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No.12843の一覧
[0] Lovefool 【化物語SS】[shizu](2009/10/24 18:17)
[1] Lovefool-2【化物語SS】[shizu](2009/10/24 18:18)
[2] Lovefool-3 【化物語SS】[shizu](2009/10/24 19:00)
[3] Lovefool-4 【化物語SS】[shizu](2009/11/02 00:15)
[4] Lovefool-5 【化物語SS】[shizu](2009/11/02 01:59)
[5] Lovefool-6 【化物語SS】[shizu](2010/04/12 07:29)
[6] Lovefool-7【化物語SS】[shizu](2010/06/06 20:54)
[7] Lovefool-8【化物語SS】[shizu](2010/06/08 22:16)
[8] Lovefool-9【化物語SS】[shizu](2010/06/10 18:51)
[9] Lovefool-10【化物語SS】[shizu](2010/06/14 17:12)
[10] Lovefool-11【化物語SS】[shizu](2010/06/15 19:22)
[11] Lovefool-12【化物語SS】[shizu](2010/11/07 01:56)
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[12843] Lovefool-3 【化物語SS】
Name: shizu◆c84b06a2 ID:ec097600 前を表示する / 次を表示する
Date: 2009/10/24 19:00
 ●

「それにしても、阿良々木先輩からの呼び出しとは驚いたぞ。一体、どんな風の吹き回しで突然、私を呼び出したりなんかしたのか」

 神原駿河は感想を正直に述べた。そして微笑んだ。自分は今上手く笑えているだろうか。そんな心配が頭をよぎる。手が震えそうになるのを必死で抑えながら、目の前のコーヒーを口につける。舌を刺す苦みに顔を歪めた。

「迷惑だったか?」

 そう言って、暦はまっすぐに駿河を見た。暦の視線に胸が跳ねる。今、阿良々木暦に見られている。そのことを意識するだけで、胸が痛い。声を出そうとしたが、口は中途半端に開いたままで、言葉を結ばなかった。ごまかそうとして、紙ナプキンを取って口元をぬぐう。白い地に走る紅を見て、失敗を悟った。強く拭いてしまったために、口紅がほとんど取れてしまった。
 意を決して口を開いた。

「そんなことはないぞ。この神原駿河、阿良々木先輩の呼び出しとあれば、例え火の中水の中風の中土の中、男子更衣室の中にだって入って裸になってみせるとも」
「いや、別に裸になれとは言ってない。あと、それはただの変態だろう……」

 暦は力なく笑った。苦笑に近い。しかし、険しかった表情がゆるんだ。よかった、上手くできた、と駿河は思う。昔みたいに軽口を叩くことができた。その事実が駿河の気持ちを高揚させる。阿良々木暦と二人で冗談を言って笑う。それは、失って久しい甘美な体験だった。

「いやいや、この私を見くびってもらっては困る。阿良々木先輩のリクエストとあらば、この昼間の喫茶店というきわめてチャレンジングな公共の場所でも裸になって、自慰にふけり、クライマックスで阿良々木先輩の名前を大声で呼んでみせようではないか」
「いや、それお前どころか、僕も巻き添えくらって捕まるだろ」
「そうだろうか。阿良々木先輩の名がこの商店街に伝説として永遠に語り継がれるかもしれないではないか」
「女に露出行為を強要した変態としてなっ!」

 暦は声を張り上げた。そして今度ははっきりと笑顔を見せた。喉の奥、赤い肉が目に入る。ソファに寄り掛かっていた身体が前方に移動する。革が擦れ合う音がした。男の身体の匂いが鼻をつく。暑い屋外から冷房の効いた空間に飛び込んだせいか、暦は首から肩にかけて汗を浮かべている。白いシャツは汗で濡れて、肌に張り付いていた。暦は、暑いなと呟きながら、シャツを動かして風を送っている。
 扇情的だと駿河は思った。身体の奥をくすぐられているように感じる。そして、感情をごまかそうとして、思いを言葉に変換する。簡単なことだった。口調を軽く保てば、言葉は冗談として処理されてしまう。逃げていると自分でも思う。しかし、そうすれば隠すことができるのだ。昔と何も変わらないと自嘲する。最初の緊張感は既にほどけ、舌はなめらかに動いた。

「暑ければ、脱ぐのが一番だぞ、阿良々木先輩。そうか、なんだ、私が裸になるのではなく、阿良々木先輩の露出行為を私が見ていればよいのだな。了解した。先輩は、見るのではなく、見られたかったのであったか。これは失礼した。ならば、この神原駿河、阿良々木先輩の裸をじっくりたっぷりじっとりしっとり視姦しよう。それくらいは朝飯前どころか、昼ご飯にすき焼きだ」
「それは重くて胃にもたれそうだな」
「私は視線だけで阿良々木先輩を妊娠させる自信があるぞ」
「性別を超越しちゃうのかよ!」
「では、間を取って、二人で裸になって抱き合おう! 今、ここで! さあ!」
「どう間を取ったんだ、それっ!」

 言葉で戯れ合う行為は懐かしく、そしてある種の恥ずかしさがあった。作り物めいた会話だと駿河は思う。きっと暦も同感だろう。わざと昔のようにふざけている。時をさかのぼるための一種の儀式だった。互いに間を計っている空気がある。暦と目でコンタクトを取りながら、駿河は懸命に会話の呼吸を思い出していた。

「何だか、懐かしいな」

 笑みを浮かべたまま、駿河を見て暦が言った。そして呟く。半ば自分に問いかけるような口調だった。

「お前とこうやって話すの何年ぶりだっけな」
「たぶん、三年くらいだと思うぞ、阿良々木先輩」
「そっか、もうそんなになるのか」

 暦は駿河から目を外して、コーヒーに口をつけた。そして、黙った。
 正確には、三年三ヶ月十五日だ、阿良々木先輩。その台詞を駿河は飲み込んだ。代わりにあいまいな笑いを頬に浮かべた。

「元気だったか、神原?」
「ああ、元気だぞ、阿良々木先輩。阿良々木先輩は、元気であらせられたか?」

 ああ、と暦は笑った。その笑みに引き込まれる自分を駿河は確認した。
 そして確信する。
 神原駿河は阿良々木暦をいまだ愛していた。

 ●
 
 神原駿河にとって阿良々木暦はどのような存在か。この規定は難しい。
 身を焦がす嫉妬と憎悪の対象として出会い、神原駿河は阿良々木暦を殺した。殺しかけたのではなく、間違いなく殺した。駿河は自身を殺人者だと思っている。阿良々木暦が吸血鬼の身体を保持し、不死身だったのは偶然の産物にすぎない。それは駿河の行為の性質を変えない。少なくとも彼女にとっては、彼女のなしたことは殺人と規定されるべきものだった。だから、彼女は彼に購うべき罪を負っている。駿河が罪人であるとするならば、暦は牢の鍵を握る番人だ。ただ、駿河は自らの意志で鍵を暦に預けているだけ。彼女は、その返却を望まない。暦に支配される存在でありたいという欲望がある。
 事後、嫉妬は憧れに、憎悪は思慕に変わった。自分の軽々しさに呆れたが、その思いは溢れて心の中を満たした。自身を同性愛者と規定していた彼女は、最初それを幻想だと考えた。だが、自身を縛っていた規定こそが幻想だったのだと気づく。駿河は、暦の臓腑を陵辱した感触を繰り返し思い出して陶酔に浸った。心は覚えていない。しかし、身体が覚えている。あの支配感と肉を裂く恍惚感。叶うならば、もう一度。そんなことさえ考える。暦に支配され、暦を支配したい。その願望は駿河の心と身体を焦がした。
 やがて気がついた。危ない、と思ったのだった。駿河は自身の弱さを知っている。この願望は私を狂わせる。疑惑が確信に変わったとき、彼女は暦に告げた。残った疑問は、いつということだけだったのだ。

「阿良々木先輩、私たちはもう会わないほうがいいと思うのだ」
「……そっか。わかったよ、神原」

 そう言って、暦は微笑む。卒業式の日、話があるので式の後、二年生の教室に来てほしい。そう言って駿河は暦を呼び出した。

「なんつか、寂しくなるよ、お前と話すの楽しかったからさ」
「私もだ。これから先、阿良々木先輩がいったい何を材料に自慰行為にふけるのかと思うと、心配でたまらない」
「そんな心配はいらねえよっ! あと、なんで僕がお前をネタにしてるの前提なんだ」
「何を言う、阿良々木先輩。阿良々木先輩の愛用オナペットが何か、などという問いは私にとっては、四則演算よりも簡単な問いだ。何せ、私たちは、一日最高何回できるのか、人間の限界を見極めんと互いに競い合った仲ではないか」
「そんなバカな男子高校生みたいな真似、してないっ!」
「阿良々木先輩は、なんと十五回」
「無理だ!」
「最後は、もう出ているのが液なのか汁なのか粉なのかもわからない有様で、それでも、もはや反応することさえない自身の一物を握り続け擦り続ける阿良々木先輩は、実に男らしかったぞ」
「確かに、ある意味男らしいが……最低だな、僕」
「もはや通常のエロ本では何も興奮しなくなってしまった阿良々木先輩は、こういうのもありかな、と言いながら、スカトロ熟女ものに手を染めたのだ……まったく阿良々木先輩は女泣かせであることよ」
「そりゃ、泣くだろうな、そんな光景見たら」

 二人で声を忍んで笑った。暦は苦笑に近い。駿河は奥歯を噛みしめて、頬に笑みを浮かべた。
 卒業式は既に終わり、校舎の人影はまばらだ。二年生は登校しておらず、教室は静寂に包まれている。漠然とした物音とかすかなささやきが静寂の中を舞っていた。日は暮れかかり、穏やかな光を部屋の中に差し込んでいる。
 暦が黙り、駿河も合わせて口を閉じた。そしてお互いを見た。空中で視線が絡み合う。暦の視線は溶けた鉛のように重く、駿河の心を浸食する。細く引き絞られた瞳に引き込まれそうだった。
 声を出そうとして、果たせなかった。弱い喘ぎ声しか出ない。切れ切れに息を出し入れしながら、駿河は二度三度目を瞬かせた。こめかみがうずき、動悸が高ぶる。脈打つ血管と心臓の鼓動を感じた。舌は上あごにひっつき、声は喉の奥でつまったまま。駿河は瞼を閉じて、そして暦の声を、表情を、匂いを思い浮かべる。弓形のまつげも、黒い瞳も、形の良い鼻も、濡れた唇も、なめらかに張った頬も脳の奥に刻み込んで格納しておくために。
 そして、言った。

「じゃあ、さよならだ、阿良々木先輩」
「ああ、さよなら、神原」

 だから、きっとこれは夢だと駿河は思う。自分の上に男がいる。脳裏に刻み込んだ声が、匂いが、かんばせが目の前にある。信じられなかった。しかし、身体の奥を貫く男の存在が駿河に現実を教える。男の首筋から汗が流れ、彼女の胸に落ちた。ベッドが軋んで、無機質な音を立てている。
 駿河は男の背に手を回して身体を引き寄せた。触れあった肌の温かさに陶然とする。三年間、夢に思い、現に幻想した感触だった。厚い胸板に頬を寄せて目を閉じる。男の動作が荒々しさを増した。身体の奥で臓腑をかき回されるような快感だった。太股の間に男を挟みながら、奥歯を噛みしめて耐えた。
 しかし、彼女は快感に溺れることができない。
 一つの疑問が頭を捉えて離さなかった。

――なんで、そんな哀しそうな顔をしているのだ、阿良々木先輩。


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