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No.13088の一覧
[0] 【習作】あなたの Lv. は 1 です 【オリジナル D&D風味・人外】[桜井 雅宏](2010/03/19 22:55)
[1] はいてない[桜井 雅宏](2009/10/30 23:00)
[2] まいんどふれいや[桜井 雅宏](2009/11/07 01:14)
[3] そういうぷれいですか?[桜井 雅宏](2010/01/03 04:08)
[4] あくとうのしごと[桜井 雅宏](2009/11/02 23:03)
[5] ふわ[桜井 雅宏](2009/11/03 23:35)
[6] しょや[桜井 雅宏](2009/12/05 02:10)
[7] あなだらけの「わたし」[桜井 雅宏](2011/10/30 10:30)
[8] みえた![桜井 雅宏](2009/11/10 04:08)
[9] おかいものにいこう[桜井 雅宏](2010/02/12 01:32)
[10] ならずものとそうりょ[桜井 雅宏](2009/11/25 00:05)
[11] まーけっとすとりーと[桜井 雅宏](2009/12/05 02:10)
[12] おかいもの[桜井 雅宏](2009/12/05 02:10)
[13] みざるいわざるきかざる[桜井 雅宏](2009/12/05 02:09)
[14] にゅーとらるぐっど[桜井 雅宏](2009/12/19 01:23)
[15] ゆめ[桜井 雅宏](2011/10/30 23:03)
[16] しゅっぱつ!…………あれ?[桜井 雅宏](2010/01/02 22:54)
[17] しんわ 1[桜井 雅宏](2010/01/08 00:41)
[18] しんわ 2[桜井 雅宏](2010/02/27 16:11)
[19] れぎおーん[桜井 雅宏](2010/02/27 16:12)
[20] ぎよたん[桜井 雅宏](2010/02/27 16:12)
[21] そらのうえ[桜井 雅宏](2010/02/27 16:12)
[22] ぐろちゅうい[桜井 雅宏](2010/02/12 05:53)
[23] しゅよ、ひとののぞみのよろこびよ[桜井 雅宏](2010/02/27 16:12)
[24] いんたーみっしょん[桜井 雅宏](2010/03/19 22:55)
[25] ゆめうつつ[桜井 雅宏](2010/03/30 02:01)
[26] でこぼこふたり[桜井 雅宏](2010/04/30 20:07)
[27] めざめ[桜井 雅宏](2010/04/30 21:13)
[28] ぱーてぃ[桜井 雅宏](2010/05/05 00:54)
[29] けつい[桜井 雅宏](2010/08/02 19:38)
[30] にっし[桜井 雅宏](2010/08/04 00:33)
[31] 真相01[桜井 雅宏](2010/12/01 00:37)
[32] 真相02[桜井 雅宏](2011/10/30 10:29)
[33] 真相03[桜井 雅宏](2011/12/12 23:17)
[34] 転変01[桜井 雅宏](2012/02/02 22:51)
[35] 転変02[桜井 雅宏 ](2013/09/22 23:33)
[36] 読み切り短編「連邦首都の優雅な一日」[桜井 雅宏](2011/12/12 23:14)
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[13088] ぐろちゅうい
Name: 桜井 雅宏◆6adae166 ID:6adfe403 前を表示する / 次を表示する
Date: 2010/02/12 05:53
「私は今非常に良い気分だ、途中まで送っていってやろう」

 そう言ってガミジン中尉とその麾下数十名の武装した男達がカオル達の馬車の周囲を取り囲みながら街道を進んだ。駐屯地には百人単位で兵士が居たが、先に動ける者だけで先遣隊を作ったらしい。重武装の装甲騎兵が十騎ほどと軽歩兵が数十人、歩兵は全員が馬車に詰め込まれていた。
 兵士の詰め込まれた馬車が前後左右に陣取り、騎馬兵士がカオルの馬車を取り囲むようにして進んでいた。
 それら人殺しのプロを率いる小さな隊長は当然ながらその低身長に見合う馬が存在しないので馬車――だとカオルは思っていたが、その期待はすぐに裏切られた。彼女は眼を見張るほど立派な軍馬に跨ったボルテッカ軍曹に、相乗りする形でカオル達の馬車のすぐ隣で隊列を進めていた。
 背後の軍曹と何やら笑いながら話すその姿は、とてもではないがついさっき三人の人間を葬ったばかりには見えなかった。
 「ここじゃあ、人間の命なんて便所紙より薄っぺらいんだぜ」そんな言葉をいつだったか聞いた覚えが彼女にはあった。それが映画だったのか小説だったのか、はたまた実在の人物から聞いたのかすらあやふやだったが、ついさっきみた光景はまさにその言葉通りのものである。
 中世と言う時代は人の命など障子紙のようにバリバリと破られる代物で、そして破れた後もまさに障子紙の如くするすると張り替えてしまえばそれで誰も気にしない。
 代わりなんて幾らでもある、お前が死んだって誰も困らない。
 悪びれもせずに馬鹿話に花を咲かすガミジンがそんなふうに言っているようにカオルは感じていた。

「ハン? 私の顔になんかついているかい、ええ?」

 思わずじっと見つめていたガミジンがそう言って眉を跳ね上げながら問いかけてくると、カオルは殆ど考える暇もなく心の中の言葉を口に出していた。

「人を殺して平気なの?」

 隣でまんじりもせずにこちらを伺っていたマーチが息を飲むのが分かった。
 御者台のカッサシオンまでもがそれと気付かれないように座る位置を修正する。
 突然の質問にキョトンとしたガミジンは、次の瞬間弾かれたように爆笑した。
 ゲラゲラと哄笑する上官の後ろにいながら、ボルテッカは相変わらず鉄面皮で押し黙っている。
 堪えきれないというふうに笑い続けるその様子に、カオルはかっと頭に血が上るのを自覚した。

「何が、そんなに可笑しいのっ」
「ヒーヒッヒッヒ! 可笑しいとも! ああ可笑しいね、なあご婦人、私が何を殺したって? 人間? 人間だって? 違うね、あいつらはそこらにいる犬猫にも劣る最低の蛆虫どもさ。善良な市民たちの生活を脅かす害虫を「ぷちゅっ」と踏みつぶして、なんで後悔したり悔い改めたりする必要がある? え?」
「中尉、光輝教会は咎人にも終油の秘蹟を行いますが……」
「神よ! 憐れな魂の罪咎を清め給え、アーメン。これで良いか?」
「まあ、概ね」
「ふん、話の腰を折るんじゃない。ええとどこまで話したか、そうさな、どうやらあんたは随分と平和な人生を送ってこられたようで、ふん! 「畜生働き」って言葉は知ってるか?」

 カオルは黙って首を横にふった。
 それを見たガミジンは大げさに両掌を上に向けて肩と首を竦めてみせた。いわゆる「やれやれ」のポーズだ。

「畜生働きってのは所謂追い剥ぎとか強盗とか呼ばれるならず者がやる犯罪の一つだ。数人から数十人の徒党を組んで、公道を行く旅商人のキャラバンやら旅の一行なんかを襲って一切合切奪っていくのさ。そう、全部……命もな。目撃者はたった一人たりとも生かしておかない。襲った証拠は髪の毛一本血痕一つたりとも残さない。女は犯して奴隷にするか売り払う、子供もそうだ。男と老人は容赦なく皆殺し。たまたま見ちまった第三者も地の果てまで追いかけて殺す。そうしてこの世から犠牲者が盗賊に襲われたって証拠を何からなら何まで消し去っちまうのさ。当然ながらそんな事をされちゃあ中々気付かれない、何せ被害届を出す人間がこの世のどこにも居ないんだからな。で、さっき私が処理した汚物はそんな最低の犯罪をこれまで分かっているだけで8回もやっていやがるんだ。8回! 8回だぞ! 一体どれだけの人間が死んだと思う? どれだけの数の子供と女が南の蛮族共に売られたと? ついでに教えてやろう、畜生働きをした盗賊はな、裁判抜きで死刑だ。奴らには国民の税金でわざわざ裁判を開いてやる必要なんてこれっぽっちもないって事さ。私は法律家と弁護士は大嫌いだが、この法を考えた奴には抱きついてキスしてやっても良いね」

 一息でそうまくし立てたガミジンは、最後の締めくくりに「さて、これで御理解頂けたでしょうか、レディ?」と馬鹿丁寧な発音で付け加えた。

「……よく、分かりました。ご説明いただいてかんしゃします」
「ああいいとも、無知な事は罪じゃない。無知を顧みないのが罪だ」

 そう言って腰のベルトから取り出したパイプにパイプ草をやや詰め過ぎるほどに詰めると、何やら短い呪文を口の中でもごもごと呟いてから右手の人差指をパイプの中に突っ込んだ。すると突然直径1フィートほどの火球が彼女の頭全体を覆って「ドカン!」という爆発音が辺りに響きわたった。
 カッサシオンの馬はその爆音に驚いて嘶き声を上げたが、その他の軍馬はチラとそちらを見ただけだ。幾ら訓練された軍馬だと言っても限度がある。馬は元来臆病な生き物で、そんな彼等が警戒一つしないほどこの爆音は彼等にとってありふれたものになっているという事でもあった。
 ギョッとしてそちらを見ていたカオル達の目に、火傷一つない綺麗なままの顔が炎の下から現れる。
 火球が偽物だったということはない、その証拠にパイプからは灰色の煙が上がっている。
 驚愕の視線を三つ浴びながら、ガミジンはさも美味しそうにパイプをふかしていた……。



――――――――――――――――――――――――――――――――



 それから暫く進んで、ガミジン達と別れることとなった。
 兵隊達はこのまま東へ、カオル達は街道を離れて南東方面へ進路を変更する。
 別れ際に小さな中隊長は例の底意地が悪そうなニヤニヤ笑いを浮かべながらカッサシオンにこう言った。

「よう兄弟、当てが外れたな。私たちはあの駐屯地を引き払う。ゴブリン共に追い掛け回されてあそこに逃げ込んでも、残ってるのは馬糞と飯炊きの跡だけだ。……これは軍団兵から良き市民に対する忠告だ、とっとと引き返しな。サルシオンにたどり着く前にゴブリン共の晩飯になりたかないだろう」

 その言葉に丁重な礼を言って別れたあと、一行はその進路を南東に変えた。
 十分に軍団兵と離れた途端、マーチとカッサシオンは今まで溜めきっていた物を一気に吐き出すような大きな溜息をついた。
 そうして二人して顔を見合わせてから堰を切ったように爆笑した。

「さすがだな、この詐欺師め。あの伍長泣いちまってたじゃねぇか、全くワックス掛けした床よりツルツルと良く滑る舌だな! サルシオンがなんだって?」
「中々うまい言い訳だったでしょう? まあ、あのまま待っていたらもしかすると勝手に引き払っていたかもしれませんが」
「しかし、まさかこんな所で《火炎旋風(FlameCyclone)》と会うなんてな。ガラコのくだりでは冷や冷やしたぜ」
「私も久しぶりに心臓が冷たくなりましたよ。かの有名な《極小魔導師(MinimumDreadnought)》にペテンを仕掛けたなんて知れたら、次の瞬間には灰も残さず焼き焦がされる所でした。いやはや、一瞬の油断が命取り、これぞ正しく冒険の醍醐味ですね」
「勘弁してくれよ、始まる前から終わるところだったぜ」
「まーくん、あのひと知ってるの?」

 図らずして知ってしまったこの世界の現実に若干打ちのめされていたカオルだったが、男達二人の会話に興味が湧いてそう問いかけた。
 するとマーチはひょいと肩を竦ませて彼女に説明した。

「結構な有名人だぜ。少なくとも悪党に分類されるような奴らは名前を聞いただけで震え上がるような」
「貴女もさっき見たでしょう? 犯罪者相手に対するあの苛烈さは軍団兵の中でも際立っていますよ。可哀想に、件の盗賊団とやらは皆殺しでしょうね」
「はぁ? 可哀想? どの口が言いやがる、いつだったか邪魔くさいならず者を始末するのに軍団兵へタレコミやがっただろう。あの時に出張ってきたミニマム・ミニーが奴らをこんがりウェルダンにしちまった時は腹抱えて笑ってたじゃねえか。あの時のテメェの馬鹿笑いは今でも思い出せるぜ」

 その言葉にカッサシオンは晴れやかな笑みを浮かべながら「いやぁ、あの時はまさかたまたま近くに来ていたガミジン中隊が担当するなんて思っても見ませんでしたよ」と白々しい顔で感慨深げに頷いてみせたが、彼のことを良く知らないカオルからしてもそれが分かっててやった事だったと推測がついた。
 そうしてようやく彼女は先程自分があのエルフとやった問答がどれだけこの二人にとって心臓に悪いものだったかを理解したのだった。
 後先を考えずに突発的に何かをしてしまうのは本来の彼女の気性からは外れているはずだったが、この体になってからは「本来」だとか「もともと」だとかいう言葉がどれほど意味のない物かという事を痛感する。
 カオルは自分がまたもやしでかしてしまった事に青くなりながら頭を下げるのだった。

「ご、ごめんなさい……」
「いや、過ぎた事はしょうがねぇや。ま、次からはまず俺に相談しろよ」

 そう言ってマーチは呵呵と笑って彼女の頭をガシガシと乱暴に撫でた。
 そうして危機を脱した一行は順調に行程を消化し始めた。
 なだらかな丘や雑木林を横目に馬車が道なき道を進んでいると、書き取りの練習をしている彼女の頭の中に例の空気を読まない「声」が帰って来た。


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システムはセーフモードから回復しました。
システムは機能改善を選択しました。
新たな機能が追加されます。

→メッセージログon/off
→System help

新たな機能を使用しますか? y/n ?[help]_
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 小首を傾げながらカオルは[help]を選択した。


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メッセージログon/off 機能のヘルプ
メッセージログ機能はシステム利用者に快適な利用環境を提供する
為の画期的な機能ですが、その機能が利用者の精神に重篤な圧迫を
及ぼす恐れが在る事が確認されました。この機能はそのメッセージ
ログ機能を任意のタイミングでon/offする事が出来ます。
このヘルプは参考になりましたか?
[参考になった][参考にならなかった][別のヘルプを見る]_
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 彼女は頭の中で[参考になった]をクリックしそうになって慌てて押しとどまった。
 今はどんな情報でも欲しい、彼女は[別のヘルプを見る]を選択した。


△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼
[別のヘルプを見る]
現在この機能は利用出来ません。
システム管理者に問い合わせて下さい。_
△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼


 一体誰のことなの、そのシステム管理者ってのは!
 カオルは舌打ちしそうになるのを我慢して、溜息をつきながら「メッセージログをオフ」と声に向かって命令した。


△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼
メッセージログがoffになりました。
この状態が長く続くことにより重要なメッセージを聞き逃す恐れが
あります。ログ確認のため定期的にonにする事を推奨します。
メッセージログをシャットアウト............................_
△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼


 ブツッと断線するような音を立てて、声はそれきり聞こえなくなった。
 この声が重要な情報源であることは確かだったが、問答無用の残虐ファイトを実況中継されてはたまったものではないし、何よりもまず鬱陶しいというのが大きな理由であった。
 考えても見て欲しい、日常のさり気ない動作の一つ一つにいたるまで嫌に数式化されたシステマチックな文章で客観的に寸評されたら、一体どんな気持ちになるだろう?
 ただでさえカオルは「この世界は実は分子の一つに到るまで計算し尽くされたスーパーコンピュータによって作り出された仮想空間で、本当の自分はニューロジャック(神経接合子)でそれに繋がったまま羊水の海に浮いているのではないか」という一昔前に流行った荒唐無稽なSF映画じみた内容を真剣に考える一歩手前まできていたのだ。そんな状態でまるで「神がサイコロを振っている」ような文章を延々聞かされては、気が滅入って仕方がなかった。
 なまじ、彼女が研究していた内容も一般人からすればSFじみている事も手伝ってか、その憂鬱さは一入である。
 とりあえず忠告に従って定期的にオンにするかと考えたところ、馬車がゆっくりと止まって御者台からカッサシオンが声を掛けてきた。

「マーチ、誰か戦ってます。ちょっと見てきますから万が一に備えていて下さい」
「分かった」

 そう言ってカッサシオンはひらりと御者台から飛び降りて前方の小さな雑木林に入っていった。
 その身に纏ったローブのせいで薄暗い雑木林の中に入った瞬間いったい何処に行ったのか彼女にはてんで見当もつかなくなる。
 耳を澄ませれば、確かに彼女の耳にも何かが戦っている音が聞こえてきた。
 金属質の物がぶつかり合う音がしたかと思えば、獣じみた絶叫が朗々と林の向こうから響き、そして甲高い馬の嘶き声が聞こえてくる。
 そうして一分も経たないうちにカッサシオンが帰ってきた、が、その顔にはいつもの余裕はなく引き締まり、そして舗装もされぬ悪路を物ともせずに凄まじい俊足で帰ってくるなりこう叫んだ。

「ゴブリンの一団とセレナが戦っています! 行きましょう!」

 彼女たちに否やがあるはずもなかった。



――――――――――――――――――――――――――――――――



 小さな林を抜けたカオルの目に一番最初に飛び込んできた光景は、頭のてっぺんから爪先までを隙間なく騎士鎧に包み込んだ人物が、こちらも馬鎧で身を包んだ騎馬の上から振り下ろした錫杖武器でゴブリンの頭を脳天からかち割るところであった。
 騎士はそのまま返す刀で反対側で短い槍を振りかぶっていたゴブリンを槍ごと真っ二つにすると、金銀で象嵌された見事なクーゼ(kuze グレイヴの一種)を血塗れにしながら更に一体を斬り殺した。
 そして正面から迫っていた一体を馬の突撃で跳ね飛ばすと、嘶き声を上げる馬を竿立ちにしながら朗々とした声を張り上げた。

「ヤァ! この汚らしいゴブリンどもめ! 吾輩の首を取れるものなら、さぁ、何処からでもかかってくるが良いぞ! 吾輩は逃げも隠れもせぬわ! エエイ!!」

 そうしてまた一振りしたクーゼが敵の首を刈り取った。
 その際ちらりと見えた顔を見て彼女は仰天した。真っ白な髭と皺に覆われたその顔は、どう低く見積もっても還暦を迎えていそうな老年の騎士であったからだ。
 同じように仰天した様子のマーチは、「セレナは何処だよ」というもっともな疑問を呟きながらゴブリンの群れに突っ込んでいった。

「爺さん! 無理すんなよ!」

 そう言ってマーチは背後から老騎士に襲いかかろうとしていたゴブリンに鉄拳を見舞うと、敵は冗談のように頭部を陥没させて息絶えた。
 金属の篭手に包まれているとは言え、信じ難い威力の一撃である。その時初めてカオルはマーチが徒手空拳で戦うタイプの戦士であるということに気がついた。
 馬上の騎士はマーチを見下ろして破顔一笑しながら、その物騒な長物にへばり付いた血と臓物を振り払った。

「おお、助太刀感謝するぞよ! さあ、ともに奴らを倒そうではないか!」
「それは良いけどよ、セレナは何処なんだよ!?」

 そう言って背後のカッサシオンを見ると、彼が口を開く前に馬上の騎士が答えを返した。

「む、猊下の知り合いであるか。あの方ならあちらで戦っておられるぞ」
「あ? っておい! ピンチすぎるだろうが!」

 そう言って指さされた方に目をやった三人が見たのは、どう考えても絶体絶命の状態にあるセレナだった。
 セレナを中心にしてずらりと数十体のゴブリンが鈴なりになり、どいつもこいつも凶器を振り回して興奮状態である。そしてその円陣の中心で、完全武装で血だらけになったセレナとその1.5倍は身長がありそうで体重は倍もありそうなホブゴブリンが使い込まれたウォーハンマーを振りかぶってセレナと打ち合っていた。

「安心めされよ、あれなるは《決闘の結界》! あの結界の中にいる限り術者と挑戦者、一対一の決闘者しかあの中には入れ申さぬ。ハァ!!」

 そう言って騎士は拍車を掛けると再度ゴブリンの群の中に突っ込んでいった。
 それを見てカッサシオンは背中に吊るしていたらしい得物をじゃらりと音を立てて取り出しながら「では、我々も加勢することにいたしましょうか」と笑いながらマーチに問いかけた。
 彼が取り出した得物は一見して余りにも一般的な意味での「武器」とは外見がかけ離れていた。
 それはいうなれば鎖付きの回転ノコギリとでも呼べば良いのか、カオルが元の世界で見た事のある物で例えるならば原動機付き草刈鎌の鎌の部分だけを取り出して鎖で繋いだような外見だった。
 ただし、草刈鎌のように細かい鋸状ではなく八つに鋭く剣状の突起が突き出した形状で、その鋭さは明らかに草木ではなくもっと別の物を斬る予定にしか見えなかった。

「では、ひと足お先に」

 そう言って彼はその武器を頭上でブンブンと回転させながら敵陣に斬り込んで行く。
 鎌が空気を切り裂く甲高い音を立てて投射されると、まさしく草か何かを刈り取るようにバサバサとゴブリンの首と言わず腕といわず、触れるに幸いと手当たり次第に切り飛ばし始めた。
 突然の伏兵にゴブリンたちが悲鳴を上げながら逃げ惑う様を見ながらカッサシオンは哄笑し、周りの手下に指示を出していたホブゴブリンの胴体に鋭く放った鎖鎌を突き立てた。
 血飛沫をまき散らしながら帰還した鎖鎌を見て、カッサシオンはまるで道行く友人に語りかけるようについさっき武器を突き立てたホブゴブリンに話しかけた。

「おや、こいつはしまった。もしかしてこの刃の根元でしつこくドクドクいってるのは貴方の心臓ですかな? こいつはとんだ失礼を、お返しします、よっ!」

 そう言って、ハーケンの先端の一つに引っかかっていた脈打つ心臓を貼りつけたまま、カッサシオンはホブゴブリンの胴体にとどめの一撃を見舞った。
 唸り声を上げて飛来した回転ノコギリは、敵の胴体の中に飛び込んで内蔵を滅茶苦茶に破壊すると、そのまま脊柱と肋骨をぶち割って胴体の向こう側に飛び出てしまう。
 そして力任せにぐいと再度引かれたノコギリは、敵を胴体のほぼ中央で上下に真っ二つにしながら空中に血と臓物を撒き散らした。

「ハハハハハハハハハハハハハァ! ジャァァックポォォット!!」

 なおも可笑しくて堪らないというふうな笑い声を上げながら、カッサシオンはセレナを取り巻いていたゴブリン達に背中から襲いかかっていく。

「ちっ、カッサシオンめ、相変わらず派手好きな奴だな。バトルトリックスター(戦闘軽業師)はこれが難点だな……」

 そう言って呆れ顔をするマーチの隣でカオルは今にも胃の中の物を全て戻しそうな顔で突っ立っていた。
 メディアを通して流れるグロ画像やスナッフビデオなど話にもならない、真っ赤な血潮の鉄錆じみた匂いと強烈な断末魔に彼女は完全に思考が停止していた。

「……おい、大丈夫かよ。クロスボウで援護するんだぞ、出来るか」
「で…………」
「で?」
「で、きま、しぇん……」
「…………」

 右手で口元を抑えて「うぷ」とえづく蒼白の顔色を見て、マーチは大きく溜息をつきながらその背中を軽くさすった。

「……いいよ、別に期待してなかった。林の影で大人しくしてろ」
「ご、ごめんなひゃい……う……」
「おわ、こんな所で吐くんじゃねぇぞ。いいから下がってろ。無理しなくていい」
「ふぁい……」

 ヨロヨロとさっき出てきたばかりの林の中に戻りながら、カオルは色んな意味で泣きそうになっていた。
 結局、マーチが心配でその後も血飛沫が飛び散る戦闘を見続けたカオルは、胃液しか出なくなるまで何度も何度も嘔吐しつつも最後まで林の影でへたり込んでいたのであった。
 くり返し襲いかかる嘔吐の波に涙目になりながら、彼女は思った。
 ああ、メッセージログを切っていて、本当に良かった、と。













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サブクエスト 「ゴブリンの襲撃」 終了
戦闘に 《不参加》 でした
経験点 なし
技術点 なし
評価 F
もっとがんばりましょう
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展開が遅いのは自覚してます。
でもなんというか、その場その場の情景をちゃんと描写しないと不親切なような気がしてついつい余計な事まで書いてしまいます。
もっと文章をスリム化する必要はあると自分でも思いますので、精進したいです。
あと、一話の分量を少し増やしました。
今までは「10kb前後」を目安に切っていましたが、今回は17kbです。
10-15kbくらいを目安にした方がいいかな?


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