オレはとても苛立っていた。頭の中はグツグツ煮えているかのようだし、心の中は暴風が吹いているかのような荒々しさ。
とても平常心は保てなさそうだった。本当に頭にキていたと思う。そして目の前の人間。
「大体お前さぁ~最近ちょっと調子にのってんじゃね~の?」
「そうそう、いつも杉並の野郎と一緒にはじけまくってさぁ」
「付属のガキがあんま目立つ事してんじゃねーっての」
本校の先輩――――あまり記憶になかった。廊下ですれ違っていた事もあるんだろうが記憶にない。
その三人組は何故かは知らないがニタニタ笑っていた。見慣れた笑みだった。別に見慣れたくはなかった。
一人はオレのジャケットの襟を掴んでオレを動けないようにしていた。そして一人は壁に背中を預けてこちらを見ている。
もうひとりはオレを逃がさないためか袋小路の出入り口を固めている。オレはため息をつきたくなった。
「おいっ!黙ってうつむいてないでこっち向けよコラァ!」
そう言って髪を掴んでいた手を上へあげる。自動的に上げらせられる顔。オレの顔をみた奴がちょっと怯んだ。
かなり不機嫌な顔をしていたからな――――それはもう般若みたいな顔と言っても差し支えないと思う、自分ではそう思った。
「こ、こいつっ!」
「も、もうやっちまおうぜ!」
「オレ、人が来ないかどうか見ておくからさっさとやれよ!」
そう言って髪を掴んでいた奴が手を離し、思いっきりオレの頬に固く握りしめた拳を当ててきた。
ゴッと鈍い音が立つ音。強制的に地面の味を舐めさせられた。
どうしてこうなってしまったんだろう――――――――オレは前日から今に至るまでの事を思い出した。
「ただいまー」
そう言って玄関を潜り抜ける。今から漂う美味しい料理の匂い。クリスマスだから早くさくらさん帰れたのかな、と思った。
しかし玄関口の靴を見るとそれは間違っていると思わされた。革靴―――女性用のが二組。悪い予感がする。
そうして自分の靴を脱ぎ、居間に入ると美味しい料理の数々は所狭しと並んでいた。
野菜スープにフライドチキン、ケーキの数々といったものだ。実にクリスマスらしいメニューだ。
が、なぜか煮物とか麺類のものがあり、どちらかというと元旦みたいな雰囲気を呈していた。
「あ・・・・」
その声に台所の方に振り返ると音姉がいる。多分もう方割れの方は由夢だろう、その組み合わせが容易に想像できる。
おそらく由夢はトイレなのか―――オレはさっきまでの気分が谷底に落ちるかのように感じた。かったるい通り越して呆れるほどだった。
あれだけの事やったのに、まだこういう事するか―――――そういう気持ちでいっぱいだった。
「あ、っとね、今日クリスマスだからみんなで食べようと思って―――」
「鞄置いてくる」
「あ―――――」
とりあえず部屋に鞄を置いてくる事にした。音姉が何か喋りかけたが気にならなかった。ゆっくり階段を上る。
そうして部屋に着き、ベッドの上に鞄を放り投げて腰を落ち着けた。ボフッと鈍い音を立てるベッド
机の上に置いてある灰皿を手に持って、懐からタバコを取りだし火を付ける。
すぐ立ち込める紫煙を見ながら考えた。
「今日はさくらさんもすぐ帰ってくるよな・・・・・なんとか無視出来ないもんか」
クリスマスの日はいつも仕事を早く切り上げて帰ってきたさくらさん。多分こちらの世界でもそれは変わりはしないだろう。
ため息をついた。あまりさくらさんの前で険悪な雰囲気は出したくなかった。多分無理だが、そう思う。
さくらさんの性格を考えるあたりシラは通しきれない。頭の回転も速いし、場の空気を読むのに長けている。
歳の功―――――そう言っては怒られるがそんなものを感じる。平常心、保つことは難しい事だと感じる。
大体オレの性格上、前の世界でそういった行事は参加しなかったし開こうともしていなかった。
さくらさんと些細な、いつもより少し食事の内容を豪勢にしたものに満足しながらその日は過ごしたのを思い出す。
大体オレの付き合い方を完璧に知っているやつなんて少なかった。そもそもオレはそういった人物を作ろうとは思わなかった。
さくらさんに杉並、こっちに来てからはなぜだか知らないがエリカと―――美夏。特に後半に関しては元々こっちでのオレの
知り合いだ。オレから作った関係ではない。
そろそろタバコを吸い切ろうとしていた。生憎だがタバコの根元まで吸おうとは思わない。灰皿に押しつける。
「まぁ、なんとかなるか。なんとかなるか―――しらねぇ―けど」
そう呟いて居間に行くため階段を下りた。下からはさくらさんの楽しい声が響いていた。
「んにゃ~・・・・」
「え、と」
「・・・・・・」
「あ、その炒め物もらいますね」
ハッキリ言って、とてもじゃないが家族団欒な雰囲気にはほど遠かった。微妙な雰囲気が流れていた。
特に何をしたわけでもなく、そういった言葉を吐いたわけじゃない。だが流れているのは微妙な雰囲気。
多分オレからそういった雰囲気が流れているのだろう。意図的に出しているわけじゃないが―――。
「なんだか空気重いねぇ・・・みんな何かあったの?」
「そ―――――」
「何もありませんよ。たまにはこういう雰囲気もあるんじゃないですか?」
音姉の言葉を絶ってそう言った。何か変な事言って突っ込まれるのは面倒だったからだ。由夢は口を開こうともしない。
オレの言葉を信じてはいないのだろう、ジト目でさくらさんがこっちを見ていた。オレは憂鬱になった。
「え~そうかなぁ、何かあったんでしょう?」
「誰かしらはあったんじゃないですか、機嫌の悪くなる事が」
「義之くん、もしかして自分の事を言ってる?」
「いえ、自分は特にそういった事はないと思います。けど知らず知らずの内にそういう雰囲気を出してるのかもしれませんね。すいません」
うんにゃ、別にいいけどと言ってそれ以上さくらさんはそれ以上は突っ込んでいなかった。そして流れ出す雰囲気。気持ちのいいものではない。
そして由夢と目が合う。しかしさっと目を伏せてしまった。オレは構わず飯を食うがジーっとした視線を感じる。
なんだよと口を開きかけるが言わない事にした。これ以上にかったるい雰囲気は出したくないからだ。オレの為にも。
「うん?」
「あ、どうしたんですか、さくらさん?」
さくらさんがそう言って鼻をクンクンし始めた。それを見て音姉が声をかけ、由夢が不思議そうな顔をする。
オレは思い当たる節があったので無視をした。大方あの事の事だろう――――――――
「なんか・・・タバコの匂いするなって」
「え? そうですか?」
「私には、何も匂いなんて感じませんけど」
「オレもですね」
シラを切る事にした。別にばれても構いやしなかった。ただバレて色々言われる事が面倒くさいからだ。
そこまで強いタバコを吸っている訳ではないと思う。が、喫煙者ではない者にはすぐ分かるのだろう。
さくらさんはそしてオレの方を向いた。どうしようかと考え―――――――別にどうだっていいと結論した。
「義之くん、タバコ吸ってるよね?」
「そうなんですか?」
「にゃ、聞いてるのは私なんだけどね」
「今日クリパで色々な人が来てましたからね。匂い、移っちゃったんでしょうね。腹が立ちます」
「・・・・・」
オレがそういうとさくらさんは口を閉じた。確かに今日のクリパでタバコなんて吸う奴はたくさんいた。
設置されている喫煙所では結構な人もいたし、屋台のそばでの置き灰皿で吸ってるヤツなんて言わずもがなだ。
納得はしていない顔――――だがこの場は納得するしかなかった。オレの顔と言えば至って普通。ウソをついてる様には見えないはずだ。
これでこの話題は終わり。そう思ってチキンを取ろうとして――――――――
「だ、だめだよ!弟くん!」
「わっ!」
「にゃっ!」
「・・・・」
いきなり音姉が声を張り上げたので各々が驚いた顔をする。オレも顔には出していないが少し驚いた。
音姉の顔を見ると少し怒ってる様な風であった。オレはそれを見て嫌な予感しかしなかった。
どうせロクな事にしかならないだろう――――そう思いながら顔を上げた。
「なにが?」
「タバコ、吸ってるって事!」
「さっきも言ったけど――――」
「なら今、部屋に行っても構わないよね!?」
「軽くプライバシーの侵害なんだがな」
「大丈夫!私、お姉ちゃんだから」
と何にそんな自信があるんだか知らないが、音姉がそう言って立ち上がり、部屋に向かって歩きだした。
オレはと言うと―――――――特になにも行動しなかった。黙って熱々の餃子を口に放り込んだ。
というかクリスマスに餃子か・・・まぁ和・中・洋と何でも種類はあるのでクリスマスというより元旦だが・・・。
「義之くん、大丈夫なの?」
「モグモグ・・・ん、何がですか?」
「タバコ。吸ってるんでしょ?」
「ええ」
今度は隠さないで言った。音姉の前の手前さっきはそう言ったが、さくらさんには別にいいだろうと思った。
そこらへんはなぜだか知らないが、さくらさんは寛容だった。酒に関しても特に何も言わなかった。
むしろ「私にもちょうだい~」といった風だった。タバコに関してはあまりいい顔はしなかったが特に何も言わなかった。
精々吸い過ぎないようにと言った感じだ。前の時は聞かれたら正直に答えたからな、タバコ吸ってる事。
別に隠す必要もないし、後ろめたい事なんてなかったから――――――そういう理由だ。
正直に話したのが幸いしたのかどうか知らないが、さくらさんは黙認してくれた。少しばかし感謝した。
まぁ、ありがたく肺がんについての化学式を使った講釈は始まったが―――――――
「に、兄さん・・・そうなの?」
「ん? ああ」
「ふ、ふ~ん・・・・」
「なんだよ」
「や、べ、別に・・・」
「義之君、程々にね。私も吸ってる時期あったしあまり言え―――」
「えぇ~~~!! さくらさんが!?」
「そんなに驚かなくても―――――アメリカ行ってる時にちょっとだけね。今じゃ吸わないよ、イメージダウンしちゃうし」
そう言ってさくらさんは笑った。まぁ、そうだよな。オレ達より長生きしてるだろうし、付き合いもあるのだろう。
確かにイメージとのギャップはあるが特に何も言わなかった。大人だし言う必要もないと思ったからだ。
そんな会話をしているとドタドタと煩い音が響いてきた。階段を駆け降りる音。どうやら見つかったらしい。
「あや、見つかっちゃったかもね」
「そうですね。特に隠してもいなかったし」
「一応私保護者なんだけどなぁ・・・」
「火事は起こさないようにしますよ」
「そういう問題じゃないんだけど・・・・でも、吸い過ぎないようにね」
「うっす」
「お、お、弟くんっ!」
そう言って戸をバーンと音を立てて開く音が響く。振り返ると音姉がタバコを握りしめて立っていた。
どうでもいいがあんまり強く握らないで欲しい。折れたらどうすんだよ、今はあんま金ねーのに。
「にゃ、義之君、メンソール吸うんだね」
「なんでも吸いますよ。今日はたまたまメンソールの気分だったんです」
「あーでもなんとなくイメージっぽいかも。義之君ってそういうイメージだし」
「せいぜい不能にならないように気を付けますよ」
「こ、こらっ! ちゃんと私の話を聞いて!」
無視してさくらさんと話出したのが気に入らなかったのか大声をあげる音姉。由夢はきょろきょろしていた。
「こ、こんなの吸っちゃだめでしょ!? 弟くん未成年でしょ!?」
「確かにまだ成人していないな。早く車の免許が欲しいんだけど日本の法律は厳しくて駄目だ」
「バイクの免許取らないの?」
「そんなお金も無いしバイクを買う金だって無いですよ。特に冬なんか地獄じゃないですか。あまり興味無いです」
「き、聞いてよ私の話~!」
少し無視しすぎたか―――――若干涙目になりながら音姉は言う。オレはというと考えた。
このまま無視したところだがそれは出来なさそうだ。さくらさんのいる手前、怒鳴り散らす事も出来ない。
ハッキリ言ってかったるい気持ちでいっぱいだ。心には暗い嫌な感じは蠢いている。その腕を捻りたい気持ちもある。
さて、どうするか―――――――と考えてオレは行動を起こした。
「音姉」
「な、なに?」
「少し廊下で話そう」
「え?」
そう言って廊下に出た。向き合うオレと音姉。若干目を逸らしながらこちらを見ている。ここ最近のオレの行動を考えれば当然だった。
「ごめんな」
「え――――」
「最近音姉に対して冷たすぎた。どうかしてたんだ、すまない」
「べ、べ、別に――――――――いいのよ・・・・・・・よくはないけど」
「そういう訳にはいかないよ。お姉ちゃんにはいつもすごくお世話になってるっていうのに――――本当にそう思っている」
「そ、そう?」
「こんな美人なお姉ちゃんに世話してもらってあの態度じゃ、閻魔さんに怒られちまうな」
閻魔―――地獄の番人、自分が天国に行けるとは思わない。色々な人にひどい事をしてきたと思う。
そしてこれからもそれを止められるとは思わない。人を平気で傷付けて何も感じない人間、それがオレの性格だ。
こんな人間は地獄に行ってひどい目に合うのが普通だと常々思っている。痛いのは嫌だがしょうがない。
「び、美人・・・・」
「ん? そりゃそうだ。長い透き通った綺麗な髪、二重の整っている目、そしてプロポーションもいい。日々健康に気を使って
いるんだろう、崩れている所が見つからない。おまけに髪を留めているスカーフ、センスがいいな。結構有名なところのだろう?
生地がまず違う。そこらの女がしてたんじゃ馬子にも衣装すぎる。が、音姉にはそれさえも自分を彩るオマケでしかない。
あまりにも―――――――綺麗だ」
客観的にみたらその通りだと言ってて思う。かなりの上物だ。そして家庭料理も出来、世の中で結婚出来ない男から見れば
喉から手が出る程の逸材だと思う。だからといってオレは興味があるわけじゃないが。
「そ、そうかな・・・えへへ」
「謙遜するのは日本人の美徳だったか―――――オレはそう思わないな、音姉が謙遜しても嫌味にしか見えない。だって
本当の美人だからな、堂々としていたほうが印象はいいと思う。オレはな」
「そ、そんなこと言っても、何もでないよぉまったく・・・・」
「そういや明日はクリスマス本番か・・・何か買ってきてやるよ」
しまった、と思う。リップサービスのしすぎだ。そこまでする必要はない。オレは思わず天を仰ぎそうになった。
音姉の目―――――驚き喜んでいる。まぁ、いいかと思った。どっちみち次に会ったら無視しようと思っていた。
この場さえ凌げばあとはどうなって構いやしないと思う。プレゼントの件にしたって嘘だ、そんなもんは買いはしない。
「えっ!? 本当に!?」
「――――ああ、本当だ。あまり金はないがな」
「そんな高い物なんていらないよぉ~! 気持ちで十分だよ! ありがとう!」
「ああ、それじゃ食ってる途中だったから戻るよ」
そういってさり気無く音姉の手からタバコを取る。音姉――――浮かれていて気付いてない。楽勝だった。
スリに合いそうな女だと思った。そう思って食卓に着き、座った。そして感じる二組の視線。
さくらさんは呆れた目、由夢はどこか怒っていた。話が聞こえていたんだろう、雰囲気で分かった。
「義之君~さすがにタラシすぎるよぉ~」
「・・・・・スケベ」
「口は自分では回る方だと思うし音姉の性格も分かる。そしてオレはツラがいい。簡単だよ」
「・・・・わっ、自分で言ったよこの人・・・・」
「将来は結婚詐欺師になりそうだねぇ~義之君は」
ボソッっと言う由夢。聞こえてはいるが特に反応はしなかった――――かったるい。またジト目で見てくるが無視した。
詐欺師――――――案外悪くないかもしれない、そうオレは感じた。度胸もあるし口も回るし頭の回転―――――悪くはないと思う。
「悪くはないですね、詐欺師」
「だめだよっ! 義之君、悪の道に走っちゃあ。悲しくなっちゃよぉ~!」
「口も頭もいいと思いますが弁護士にはなれないと思いますしね」
「だったら私が特別にコーチしてあげようか?」
「結構です」
「にゃ~そんなこと言わないでさぁ」
弁護士、ね。とてもじゃないが無理だ。目指す人はみな必死に何もかも捨てて勉強している。そしてなれるのはわずかに数%・・・。
気が遠くなるような事だ。そしてなる奴は大抵は天才か努力が実る才能をもったやつらだ、勝てはしない。
自分は凡人だしそこまでの金銭的余裕はないからだ。そう思って食事を続けた。さくらさんはまだ納得しないのか食いさがる。
そして音姉がまだ廊下で浮かれているのを見て、ため息をついた。
そして翌日、オレは商店街に来ていた。タバコは結局折れていて使い物にならなくなっていた。
別にそこいらのコンビニでもよかった。どうせ年齢を真面目に聞く店員なんていないからだ。
じゃあなんで商店街まで来たかと言うと――――ちょっとした探検みたいなものだった。
こっちにきてあまり周囲の地理を理解していなかったからだ。どうせあまり変わっていないんだろうがとりあえずは、だ。
何かあった時に迷子になるのは勘弁だったしちょうど買いたい雑誌もあったからな。気分転換にもなるし。
そう思いつつ歩いていると本校の先輩だろう――――それらしき人物達に声をかけられた。
「おい」
「ん? なんスか?」
「お前、桜内義之だろ?」
「――――人違いですね、それじゃあ」
「とぼけるなよ、お前の顔は知ってるんだぜ」
だったら聞くなよ。そう思いながらオレは立ち止まった。逃げてもいいんだが柄じゃないからだ。
「ふざけやがって」
「ちょっとばかし調子にのってんじゃね~か?」
「だよなぁ、そういう顔してるもんな」
「何の用ですか?」
「ちょっとばかしお前に礼儀を教えてやろうと思ってさ」
「また最近、結構派手に暴れてるみてぇじゃねぇか」
「聞いたぜ、生徒会の一件」
少し暴れすぎたんだろう、噂はどうやら結構広まっているらしい。廊下で誰かしら見ていたか、あの場にいた誰かが喋ったか・・・。
おそらく前者だろう。誰も好き好んであの話はしたくないはずだ。杉並は確かに怪しいがネタにするには少しばかり暴力的すぎる。
「ったくよぉ~何が一番腹が立つって――――音姫ちゃんにヒドイ態度取った事だよ」
「色々あったらしいじゃねぇか、最近まゆきと音姫ちゃんの話を遠くから聞いたけどそんなこと言ってたぜ」
「最悪だよなぁ~お前、あんな可愛い女の子泣かすなんてさぁ」
「どうせ家じゃ、弟くん、私のアソコも苛めてとか言われてるんだろ?」
「ププ・・・ありそうだよなぁ~それ! あんだけボディタッチあるんじゃ日常茶飯事なんだろ?」
「まじかよ~じゃあーなに、ここんとこは最近そういうプレイばっかしだったって事?」
「うわぁ~不純異性交遊だなぁ~オレもそんなこといわれてみてぇ~」
オレはため息をついた。こんな奴らに構ってるとロクな事はない。特に音姉の事も言われても何も思わないし感じない。
見たところ腕っぷしも強くなさそうだ。筋肉、動作、手の拳を見ても鍛えるどころか運動部でさえないだろう。
まぁこんなチャラチャラしてる外見じゃ所属出来る運動部はないしな。そう思い無視して歩こうとして―――――――
「そういえば芳乃学園長と一緒に住んでるんだよなぁ~お前」
「ああそうそう、あのロリっぽい外見の学園長と」
「うわぁまじかよ!もうなんでもやりたい放題じゃん!」
「おまけに金髪だしなぁ。オレ一緒に住んだら絶対手ぇだすもん!」
「オレなんか無理矢理髪掴んで奉仕させるな、Sだからさぁオレ」
――――――足を止めた。瞬間、頭に血が上る――――――こいつらの目玉をくり抜いて身体をバラバラにしてやりたい気持ちが湧きあがる。
―――が強制的に落ち着かせる。熱くなったらお終いだ。オレは喧嘩は普通の腕前だ。いつものオレじゃなくちゃ駄目だ。
それに相手は三人・・・力のゴリ押しでは勝てない。いつも喧嘩になっても立っていられたのは冷静に対処したからだ。
自分の感情を無視しろ、その怒りという感情は瞬間に・・・・その瞬間に吐きだせばいい。余計な事は考えるな。
「どうせ夜じゃあ毎晩抱き合ってんだろ? 先生と生徒のプレイでさ」
「じゃなくても一緒に住んでるんだ・・・下着とか盗んでるんだろ?」
「いいなぁ~オレ達にもくれよ、学園長の下着」
「黙れよ――――――カス」
そう言ってオレはそいつらを見据えた。心は平常心だし頭も冴えている―――負ける気はしなかった。
そいつらは最初茫然としていたが、言われてる意味が分かり始めて顔を赤くした。
怒りで筋肉が震えて目を見開いている―――完璧に頭に血が上っている。とても冷静には見えない。
「今、なんつったテメェ!?」
「カスって言ったんだよ。見るからに頭が悪そうだしスポーツとかも出来そうじゃないもんな。服のセンスも悪い、いいブランド
の物を着ているが靴がそんな皺だらけじゃ意味がないな。知ってるか? ファッションは靴が決まらなきゃ意味がないんだぜ?」
「おいてめぇ、ちょっとこっち来いよッ!」
そう言われて道の脇のちょっと袋小路に連れて行かれた。まぁ、そして冒頭の状況になっているわけだが・・・・。
「おいおい、なんだよ口だけかよ」
「そう言うなって、まだガキなんだぜ?」
「だったら調子に乗るなって話なんだが―――おい、立ちな」
そう言って無理矢理服を掴まれて立たされた。顔は興奮しているのかヒクついている。瞳孔も少し開いていた。
「まぁ、許してやらない事もないんだぜ?」
「―――なに?」
「音姫ちゃんの下着盗んできたら許すっていってんだよ、まぁそれか裸の写真。出来るだろ? 風呂入ってる時に盗み撮りとかさ」
「あとは学園長の下着もだな。タイプなんだよなぁ、あの年上なのに金髪ロリってのがたまんねぇよな」
「そうそう、子供っぽい所があるしなぁ~性の知識なんてねぇんじゃねぇの?」
「まぁオレが教えてあげてもいいんだけどな、結構スパルタだから壊れちまうかもな~ハハハッ!」
周りを見た。一人はオレの襟を掴んで脇の男と話をしている。もう一人は壁によっかかっている、残りのやつは周囲の見張りをしている。
完璧に油断している。やるなら今がチャンスだ―――絶好の好機、見逃せない。
「おい分かったか? ちゃんと言われた通り―――」
―――瞬間、襟を掴んでいた男の肘関節に思いっ切り肘を喰らわせた。腰が入り遠心力で力が増したオレの肘―――ボキッといい音を立てた。
「ギャ―――」
「うるせぇよ」
悲鳴を上げさせる間もなく金的を蹴りあげる。思いっきり、だ。口をパクパクさせて倒れようとする相手。倒れる瞬間に髪を掴んで膝を入れた。
そして失神も出来なく、地面をのたうち回っている。壁の男は茫然としている。その光景が一瞬信じられなかったんだろう。
「お、おま―――」
声を上げさせる前にその男に近づき、髪を掴んで、思いっきりに壁に叩きつけた、白目を向いて倒れる相手。
その倒れた顔面に蹴りを叩きこむ。おそらく鼻が折れたのだろう、小気味のいい音がした。
ついでに指も踏んでへし折った。多分半年かかるだろう、その怪我を治すには。
「な、なにして―――」
「慣れてないだろ、喧嘩」
「―――は?」
出入り口を固めていた男がノコノコ近づいてきた。普通は逃げるか助けを呼ぶ、オレならそうする。今の現状―――普通じゃない。
一人は肘が変な方向に曲がり、金的を押さえながら苦しそうにのたうち回っている。もう一人は失神しながら鼻からものすごい血が
流れている。なんにしたって病院行きの怪我だ。
「まず普通は壁側に立たない、戦争をしている時なら話は分かる―――敵の銃弾とか伏兵がいる可能性があるからな。だが喧嘩では意味がない。
そのまま壁に頭を叩きつけられて終わっちまうからな、今みたいに」
「何言って―――」
「そして一回オレが地面に倒れた時、何もしなかった。黙ってオレを立たせてくれた、ご丁寧にな。相手が地面に這いつくばってるのに
蹴りも入れない、頭を踏みつけたりもしない。その人数なのにそのまま押さえつけたりもしない―――バカか、お前ら」
そう、あまりにも喧嘩に慣れていない。最低でも倒れて亀になってる相手に何もしないのはバカとしか言いようがない。
こいつら、本当にオレをリンチするつもりだったんだろうか――――――違うな、少し脅すつもりだったのか。
どちらにしてもオレはかなり頭にきている―――死んでも別に構いやしなかった。
さくらさん――――――オレの母とも呼べる人を、そのゲスな思考で汚した。許される事ではない。また許してやるつもりはない。
そう思ってオレは近づく―――逃げようとしたが無駄だ。相手の後ろ襟を掴んで、膝に蹴りを入れる、たまらず屈む相手。
そして髪を掴んで上向きにさせて、顔面を上げさせる。そして振り落とされる拳。
「ギャッ―――!」
「豚みたいな悲鳴をあげるな、気が悪くなる」
「ま、まってくだ―――」
「許してほしい、助けてほしい、殴らないでほしい・・・そんなところだろうが―――だめだ、死ね」
「―――ガッ」
そう言って何回も何回も何回も拳を振りつづけた。鼻が折れても殴り続けて、拳がきれて血が出ようと続けた―――失神してもそれは続いた。
「こんなところか」
そう言って手を離すと崩れ去る相手、もう顔が滅茶苦茶で血だらけで訳が分らない感じだ。いい気味だと思う。
周囲を見回すと軽く地獄絵図だ、血を流していない相手はいない。ピクピクしている様がなんとも間抜けだ。
「そろそろ行くか、警察が来たら面倒だしな」
そう言って袋小路からでた瞬間―――ぶつかった。キャっという小さい悲鳴、相手は女性だった。なんとも運が悪い。
手を差し出そうとして―――やめた。柄じゃないし、相手は知ってる女だからだ。
「あれ、義之?」
「あ―――」
「・・・・・・」
小恋、花咲、雪村といった面々だった。恐らくショッピングの途中だったんだろう、買い物袋が下げられていた。
いきなりオレが現れたのでみんなびっくりしている風だった。そして座り込んでいた小恋が立ちあがって聞いてきた。
若干話しにくそうに―――当然だった。最近の自分の行動、冷たいというよりも人が変わったみたいな感じだった。
まぁ、実際はその通りなんだが―――――――
「な、なにしてたのかなぁ~・・・なんて、あは・・は・・・」
「ちょっとした催しモンだよ」
「も、催し?」
「ああ、せっかく誘われたのはいいがノリが悪いみたいで退屈だった。呆れて帰ってきちまった」
「それってどういう―――」
「ってぇ義之くんっ!手怪我してるじゃないっ!」
「別に大したこと――――――」
そして頭部に衝撃が走った。脇に壁があったのでたたらを踏む程度で助かった。ヒッと悲鳴を上げる小恋と花咲。
驚愕で目を見開く雪村。頭に生温い感触―――血だった。小恋はそれを見て腰を抜かしたのか、ペタンとまた座り込んでしまう。
後ろを振り返ると血を流しながら鉄パイプを持ったさっきの男。顔はやりそこねたという顔をしていた。
「クソったれが、このや―――」
「・・・・・」
「あ―――」
その腕を掴んでやり、関節を決めてそのまま倒れこむオレ。いつか柔道の強い奴にやられて、そして教えて貰った技―――脇固め。
短い悲鳴をあげたがその時にはもう遅く、逃げられない状況。肩が外れたのだろう、いい音がした。
「ぎゃぁぁぁ―――」
「だからうるせーって」
「―――ギッ」
オレは立ちあがり、思いっきり顔面に蹴りをくれてやった。途端にまた鼻血を出す男。オレは笑った。
雪村達はその光景を茫然と見ていた。小恋にいたっては涙を流してうずくまってしまった。まぁ楽しくないもんな、やらないと。
「すまないな、手加減していたのかオレは。不完全燃焼だったんだろ? ん?」
「ご、ごめ―――」
「後ろから不意打ちするほど燃えたぎってたってのに―――オレのほうがノリ悪かったんだな。全力だすよ」
「ち、違っ」
「いやいや謙遜することないだろ? あいつらみたいにもっとやって欲しいんだろ?」
オレは目線をそちらにやる。まだ血だらけになって倒れている男達。後ろで誰かが座り込む音がした。雪村だった。
どうやらその男達の様子をみて座り込んでしまったみたいだ。無理もない、とオレは心の中で感想を漏らした。
せめて顔が二人ともあさっての方向を向いていればよかったんだが、こっちに顔を向けたままになっていた。
オレってやつは気遣いがなっていないと思う。テレビでは気遣いの出来ない男は嫌われるとか言っていたが、その通りだ。
今度からは顔は壁側に向けてやろうそうれば余計な気を使わせなくて済む。合理的な考えってやつだ。
花咲は慌てて雪村の介抱をした。オレはその様子を端目に見て少し感心した。随分女にしては度胸があるというかなんというか。
普通なら小恋みたいに、うずくまるのが正常な反応だろうが―――最近の女性は強いな、さすが女性社会。
そう思いながらもオレは蹴り続けた。顔はとてもじゃないがみれたもんじゃない。ずっと顔面を蹴ってるからしょうがないけど。
それも革靴―――同情は湧き上がってこなかった。
「じゃあ、オレいくわ。また年明けにでも」
そろそろ騒ぎになりそうだったから退散することにした。男は目立つので袋小路に返してきた。ついでにそれぞれの財布から
金を抜き取った。まぁ、授業料みたいなものだ。雪村達はまだそこにいたのでとりあえず別れの挨拶をして、踵を返した。
「―――ヒック、ヒックッ」
「大丈夫杏ちゃんっ!? 杏ちゃん!?」
「・・・・・・え、ええ」
まだ泣いている小恋、茫然とする雪村に介抱する花咲を置いてオレは歩きだした。そういえばと思いだす。
「まだ店にもいってねぇーなそういえば」
せめて商店街の地理は把握したい。そう思いながらまだお昼前の商店街を歩きだした。
※またしても思ったより長くなったので二分割