「寒いなー・・・ちきしょう」
「男が弱音など吐くな」
「寒いもんは寒いんだよ。コーヒー奢れ、コラ」
「お前は女に飲み物奢らせるのか? 男の風上にも置けない奴だな」
「最近とある事情で金が飛んで行ったんだよ。もうそれは見事にパタパタとな」
「お前の元を離れて正解だな、そのお金は。お前が持っていたんじゃロクな事にしか使わないからな」
「うるせーハゲ」
「み、み、美夏はハゲてなんかいないっ!」
「いつでもそのニット被りやがって・・・中身はどうなってんでしょうかね」
「だ、だ、だからっ!美夏はハゲてなんかいないっ!」
「分かった分かった、ごめんよ。ハゲにハゲっていうのは可哀想だな、もう言わないよ」
「は、ハゲって言うなーーーっ!」
相変わらずこんな寒さでも五月蠅い女だ、空なんて今にでも雪が降りそうな色合いだってのに。まぁ、コイツらしいったらコイツしいが。
オレ達は時間通りに落ち合う事が出来て、今こうして屋台のクレープを頬張っていた。こんな寒空の中ベンチに座っているのは辛いものもあるが。
神社では年越し用の屋台が出るだろうし、暖かいお雑煮とかも出る。その時が今から楽しみでしょうがない。早くありつきたいもんだ。
「さて、何で時間潰すよ?」
「む、そうだな・・・ここは桜内に任せるぞっ! やはり男がこういう場は仕切るもんだ」
「時代錯誤も甚だしいな、いつのロボットだよお前は」
「時代は関係ない。男とはどの時代でもカッコつけたがるものだ。ここは桜内の男を立てると言ってるんだぞ? 美夏は」
「まぁ・・・あながち否定できねぇけどな。しょうがねぇ――――エスコートしてやるよ、お嬢様」
「うむ! よろしく頼むぞっ!」
そう言ってオレは美夏の手を取って歩き出した。美夏は驚いた顔をしたが――――照れた顔をして手を握り返してきた。
一応オレも恥じらいが無い訳じゃないが、それよりこの時間の方が大切だった。隣で元気よく歩いている美夏を見てるとそう思う。
いつまでもこの時間に囚われていたい――――が、寒さには勝てそうにはない、とりあえず商店街の方で暇つぶしをする事にした。
「とりあえず商店街の方に行こう。まぁ、あそこしか遊べる場所がないんだが」
「ん~? 別に美夏はどこだっていいぞ。桜内が行きたい所へ行ってくれ」
「んじゃまぁ、この間行ったゲーセンにでも行くか。また何か取ってやるよ」
「ホ、ホントかっ!? 実は美夏はまだ欲しい人形があったのだ! それ取ってくれ桜内っ!」
「別にいいけど・・この間ゲーセンに寄った時に言えよ、取ってやったのによ」
「あ、いや、そのな・・・あはは、あんまり桜内に迷惑を掛けるのもアレかと思ったものでな・・・」
「・・・・・・」
「わっ!」
「そんな事、別に気にしねーよ」
そう言って頭をガシガシ撫ででやった。こいつは本当にロボットの癖に義理固いというかなんというか――――もっと我儘言えばいいのにな。
美夏は帽子が擦れる事を気にした風であったが、とりあえずなされるがままといった風だった。目も細めてるし、こいつ犬っぽいな。
まぁ、あんまりやると帽子との摩擦で気持ち悪くなってしまうだろうから程々にしておいてやった。
「むぅ~、お前は本当にいつも突然だな。驚いたぞ」
「嫌だったのか? まぁ帽子の上から撫でたのは悪かったよ」
「あ、や、嫌っていうわけじゃないんが・・・これからは前もって言え。驚くから」
「前もって言ったらいい感じになれないだろう」
「はは、なんだ、桜内は美夏といい感じになりたいのか?」
「ああ、なりたい」
「え!? あ、そ、そうか・・・・・」
こいつから言いだしたのに顔を赤くして俯いてしまった。そんな美夏を見て知らずの内に笑みが零れてしまう――――本当に好きなんだな、コイツの事。
その気持ちをオレは再確認した。エリカとの事で色々自信が揺らいでいたが、根本的な気持ちは変わっていないようで安心した。
エリカを好きな気持ちはあるが・・・やっぱりコイツの事が一番好きなんだと思う。エリカに悲しい思いをさせてしまうだろうけ
ど、早く決着を付けなければいけない。
「おい、ちゃっちゃと行って人形取っちまおうぜ」
「ああ、コラッ! そんなに早く歩くな桜内っ!」
そう言ってオレは商店街に歩き出した。とりあえず今は美夏が欲しがっている人形を取るのが先決だ、コイツの喜ぶ顔を早く見てみたい。
そんな柄でもない事を思いながら手に力を込める。そして照れながらも握り返してくる美夏――――オレは確かに幸福を感じていた。
「いやぁ~大量だったなっ! まさか桜内にあんな才能があるとは思わなかったぞっ」
「嫌な才能だな。大体あんなもんはコツさえ掴めばどうにでもなる」
「ぬぅ・・・相変わらず捻くれてるなぁ。というかそんな事言われたら美夏の立場がまるでないぞ」
「いいんだよ。女は黙って男が取ってきたものを素直に受け取ればいいんだ」
「おー言うようになったなぁ、桜内も」
「・・・お前が最初に言いだしたんだろ」
あの後ゲーセンに行き、早速お目当てのモノが見つかったのでチャレンジしてみた。当然というかなんというか難なくソレは取れた。
それで美夏は満足してしまったのだが、オレはそれだけじゃ満足は出来なかった。美夏が喜ぶ顔が見たくて再度UFOキャッチャーに挑んだ。
まるで気分は子供に玩具を与える親父のような気分だ。生憎ガキなんていやしないし、結婚もしていないがそんな感じがした。
結局5個ぐらい取ってしまったので、一回ウチに戻り人形を置いてきた。その時たまたまさくらさんが家に居て、美夏は驚いていた。
かったるくなりながらも、美夏にかいつまんで昨日エリカに言った事と同じ説明をしてやる。美夏はオレが捨て子だと聞いて悲しい顔をしていたので
強めに頭をまた撫ででやった。別に気にする事でもないのになと思う――――事実、今までオレはそんな事を気にしたことが無い。
まったく・・・どいつもこいつもオレを不幸だと思いやがって。十分満足してるってーの、今の生活に。
「おお、もう出店やってるぞっ! 桜内っ!」
「ん? もうそんな時間か」
ゲーセンを出た時には空模様も暗くなってきており、落ち着かない子供みたいな美夏に急かされて今オレ達は神社まで来ていた。
携帯で時刻を確認する―――17:30。そろそろいい時間帯なのかもしれない、あちこちで出店を開きはじめる屋台が出てきているのが見える。
あまりお参りとかはした事が無いので新鮮に見える反面、どこか懐かしいというような不思議な感じがした。多分小さい頃の思い出のせいだろう。
小さい頃はさくらさんに連れて来られててからなぁ、音姉達も一緒に。もしかしたら神社に来るのはそれ以来かもしれない。
そういえば家を出る前に、音姉に話しかけられた。内容は――――今日はもちろん私たちと年末を過ごすんだよね、だそうだ。
どうやらこっちのオレは、毎年は音姉達と過ごしていたらしい。なんとも寂しい限りだ、こっちのオレは女とか作らなかったのだろうか。
まぁオレも人の事なんか言えたもんじゃない、この世界に来なければこんな想いはしなかったかもしれないしな。それだけは感謝できる。
予定が入っていると言った時の音姉の顔はとても愉快な顔をしていた。半べそを掻きながら涙目になっている顔――――かったるかった。
そんな音姉を振り切って今に至る訳だが、もしかしたらこの神社に来る可能性もある。あんまり鉢合わせしたくねぇなぁ、面倒くさい。
「おおー早速焼いているなぁっ! おっちゃん、タコ焼きを1パックくれっ!」
「オウ、らっしゃいっ! お嬢ちゃんついてるね~、今日初めてのお客さんだよ。ホラ、サービスでたこ焼き2個オマケにしといてやるよっ!」
「い、いいのかっ! こんなデカイたこ焼きを二つもっ!?」
「べっつにいいってことよっ! そっちのワイルドでカッコイイお兄ちゃんと食べてくれよ、彼氏なんだろ?」
「――――ッ! か、か、彼氏!?」
「ええ、そうですよ。こいつ恥ずかしがり屋なんでそう言われるとすぐこうやってテンパるんです。参っちまいますよ、ホント」
「な、な、き、貴様――――」
「おー初々しいねぇっ! ホラ、もう二つオマケだっ! はっはっは!」
「ありがとうございます、おじさん。それじゃあオレ達はこれで・・・」
「おーう、また来てくれや」
「はい、行くぞ美夏」
「お、おいっ! 待て桜内っ!」
そう行ってオレは歩き出した。美夏が慌てた様子で脇に駆け寄り――――自然な感じで手を繋いできた。その慣れた動作に嬉しさを感じる。
美夏の顔を見るとまだ顔を赤くしている。こいつロボットの癖に照れるという感情が出過ぎなような気がする、さっきも照れてたし。
オレがそうやって美夏の顔を見ると視線に気付いたのか、更に顔を赤くして見返してくる。まぁ可愛らしい事で。
「な、なんだ桜内っ! ひ、人の顔をジロジロ見るなっ!」
「んだよ、まださっきの事で照れてるのか、お前」
「あ、当り前だっ! いきなりあんな事言って・・・お前には恥ずかしさという感情がないのかっ!?」
「別に」
「――――ッ! お前と言うやつは本当に・・・」
「悪い気がしたなら謝るよ。興味ない男にあんな事言われても気持ち悪いだけだしな、すまん」
「あ、や、べ、別に謝る事ではない・・・」
「でも嫌だったんだろ?」
「い、嫌とは思ってない・・・む、むしろだな・・・」
「むしろ・・・・・・・なんだよ?」
「う、う、うるさいっ! ホラ、どっかに座ってたこ焼き食べるぞっ!」
「お、おい――――」
そう言って握っている手に力を込めて歩き出した。つられて小走りになるオレ、いつもとは逆のパターンだった。
美夏は照れ隠しの為にドンドン先を歩いて行く。まぁ、よっぽと恥ずかしい思いをさせちまったってわけか、本当に初々しいなコイツ。
むしろ――――その先の言葉が聞きたかったが何も焦る事はない、時間は十分にある。そう思ってオレは美夏の脇に並んで手を握り返した。
「女のトイレで一人待つ男か・・・ホント柄じゃねぇ・・・」
そう呟いてタバコを吹かすオレ。今の時間帯がピークなのか――――辺りは喧騒にまみれていた。出店の人たちが忙しそうに走り回っている様子を
傍目に背伸びをして、美夏のトイレの帰りをベンチに座って暇そうにしながら待っていた。
あの後いいベンチを美夏が見つけたので、そこに座り買ってきたタコ焼きを二人して分けあって食べた。たこ焼きは出来たてでとても熱く、すぐ体が
温まるのを感じた。
食事し終えてしばらくは談笑していたが、急に美夏がモジモジしだしたのでオレはどうしたと聞いた。それに対して美夏は曖昧な笑顔。
この様子を前にも見た事があるようなする―――すぐ思い出した。オレはさっさとトイレに行って来いと言うと、羞恥心で顔を真っ赤にした。
しばらくオレに対して罵声を吐いていたが生理的な現象は我慢出来ないらしく―――すぐトイレのある方向に頼りない足取りで走って行った。
「ったく、別に気にする事じゃねーのによ・・・あのアホは・・・」
そう言ってタバコの煙は肺に入れて適度に吐きだした。貯金は金欠だがオレはヘビースモ―カ―だ、タバコだけは我慢できない――――よく味わって吸おう。
タバコも味と匂いに酔っているとどこかで見た事があるような顔ぶれの集団が目に付いた。オレが気付く時にはあちらも気付いたらしく、オレと目が合う。
あまり喋りたくない連中ばかりなメンバーがごっそりといた。特にアイツとだけは今は喋りたくない、そう思って腰を上げかけて――――
「やっほぉ~! 義之くぅん! 何してるの~!?」
「ちょ、ちょっとっ! 茜!?」
「あら、義之じゃない・・・・」
「・・・・・・」
「あ、義之君・・・・」
呼び止められてしまった。声を掛けたのは茜、それにビックリして驚いている小恋、いつも通りの雪村、オレを睨んでいる板橋、そしてキョドリ顔の白河だ。
まったくもって面倒くさいメンバーと会ったもんだ。特に茜とは前に一緒に居て美夏に誤解された件もある―――おしゃべりする気にはとてもなれなかった。
そう思ってどこかへ移動しようとするオレ。美夏とは携帯で連絡し合うとしよう、トイレに行って帰ってきてオレがいなかったら怒鳴られるからな。
何より悲しい思いをさせたくない。あの元気な顔が曇り顔に変わってしまうのはオレとしてもいい気持ちじゃないからな。
「はいは~いっ! どこへ行こうってのかなぁ~よっしぃは?」
「だれがよっしーだよ――――そうだな、あまり変態がいない所だな。今日は年も変わるという特別な日だ、落ち着いて年を過ごしたい」
「ええ~!? そんな人がいるの~!? おっかないよぉ~よっしぃ私の事守ってよぉ~」
「お前は湾岸戦争でものほほんとして生き残りそうだ、オレなんてチンピラは必要ねぇよ。一人で充分だろ」
「女の子は男の子に守ってもらいんだよぅ? 義之くんみたいなイケメンに守ってもらうのが私の夢なんですぅ~」
「よく喋る口だ。塞いでやろうか?」
「え、もしかしてキ―――」
「あそこでとても大きいタコ焼きを作っている店がある。とても大きすぎてニーズに応えられないと思っていたが―――お前と喋って分かった気がするよ。
きっとあのタコ焼きは、女のやかましい声に頭にきた男が買って口に詰めさせて黙らせる代物だってな。どうだ? 買ってやるぞ? ん?」
「――――ッ! ぶぅ~・・・いいですよーっだ!」
そう言って茜がオレの腕を組んできた。それを見て呆然とする雪村一同・・・そりゃそうだな、学校での様子を見てたらとてもじゃないが出来ない。
しかし茜はそんな事を気にした様子はなく、むしろいつもみたいにくっついてきた。てか怒ってるなら腕を組むんじゃねぇよ、かったりぃ。
そして小恋がハッとした顔になりオレの達の間に入ってきた。小さい声を上げて離れる茜、顔はとても不満そうな顔を呈していた。
「なぁにするのよぉ~小恋ちゃん」
「えっ、いや、あの・・・と、とにかくっ! そんな事しちゃ駄目だよ、茜っ!」
「えぇ~別にいいでしょ――――って、あ、そうか・・・小恋ちゃんの事忘れてた。ごめんねぇ~小恋ちゃん・・・小恋ちゃんも義之くんのこと――――」
「わ、わ、私は関係ないよっ! よ、義之が困っているからつい・・・」
「ふ~ん、まぁいいけどねぇ」
「おい、義之」
「んあ?」
茜と小恋がそうやってダベっている時に板橋に声を掛けられた。顔はどこか気まずそうな呈を表していた。オレはてっきり嫌味でも言われもんだと思ったが。
まぁこいつの場合根に持つような感じではないだろう、あまり喋った記憶がないが単純そうな性格だからな。普段の行動を見ていれば分かる。
板橋とオレがそうやって喋っていると少し場が静まった気がした。こいつとは一悶着あったしな、みんなが緊張するのもよく分かる。
「お、お前も年末の祭りにきてたのか・・・あ、あはは」
「・・・ああ、是非来てみたいって言ってた奴がいてな。かったるい事この上ないが――――何だかんだ言って付き合う事にして今に至るって訳だ」
「へっ? ああ、そうなのか・・・もしかして杉並か?」
「・・・お前、それを本気で言っているなら少し正気を疑うぞ」
「あ、そうだよな・・・言ってて寒気がした」
何が悲しくてあいつと好き好んで神社で一緒に遊んで年を過ごさなくちゃいけないんだよ、アホかっつーの。考えたくもねぇ事だよ、マジで。
言ってて失言だと思ったのか黙ってしまう板橋。きっと同じ事を想像したのだろう、顔の表情が歪んでいた。てかそう思うなら言うなよ。
まぁ誰と来てるかなんて言う必要もないだろう――――そう思って行こうとした時に白河に声を掛けられた。
「よ、義之くん?」
「あ?」
「いや、あの、ね、あ、あはは・・・」
「・・・・・・」
「・・・はは」
そう笑ったきり黙ってしまった。一体なにが言いたいのか分からんし、言いたい事あればハッキリ言えばいいのにな。
そういうオレは両手をポケットに仕舞ったまま白河の顔を見据えている。両手―――寒いってのもあるがもうニ度々あんな思いをするのがご免だ。
チラチラとオレの仕舞っている手に視線を動かす白河の目――――知らずしらずの内にオレは白河と距離を取っていた。
「あ、あはは、そんなに身構えないでよ、義之くん」
「そういうつもりはなかったんだが――――そういう風に見えたんだろうな、アンタには」
「・・・・」
「お、おい、義之っ!」
「ん?」
「あんま苛めてやんねーでくれって。義之の事色々心配してたんだぜ、白河は」
「・・・そうか」
「いや、そうかって・・・・・」
「それは悪いことしたな――――悪かったよ。じゃあオレは行くわ、よいお年を」
「お、おい――――」
適当に謝ってオレは歩き出す、目指すは美夏が行ったであろうトイレの場所。すれ違いになるかもしれないだろうがここにいるよりはマシだ。
板橋もなんて声を掛けたらいいか分からないようで、しどろもどろと動いている。オレは構わず足の歩みを速めた、もうこれ以上イライラするのはごめんだ。
そんな様子を見て、また茜が腕に飛びついてきた。こいつ――――呆れた視線で茜の顔を見据えた。そしてオレと目が合い、ニコッと微笑む茜。
「・・・・・・・」
「あ、今こいつカワイイなと思ったでしょ? 義之くん」
「・・・ふざけろ」
「そんなに照れなくてもいいのよぉ、私の笑顔が武器って事は分かってるしぃ~ぶっちゃけいつも義之くんがそう思ってた事知ってるんだからねぇ」
「あ?」
「そしてそんな笑顔をみた義之くんはいつも照れ隠しで私を小突くんだよねぇ、知ってたんだよぉ?」
「・・・さぁな」
「まぁ、そういう私も義之くんの笑顔に弱いんだけどねぇ・・・」
「は? オレがお前の前で笑った事ねぇだろ? ボケてんのか、お前」
「うっわぁ~自覚無しなのぉ~? タチわるいなぁ、結構私の前では笑ってくれるよぉ?」
「――――そうだった、かな」
「うん・・・いい笑顔でさ、とっても素敵だよ?」
そう言って照れてしまったのか少し顔を染めて俯く茜。こいつにしては珍しい事だ、これ以上の恥ずかしい事なんか平気でやってくるのにな。
もしかしてアレか? いざ責められるとタジタジになっちまうタイプかコイツ、難儀な性格してるなオイ。まぁ可愛らしいと言うかなんというか。
だからつい撫でてしまった。驚き顔を上げる茜、表情は信じられないといった風だ。まぁ、オレがこいつに優しくするのなんて滅多にないからなぁ。
「何信じられないって顔してるんだよ、茜」
「だ、だってぇ、義之くんがこんな事してくれるなって・・・初めてじゃない」
「飴と鞭だっけか――――たまにはな」
「ふ――――」
「あ?」
「ふ、ふぇ~~~~ん、嬉しいよぉぉぉぉ」
「バ、バカ、泣くなよっ! てめぇ!」
「だ、だってぇ・・・・ふぇ~~~ん」
感極まってしまったのか泣くのが止まらない茜。その様子を見て感じてしまうこいつの気持ち――――ああ、本当にオレの事が好きなんだな、茜は。
いつも好きだ好きだ言ってたので麻痺してしまっていたのか、すっかりその事を忘れていた。挨拶代わりに好きだって言うんだもんな、こいつ。
泣いている茜はいつもの余裕の感じは見られなく、普通の女の子に見えてしまった。思えばエリカだけじゃなく、茜にも思わせぶりな行動ばかりしていた。
その内決着をつけなくちゃいけないと思う。いつまでもこのまま茜の好意にすがって放っておく訳にもいかない。甘ったれたガキじゃないんだから。
このまま中途半端に放置していたんでは茜も新しい恋も始める事が出来やしない。このまま茜を連れていって、色々腹を割って話したい気分に駆られる。
しかしそうする訳にも行かなかった。美夏がいつ帰ってくるか分からないし、茜が雪村達に背を向けているので今こっちで何が起きているのか
分からないだろうがすぐに勘付く。オレはとりあえずここを立ち去る事にした。
「お、おい茜、オレはそろそろ行くからな?」
「ふぇぇ~~~~~~ん、ど、どこ行くの~?」
「ちょ、おま、バカっ! 腕を離せよお前っ!」
「ふぇ~~~ん・・・わ、わたしぃ・・・義之くんと遊びたいよぉ~・・・ふぇ~~ん」
「わ、分かったっ、今度どこかへ連れて行ってやるよっ!」
「ふぇ~~~ん、また優しくしてくれたよぉぉぉ」
「だから泣くなっつーのっ! それに――――色々腹を割って話したい事もあるしな」
「――――え・・・?」
「オレ達の事とか――――オレの好きな人とかについてな」
「――――ッ!」
「だから今度遊びに行こう・・・な?」
「・・・・・・・あーあ、せっかく誘ってもらったのにコレだもんなぁ・・・グスッ」
「わりぃ、あんまこういう事に慣れてなくてな・・・・」
「べっつに謝らなくていいよぉ~・・・でも絶対だよ? 遊びに行く約束・・・グスッ」
「ああ、絶対だ。誓うよ」
「グスッ・・・何に・・・・?」
「そうだな・・・さくらさんに誓うよ」
「・・・ぷっ、なによぉ・・・それ」
「オレがこの世で頭が上がらない人物はさくらさんだ、オレの中じゃアメリカの大統領より上の存在だと思っている」
「・・・・ま、いいわ・・・今日もその『好きな人』と遊びに来てるんでしょう?」
「――――ああ」
「・・・・・・分かったわぁ、名残惜しいけどここでお別れねぇ・・・」
「わりぃな、じゃあ――――また今度なっ!」
「あ――――」
そう言って茜の額にキスをしてオレは駈け出した。なぜそんな行為をしようと思ったかは分からない・・・ただ好きな女にするようなキスではなかったと思う。
決別――――そういう意味でのキスだと思う。そういえば外国じゃ別れ際に親愛なる人にはキスをするというが――――なんとなく気持ちは分かった。
とりあえず今度遊ぶ約束を取り付けたが―――何か奢られそうだな、少し憂鬱な気分になる。オレは財布の心配をしつつ走った。
「ちょ、ちょ、ちょっと茜!?」
「ほえっ?」
「い、い、今キスしてなかった!? 義之とっ!」
「え~なんでぇ~? なんで義之くんが私にキスなんかするのぉ?」
「え、いや、だって――――」
「ほら、そんな事より小恋ちゃん? 早く屋台に行きましょうよぉ~。なんだかいっぱい食べたい気分なの今は~」
「あ、茜!? そ、そんなに引っ張らないでよぉ~!」
「ほらぁ~板橋くんたちもぉ~」
「あ、ああ・・・・」
「茜、何かあったの?」
「ん~ん、別になんでもないよぉ~」
「だって涙の跡――――」
「ほらぁいいからさ~」
「あ――――」
そう言って杏ちゃんの腕も引っ張って歩き出す。板橋くん達も慌てて私達の後を追ってきた、まったく~そんなに呆けてちゃ口に虫が入っちゃうよぉ。
――――――――振られちゃったかなぁ~・・・・一度ならず二度までも・・・あ~あ、ついてないなぁ私って・・・
心の中でお姉ちゃんの心配そうな気持ちが伝わってくる。好き勝手言って体借りてるのにそんなに心配しなくてもいいのにさぁ~嬉しいけどねぇ。
悔しい気持ちはあるけど・・・どこかサッパリした気持ちもある。やっぱり白黒ハッキリつけたい気持ちもあったんだと思う。
義之くんはあんな性格してるのにさぁ~私には何か優しいんだもん・・・なんだかんだいって遠ざけたりもしないし、期待しちゃうって~の、まったく。
もしかして私の事好きなんじゃ・・・っていう風に思わせる態度もよくないと思うんだよねぇ、まぁ見事にそう思ってましたが・・・うう・・・。
もう少しでイケそうな雰囲気だったと思ったんだけど・・・好きな人がいるんじゃ~しょうがないかな、その人が私だったらよかったんだけどね。
どちらにせよ――――あの義之くんが選んだ人だ、かなりの女に違いない。少し想像してみるが――――全然想像つかない。
パッと思い付いたのは女神さまだけど・・・義之くんの場合、相手が女神様でも平気でクツを舐めろとか言いだしそうだしなぁ・・・。
なんにしても振られるのなら、その『好きな人』を見せて欲しいものだ。それぐらいは許されるだろう、ディープキスしたし。
「ちょ、ちょっと茜っ! 食べすぎじゃない!?」
「いいのいいの~・・・んぐ、食べたい気分なのよぉ~っ!」
「太るわよ、茜」
「今日ぐらいは食べたい気分なのよぉ~・・・んぐ」
「お、美味しそうなタコ焼き発見っ! いただき――――」
「――――ッ!」
「ぎゃぁああ、いでぇっ! な、な、なんで今爪楊枝で刺されたの!? オレ!?」
「それは私のなんですぅ~っ! 今度食べようとしたら目に刺すからねぇ~!?」
「ひぃぃぃぃ!?」
もし彼女を紹介するの嫌がったらディープキスした事をその女の子にバラしてやろう。そんでもってそれがファーストキスだって事もばらしてやる。
まぁ、なんにしても別に取り合う気はない。ただ本当に見てみたってだけ、興味本位なものだ。私を振ってまで選んだ女・・・気にならない訳がない。
とりあえず遊びに言ったら高い鞄でも買ってもらおう、失恋記念に。そう胸に決心して、大盛り焼きそばをズルズルと汚い音を立てながら喉に押し込んだ。
トイレの所で待つも一向に美夏は現れてこなかった。まさか中に様子を見に行くわけにもいかず、とりあえず電話を掛けてみることにした。
しかし一向に掛かる気配がない――――何か嫌な予感がする。あいつの性格なら何かあったらメールや電話の一つや二つしてくるはずだ。
オレは急激に不安に駆られた。とりあえずこのままでは埒が明かないので、どうか無事でいて欲しいと思いながら神社周辺を歩き出した。
しばらく見て回ったが一向に美夏の姿は見つからなかった。何回か電話を掛けてみても反応無し、オレは物凄く焦っていた。
感情―――とてもじゃないが冷静でいられなかった。ちょっと前までのオレからすると信じられないザマだ、冷静さを欠くなんて。
ここ最近のオレはどうかしている。感情の起伏が激しくなっており、前より残忍な性格になったと思うし――――優しくもなったと思う
いつもなら板橋達と会話しているってだけでも虫唾が走るという有様だったが、さっき話している時はその半分ぐらいの嫌悪感しか抱かなかった。
美夏の笑顔を思い出す―――もしかしたらアイツのおかげで変われたのかもしれない。もう一つ考え付く理由はあるがそれも確信的なモノでは無い。
なんにせよ早く探し出さないと――――そう思っていると脇をすれ違ったカップルの話が聞こえてきた。本当に偶々、偶然だった。
「ねぇ、さっきの本当にロボットかなぁ? 確かに煙吹いてたけど・・・」
「信じられねぇけどそうなんじゃね? すげー人っぽい外見だったけどさ、あんなに派手に煙吹かれたんじゃあな」
「――――ッ!」
人間と間違えるぐらいの外見のロボットに煙・・・オレは思わず気が遠くなるのを感じる。まさかあいつか、いや、それしか考えられない。
いくら精巧なロボットといえどパッと見でそうか否か見分けがつく。ロボットが普及し始めてしばらく経つ、大体の人は見分けが出来るようになっていた。
そんな人たちがトロボットかどうか疑う精巧さ――――あのバカ野郎が、何やってんだよ・・・・っ!
「あのー、すいません」
「あ、は、はい? な、なんでしょうか?」
「さっき偶然ロボットの話が聞こえてきまして・・・もしよろしければそのロボットがどこにいるか――――教えてくれませんか?」
「あ、はい、別にいいですけど・・・あっちの林の方です」
「どうもありがとうございます」
「あなた、もしかして・・・所有者ですか?」
「え、まぁ――――みたいなもんです」
「だったら早く行った方がいいですよ、あの調子じゃもうすぐ――――」
もうそこまで聞いた時には走り出していた。男には悪いが礼を言う暇も惜しかった、全速力で駈け出す。せめて・・・せめて無事でいてくれればそれでいい。
そう祈りにも近い想いを抱きながら走った。そうしている内にさっきの男が言っていた林の方まで来た、わずかだが煙が見えている。
周りの人達にもそれは見えているのだろう、みんな其処に行かないにしても視線を投げかけていた。オレは急いでそこに駆けつけた。
近くまで来ると確かに男の言った通り、その異常さが分かる。煙は絶えどなく出ているし色も白ではなく、黒に近くなっている。
急いで其処まで走り出した。速く走っているはずなのに遅く感じる、すごくもどかしい・・・急いであそこまで行かなければいけないのに・・・っ!
ちくしょう、何だって連絡しなかったんだよアイツはっ! そういう怒りと焦りで気持ちがいっぱいになる。そしてオレはやっとそこにたどり着いた。
――――――――――そこには四肢をだらしなく放りだして、煙を吐きだす美夏の姿があった。目も虚ろでオレの姿なんか見えていないようだった。
「美夏っ!!」
そう叫んでオレは美夏の所まで駆け寄った。しかし反応は無く相変わらず虚ろな瞳をしていた。オレはとりあえず美夏を背負って人気がいない
所まで移動した。どこか冷静な部分が残っていたのか――――人目に晒させてはマズイと思った。
そうして神社の裏側に辿りついた。その神社の壁に美夏を寄っからせて頬を叩いてみた、しかし何も反応を示さない。オレは焦る気持ちでいっぱいだった。
だが無理矢理その焦りを押さえつける――――こんな時に冷静にならないでどうするんだ、冷静になれ、冷静に・・・・・。
そう思ってオレは自分の顔に手をかけて、目を閉じる。そうやって無理矢理その気持ちを落ち着かせた。次に目を開いた時にはいつものオレに戻っていた。
そしてすぐに気付く―――美夏と最初に会った時の事を。ちくしょう、大事な事だってのにすっかり頭がイカレていた。オレは自分の顔を殴り付けた。
手のひらに集中してイメージする、バナナ入りの饅頭の物体を。程無くしてそれは出来た、この間のよりも格段に上手に出来たと思う。
口に含ませる―――咀嚼出来ないほどに弱っていた。だから千切って少しずつ口に含ませ、顎を無理上げさせて飲み込ませた。
その行為を何回かして内に、だんだん美夏の状態が回復してきたように思える―――煙が段々収まってきた。オレは根気よく何回も千切って口に含ませた。
あともう少し――――そう思っていた時に電話の着信音が鳴った。だが無視した、今はそんな事に構っている場合じゃない、早く美夏を――――
しかし電話は何回も鳴り響いて切れそうにない、だから電源ボタンを押して切ってやった――――しかしまた掛かってくる電話、オレは出てやった。
「誰だ」
「あ、よしゆき? 私エリ――――」
「電話を掛けて来るな、いいな?」
「え、な、なんで――――」
「いいから掛けてくるな。だんだんお前への愛情が憎しみに変わってきたよ。これ以上何かしたらブン殴る」
「え、ちょ、よし――――」
そう言って電話を切り、電源ボタンを押して電源を切ってやった。これでもう邪魔をされないで美夏を助ける事が出来る。
そしてまた美夏の口に千切って饅頭を入れる作業に戻った。そして段々目の焦点が合ってきて――――オレと目が合った。
よかった・・・なんとか助ける事が出来た――――それでホッとしたのか思わず腰が抜けたかのように座り込んでしまった。
「あ・・・さく・・・らい?」
「よかった・・・本当によかった・・・」
「・・・・・・・泣いているのか・・・」
「・・・誰のせいだと思ってるんだ、バカ野郎・・・」
「・・・すまない」
そう言ってまた美夏の口に千切れた饅頭を入れてやる。咀嚼出来るまで回復したのだろうか――――饅頭を手のひらから奪いガツガツ食っている。
そこまできたら後はもう大丈夫だと思い、オレは懐から出すフリをして饅頭を作る事に専念した。腹がドンドン減っていくが気になりやしない。
そしてある程度回復したのかもう大丈夫だと美夏は言った。オレはやっと一安心して――――美夏の頭にゲンコツを落とした。
「~~~~~~~~~ッ!!!??」
「っこのバカっ! なんでオレに連絡しなかったんだ!? ブン殴るぞテメェ!」
「こ、この――――」
「ああ!? なんか言いたい事でもあんのか!? どんだけオレが心配したんだと思ってるんだよっ!」
「す、すまない・・・・」
「すまないって・・・そう思ってるんなら最初からやるんじゃねぇよっ! なんでオレに連絡しなかったんだっ! ああ!?」
「―――――と思って・・・」
「聞こえねぇっ! もっとでけぇ声で喋りやがれ! このポンコツがっ!」
「――――――――ッ! さ、さくらいに迷惑をかけると思ったからだっ!」
「なんでオレに迷惑なんだよてめぇ! 言ってみろよ!」
「お、お前が楽しそうに例の美人女と喋っていたからだっ! こ、この女タラシ野郎っ!」
「ああ!? 別に楽しそうじゃねぇよ! 勝手に勘違いしてんじゃねーぞ、このアホが!」
「う、嘘つけっ! 鼻の下伸ばしてヘラヘラしてた癖にっ! さっさと戻ればいいだろっ! あの女の所にっ!」
「こ、この野郎・・・!」
「ど、どうせお前のお気に入りの女なんだろっ!? お、お前の性格からして興味無い奴だったら無視するもんなっ!」
「て、てめぇっ! 言う事欠いてそれかよっ!」
「う、うるさいうるさいっ! 桜内なんか早くあの女の所に戻ればいいだろっ! い、いつもいつもお前は美夏に思わせぶりな行動ばかりして・・・っ!」
「――――美夏?」
「い、いつも変に優しくして、カッコ付けて、手なんかそっちから握ったりしてっ・・・・・グスッ」
「お、おい」
「お、、おまけに・・・グスッ・・・クリスマスの時なんか・・・ひっぐ・・・あんなプレゼントなんかしてっ!」
「ちょ、ちょっと落ち着――――」
「み、み、美夏はだなっ!」
「あ、ちょっと待てっ!」
「お、お、お、お前の事が・・・・グスッ」
ああ、この先の言葉を言わせてはいけない気がする。やっぱり男からこういう事は言うべきだと思っているからな。しかし美夏の勢いは止まらない。
「美夏はお前の事が好きなんだっ! いつからは・・・グスッ・・・・分からないけど・・・っ! お前の事が本当に――――本当に好きなんだっ!」
女に言わせちまったよ――――その後悔半分と、嬉しさ半分がオレの心でいっぱいになった。なんか、満たされた気がした。
「そうか・・・・」
「そう、だ・・・・・ひっぐ・・・で、でも美夏はロボットだし、言わないで決めようと――――――――」
「オレの知り合いにすげぇ変な奴がいてさ」
「・・・・グスッ・・・・・・・・?」
「自分は最新鋭だ、すごいロボットだって言ってる奴がいるんだけど・・・どう見えてもすごくは見えなかった。最初なんか煙吹いてたしな」
「――――ッ! き、きさ――――」
「でもオレには普通の女の子にしか見えなかった。表情豊かで、感情を体いっぱいで表現してた。そこらへんの人間より人間らしかった」
「・・・・・・・・・」
「そしてその日の帰り道・・・そいつが覚えているかどうか分からないけどな、桜の木の下を通ったんだよ。雪も降っていた」
「・・・・・覚えてる」
「オレの知り合いの話だぞ?」
「わ、わかっているっ!」
「んでまぁ、そいつが雪で興奮しちゃってな、はしゃいでたんだよ。オレは呆れてその光景を見ていたんだが・・・次のシーンでオレは驚いた」
「・・・なんでだ?」
「とても――――綺麗だったからだ。雪の中を感情いっぱいに走り回り、そして桜の葉が舞っている中で踊り、月を背景にして幻想的だった。
そしてソイツに一目惚れした」
「――――――――ッ!」
「今までで初めてだったよ、この気持ちは。人なんかゴミみたいなもんだと思っていたからな、好きっていう気持ちが分からなかったんだ」
「・・・・・・・・難儀な奴だ」
「まぁな。そして、いつも気が付けばソイツの事を考えていた。何をするにしても、ソイツが頭から離れないでうっとおしかった」
「・・・・・」
「本当に好きになっちまったんだよなぁソイツの事さ。もうこの命なんか賭けてもいいぐらい愛している。ロボットだろうがそんな事は問題じゃねぇ」
「し、しかし――――」
「そいつが人間だろうがロボットだろうが宇宙人だろうが些細な問題だ。問題はそいつがオレの事を好きなのか、オレをどう思っているかだ」
「で、でも――――」
「綺麗事なのかもしれない、きっと壁はあるだろう。ただでさえ人権屋がうるさいからな・・・だからどうした? そんなもんに負ける程弱いのか?
人の言いなりになって、はいそうですかって頷いちまうような感情なのか? 違うだろ?」
「・・・・・・」
「だから美夏、オレとそんな奴らに立ち向かっていかねぇか? ロボットをくだらねぇ扱いしてる連中にさ――――一死ぬまで」
「あ――――」
「だから、付き合おうオレ達。オレもお前の事が好きだ。一生離れねぇぞ? 死ぬまで一緒だな」
「・・・・バカだな、お前は。もっとロボットなんかじゃなくて他の子がいるだろうに・・・」
「っかやろ、お前じゃなきゃ駄目だ。で、返事は?」
「――――――――ぷっ、今更返事も何もないだろうが・・・」
そう言って――――美夏はオレの唇に唇を合わせてきた。オレは美夏をもっと感じたくて、体を引き寄せた。美夏もそれに従うようにオレの背中に手を回す。
やっと・・・やっとここまで来れた。その嬉しさでいっぱいだった、愛おしさでいっぱいだった、ずっと感じていたい気持ちでいっぱいだった。
この日からオレ達は付き合う事になった。先の困難なんか考えず、今は――――今はこの至福の時間を噛み締めたかった。