火花
呂布の発情期は終わった。
一刀はようやく安らかに眠れるようになった。
少し前と同じように、両側に田豊と沮授、ほんの少し離れたところに呂布が寝るようになった。
何れにせよ、全員同じベッドだ。
さすがに呂布の発情期は凄まじく、あれから田豊も沮授も一刀としていない。
暫くは平和に眠ることが出来るだろう。
一刀も体を休めなくては。
一週間も人間の限界を超えた運動をすれば、体にがたが来る。
呂布も田豊も沮授も、よくもまあ平気でいられるものだ。
田豊や沮授は、本当はまだまだ一刀としたそうだったが、もう限界!暫く勘弁して!と言ったら諦めてくれた。
化け物だ、3人とも、と思う一刀である。
まあ、あれだけやり続ければ、少し夜の行為から離れても大丈夫だろう。
それに比べると、曹操は普通だ。
でも、曹操とは今のところあれが最初で最後。
正妻たちが、夜は曹操を近づけさせないようにしているから。
曹操は何となく機会を伺っているようではあるが、無理強いはしてこない。
体力が戻っていないのだろうか?
一刀の今一番の仕事は、蝗害の処理。
といっても、例によってやること、というか指示は簡単。
兌州、豫州などで蝗が通ったところは全部焼いてしまえ!終わり。
作業するのは兌州、豫州の人々。
自分の土地だから、そのほうがいいだろう。
作業は簡単かというと、あまりに規模がでかすぎてそれほど簡単にはいかないだろうが、それでもやってもらわなくてはならない。
指示は、ついこの間まで王様だった曹操からの方がやりやすいから、一緒についてきてもらっている。
一刀がいるから、もちろん呂布も一緒。
戦争でないので、陳宮も一緒。
呂布は百歩譲って一刀の護衛と言うことにしても、陳宮は遊びだろ!旅費返せ!とちょっとは思う一刀であるが、まあ、呂布が保護者みたいなものだから、仕方ないか。
「どうして、バッタもいないのに焼き尽くすのよ?」
作業内容を聞いた曹操が、一刀にその理由を聞いている。
「卵が残っていると、また蝗害が発生する可能性が高いから。
今年の蝗害はあまり規模が大きくなかったから、下手したら来年更に大規模な蝗害が発生するかもしれない」
「どうして?」
「バッタは一度群生相になると、数世代それを繰り返す可能性が高いから、またバッタが孵化したら蝗害をおこしてしまう」
「群生相?何それ?」
「バッタは個体密度が高くなると、普段の緑色から黒色に変色する。
それは急に変わるんじゃなくて、数世代に渡って徐々に変わっていくんだ。
その黒いのを群生相っていうんだけど、蝗害をおこすのはそれ。
で、緑に戻るのも数世代かかるから、とにかく蝗害の禍根は断っておくのが一番」
唖然としている曹操。
「詳しいのね」
「これでも農業の専門家だよ。
実家はでかい農家だったし。
俺のいた世界でだって、農業に関することなら、普通の人より良く知っている。
農業といっても、いろんな知識があって、俺だって何でも知っているわけじゃないけど、俺が知っている知識だけでもこの世界では有益なことが多い。
俺の世界の書物なんかがあれば完璧だったけど、今の俺の知識だけでもこの世界の人と比べたら、もう質も量も圧倒的だよ」
「そう。劉備が一刀をさらって来いって言った時に、本当にさらっておけばよかったわ」
「…………え?今、何ていった?」
耳を疑う一刀。
「昔、劉備を捕まえたときに、劉備が一刀をさらって来いって提案したのよ。
そうしたら、袁紹軍の参謀がばらばらになるから、弱くなるって」
「何でそんなことを劉備さんが知っているんだろう?」
「何でも麗羽のところにいた客将に聞いたって言ってたわ」
「客将?……星さんかな?それしかいないもんな。
星さんが劉備に教えたってことは…………………………」
一刀はここで黙り込んでしまう。
「どうしたのよ?」
「いや、なんでもない。
たまたまだろう」
一刀の頭の中には、実は劉備と趙雲が共謀して劉備を皇帝に仕立て上げていったという、劉備の遠大な作戦が浮かんだのだが、いくらなんでもそれはないだろうと否定するのだった。
「でも…………」
趙雲のいたところは、最初は公孫讃のところで、次に麗羽様のところに来て、それから陶謙、袁術、一瞬麗羽様のところに来てから今は馬騰・馬超のところにいるらしい。
劉備のいたところは、最初は公孫讃、陶謙、曹操、袁術、一瞬孫策と一緒にいて今は蜀の皇帝。
いつも趙雲は劉備の一歩先にいて、劉備に役立つ働きをしているようにも見えるが……
もし、馬騰・馬超が劉備の役に立つような動きをすると、ひょっとするとひょっとするのかも?と、頭の片隅で考え続けるのである。
それにしても、趙雲と劉備を思い出すと、どうにもそんな作戦ができる二人には見えないのだが。
「ねえ、ねえ、一刀ちゃん、聞いて!
桃香ちゃんね、皇帝になったんだよう!すごいでしょう!
一刀ちゃんも蜀においでよ!愛紗ちゃん、絶対喜ぶよ!」
能天気な劉備が一刀に話しかけてくるシーンをイメージして、一人脱力してしまうのである。
「一刀、ちょっと来て」
「ん?何?」
許の城を曹操が一刀を連れまわしている。
「ここがこの間まで私の部屋だったところ」
で、連れてきた先が曹操の私室。
まだ、曹操が住んでいたときのまま維持されている。
「ふーん、そうなんだ。
案外簡素な部屋なんだな」
「ええ、まあそうね。
それで、今は一刀の正室もいないし、桂花も仕事で出払っているから、…………その」
そう、もじもじしながら部屋の鍵を閉める曹操。
曹操が何をいいたいかよく分かった一刀、
「しかたないなぁ」
といいながら、曹操を閨に押し倒す。
「だってぇ、正室たちや荀彧の目が厳しくてなかなかできないんですもの」
曹操も、目をうっとりとさせてそれに答える。
って、これでは完全に浮気ではないか!
少し時間が過ぎて……
「やっぱり、一刀、最高。
早く私を側室として宣言してよね」
「うん、機会を見て……」
「早くしてくれないと、私が宣言しちゃうんだから」
思いっきりデレデレ曹操である。
「……だ、大丈夫だって。
唐突に言うと、あの二人怒り狂うから、どうしたらいいか考えているところ」
「本当よ?」
気持ち良さそうにしている二人が、完全に不倫カップルの会話をしている。
困った二人である。
元曹操領での仕事も終え、といっても指示だけだが、その夜も一刀はいつもの3人(田豊・沮授・呂布)と一緒に眠っている。
ところが、その晩は大事件が起こって、全員目を覚ますこととなる。
それまでくーぴーと寝ていた呂布が、突然起き上がって、閨の横においてあった方天画戟を一閃させる。
カキーンと金属音がして、金属同士がぶつかったような火花が現れる。
更に、呂布は戟を振り続け、その度に手裏剣のような短剣が床に落ちる。
呂布が戦っている場所は閨の上、というより一刀の上。
素っ裸のまま、敵に応戦している。
状況はエロチックだが、呂布の眼は真剣そのものである。
「ぐえっ!」
いきなり腹の上で呂布が暴れまわるので目が覚める一刀。
「恋!」
何をしているんだ!と叫ぼうとしたが、どうやら暗殺者と戦っているらしいことがわかって口を噤む。
初めて呂布がその存在目的を果たした時だった。
田豊と沮授は、騒ぎに目を覚まし、閨を降りて安全そうな場所に身を隠す。
そのうちに、呂布は敵がいると思う方向に、一気に走りより、戟を敵に突き刺す。
「…………逃がした」
呂布は、そうぽつりとつぶやくと、またくーくーと寝入ってしまう。
呂布、やっぱり大物だ。
「曲者ー!曲者ーー!」
いつの間にか服を着ていた田豊が、大声を張り上げると、城内は俄かに慌しくなり、兵が一刀の部屋にやってくる。
田豊が二、三指示をすると、兵たちは一斉に城内の探索を始めたが、結局曲者は見つからなかった。
田豊と沮授はそれから一晩中曲者の対応をしていた。
一刀は、寝ている呂布に抱きついていたが、そのうちまた眠ってしまった。
案外一刀も大物だった。
……鈍いだけという説もあるが。
あとがき
このために呂布は一緒に寝る必要があったのでした。
って、一緒に寝始めてから、早……何話だ?
ようやく本来の出番が登場しました。
しかし、感想見たらばればれでした。