反撃
袁紹が麗国を興すのを待っていたかのように蜀が動きを始めた。
何と、国力が圧倒的に劣る蜀が江(長江)を通って麗国に攻め込んできたのだ。
その直前までの一刀の活躍と麗の食料事情について。
曹操領が陥落しそうになってから、一刀は新たに領土になるであろう土地の農業指導を行うために、農業指導員を育成していた。
そして、曹操領・孫策領が漢に変わったのを機に、農業指導員を全土に派遣していた。
新たに漢、今は麗に属した地域はさすがに面積が馬鹿でかく、とても一刀一人の手には負えないので、その農業指導員を現地に散らばって指導するという形体をとっていたのだ。
分からない点は手紙で対応、それでもだめならいよいよ一刀が出張するという方式なので、今のところ一刀は業に留まっている。
河南、江流域が領土に含まれ、いよいよ米作を行う時代がきた。
更に短期的には、新たに支配地にしたところで食料が欠乏していたところに、ある程度食料を回していたので、潤沢とは言わないまでもかなり十分な食料事情になっていた。
民の気を惹くための実弾という説もあるが、まあ不足分を補う程度だったら供出しても麗にとってはそれほど問題なく、これで麗全土の食料事情はかなり改善した。
このように、食糧事情は短期的にも長期的にも改善方向にあった。
文官も全土に派遣されていて、政治はなんとか機能するようになっていた。
だが、兵はまだ麗国の精鋭が送られているわけでもなく、孫策が荊州を全部征圧したときと同じか、更に弱い兵しかいない。
文民にも当然文民としての仕事の能力が要求されるが、精鋭な兵に要求される資質ほど高度なものでもなく、文官トップが派遣されれば、あとは現地で労働力確保すればなんとかなるが、兵はそうはいかない。
袁紹のところも、さんざん訓練をして、ようやく精強な兵に変わっていったのだから、現地で兵を採用したところで、仮に優秀な武官一人が派遣されても即座に兵が精鋭になるわけではない。
そこを蜀が狙った。
蜀も、元々いた人間が食うだけならそれほど困らないのだろうが、孫策軍10万近い兵が増えてしまったので、さすがに豊潤な益州もにわかには食料を調達することが出来ず、だったら奪ってこようということになったのだった。
「孫権さん、周瑜さん、お話があるのですが……」
というのは、例によって諸葛亮。
大元の作戦立案は劉備でも、彼女は決して表にでてこない。
「何でしょうか?」
対応するのは孫権。
「お願いしていた船団もそろそろ準備が出来ています。
それで、申し訳ないのですがお願いがあるのです」
「どのような……」
「江を通って麗に攻め込み、流域の街を制圧していっていただきたいのです」
「それは奪われた領土を奪い返すと言うことか?
それにしては、まだ軍事力が整っていないと思うのだが」
異を唱えるのは周瑜。
「仰るとおり軍備はまだまだです。
ですが、孫家の皆様が蜀にやってきたので、その……申し上げにくいのですが食料事情が厳しくなってきてしまったのです。
それで、食料の豊富な麗に行ってもらってきたいのです」
孫権や周瑜はそんな盗賊まがいのことを、とちょっと難色を示していたが、自分たちの食う分がないということなので、背に腹は変えられない。
仕方なしに兵を進めることとなった。
そして準備していた船を江に沿って進め、なんと夷陵から江陵あたりまで陥落させてしまった。
やはり、孫家軍、精鋭である。
麗国にとって悪いニュースは続くものだ。
涼州で馬騰が亡くなり、馬超が後を継いだという情報が伝わってきた。
そこまでは良くある話なのだが、その先が変わっていた。
なんと、馬超は蜀の支持を表明したのだ!
趙雲がいるからだろうが、それにしても馬超、おまえ大馬鹿だろう?という感じだ。
まあ、確かに恋姫の様子を見ても、武はたつが、頭はあまり切れる感じではない。
むしろ馬岱の方が余程賢そう、というよりずるそうだ。
馬超が趙雲にいいようにあしらわれている感じがする。
こんな偏狭の地の州牧でなく、もっと重要な地位を約束するとか何とか言われて、つい、でへへ!となってしまった雰囲気100%だ。
趙雲も、そういう目で見ると、劉備ほどでもないが、結構押しが強く、狡猾な女性だから、馬超のようなお人よしだところっとだまされてしまいそう。
「どう思う?」
と、一刀に個人的に聞いているのは田豊。
江のニュースと馬超のニュースについての一刀の意見を聞いている。
ここにきて、一刀もいよいよ劉備は本物の策士ではと、確信するに至った。
趙雲が涼州にいったなら、馬超を蜀につけたいからだろうと思っていて、しかし一方でそんなことはないだろうと思っていたのにその通りのことが起こったから。
「やっぱり、劉備、本物みたいだな」
「信じられないけどね。
それで、この先の展望は?」
「こんな展開、俺の知識にはないけど、まあ策だけを考えるなら、馬超の方は
最初に麗羽様が攻め込む
次に馬超軍を少ない被害で蜀に誘導する
かな?
そして、蜀は孫策軍を吸収して水軍は強いから、どうにか水軍での戦いにしたいんで、江で我々を挑発しているんじゃないの?」
「私も、そう思っていた」
「じゃあ、今後の行動は?」
「裏をかかないとね。
馬超には何もしない。
直接蜀を攻める。しかも陸路で」
「だな」
そして、賢人会議にその方針を確認するのだが、沮授が質問をしてくる。
「一刀の知っている知識ではどうなるのですか?」
そこで、一刀は赤壁の戦い、夷陵の戦い、それから蜀の北伐から蜀漢の滅亡までの歴史をざっと説明する。
「それでは江から攻め込みましょう」
「どうして?」
質問するのは田豊。
「今、蜀は江に攻撃を仕掛けています。
これは孫家軍を取り込んで、水上戦であれば勝機があると読んでの挑発行為でしょう。
そして、夷陵は既に陥ちていますから、劉備の考えている策は烏林、即ち赤壁の戦いに類したものを想定していると思います。
仮に北から攻め込めば蜀は滅ぼせても、今麗に攻め込んでいる兵が大規模な盗賊になってしまったりして、これを殲滅させるまでに多くの被害がでてしまいます。
それよりは、敵がまとまっているときに一度に殲滅させてしまったほうが麗の被害が少なくてすみますし、敵の出方は予想できてますから、劉備の思惑にのった振りをしてまとめて叩き潰したほうがいいでしょう」
「それは一理あるけど、叩き潰すための戦略は?」
「こういう策でどうでしょう?」
と策を出したのだが、曹操はそれを聞いて真っ青になってしまった。
「お、おとなしい顔をして、ずいぶんとえげつない作戦をかんがえるのね」
曹操、沮授の作戦を聞いて、何故自分が負けたのかよーく分かった気がする。
そして……みんなに美人で頭が良いと言われる沮授である。
その作戦とは………実戦まで伏せておくことにしよう。