躊躇
翌日の曹操、朝から精力的に色々な人に話を聞きまわっている。
陳琳に檄文のネタを仕入れた先が一刀であることも確認した。
絵師に絵の案を考えたのが一刀であることも確認した。
そして、田豊、沮授ともなにやら話をして、結局二人を説得したようである。
その日の夜。
「許してあげます」
「いい?一刀。敗軍の将を好き勝手できるのも勝者の特権だから、1回だけは許してあげます」
と、沮授、田豊がちょっと怒り交じりで一刀に話しかけている。
既視感のある風景だ。
そう、逢紀の吉原に出かけてもよいと言っていたときと酷似している。
「な、何のことだ?別に誰ともやってないし、やる予定もないけど」
「曹操がお礼をしたいんですって!!」
「えーーーーっ……」
何か襲われるようでいやだなあと思う一刀である。
大体、昨日は「お前なんか地獄に落ちるがいいわ!」と涙目で罵られたし。
ゲームの中ではゲーム北郷一刀といい関係になっていたけど、魏ルートの一刀だから、自分とは境遇が全く違う。
大体、呉・蜀ルートのゲーム北郷一刀は曹操とやってないから、華ルートの自分もやらないほうが自然な気もするのだが………。
「やらなくちゃだめなのか?」
逢紀とするよりも気が滅入る。
勃たないんじゃないだろうか?
「………頑張ってね」
田豊はそれだけ言って去っていってしまった。
沮授も、一刀の顔をじーーっとみて去っていった。
一刀も学習しているから、ここで
「やっぱりさあ、性行為って愛し合う男女が云々」
とか言い始めると、
「そう、じゃあ一刀は関羽をそれだけ愛していると言うことなのね?」
とかいうことになって、墓穴を掘りそうだから、もう余計なことは言わない。
「はぁーーーっ」
と溜息を一つつくだけである。
就寝の時間。
一刀が寝て待っていると、確かに曹操が入ってきて、ちょっと躊躇したようだが静かに服を脱ぎ、一刀の隣にやってきて、ぴったりと肌を触れ合わせる。
そして………………
時間がそのまま経過する。
「ねえ」
痺れを切らした曹操が一刀に話しかける。
「は、はい!」
緊張した様子で答える一刀。
「あんた、何しているのよ?」
「曹操さんと一緒に寝ています」
「………………本気でそう答えているの?」
「本気でそう答えていると答えたいと思っていますが、難しいのではないかとも思っています」
「あのね、裸の男女が一緒の閨にいるのよ。
やることはひとつしかないでしょう?
わ、私だって男とするのは初めてなんだから。
緊張しているんだから。
それなのに、覚悟を決めて来てみれば、別の女は裸で寝ているし、閨に入っても何もされないし………
ちんちくりんで髑髏の髪飾りをつけるような狂った服飾の感覚の持ち主で、華麗でも何でもなくて、体形が悪く、胸がない不細工な女だからって馬鹿にしているの?」
「……よくそんな昔のこと覚えてますね」
「ええ、あれほど馬鹿にされたことは初めてだったから、時々思い出してしまっては一刀を憎んでいたものよ」
「だったら別に曹操さんの体を差し出さなくてもいいのに」
「受けた恩はちゃんと返すわ。
それにあなた女が好きなのでしょう?
私が来ると分かっていて、それでも他の女を侍らせるほどなのですから」
「それは誤解ですが……もういいです。これは呂布さん。
でも、一緒に寝るだけで、指一本触れたこともないですから」
「そういうことではなくて…………
え?呂布?」
「ええ」
「何でこんなところにいるのよ?」
「まあ、色々あって、俺の部下に押し付けられてしまいました。
面倒な人間は、麗羽様は俺に押し付けてくるんです」
「そう、私も面倒な人間なのね?」
「え?そりゃあ、昨日のあの態度を見たら誰だって面倒だと思うでしょうに。
陛下や麗羽様を泣いて真っ赤になった目で睨みつけていましたよ。
陛下、怯えてましたし。
俺も『お前なんか地獄に落ちるがいいわ!』と涙目で罵られた気がするんですけど」
「そ、それは一刀や秋蘭や桂花に騙されたからよ」
「それ以前だって、さんざん俺に、麗羽様には仕える気は全くない、さっさと殺せと言っていたではないですか」
「そ、それは………」
曹操はどうも適当な答えが見つからなかったようで、話題を変えることにする。
「ところで、一刀は何で皇帝を目指さなかったのよ?
一刀なら人望もあるし、参謀や将の調整能力もあるし、農政の結果は素晴らしいものがあるし、その気になればすぐにでも皇帝になれたでしょうに」
「皇帝ですか?別になりたいとも思いませんし、そんな器でもないですね。
皇帝なんかやりたい人にやらせておけばいいんです。
普通の人間は普通に平和に生きることが出来ればそれで十分なんです。
そして、働いただけ生活が豊かになって、食料も住居も衣類も十分にあればそれで満足できるんです。
だから、俺は農産物の生産を増やして、みんなが満足に食べられるようになるよう、ちょっと手助けしただけなんです」
いやー、ちょっとじゃないだろう。
「逆に、曹操さんはなんで皇帝になりたいんですか?
皇帝になって民から搾取して贅沢三昧でもしたいんですか?」
ちょっと緊張が解けてきた一刀、閨で曹操と色々話を始める。
裸の男女がする会話とは思えないのだが。