感触
このころの中国の生活習慣。
夫婦は普通は一緒に閨を共にするのだが、妊娠すると妊婦は別の部屋に一人寝ると言うのが一般的であった。
だから、田豊、沮授、曹操は一刀と一緒には寝ていない。
顔良は、もう荊州に出払っていて、一緒には寝られない。
本当は呂布も別に寝たいのだが、護衛の役があるため、今は一刀と一緒に寝ている。
そんなある夜のこと、董卓がそっと自分の部屋を抜け出してくる。
そして、辺りをうかがいながらどこかに向かって歩いていく。
と、突然董卓の口を抑える手がある。
「んっ?!」
恐怖に慄く董卓に、その口を押さえた手の主は耳元で静かに話しかける。
「月、静かにしてください。
陽が起きてしまいます」
何のことはない、劉協である。
「献様、どうしてここに?」
皇甫嵩の部屋から離れたところで、董卓が劉協に尋ねている。
「月、今夜行くのでしょ?
一人で抜け駆けとは酷いではないですか。
朕も一緒に行かせてください」
「でも……まだ一刀さんが受け入れてくれるかどうかわかりません」
何と、董卓は一刀の部屋に夜這いに行くらしい!
それに劉協も一緒についていきたいということだ!!
ということは二人して夜這い?
一刀、うらやましすぎるぞ!
そう、今一刀と一緒に寝ているのは呂布だけで、夜這いに行っても大丈夫そうだというので、長年の想いをいよいよ叶えようとしている董卓なのだ。
「それなら大丈夫です。
朕の言うとおりにしてください。
今夜は月が行きそうだと分かったので、陽に眠り薬を飲ませておいたのですよ。
でも、あの陽のことですから、それでも跳ね起きてしまうかもしれません。
ですから、静かにやりましょう」
ちょっと小悪魔の本領を出し始めた劉協のようだ。
それから、二人で一刀の部屋の扉を静かに開けて……閉めて……
「恋、お願い。協力して」
と、董卓が呂布を説得して…………
劉協、董卓、二人揃って服を脱いで一刀の閨に入っていく。
一刀は夢を見ていた。
それも史上最悪の悪夢だ。
「陛下!俺が体の中から喜ばせてやる!!」
「陛下だなんて。
もう普通の少女です、献と呼んでください」
「分かった!献、いくぞ!!」
「あぁ~~、とてもいいです!」
「一刀さん、私も……」
「もちろんだ、月!
二人まとめて喜ばせてやる!!」
「一刀、もっと下さい!」
突然開けられる部屋の扉。
「一刀、最初からお前は危険な奴だと思っていたが、とうとう献様を手にかけたのか。
覚悟はいいな!」
乱入してきたのは皇甫嵩。
目には一切の感情がない。
間違いなく相手を殺す目だ。
「何を言う、皇甫嵩!
献も月も俺を愛しているんだ!
献が愛している男を殺すなんて出来ないだろう?アハハハハ!!」
「陽、一刀の言うとおりです。
朕も月も一刀を愛しているのです。
朕の一刀を殺さないで下さい!」
劉協と董卓は、そう言って泣いて両側から一刀にぎゅっと抱きつく。
ぷにゅん
ぷにゅん
……………………妙にリアルな感触だ。
どうして?と思った一刀はゆっくり目を開けてみる。
見えたものは……皇甫嵩。
一瞬で覚醒する一刀。
左右を見てみれば、夢の通りに劉協と董卓がくっついている。
「えっ!!!!」
いよいよ皇甫嵩に殺されるシーンが、実際のものと思われてくる。
顔面蒼白の一刀、必死で皇甫嵩に言い訳をする。
「ご、誤解だから!
俺、何もしていないし!!
服だって……」
と思って自分の姿を見てみれば、何故か裸。
劉協、董卓の二人も裸。
おまけに、時間が都合悪く、下半身が生理的にそれはそれは大きく勃っている。
裸の女性二人に抱かれ、おまけに勃たせていて、何もしていないはちょっと厳しいかも。
一層、顔が青くなる。
「れ、恋は知ってるよな!
俺、何もしてないよな!!」
と、妊婦服を着ている呂布に救いを求めるが、呂布は困ったように顔を赤らめて顔を背けてしまう。
次第に生きる希望が潰えてくる。
「と、兎に角誤解だから。
俺、陛下にも董卓さんにもなにもしていないから!!」
だが、それを聞いた劉協、
「え?そ、そんな。
昨晩は献、月と真名を叫びながらあれほど愛してくださったのに。
心の底から二人を愛していると言ってくださったのに。
あれは、嘘偽りだったのですね?
朕と月を弄んだのですね?」
そう言うや否や、わっと泣いて皇甫嵩の許へと駆け寄っていく。
そして皇甫嵩の胸の中でわんわんと泣き始める。
董卓も一刀から離れ、閨の上で裸のまま顔を隠して泣いている。
裸の劉協が泣きながら自分の胸に飛び込んでくる。
破壊力抜群だ。
皇甫嵩、表情が純粋な無に変わる。
「献様、その悲しみの元はすぐになくなります」
そういいながら一刀の元に歩いていく。
その頃には騒ぎを聞きつけ、一刀の部屋に人々が集まってきている。
何が起こったかは誰にも分からないが、部屋には
裸で泣いている女が二人
裸で逃げ回っている男が一人
刀を持って男に迫っている女が一人
困惑している妊婦が一人。
これを見て一刀が悪い!以外のことを言える人間は間違いなくほかの人々の非難を受けるだろう。
沮授は何かいいたそうだったが、もうそんな雰囲気ではなかった。
「ぅわーーーー、冗談、冗談、冗談だって!!
献も月も心の底から愛しているから!
献、月、今日は一日中愛しあおう!な?
3人だけで!
他の人は出て行ってもらおう!ね?ね?ね?」
一刀は呂布の後ろに隠れて、どうにか劉協の気を惹こうとする。
だって、今や皇甫嵩をとめられるのは劉協しかいないから。
「陽、思い出してくれたようです。
だから、朕の一刀を殺さないで下さい!
お願いです」
皇甫嵩の動きが止まる。
劉協はその皇甫嵩の脇をすり抜けていき、一刀の許へと向かう。
そして、
「一刀、そういう冗談はいけませんよ。
驚いてしまったではありませんか。
今日は本当にちゃんと朕と月を愛してくれるのですね?」
と、一刀に微笑みかける。
裸の一刀は、
「も、もちろん!」
と言って、人々の前で、やはり裸の劉協をしっかりと抱きしめ、そして劉協の心を開くようにキスをする。
一刀、必死である。
劉協に見捨てられたら、間違いなく自分は死ぬ。
そんな覚悟で劉協と心と体を一つにしようとしている。
劉協も、そんな一刀の気持ちが通じたのか、嬉しそうにしていた。
皇甫嵩は、そんな劉協を見て泣きながら部屋を飛び出していった。
「月、これでよかったのね?」
賈駆が相変わらず閨の上で泣いている董卓に声をかける。
黙って頷く董卓。
「みんな、部屋を出ましょう」
賈駆の言葉に、一刀、劉協、董卓を部屋に残し、全員がぞろぞろと部屋を退出した。
そして……
薄々……いや、明らかにおかしいとは思っていたのだが、一刀が劉協に騙されたことを決定的に知ったのは、その直後、劉協の純潔を奪った瞬間だった。
一刀の行動に対して異様に霊感が働く沮授だけは分かっていたが、もう手の出しようはなかった。
こうして、劉協も董卓も側室にしなければならなくなってしまった一刀であった。
「これでもう逃げられませんよ」
一刀に貫かれた劉協が、破瓜の痛みでちょっと表情をゆがめながら、一刀ににっこり微笑みかける。
やっぱり劉協、皇帝から小悪魔に変化していた。
これも董卓の教育の成果だろうか?
一刀はなにか催眠にかかったようにそれから少しの間、劉協のいいなりになってしまうのである。
その結果………
おまけ
「献様、どうして一刀さんはあんなにあっさりだまされたのでしょうか?」
「月、漢の皇帝には代々伝わる、相手に思い通りの夢を見させるという妖術があるのです」
本当か?
あとがき
このような習慣があるとは寡聞にして知りませんが、劉協と董卓が獲物を狙う隙を作るのに必要なので、そういうことにしておいてください。
まあ、あってもよさそうではあるのですが。
[1352]ありさん
[1354]ふらんプールさん
ご指摘の通りです。
直しておきました。
ありがとうございます。