陛下
沮授の方針が適当と判断され、あとは"皇帝袁紹!!(やったー!)"にそれを認めさせるだけだ。
「一刀!何なのですか、あの馬超は!
この私からあの劉備に鞍替えするとは、何を考えているのですか!
即刻攻め滅ぼしなさい!!」
どうも今の袁紹は劉備よりも馬超に対して頭にきているようだ。
というわけで、一刀の仕事は劉備をやっつけましょうと提言すること。
皇帝になったからといって、人間がすぐに変わると言うものでもない。
袁紹、相変わらずである。
ということは、一刀が説得すれば一発だと言うことだ。
「陛下、確かに馬超は蜀への忠誠を表明しましたが、そんな辺境の州牧の一人くらい放っておいて、直接蜀を攻めればよいではないですか。
今、現に荊州に攻め込まれていますから、これも排除する必要があります。
いちいち馬超のような細かいことを偉大な陛下は気にする必要はありません。
蜀が滅びれば、馬超もごめんなさいと謝ってきますから。
華麗な陛下は蜀の打倒だけ考えればよろしいと具申いたします」
「……まあ、それもそうですわね。
それでは早速蜀を滅ぼす算段を考えなさい!」
「はい、わかりました。
あと、馬超も何らかの手を打っておきます」
「そうですわね。
無罪放免と言うわけにはいきませんからね」
と、退室しようとする一刀を袁紹が引き止める。
「ところで、一刀」
「はい、何でしょう?」
「その……私のことを何と呼びましたか?」
「は?陛下のことですか?陛下とお呼びしたような……」
「あ~ん、なんていい響きなのでしょう。
もっと呼ぶことを許しますわ」
袁紹の意図が分かった幇間一刀、袁紹の意向に沿った回答をする。
「……はい、華麗な陛下!」
「あ~ん」
「偉大な陛下!」
「あは~ん」
「栄光の陛下!」
「あぁ、いいーー!」
「いよっ!名君、袁紹様!」
「だめ~、良すぎるぅ~」
ちょっと悶え気味のアブナイ袁紹であった。
「ずいぶん遅かったのね。
陛下を説得するのに時間がかかったの?」
一刀が余りに遅かったので田豊が心配して尋ねている。
「いや、説得は一瞬だった」
「じゃあ何で遅かったのよ?」
「ちょっと陛下を喜ばせていた」
ちょっと目の色が冷ややかに変わる田豊。
「……そう、麗羽様にまで手を出したのね?」
ちょっと自分の発言が誤解されたように認識されたと分かった一刀、大慌てで発言の真意を説明する。
「え?あ、ち、違うって!
陛下に陛下、陛下と連呼しただけだ」
なんとなく状況が分かった田豊、
「ああ、なるほど」
と、妙に納得する。
さて、蜀の攻撃が決定されたので、あとは誰が向かうか。
「劉備には借りがあるから、私が行くわ!」
と言うのは曹操。
やっぱり、赤壁の戦いと言えば曹操 対 孫権だろう。
…………孫策生きてるけど、孫策が出てくるのだろうか?
それに、孫家より劉備がメインだし。
ところが、
「なりません!!!!!!!!!」
と、余りに強い調子で反対するのは荀彧。
「華琳様は今、身重の身。
戦に出たら、そのお体に障ります。
父親は殺してもまだ足りないクズの人間ですが、華琳様のお体はそれには関係なく大事にしなくてはなりません!
船や馬に乗るだけでも駄目だというのに、戦に出るなんて論外です!」
「そうです!
華琳様を孕ませた極悪非道の悪人は、華琳様のお許しがあればいつでもこの夏侯惇処分いたしますが、華琳様はお体を大切にしなくてはなりません。
華琳様の御無念は、この夏侯惇が晴らして参ります!!」
酷い言われようの一刀である。
結局、大将:顔良、軍師:逢紀・程昱、主な武将:夏侯惇・文醜・夏侯淵・麹義他という、何というか袁紹軍に無理やり曹操軍をくっつけたような軍が出来上がった。
顔良も劉備を倒したいと常々思っていたから丁度良い。
袁紹は留守番である。
たかが蜀の一つや二つ、わざわざ陛下が行く必要ありません、漢の皇帝も都で朗報を待ってました、斗詩さんにでもまかせておけば、さーっと片付けてきてくれますから、という一刀の説得で、残ることになったのである。
下手に作戦を考えて、邪魔されると困るし。
こうして、前代未聞の顔良 対 劉備の赤壁の戦いへと進んでいく。
雍州にいた郡司や兵は、民間人に化けるよう指示を出した。
そして、涼州兵が来たときの対応も指示しておいた。
大将になった顔良、出発を前に一刀に強い口調で迫っている。
「いいですか!一刀さん!
帰ってきたら、今度こそちゃんと側室として扱ってもらいますからね!!」
そう、正室が妊娠したまでは顔良を喜ばせる出来事(事故?)だったのだが、一刀が
「絶対に側室にするから、もう少しほとぼりが醒めるのを待って!お願い!」
というので、不満たらたらではあるがまだ側室らしい行為を全くしていない。
帰ってきたら今度こそ!という不屈の顔良の不屈の精神である。
これには、一刀も、最早「うん」と答えるしか出来ないのである。
こちらは趙雲。
馬超を適当にあしらって、蜀につかせ、涼州の隣の雍州に攻め込んだはいいが、どの街にも兵士がおらず、それどころか住民は兵が来てくれたと馬超軍を歓待する始末。
おかしい、と思っていたら、そのうちに袁紹軍が蜀を攻めるとの話が風の便りで聞こえてくる。
しまった!裏をかかれた!と、大急ぎで単身蜀へと移動する。
「やられましたな、桃香殿」
「そうね、星ちゃん。
でも、操船技術は孫家の兵に一日の長があるから、江(長江)で袁紹軍を叩けば、そう簡単には負けないわ。
袁紹も一度で蜀を倒せるとは思わないことね」
二人きりのときと、それに諸葛亮が加わった時は素の関係に戻る劉備と趙雲であるが、その他のときは普通に能天気な皇帝とちょっと癖のある臣下の関係に徹している。
今はその3人しかいないから、本来の姿で話し合っている。
「でも、桃香様、袁紹軍もこちらの作戦はある程度分かっているのではないでしょうか?
馬超の引き抜きも失敗してしまいましたし」
「そうね、朱里ちゃん。
だから、袁紹軍が挑発に乗って攻めてきても、何か裏があるとみないとならないわね。
でも、今はそれを考えても分からないから、敵対してから様子を見て考えることにしましょう。
それに、陸戦でこられたら、もう私たちには勝つ術がないの。
情けないけど、孫家の水軍の力だけが唯一麗に勝っているところなの。
それを頼ることだけが蜀が生き延びる唯一の可能性なの。
だから、裏があると思っていても、それにすがるしかないの。
あと、攻め込む時期は早くしないとだめなの。
私たちだって今は苦しい時だけど、これで時が過ぎていったら麗の力は圧倒的になっていって、水軍を以ってしても勝てなくなってしまうの。
だから、一回は麗を叩いて、攻める気を削いでおかないと。
そうして時間を稼いだところで、この勢力差を挽回するのはほとんど不可能に近いのだけど………なんて、気弱なことを上に立つものがいってはだめね。
苦しくても、辛くても何度も攻め寄せてくる麗を毎回撃退しよう!」
「わかりました。
周瑜さんや孫策さんには申し訳ないですが、頑張ってもらいましょう。
食料が足りないという嘘で戦いに行ってもらうのはちょっと良心が痛みましたけど。
他に何か指示することはありますか?」
「今のところ新たな指示はないわね。
麗への侵攻を続けるように。
食料も豊富にあったのでしょ?」
「はい、さすがに一刀さんの農業はすごくて、どの街も十分な食料が配備されていました。
特に江陵には潤沢にありましたから、これで孫軍も問題なく維持できます」
「それはよかったわ。
一応戦いに出かける名目がたっていることになっているから。
それに、食料が足りないというのもあながち嘘でもないの。
何とかやっていけないこともないけど、相当厳しいから、食糧を奪うのはやはり有効な作戦なの。
それと朱里ちゃん、良心より野心よ」
「……はい。ところで、馬騰様は袁紹様が皇帝になったのと時期を同じくしてお亡くなりになったのですね。
ずいぶんと奇遇な気がします。
これも運命なのでしょうか?」
「そうだな、朱里殿、奇遇だな。
だが、我々にとっては都合の良い時に天寿を全うされたものだ」
趙雲はそう言ってにやりと嗤う。
劉備もそれを聞いてにやりと嗤う。
諸葛亮は、それをみて何があったか悟り、ぞぞ~っとすると同時に、自分も同じ仲間に入ってしまったのだという認識を新たにせざるをえないのであった。
趙雲を失った馬超は、雍州で何となく途方に暮れていた。
その後、民間人に化けていた兵にあっという間に鎮圧されてしまった。
不憫だった。