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No.12843の一覧
[0] Lovefool 【化物語SS】[shizu](2009/10/24 18:17)
[1] Lovefool-2【化物語SS】[shizu](2009/10/24 18:18)
[2] Lovefool-3 【化物語SS】[shizu](2009/10/24 19:00)
[3] Lovefool-4 【化物語SS】[shizu](2009/11/02 00:15)
[4] Lovefool-5 【化物語SS】[shizu](2009/11/02 01:59)
[5] Lovefool-6 【化物語SS】[shizu](2010/04/12 07:29)
[6] Lovefool-7【化物語SS】[shizu](2010/06/06 20:54)
[7] Lovefool-8【化物語SS】[shizu](2010/06/08 22:16)
[8] Lovefool-9【化物語SS】[shizu](2010/06/10 18:51)
[9] Lovefool-10【化物語SS】[shizu](2010/06/14 17:12)
[10] Lovefool-11【化物語SS】[shizu](2010/06/15 19:22)
[11] Lovefool-12【化物語SS】[shizu](2010/11/07 01:56)
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[12843] Lovefool-11【化物語SS】
Name: shizu◆c84b06a2 ID:ec097600 前を表示する / 次を表示する
Date: 2010/06/15 19:22
 ●

「うふ……うふふふふふ」

 帰り道の間、吸血鬼はずっと浮かれていた。頬をゆるめて、満面に喜色を浮かべながら、にこやかに笑っている。

「これは貸しじゃのう、お前様」
「……忍」
「儂は何せお前様の命の恩人とやらになったぞ……お前様の大ピンチに現れて、お前様が歯も立たなかった相手を一瞬で片付けてしまうとは、我が事ながら、儂はかっこいいのう、素晴らしいのう、強いのう……さあて、何をしてもらおうかのう」

 そう言うと、先を歩いていた忍は足を止めた。振り返って、暦に向き直る。
 今の忍は、背も高い。暦は、忍を見上げる形になった。忍の勝ち誇った顔から目をそらすと、豊かな胸が目に入った。

「でも、僕が死ぬと、お前も死ぬわけで……なんていうか、自分で自分の命を救っただけっていうかさ」
「何と、そのようなことを言って、儂のした行いの凄さを損ないおうとは……男らしくないのう。かっこわるいのう」
「うるせえっ! いや、お前、大体、『ちょっと儂は寄るところがあるから先に行っててくれ、何、大した用事ではない、すぐに追いつく』とか言っておいて、どこにいやがった! 僕は、本気でこの世にお別れを告げるかもしれない恐怖の中で、ああ、ろくな人生じゃなかったななんて、思わず走馬燈が頭の中を駆け巡ってたんだぞっ!!」
「……夜の散歩じゃ」
「何でこのタイミングで散歩なんだよっ! おかしいだろ!……あ」

 暦の頭に閃いたものがあった。忍が最近好んで読んでいたものがある。ふむ、なかなか面白いものじゃのうなどと言って、部屋で寝そべりながら、ドーナツを貪りつつ、吸血鬼は現代日本のサブカルチャーに親しんでいた。最近のお気に入りは、ベタベタの少年漫画だ。ピンチになると、強い味方が助けに現れる。
 暦は忍の顔を見た。相変わらず、顔の表情はどこかゆるんでいる。

「な、なんじゃ……」
「……忍、お前、もしかして」

 暦が睨むと、忍は目をそらした。悪戯をした子供の表情だった。

「お前、まさかとは思うが……」

 暦の声が低くなる。声に若干の恨めしさがあった。粘りつくような視線を忍に向ける。

「ち、違うぞ、お前様」
「……口の端にドーナツがついているぞ」
「……ッ!」

 忍は慌てて口の端を手で拭いた。

「いや違う、違うぞ、お前様、そんなことを儂がするはずがないではないか」

 目に見えて、忍は慌てた。態度で自白をしているようなものだった。暦の視線がさらに絡みつくような、恨みがましいものに変わった。

「いやいや、まさかまさか、そんなそんな……儂が実は遠くからドーナツ食べながら、最初から最後まで、一部始終を見ていて、お前様が不意打ちを食らって慌てているところを見て爆笑したり、小娘をかばっている姿を見て、ちょっと羨ましいかもとか思ったり、挙げ句の果てには、よし計画通り、お前様が最大のピンチになったところで、格好良く登場して、格好良く助けだして、恩を売ってやろう……大体お前様はいつもいつも儂のことを軽く見てガキ扱いしおって、その癖、都合のいいときには利用するだけしおって、何気に腹が立つ、それにそれに他の女には随分気を使う癖に儂にはちっとも気を払わん、少しは儂のことも一人前のれでぃとして重んじるべきじゃ……よし、ここは普段の腹いせに少し困らせてやろう、何死ぬわけじゃなし、これくらいの仕打ち許されるじゃろうなんて……善良な儂がお前様に対してそのような悪巧みをするはずがないではないか!」
「……長々しい自白をありがとう、忍。しばらくドーナツ抜きな。あと、今後一切少年漫画読むの禁止で」
「ええっ、そんな……お前様、それはあまりに殺生というものじゃ……このままでは、死んだ花京院が報われないではないか」
「第三部って、中途半端だなっ!! それに、お前は、どちらかっていうと、DIOに感情移入すべきだろ……承太朗がDIO倒して終了だから」
「なにっ! それは聞き捨てならん……どうやって倒すのじゃ?」
「……努力と根性だよ。ジャンプだからな」

 たわいもない会話をして家路を辿る。暦の口から溜息が漏れた。家も間近だった。視界の端に映る我が家に安心を覚えた。全身が鉛のように重く感じられる。
 重いのは身体だけではなかった。心にのしかかる問いがある。
 これまで暦は胸に何度も聞いた。「これ」は正しいのか、と。答えはいつも同じだ。わからないのだ。暦は、その時々、最善と思われる行動を取ったつもりだった。だが、なお事態は悪化した。
 一人の少女の姿が脳裏をよぎる。

(僕はあいつまで……あいつくらいは……)

 ひたぎは家に送り届けた。
 別れ際、じゃあね、また明日と彼女は言った。暦は返す言葉を持たなかった。苦笑いでその場をごまかす暦にひたぎは微笑んだ。ずるいわね、阿良々木君と言って、彼女は口を寄せてきたのだった。
 暦は驚いて目を見開いたが、抵抗はしなかった。目を閉じて何かを訴えかけるような表情をひたぎはしていた。絡まった舌が湿った音を立てた。やがて唇を離すと、ひたぎは黙ってきびすを返し、家に入った。
 振り返ると、忍が胸の前で腕を組んで、しかめ面をして立っていた。
 暦は、唇に指をあてて、ひたぎの感触を思い出す。

「なんじゃ、お前様、バカ面をして……大方、あの小娘との口づけでも思い出しておるのじゃろうが……昨日は昨日で別の女の匂いをまき散らせながら帰ってきおったし……ほんに鬼畜じゃとは思っていたが、お前様はきっとろくな死に方をせんな」
「……それにはうちも同感やな。おどれはろくな死に方をせんよ。だから言ったやんけ、おどれがどんな価値観持とうと、どんな正義感持とうと勝手やけれど、そんな理想を他人に押しつけんなや……この事態を招いたのは、間違いなくおどれ本人やで」

 聞いたことのある声だった。
 視界の向こう、自宅の門の前に人影が一つある。

「久しぶりやのう、鬼畜なお兄やん」

 影縫余弦が門扉の上に立っていた。

 ●

 ひたぎは家に帰り着くと、シャワーを浴びた。
 温かい湯が肌を流れていく。時折、その温かさが身に沁みることがあった。身体を洗うときに、肌に残る縄の跡に気がついた。くっきりとした痣になっている。ひたぎは、その一つ一つを指で撫でて確かめた。
 唇には、暦の感触が残っている。衝動的にした行為だった。考える前に、身体が動いていた。
 また明日と言ったとき、暦が困った顔をしたのだ。胸に浮かんだのは、逆上であり、同時に目の前の男に対する愛おしさだ。
 別れたときの顔を思い出す。泣きそうな顔をしていた。悪いな、戦場ヶ原、お前まで巻き込んじまって。耳元で、そんなことを小声で呟いていた。
 暦は何も語らなかった。
 街に出ているという吸血鬼のこと。
 羽川翼のこと。
 そして、神原駿河のこと。
 聞きたいことは、いくらでもあった。しかし、聞くことによって、明らかにするのが怖かった。暦は自ら語り出しはしなかった。ひたぎは、それに甘えたのだった。
 湯船に身を浸けて沈めた。温かいお湯に全身を包まれて、身体とともに、心がほぐれていくのがわかった。ようやく冷静さを取り戻したひたぎの脳裏に、一つの疑問が閃いた。
 なぜ暦はエピソードを殺したのだろう。
 あれは、ひたぎの知る阿良々木暦ではなかった。忍は判断を暦に委ねていた。心臓を取り出した時点で死んだも同然の身だったが、最終的に死の宣告を下したのは暦だった。そして、暦は、迷いなくエピソードの死を決めた。
 自分が生きたいからなのだろうか。
 暦を待つまでの間に、エピソードは、退屈しのぎのためか、ひたぎに一方的に話した。街に出る吸血鬼の始末に来たのだと男は言っていた。さらに、既に一人、吸血鬼ハンターが始末されていると付け足した。ならば、エピソードを殺さなければ、吸血鬼である暦は死ぬ。だから殺した。そういう立論は可能だ。
 だが、ひたぎはそれを首肯する気持ちになれなかった。どうしても腑に落ちないのだ。暦は今日ひたぎのために命を捨てた。あれはひたぎの知る阿良々木暦だ。自分の生を肯定できずに、他人の生を無条件に肯定するろくでなし。ダメ人間であるがゆえの、無条件のお人好し。暦が自分の命に執着しているという想定は、理屈が合わない。暦ならば、自分の命を狙う敵の命を自分よりも優先するだろう。
 湯船から出て、タオルで身体を拭く。水玉が汗とともに身体から垂れ落ちて、床を濡らした。ひたぎは丹念に身体のあちこちを拭いた。
 あるいは、自分のためなのだろうか。自分が再び人質とならないように、暦はあの男を殺したのだろうか。この理由は、一応納得できるものだった。
 だが、それでもひたぎには疑問が残る。
 確かに、暦は、あのとき躊躇いはしなかった。しかし、その表情にあったのは、苦悶と哀しみだ。目を細めて、頬を歪めて、暦は首を振った。他に道がないことを知っている顔つきだった。
 そもそも、無差別に暦が人を傷つけることは考えにくかった。学食で翼に言った言葉は冗談に近い。暦は人を傷つける前に、自傷なり自殺をする類の人間だ。好きこのんで、人を襲い、吸血行為を楽しむなどということがあるだろうか。
 憂さ晴らしという単語がひたぎの脳裏に閃いた。そして、すぐに否定する。確かに、最近の暦が学業も就職活動も上手くいっていなかったのは事実だ。どういうきっかけがあったのか、数ヶ月前からは学校の授業にも顔を出さなくなった。しかし、もし暦が人を傷つけることで憂さが晴れるような人間ならば、ひたぎの苦労は格段に減ったことだろう。人を助けることでしか、自分の価値を確認できない暦だからこそ、ひたぎは施す術を持たなかったのだ。
 付き合う中でひたぎが繰り返し暦に説いたのは、自分を愛することだった。ひたぎは、暦に自分の好きな男を好きになって欲しかった。暦に暦を認めさせたかった。しかし、いかに力を尽くして言い聞かせても、達成することができなかった。暦の中で、阿良々木暦という存在の価値はゼロに等しい。それが悔しくて哀しくて口惜しくて苛立たしくてたまらず、ひたぎは時折癇癪を起こした。そういうとき、暦は決まって、ひたぎの感情の暴発の原因がわからず、困り果てた表情を作り、苦笑しながら時が過ぎるのを待っていた。
 大体、あの羽川翼を阿良々木暦が傷つけるだろうか。病室で今も眠る友人の首もとにあった傷をひたぎは思い返す。間違うことのできない牙の跡は、生々しい略奪を思わせた。翼を昏倒させ、入院させたのは、明らかに第三者の悪意だ。暦が翼に悪意を抱く。その想定をひたぎは受け入れることができない。
 理由。
 畢竟、ひたぎの疑念は一つに収束する。
 暦が街で他人の血を吸い、始末屋を殺し、翼を傷つけるような理由。
 浴室から出て自室に向かう。
 自室の光景と空気を懐かしく感じた。ほんの一日空けただけなのに、数年ぶりに我が家に帰ったような心地がする。
 机の上に放り出したままの携帯の電話の電源を入れると、数件のメッセージが入っていた。

「……え?」

 いずれも、同一の番号からのものだった。
 その番号は懐かしい。
 だが、その懐かしさは遠く、懐古の念より当惑が強い。
 ひたぎは、リダイヤルのボタンを押した。


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