「まったく桜内は・・・素直ではないな」
「うるせーよ」
「相変わらず口が悪いな。友達作れないぞ」
「特に作ろうとは思わないな。意図的に言外にそういう意味をもって態度に出している」
「それも思春期ってやつか・・・ほら、出来たぞ」
「―――――いてぇ」
「文句は言うな、理由は聞かないといでやってるんだから」
そう言って美夏はオレの傷口を叩いた。鋭い痛みに顔をしかめるがすぐに冷静な顔に戻す。頭と手には包帯が巻かれていた。
あの後適当にブラついてみようかなと思った矢先に美夏と会った。買い物か、それともただの散歩かは知らないが。
黙ってジーっと展示されているμの最新モデルを見ている美夏―――――真剣な目に見えた。
まぁ一応ここで会ったのも何かの縁で構ってやる事にした。そして声を掛けて振り返る美夏―――ギョッとした顔になった。
なぜか知らないが慌てふためき、オレの手を引いてベンチの所まで連れていかれた。原因は分からなかった。
ここで待つようにと言われてどこかへ駆け出す美夏。オレはその様子を黙って見ていた。とりあえず待ってみる事にした。
数分後には薬局の袋を手に下げ、帰ってきた。それを見て初めてオレは思い出した――――ああ、怪我してたんだなと。
色々理由は聞かれた。適当にすっ転んで怪我したと伝えたが、美夏は信じなかった。明らかにそれの怪我ではない事がわかるからだ。
しつこく追及されたがオレがだんまりを決めると、ため息をついて諦めた。小言で捻くれ者と聞こえたが無視した。
手当の技術―――さすがロボットだった。流れる動作、見た目も完璧ながら要所を押さえているのか、違和感は感じなかった。
「んで、お前は何しに来てたんだ?」
「ん? ああ、散歩だ。美夏は目覚めてまだ間もない。ここいらの地理を把握しときたかったんだ」
「なんだ、オレと同じ理由か」
「ん? なんで桜内が商店街の地理を把握しなければいけないんだ?」
「―――――色々あるんだよ、なんたって思春期だからな」
「ぬぅ・・・・・なんとも面倒臭い人間だ、お前は」
「うるせぇって」
そう言ってオレは歩きだした。なぜか美夏もついてきた―――――特に邪魔とは思わないので放っておく事にした。
少しなかり歩幅が小さいので焦るように歩く美夏。しょうがないので少しばかり足の進み具合を遅くしてやった。
「む、すまないな、桜内」
「――――――何の事言ってるかわからねぇよ、美夏」
「はぁ~~~、本当にお前ってやつは」
「だからうるせぇって。んでお前はなんでμなんて見てたんだ? 珍しかったのか?」
「・・・・少しばかり思うところがあってな」
「そうか」
まぁ美夏もロボットだし当然だろうと思った。自分と同じ存在がショーウィンドウで飾られている―――――気持ちのいいモノではないだろう。
その気持ちは分かってはやれないし、分かろうとは思わなかった。自分の気持ちは自分しか分らないからな。ただ心情は察することは出来る。
美夏は分かりやすい性格なのだろう――――顔から不満げな表情が出ている。これで察せないやつはよほどの鈍感者だ。
「美夏は、いつか人間を征服してやろうと思っている、って言ったのを覚えているか?」
「ああ」
「桜内は――――どう思う?」
「別になんとも」
「え・・・」
そこ答えが意外だったのかこちらを見る美夏。オレはというとどうでもいい態度。本当にどうでもよかった、知ったこっちゃない。
大体オレに聞くのが間違っている。優等生に聞けば素晴らしい模範解答が返ってくると思うが、生憎オレは優等生じゃなかった。
「オレは――――オレ以外の人間が死んだところで構いやしない。何も感じない。どうだっていい。そういう風に思う」
「ど、どうしてそう思うのだ?」
「そういう性格だからだ」
「――――性格?」
「生まれてこの方誰かに本当に優しくした記憶はない。いつも人を傷つけてばかりいた。―――――人嫌いなんだよ、オレ。
人と話してるだけでも嫌悪感がもたげるし、暴力的な考えで頭がいっぱいになっちまう。」
「なんで、また?」
疑問に満ちた声で聞いてきた、そりゃ当然だと思う。人と話すだけでそんな風になる人間なんてインプットされていないんだろうな。
どう考えたって普通ではない。普通ではないって事は異常者だ、わざわざロボットにそんな人間のデータを入れる必要はないだろう。
「生まれつきだ。生まれた時からはオレは社会で生きていくには、対応できない風になっていた。心の病気か、呪いか。
こっちの心に踏みこんでくるやつには容赦しなかった。オレの交友関係は狭いぜ、まじで。杉並とかさくらさんぐら
いか、まともに話せるのは。それ以外は思わず殴りそうになっちまう―――――異常者だ」
「・・・・・・そうなの、か」
「あとはエリカって女か。まぁあいつは愛玩目的みたいなもんだし、例外だな。あとは・・・・お前か、まともに話せるのは」
「―――――え」
「なぜかは知らない。お前がロボットだからなのか、それともまた別に原因があるのか――――分からないがな、安心して話せる。
多分こんな気持ちは幼稚園以来だな。素直っていうかなんというか」
「・・・・す、素直には見えんがなっ!」
「うるせぇよ、今ほど素直なオレは見られないぞ。宝クジが当たるより確率は低い。お前から金を取ってもいいんだぜ?」
「はぁ~・・・・・相変わらず金に執着する男だ」
「金が嫌いな人間なんていねーけどな」
そう言って話を締めくくった。金が嫌いな人間なんていないし、見た事もない。みんなが常に欲している者だ。
まぁ金ではどうにも出来ない事もあるし、譲れない事もあるにはあると思うが―――――少数だ。
家族を養うのも金、病気を治すにも金、愛する恋人にプレゼントするのも金だ。実際に数日、満足にオレはタバコを吸えなかった。
「ったく、そんなんじゃ大事なものを見失うぞ?」
「そんなものありはしないが―――生憎そこまで愚かな人間じゃない。線引きは自分の中で決めている。ここまでがオレの許容範囲ってな」
「そんな器用にも見えないが―――――それにしても」
「あ?」
「お前と美夏は、似ているのかもしれないな」
「・・・・・・・」
否定は出来ないと思った。人嫌いなオレと人間を憎んでいる美夏――――確かに共通点はあった。
それにしても何故美夏はここまで人間を憎むのだろうか。まぁオレがもしロボットだったらと考えると大体想像はつく。
意味もなく繰り返される戦争、人種差別による迫害、強盗などによる犯罪・・・美しい部分もあるが醜い部分の方が多いと思う。
そしてさっき見ていたμの売りもの・・・同種によるものが手荒に使われている様、ハラワタが煮くり返るだろう。
「そういえばなんでお前、人間が嫌いなんだ?」
「え?」
「大体は予想はつくが、何かこれが決定的だって思うところがあるんだろう?」
「――――いっぱいある」
そういって美夏は話しだした。過去の記憶、データ、それらを思い出す、または読み出すかのようにぽつりぽつり呟いた。
人間によるロボットに対する迫害や手足のようにぞんざいに扱われてきた歴史を・・・・。
オレも聞いた事のあるかのような話もある。今も昔も金持ちしかロボットは所有しておらず、大体は性目的で持っていた。
周りの環境や他人の為に労働させることよりも、人間は自分の欲望に忠実になった。ほとんどがそうだと言っていい。
ダッチワイフ―――美夏にとって嫌悪しか抱かない行為にみんな夢中になっていた。別に愚かだとは感じはしなかった。
人間と言う生物は自分の欲求に逆らえないからだ。それが人間と言う生き物―――だがそんな奴らばかりではない。
事実、福祉関係の仕事をしているロボットだっている。その人間次第って訳だ。だがあまりにも少なすぎる。
そんな人間は美夏は嫌いだと言った。みんないなくなればいいと言った。まぁ・・・・・そうだよなと思う。
人間の世界でもそれはある。今だに世界のあちこちで人身の取引きはされており、一向になくならない。
当然だ、国もグルでやっているからだ。資金が足りない、物資が足りない、色々理由はある。
日本ではあまり話は聞かないが―――ないことはない。ただメディアが放送しないだけだ。治安国家だからな、日本は。
美夏は苦しそうに、だが怒りを込めて話していた。だが、けれど―――――と話を一回切ってオレの方をみた。
「なぜか・・・桜内を見るとそうは思えないんだ。何故かは知らないが・・・・」
「なんでだ? 自分でも言うのもなんだがハッキリいってオレは屑だ。お前の嫌いな人間の代表格だと思っていい」
「そんなこと―――」
「この怪我―――喧嘩して出来た傷だ。リンチされそうになってな。まぁ返り打ちにしたが―――しばらく入院だな、あいつら」
色んなところを折ってやったからな。おまけに出血もヒドイ。ヘタしたら後遺症―――――知った事ではなかった。
今でも後悔していないと思うし、悔いはない。うまく立ち回れないのがオレの欠点だが構いやしなかった。
「―――理由」
「ん?」
「あるんだろ、理由が」
「まぁ・・・・オレの保護者―――さくらさんていうんだがその人の事を侮辱した。犯したいなんて抜かしやがった。だから潰した」
「それなら――――――」
「普通はそこまでしない。普通なら我慢するか逃げるかどちらかを選択する。なんでもそうだが我慢できないのは獣だ、人間じゃない。
殴りたいから殴った、お金が欲しいから盗んだ、女に餓えていたからレイプした・・・そういう事だ、オレがやってるのは。
おまけにやられた奴らは骨も折られ血みどろだ。後遺症―――残るかもしれないな」
「・・・・・」
人間は我慢出来る生き物だ。動物は我慢なんて出来ない。ということはオレみたいな人種は人ではないという事だ。
今自覚したわけではない、ずっとそう思っていた。治そうともした、治らなかった。それがオレという生き物―――クズだ。
「・・・・でも」
「あ?」
「なんか・・・なぁ・・・・そうは思えないんだなぁ、これが・・・ハハ・・」
「おまえな―――」
「昨日」
「あ?」
「昨日一緒に帰った時のお前の笑顔、悪人には見えなかった。本当に綺麗な笑顔だった。初めて見たな、あんな笑顔。
今だって歩幅を合わせてくれているし、下心も無さそうだ。当然のようにそうしてくれている。美夏が知っている
限りではそういう人間は希少だ、まずは邪な気持ちを抱くからな。それが・・・人間っていう生き物だ、普通の行動だ。
それに―――――本当のクズは自分ではそうは言わない。美夏のデータにはそう書いてあるし、美夏もそう思う、うん」
まぁ金にはガメついがな、と言って少し笑った。オレはというと――――――少しまいってしまった。
何をどう勘違いしたのかは知らないが美夏は勘違いをしているようだ。その認識を改めない事には社会生活は送れない。
そう警告をしようとして―――頭を叩かれた。
「~~~~~~~ってぇ~~~ぉぉおおおお!!」
「まぁ、男たるもの少々ワイルドの方がいいなっ!ここぞって時に女子を守れないようじゃそれこそクズだっ!美夏はそう思う!」
「~~て、てめぇこのや―――」
「大体なんだその怪我は!? どうしたらそんな所に傷なんてつくんだ?」
「・・・・・・まぁ、後ろから鉄パイプで殴られた訳だが・・・」
「ふんっ! そんな卑劣な真似をする男達だ、ロクな男共ではないんだろうっ! なんだったらトドメをさせばよかったのだ」
「嫌だよふざけんなよ出来ねぇよ。まだ刑務所に入りたくねぇんだよオレは。周りのヤツには言ってないが車であちこちドライブ
すんのが夢なんだよ、それまで絶対死なねぇ」
「まぁお前が言う悪党ってのも所詮そこまでのようだな。外国を見てみろ! なんと異常者が多い事かっ!」
「日本と比べるなっての・・・・・あっちは人口も多いし民族も数え切れないほどある。些細な民族の風習の違いも
狂気に見えるからな。しょっ引かれる奴も多い。大体刑務所も制度からして違うし、アメリカなんて州によって違う。
まぜっ返すなよ」
「ほぉ~物知りだなぁ、桜内は」
「・・・・・小さい頃は結構本とか読んだからな。まぁ雑学程度だし日常ではつかえねぇよ。無駄な知識だ」
「なんだ、いわゆるガリ勉ってやつか・・・暗かったんだなぁ桜内は・・・・」
「だれがガリ勉だてめぇ・・・ってなんでお前がドン引きしてるんだコラ」
「まぁ、いい大学とかに入れたら助席に乗ってやって付き合ってもいいぞ。ドライブ、するんだろ?」
「あ?」
「確か、車の助席に女が乗るのはステータスだとデータに書いてある。お前は暗いから美夏が付き合ってやる!
ツンツンして口も悪い、どうせ女なんて寄ってこないんだろう? だったらこの美人な美夏様が乗ってやるって
いうのだっ! 感謝したほうがいいぞ、桜内 」
「・・・・・・」
「ふぎゃっ! だから蹴るなって―――いたたたっ!?」
「・・・・・・」
「しょ、しょうがないだろ・・・女にモテないのは本―――っていたいっ! 痛いって言ってるだろ桜内!」
「・・・・・・」
「こ、今度は屈服しないぞっ! さくら・・・・いっていたたたたたっ!?」
「・・・・・・」
まぁこんな感じで商店街を美夏と進んだ。もちろん謝るまで蹴りは止めなかった、いい気味だと思う。
――――――綺麗な笑顔、ね。自分には似合わない言葉だと思う。オレが笑う時は大体は皮肉ってる時だ。
大方、美夏の間違いなんだろう思うけどな。そう思い、美夏と『笑い合い』ながら先へ進んだ。
「おー、これなんかどうだ桜内?」
「・・・・・お前、センスないのな」
「―――ッ! う、うるさい!」
そう言って美夏は意味不明なキーホルダーを棚に戻した。なぜあんな物を選んだかは分からない・・・ロボットのセンスというものだろうか。
オレ達は、なぜか小物屋にいた。前の世界でもこの世界も来た事は無く、ファンシーな空気がちょっと辛いところだ。
なぜここにいるかというと―――全て美夏のポンコツロボットのせいだ。
どうやら美夏と由夢は仲がいいらしく、休みに入っても連絡は取り合っているみたいだった。
昨日の一件もどうやら由夢の口から聞いているらしく、兄さんは私にプレゼントをくれないと愚痴っているみたいだった。
実にかったるかった。そしたら美夏が「音姫先輩のも買うついでに、由夢の分も買おう。どうせまだ選んでないのだろう」と言った。
オレは断った。それ以上親密な関係は築きたくないし、築こうとも思わない。本当に嫌な気分しか噴き出ないと美夏に言った。
しかし美夏は私からの送りものって事にしておけと言って聞かない。金はお前が出せばいいだろうと言いやがった。
止める間もなく美夏はファンシーショップに入ってしまい、オレはイライラしながらも後を追った。そして今に至る。
「これなんかいいんじゃないか?」
「ん? ああ駄目だ、そのアクセサリーは。銀メッキは剥がれやすくて痛みやすい。それならシルバーがいいところなんだが生憎
ドメスブランドでもそんなものは買う気もしないな」
「むぅ~注文が多いぞ、桜内は」
「お前からのプレゼントなんだろ? だったらちゃんと選べ」
「・・・・・めんどくさいな」
「・・・・・・・・」
「わ、分かったから足は上げなくていいっ!」
そう言って足を両手で押さえる。まぁ店内なのであまり目立ちたくはないので自重はした。残念だ。
あれでもこれでもないと探していると、ふと小物入れの中からスカーフを見つけた。
恐らく上の棚から落ちて紛れこんだんだろうが―――なかなかどうして、いい感じだった。
色は薄い黒で、高級感もある。透かしてみたり手で触ってみたが生地もなかなかよかった。
外見もデザイン性は整っており――――――まぁオレはそれを気にいってしまったわけだ。
「ん、なんだ―――またいいモノを見つけたな、桜内」
「ああ、惚れちまったな」
「それを買うのか?」
「あの女にはもったいねぇと思うが―――女性物だ、大人しくあげてやるよ」
「そんな事はいうものではないぞ・・・・あれ、由夢の分はどうするんだ?」
「それならこれだ」
「ん?」
そう言ってレジの脇に積み重なっている料理本を取って、一緒に会計に出す。美夏は本当にそれでいいのかという目をした。
オレは目で構いやしないと言った。美夏はなぜだかしらないがため息をついた。そして無事会計を済まし、外に出た。
「本当にそんなものでよかったのか?」
「あいつの料理を食った時―――オレは吐きだした。ご飯は砂抜きをしていないわソーセージの中は生だわマカロニはぐちゃぐちゃ
で食えたもんじゃなかった。さすがにこの人嫌いのオレでも心配になったよ、こいつは嫁にいけるのかなってな」
「あ、あはは・・・そうだったな、確か由夢のやつって・・・・」
恐らく家庭科の授業の時に見たんだろう―――美夏は苦笑いをしていた。あの酷い味は今でも忘れない。
まぁこんな千円ぐらいの本だが無いよりマシだ・・・・・。ちなみにスカーフはその十倍だった。
痛い出費だが美夏の意見を却下出来なかったオレが悪い。そしてポケットに手を入れ―――気付いた。
「あ、タバコ買うの忘れてた」
「ん? なんだ、桜内はタバコを吸うのか?」
「まぁな・・・帰りにコンビニ寄るわ」
「あまり感心せんな、喫煙は」
「嫌いか、タバコ?」
「水越博士が吸っているので多少は慣れているが―――お前の身体が心配だ」
「肺がんになりやすいって言われているが実はそれは嘘かもしれないんだってよ。よく化学式でどーのこーの言っているが
すべて妄想らしい。ただこういう科学反応を起こすと肺がんになるってだけの話らしい」
「屁理屈こねるな―――まぁ、吸い過ぎのないようにな」
「はいはい」
そういってバス停の近くまできた。ここからは分かれ道、美夏とお別れする場所だ。そろそろ暗くなってきたので早く帰ろうと思った。
まぁ、その前に、だ。
「ほらよ」
「ん? おおっ! なんだこのかっこいいストラップは!?」
「クリスマス・プレゼントでございます、お嬢様」
「―――へっ?」
そう言ってわざとらしく昔の貴族みたいにキザったらしく胸に手を当て、仰々しくお辞儀をした。美夏―――驚き固まっている。
美夏に似合いそうな青のストラップがあったので買ってやった。シルバーを使っているので一万近くしたが―――別にいいかと思った。
なんだか今日は一緒にいて腹ただしい事だが―――慰められた感じがした。それが癪で思わずこれでいいやと思い、今、手の上にある。
この胸のイライラ感を取るのに結構な金額だったが―――悪くはなかった。
「あわ、わわわわわっ!」
「なんだよ」
「ば、ばか! そんな高そうなの受け取れるか桜内! わ、わたしなんか手ぶらだぞっ!」
「構いやしねぇよ、オレが好きでやってるだけだ。別に恩に着せたりしねぇよ」
「で、でも―――」
「おら」
「あ―――」
無理矢理持たせてオレは歩きだした。かったるくなりそうだし、日本人特有の「こ、こんなもの受け取れません」なんかしたくなかった。
あーなんかまた雪が降りそうだなと思いながら家に向かって足を進めた。結構な消費だが―――どうせバイト代で元取れるしな。
「さ、さくらーいっ!」
なんか大きな声が聞こえたので振り向いた。美夏がこっちに向かって何か叫んでいた。
「ありがとうなぁ~! また今度遊んでやってもいいぞぉ~!」
そう言って手を振った。まぁ―――元気で羨ましい限りだと、心の中で感想を漏らす。オレは何も答えないで後ろを向いて歩きだして
黙って手を振った。
「ふぁ~あ、もう寝るか」
そう言って布団にもぐりこんだ。プレゼントはとりあえず郵便受けの所に置いてきた。
最初は美夏の言った通りに美夏からのプレゼントという事にして渡そうと思ったが―――気に入らなかった。
金を出したのもオレだし、選んだのもオレ・・・不条理を感じた。まったくもって納得がいかない。
だから付属でついてきた白紙のカードに、サンタよりと書いて適当に放りこんだ。まぁ、差出人はオレだとバレるだろうが気にしない。
プレゼントには美夏の気持ちが入っている―――ような気がした、渡さない訳にはいかない。だからサンタと書いた。
なんにしてもシカトするつもりだった、音姉達のことは。もうかったるいのはごめんだ。
しかし、ただ渡してもまたウザく付きまとって来そうなのでもうこれで最後、話しかけるなと書いておいた。
もう正体なんかバラしているみたいなもんだが―――どうでもいい、そういった具合だ。
「・・・・・・・・」
だんだん眠気に誘われてオレは意識が朦朧としていくのが分かった。明日、予定なんか無かった。
またブラブラしようかなと思いつつ、オレは夢の中へ潜って行った。外では、また雪がチラついていた―――