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おはようございます■■■■■■!!
現在時刻 は F.A.1845/12/10/01:30:12 です!
あなた の 称号 は 徘徊者 です
あなた の 二つ名 は ありません
あなた は いま エテュード城 の 南F1 に います
信仰心 が 5up した
狂気 が 10down した
体力 が 基準値まで回復した
カオス を 讃えたまえ!
You have a good lunatic day!
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そんな声が頭の中に響き渡り、それは意識を覚醒させた。
「……??」
それはずるりと身を起こすと、まずはぼんやりとした目で周囲を見渡した。
そこは随分と埃っぽい石造りの一室で、腐って倒れた木棚や割れた壷、そして渇いてからからになった穀物やチーズの残骸から推測するに古い食料庫といった風情であった。
それは寝起き特有の支離滅裂な思考で取り合えず手近にあったズタ袋を手繰り寄せ、その中に詰まっていた乾いたチーズを一欠けら口の中に放り込んだ。
寝起きには何か口に入れる習慣があるそれにとって極々自然な行動であったが、段々と意識が覚醒するに連れてそれは口の中の物体がお世辞にも美味しいとは言えないものだと気付き始めた。
だがそれの他にある物といえば虫や鼠が食い散らかして酷い状態であったので、致し方なかった。
「みず……」
ポツリと、それは呟いた。
カラカラに渇いたチーズ味の何かを食べながら「ビールが欲しい」と思った瞬間、それは自分が酷く乾いている事に気が付いたのだった。
「みず……のどかわいた……」
夢遊病者のように……いや、もしこの場に第三者がいれば確実にそう判断するだろう。そんな按配でそれはずるずると狭苦しい食料庫跡を歩き回り、水瓶が残らず干上がっているのを確認してから落胆の溜息をつき、そしてふと気付く。
「……? とびら……」
さっきまでは気が付かなかったが、ごちゃごちゃした室内を探し回った折に倒した棚の後ろに、何もかもが腐っているこの空間の中で唯一製造時の姿を保っている鉄製の扉があった。
ドアノブを掴んで捻ってみたが、ギシギシと音がするだけで一インチも回ればいい方である。
どうやらさび付いてしまっているようだ。
小さく悪態をついて、なんとなく気に入らない時に誰もがするように「ガン」と苛立ちを込めてドアを叩くと、なんと蝶番も錆びていたせいか「ボキリ」と破滅の音を立てて頑丈そうな鉄扉は外向きに倒れた。
バァン!!
まるで脳天まで突き抜けるような大きな音を立てて扉が倒れ、思わずその音に驚いたそれは両手で耳を覆って竦みあがった。
そうしてそこらじゅうに響いた残響音が静かになったあと、それはそっと両耳から手をどけて静かに扉の向こうを見渡した。
そこには朽ちてバラバラになったテーブルと、同じように木片へと姿を変えた椅子やその他のものが散らばっていた。
水を貯めて置くためのシンクや大きな石窯を見て、それは相変わらず不鮮明な思考で「ここは台所だろうか。けど随分古臭いなぁ」とぼんやり考えた。
「みず……」
ポツリと呟く事でようやく目的を思い出したそれは、ずるずると歩いて台所をでた。
台所を出るとそこには食堂があり、往時には何十という人々がここで食事を楽しんでいたのだろうと偲ばせる作りであったが、既にその熱気も活気も冷え冷えとどこかに去って久しく、広々とした空間はただ空虚さを感じさせるだけだった。
暫く当てもなく歩き回ったあと、それは食堂を出たところでピタリと立ち止まった。
「……みずのにおいする……」
それは、「水の匂い」という本来ならば絶対にするはずのないものを感じ取り、その方向へと歩き始めた。
ずるずると、何かを引きずるような足音を立てて。
――――――――――――――――
「畜生、最悪だ……」
そう呟いて、パーティで一番冒険者として年季のある盗賊――スケルツォが青褪めた顔で彼等の前に座り込んだ。
「いったい……なんだったんだ?」
「……たぶん、マインドフレイヤだ」
リーダーの質問にそう返した彼の言葉に、彼を除いた全員が絶望の呻き声を上げた。
僧侶のセレナはごくりと生唾を飲み込んだあと、青褪めるのを通り越して蒼白になった顔でリーダーのバラッドに震える声で尋ねた。
「ねぇ、ま、マインドフレイヤって、こんな所に出たっけ……?」
「いや、今までそんな出現報告はないな」
「つーかよ」
こちらも震えながらであるが、それでも虚勢を張って戦士のマーチが声を上げる。
「ここ、廃棄迷宮の一階だべ? こんなとこでマインドフレイヤとかありえねぇ。見間違いじゃねぇのかよ」
「……確かに暗くてよく見えなかった。それに以前見たのと細部が違っているような気もした」
「じゃ、じゃあ……」
微かな希望にすがるようにしてセレナが期待の目をスケルツォに向けるが、彼のほうは深刻な顔で首を左右に振るだけだった。
「いや、確かに暗かったし、一瞬だったが間違いない。亜種かもしれんがあれはマインドフレイヤだ」
「そんな……」
絶望感溢れる沈黙がその場を押し包んだ。
戦士でリーダー、人間族のバラッド。
同じく戦士、まだ15になったばかりの若い獣人族のマーチ。
盗賊でサブリーダー、最年長でホビット族のスケルツォ。
僧侶の紅一点、ノーム族のセレナ。
この四人はパーティを組んでそれなりに同じ時を共に過ごし、それなりに大きな冒険や派手な任務をこなしてきたいわゆる「中堅」と呼ばれる四人だった。
そんな彼等がとっくに踏破され尽くされ、宝も情報も何から何まで荒らされてしまった――いわゆる廃棄迷宮にわざわざやって来たのは理由があった。
事の発端はマーチが怪しい宝の地図を二束三文で買い漁って来たのが理由であった。
最近きつい仕事ばかりで気持ちに余裕がなかった彼等は「休暇のつもりで行ってみようか」という軽い気持ちでそれらの地図が示す「宝」を探し始めた。
無論、殆ど地図は真っ赤な偽物か、あるいはたちの悪い悪戯、それか見つかった宝がこれまた二束三文の代物という有様であったが、彼等はそれに本気で怒るわけでもなく軽い気持ちで消化していった。
そして最後、彼等にとって誰もが通った道である別名「最初の城」とも呼ばれるエテュード城にやって来たのだった。
あの大鼠には苦労した、暗闇の蝙蝠はいやらしかった、あの盗賊共はこりもせず根城にしている。
そんな、彼等が一度は通った初心者時代のほろ苦い思い出を語りながら、殆どハイキング気分で城中央の水飲み場で弁当を広げ、朗らかに団欒していたまさにその時だった。
バァン!!
突然城中に鳴り響いた大音量に、一瞬にして緩んだ空気が引き締まった。
(ならず者?)
(いや、奴等は3階から降りて来ない)
(大食堂の方だったぞ)
(うーん……初心者共が石畳でも蹴躓いたのかな?)
素早く指言葉で会話をしながら、油断無く武器を構える面々。
やがて、緊張に張り詰めた彼等の耳にその音が聞え始めた。
ずる……ずる……
ずる……ずる……
何かを引きずるような、何かが這いずり回るような音。
そして、その何かが遠い暗がりの向こうにちらりと姿を現した瞬間、スケルツォの乱れに乱れきって普段の精彩を欠いた指言葉が全員を遁走に走らせた。
(ヤバイ! 逃げろ!!!)
そうしてとっさに逃げ出したものの、あまりに急な行動だったために荷物の殆どをその場に置いてきてしまい、しかも逃げ込んだ先は袋小路の先にある小部屋だった。
位置取り的にそこしかなかったとは言え、逃げ込む先としては最悪以外の何物でもない。
「……このままここにいても埒が明かない。突破する」
「……それしか有るまいな」
「ちっ…分の悪い賭けだぜ」
「か、神様、どうかお助け下さい」
そうして彼等は扉を蹴破った。
――――――――――――――――
「みず……あった」
やけに遅い歩みで漸く到達した所には、直径5ヤードほどの池とその中心から滾々と清浄な水を吐き出し続ける獅子像があった。
焦る気持ちと裏腹に、それに歩みは随分とろくさい。
何故だろう、自分はこんなに歩くのが下手だったかしらんとぼんやり考えるが、そんな思考は目の前に満々とある水の前にはすぐさま霞んで消えた。
手ですくうなどといった面倒な事はせずに、男らしく豪快に顔を突っ込んでがぶ飲みする。
ごくりごくりと喉が鳴るたびに体の隅々まで水が循環する。
まるでしおれた草木に水をやるように、生気が回復するのを実感した。
「ぷは……うまい」
顔面を水から引き離して一息つくと、ぽたぽたと濡れて水をたらす髪の毛を掴んで絞る――と、そこでそれは首を傾げた。
「髪……?」
自分の髪は、果たしてこんなに長かっただろうか?
ふと両手で触ってみると、なんと背中を通り越して地面に付きそうなくらい髪の毛が長かった。
そして、長さもそうだが色も奇妙だった。
「うすいさくらいろ……」
いや、桜色は元々薄いピンクだったか。
そんなどうでもいい事を考えながら、ふと覗き込んだ池の中には、それが一度も見たことのない格好をした知らない顔が写っていた。
自分はこんなにすっきりとした顔だっただろうか。
自分はこんなに鼻がつんと尖っていただろうか。
自分はこんなに……女っぽい顔だっただろうか。
「……だれ」
呆然と、両手を池の縁に乗せて覗き込む。
両手で頬を掴み、引っ張り、まぶたを開かせ、頬を叩く。
「いたい、ゆめちがう、だれこれ」
ふらふらと後じさり、ふと視線を下に向けると、そこにはついさっき注いだばかりというのが分かる、泡がたっぷりと立ったビールのジョッキがあった。
本当はビールではなくエールであり、それがイメージする所の金色をしたピルスナーではなく真っ黒のスタウトであったが、それにとっては些細な違いだった。
「……」
それは混乱する頭のまま、「取り合えずビール」とどこかの居酒屋で叫んだ時のことを思い出しながら、誰の物とも知れないビール(エール)をぐいぐいと呷った。
「ぬるい、まずい! もういっぱい」
それにとって、味よりもまず冷えていないことが問題だった。が、このさい贅沢はいえない。
げふっとげっぷを吐いた後、鼻をくんくんと鳴らして近くにあった小型の樽を探し当て、それにバーや居酒屋でよく見るタイプのコックが付いているのを見て嬉しそうに笑った。
「なまちゅういっちょう」
へいおまち、と一人芝居をしながらジョッキの中に泡が溢れるほどビールを注いだ。
そして流れるような動作で近くにあったサンドウィッチやブルーチーズをひと齧り。
「うまー」
こういう時は、呑んで忘れるんだ。
そんな教訓を、それは頭の隅にこびり付いた、どこで得たのかも良く覚えていない記憶から掘り起こしたのだった。
「のんでー♪ のんでー♪ のまれてーのんでー♪」
調子の外れた歌を歌いながら、またしてもがぶりと一息でジョッキを干すのであった……。
「どりゃああぁぁあ、あ、あ? ぁぁあああああ!? こいつ! 俺のエールを!?」
「え?」