俺、田中敬一郎、性別男、20歳と8ヶ月、ただ今ライブでピンチ中。
大学から帰ってきて、ラーメンにお湯を注いだ所までは確実だ、その後PCの電源を入れたと思う。
そしたらどこかに落ちるような浮遊感、気付くと石の部屋の中、そう、中世のお城の地下の部屋って感じかな?。
そしてモニターの向こう側にはローブを着たいかにも「魔術師」といったジジイ、
「ようこそ、異世界の者よ、私が召還主のサバドフだ」
「・・・・勇者とか言って棒渡すんじゃねーだろうな?」
途中から切れた柱や壁(薄いんだ、コレが)が気の抜けた音を立てて転がった。
普通こういうのは人だけを召還するんではないだろうか?
部屋ごと召還するのは非常識・・・いやそんな事はどうでもいいか。
遠い国から プロローグ 「拉致」
「君をココに呼んだのは他でもない、君の知識が欲しいのだ。」
「勇者とは言わないんだな・・・つかなんで俺・・・」
「数ある魔術を習得、この世の神秘を解き明かし研究も一段落ついた、
しかし百年前の召還実験の失敗、封印された塔、そこで君だ!」
どうやら俺の話を聞く気はまったく無いようだ、研究者に良くあるタイプの人間らしい。
話の筋も通っているようでもう一つよくわからない、うちの大学の政経の助教に良く似てる。
「なに、君が危惧を抱いてもそれは無用の心配だ。
私はこう言ってはなんだが天才だ、いざとなれば頭から直接情報を引き出せるし死ぬ心配もない。
重要な情報源を殺す様なもったいない事はしたくはない、10年間溜め込んだ魔力も
使ってしまった、また魔力を貯めて座標軸の固定から始めるような事は気がすすまない。
協力的なら衣食住や身の安全は保障しよう、等価交換と言うものだ。
しかし君が非協力的ならば話は別だ、一定の文明レベルの民だ、損得勘定はできよう?」
一気にしゃべりきったジジイはそう言うと目を光らせた、この間飲み会の時に見た
リーマンに絡んでたチンピラより威圧感がある。
「OK、で、終わったら帰してくれるんだろうな?」
「理論的には可能なはずだ、任せたまえ。」
「・・・さっき10年の魔力とか言ってなかったっけ?」
「なに、要領はつかんだ、今度はさほどかかるまい。」
「具体的には?」
「私の用事が終わり次第と言うことだ。」
・・・俺、日頃の行いよかったはずなんだけどな・・・
「とりあえず場所を変えるか、立ったまま話をするのもちとつらい、茶ぐらいは出してやる。」
「爺さんとは話が出来るようでありがたいんだが、日本語が通じるという事は実は日本でした、とか・・」
「召還した物と意思疎通が取れなんだら困るだろう、記憶してる言語をいじったのだ。
日本がなんだか知らんがその世界とはかけ離れた場所である事は確かだ。」
わざわざ止めをありがとうよ、ジイサン。
その後ダイニングらしい場所に移り、石壁の無言の圧迫から開放された俺は茶を飲みながら今後の事に
ついて話し始めた。
細かく話すと偉く長くなってしまうので要約するが「等価交換の契約」をした。
1.ケーイチはサバドフに知識、技術を提供する
それが目的だったらしい、本名で呼ばないのは<真名>は大事なので普通通り名で呼び合うそうだ。
2.俺が元の世界に戻れるまで衣食住と安全を可能なかぎり保障する。
近所でバイトって訳にもいかないしなあ、コンビニどころか本屋もねえ。
3.知識、技術の提供が終わりしだい元の世界にもどす
つか戻してもらわなきゃ困る、今月コミックの新刊溜まってるし。
4.なお、俺の社会的位置はサバドフの弟子となる。
奴隷はかんべんな、いるらしいが。
5.こっちの世界の事もある程度(魔術含む)教える事。
せっかくファンタジーの世界に来たんだ、使えるようになったらラッキー。
6.魔術実験の失敗した跡地に行きそれを報告する、その際封印の杖を回収する事
様は失敗した実験を爺さんの代わりに見てこい・・と
この世界の魔術師は他人の為に<何か>を行う場合それに対する等価の代償を求めるらしい。
「どっかの魔術師マンガかよ」
とか思ったが、そうでもしないと魔術の無制限行使が始まって戦争なんかで手がつけられなくなるらしい、
実際五百年ほど前、国に雇われた魔術師同士の魔術の応酬で酷い事になったそうだ。
その後の取り決めで国家間戦争での直接、間接の攻撃魔術の使用は禁止になったそうだ。
おかげで魔術師が契約を結ぶのが難しくなるし、国に雇われる数も一気に減った。
生活が苦しくなるから魔術師のなり手も少なくなってしまったそうだ、生々しいなあ。
だがこれで俺も暇つぶしができるようになった、なにせ電気が無いからPCは動かない。
本棚に本があると言っても(部屋ごとだから本棚や荷物も来てる)一度読んだ本だ、正直つまらない。
こっちの本を(羊皮紙って初めて見たよ)読もうと思ったら読めない、
「魔術でどうにかできないか?」と聞いたら
「一種類だけは出来るが複数はおそらく無理じゃ。」と言われた、不便なものである。
「魔術が少しでも使えるようになればいじれる領域が増えるから複数の言語も可能じゃ、修行じゃのう」
・・・何をいじるのかは聞かないようにする、あまり健康によさそうには思えない。
なんにせよこうして俺の異世界での生活は始まった、某半島の首領様と気が合うんじゃなかろうか?このジイサン。