第3話幕間
次元航行艦「アースラ」会議室は今、他次元・他世界出身者同士の親睦会会場といった様相を呈している。一方のちょっとした話ももう一方については新鮮で興味深いことばかりである。話のネタが尽きることはない。
中でも、さよりの体験談は誰の話よりも出席者一同を驚嘆させていた。……誰の話よりも全員を呆れさせた、と言い換えてもいい。
「――さよりさんの話に出てきた平行警察という組織ですが……」
真上カイエンがさよりに確認する。
「元の世界に戻してもらう時にスカウトされて、平行警察の現地監視員になったの。仕事の中身は機械の監視と連絡役くらいのもので、今はただの漂流者なんだけど」
「平行警察と時空管理局は別の組織なんですか?」
そう霞が質問する。
「管理してる範囲が全然違うんだろうね。わたしは時空管理局なんて組織が実在してるって、今日初めて知ったよ」
「平行警察というのは……平行世界、つまりある時点までは同じ歴史を共有していて、ある時点から分岐して違う歴史を持つようになった、そういう世界のことですか? それら複数の世界を管理する警察組織があると言うことですか?」
「ええ、そうだけど、時空管理局は違うの?」
さよりにこともなげに答えられ、クロノやカイエンは内心でひっくり返りそうになっていた。カイエン達は化け物でも見るかのような目をさよりへと向ける。
一方なのはやフェイトは今の話に特に疑問も抱いていないようで、きょとんとした表情をクロノに向けている。クロノは、
「ゆとり仕官教育の弊害がこんなところに」
とため息をついた。
クロノは全員に対し、平行世界と次元世界の違いを解説する。
「時空管理局が管理する次元世界というのは平行世界とは全くの別物なんだ。なのは、よく考えてくれ。第97管理外世界・地球の衛星が一つなのに対し、クラナガンの衛星は何個だ?」
「えっと、たくさん」
と答えたのはさよりである。
「つまりクラナガンは地球の別の姿ではなく、太陽系の惑星ですらない。地球とは全く別の星のことだ。次元世界の全ての地域がそうなんだ。あくまでも別の世界・別の星系・別の惑星、決して同じ場所の別の姿なんかじゃない。
一方で平行世界は一つの世界の別の姿、別の可能性だ。こちらは異星人に侵略された地球、こちらは侵略のない平和な地球。過去をさかのぼれば両者は同じ歴史を持つだろう。ある時点から分岐して両者は別の可能性を持つようになったんだ」
「次元世界が五次元方向に複数の世界が並んでいるとしたら、平行世界は六次元方向に並んでいる、ということかしら」
夕呼の確認に、「その理解で良いと思います」とクロノは答えた。
「つまり……もし『アースラ』がその六次元の壁を飛び越えてここに引っ張られたんだとしたら、この世界にもミッドチルダやクラナガンや時空管理局があったりするかも知れない、ってことよね?」
さよりの喩えに、「そうだね」とクロノは頷いた。
「あるいは僕達の別の可能性もそこにいるかも知れない」
「クロノ君がナンパで女好きだったり、なのはちゃんが御神流無双で暗殺者だったり、フェイトちゃんの脱ぎっぷりがいまいちだったり」
フェイトが勢い良くお茶を吹き出す。
「わたし脱いだりしません! というか、わたしどういうイメージで見られてるんですか?」
フェイトが半泣きになりながらさよりに抗議、さよりは「ごめんごめん」と平謝りした。
「けど、平行世界間の移動の方が技術的に難易度が低そうに思えるんだけど? 魔法が絡むとそうでもないのかな」
純夏がそう疑問を呈し、さよりが同調した。それに対してクロノはこう回答する。
「……時空管理局が把握している世界は、全て人為的に造られたものだという説がある。アルハザードの魔法使い達には不可能はなかった。彼等の植民地として生み出されたのが全ての次元世界で、アルハザードが滅んだために自らの起源と相互のつながりの全てを忘れてしまった、と言うものだ。この説には根拠や状況証拠も多く、支持する学者も少なくない。
つまり、次元の壁に隔てられているとは言っても全ての次元世界は一つの宇宙でしかない、と言っても言い過ぎじゃない。我々はまだ別の宇宙に進出する技術を持っていないんだ」
「じゃあ次元世界にとってはわたし達が平行世界に移動・接触した最初の人間になるの?」
フェイトがそう問い、クロノは、
「ああ、そうなる。ここが次元世界にとって本当に平行世界であれば、だが」
とかすかに高揚をにじませつつ答えた。だがさよりが、
「あの最高評議会なら、平行世界と既に接触を持っていて、それを隠していそう」
と呟く。クロノは思い当たる節があるのか、がっくりと肩を落としていた。
(第3話の中に上手く入らなかった説明を番外編ぽく投稿しました)