不可能な音だった。しかし、意味は明瞭だ。四肢を引きちぎられ、身体を貫かれ、その生き物は死ぬ。真ん中を貫く手から抜け出そうと、もがいて動いているが、その動きは弱々しい。
 
「じゃあな、ドラマツルギー。これで終わりだ」

 そう言って。
 翼の眼前。
 阿良々木暦は、心臓を握り潰した。


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