火計
劉備が諸葛亮を通じて周瑜や鳳統に伝えた策であるが、確かに火計ではあった。
周瑜がどんなに頑張っても勝てないと危機感を感じた劉備であるので、他の策が必要だと判断したのだ。
が、劉備は史実や演戯と異なり、風を待つと言うような作戦は提示していなかった。
確かに、時々風の向きが変わるということは劉備も知識では知っていたが、それでは確実性に乏しい。
諸葛亮も残念ながら風向きを変えるほどの妖術は持ち合わせていない(って、それが普通だ)。
それに、袁紹軍の攻撃力からして、そんな悠長なことを言っていたら、風向きが変わる前に敗れてしまう可能性が高い。
そこで、風が変わらなくても火計を使う方法を提示した。
方法は極めて簡単明瞭。
孫策に投降してもらって風上から火をつけるという作戦である。
孫策らが敵陣に入り、船にとりつけた紐を引っ張って、その先に取り付けた魚油の入った袋を取り寄せる。
それを袁紹軍の船団の中にばらまいて火をつければ万事解決!
失敗したら、孫策と鳳統を切るだけ。
ダーク劉備にとってはそれほど痛くも痒くもない。
周瑜と諸葛亮が悲しむだろうが、なだめればどうにかなりそうだ。
史実では、連環の計というものはなくて、事前に投降を予告していた黄蓋が、密集した船団に風が変わってから燃料船で突撃して曹操軍の船を燃やしたらしいが、恋姫ではやっぱり連環の計っぽいものがあるようだ。
芝や薪は現地調達するが、それほど多量に盗っては目立つから、メインは魚油と考えている。
そして船が使えず混乱しているところに乗り込んで、陸戦で敵の主要な将を打ち破る。
同じ作戦を二回は使えないだろうが、今回はこの作戦で乗り切れるだろうと判断した劉備である。
この辺までの作戦を麹義の弩を見てすぐに思いついた劉備、やはり天才だろう。
麹義の行動は、劉備に火計を思いつかせるためにも効果的だったようだ。
もし、劉備が一刀の思惑通り火計を思いつかなかったら、第一級の軍師、田豊、沮授、荀彧が妊娠、および妊婦の付き添いで業に留まっている状態では有効な代替案が立てられず、船同士の戦いを長々とし続けなくてはならなくなってしまったり、最悪、蜀が勝ってしまうかもしれなかった。
投降する人間を孫策に決めたのも劉備である。
漢が変わった麗に蜀の状況がもれていると言うことは容易に想像がついたから、孫権や周瑜とちょっと仲違いの状態にある孫策であれば投降しても自然だろうと考えたのだ。
そこまでは良かったのだが、如何せん相手が悪かった。
だって、未来を知っているのだから、思い切り反則である。
さすがにこれでは劉備も勝てないだろう。
一刀がいなければ、本当に天下をとれたかもしれないのに。
そもそも、麹義が弩を撃った本来の理由は何だったのか?
それは対岸に兵を置きたかったからだ。
その理由は?
それこそ沮授の考えた作戦の肝である。
沮授の考えた作戦はどのようなものなのだろうか?
夜、袁紹軍が一部見張りを除き寝静まった頃を見計らって孫策の連れてきた兵がひそかに動き始める。
その日も風は強かった。
乗ってきた船についている紐を引き寄せると、予定通り魚油のつまった大きな皮袋がいくつもついてくる。
孫策兵は、それを楼船や水上に撒いていく。
魚油は水より軽く、浮くのでこういう作戦には重宝する。
そして、風上の船にはふんだくってきた薪を積んで着火準備完了。
孫策は黙って首を縦に振る。
兵はそれを見て薪や魚油に火をつける。
火は折からの季節風にあおられてどんどんその勢いを増していく。
「これでいいわね」
孫策がそうつぶやくと、
「そうだな」
という、孫策兵以外の人間の声。
驚いて振り向いた孫策の目に飛び込んできたのは、七星餓狼を孫策に突きつけている夏侯惇の姿。
「ど、どういう意味よ?」
尋ねる孫策に顔良が答える。
「劉備軍が火を点けるのを待っていたんですよ」
「何ですって?」
孫策は顔良の答えに驚愕し、それから誰も見えない江に向かって大声を張り上げる。
「冥琳!蓮華!逃げて!!罠よ!!」
だが、江は無情にも何も答えてくれない。
「まあ、一緒に劉備軍の最期を観賞しましょう」
とにこにこしている顔良であった。
その頃、烏林の対岸では、許緒や典韋、それに力自慢の大勢の兵が緊張した様子で江を眺めている。
そして、
「よし!火がついた!
引き始めろ!!」
麹義の声に、兵たちは一斉に鎖を引き始める。
「えーほー、エーホー」
鎖は2km以上もあって、その一端を許緒らが引っ張っていて、その反対側は楼船など孫策の意見で一つにまとめられた船団がくっついていた。
そして、楼船の櫓の内側は密閉された空間になっていて、その内側は粉塵で満たされていた。
孫策らが火を点ける作業を行っている最中に、孫策から見えないところで袁紹軍の兵は鞴(ふいご)を動かして楼船の中を粉塵で満たしていたのだ。
小麦粉の粉塵爆発の威力に感嘆した沮授が、火をつけられるんだったら敵船にぶつけて、敵船ごと爆発してしまえ!といったのが作戦の全容である。
これには曹操もぶったまげてしまって、沮授を美人で頭がいいと評したのは既に記したとおりである。
爆発実験も何回も行った。
今は粉塵が白から黒に変わっている。
即ち、小麦粉から石炭の粉に変わっている。
爆発圧力は小麦粉のほうが強いが、石炭の方が火力が強く、また湿気に強いので石炭爆弾船とすることにした。
これなら多少湿気があっても爆発には影響しないことも確認している。
それが今、火を点けられて劉備軍に突き進んでいる。
劉備軍は陸戦で主要な将や軍師を倒すことも考えていたから、船を烏林に進めていたのだが、そこに合体して巨大化した楼船群がすさまじい速度で迫ってきている。
劉備の心配はその通りだった。
対岸の兵が楼船群を高速で引っ張って劉備軍にぶつけようとしているのだから。
だが、さすがの劉備もそんな作戦があるとは夢にも思わなかった。
劉備の命運もここまでのようだった。
一応全員力を込めて引っ張っているが、麹義は更に兵士たちに馬鹿力を出させるための決定打を放つ。
「曹操と荀彧の絵が燃やされている恨みを晴らすのだ!!」
なんだ、そりゃ?と言う気もするが、あの絵を気に入っている人々には効果絶大。
「とりゃーーー!!うりゃーーー!!」
確かに船の速度が上がった気がする。
こちらは周瑜指揮する劉備軍。
袁紹軍の船に火がついたら、敵が混乱している隙に敵兵を出来るだけ多く屠ろうと全軍の船を静かに進めていた。
そして、予定通りに船団に火の手があがる。
「よし!船の速度を上げろ!!」
船の速度を上げて袁紹軍に乗り込もうとすると、どういうわけか火のついた船も劉備軍目指して一直線に進んでくる。
ただでさえ、孫策の指示で要塞化してしまった船団である。
ぶつかっただけでも沈没させられてしまう可能性大だ。
しかも火までついている。
「全軍回避!!」
一瞬で命令を覆す周瑜であるが、勢いのついている船はそれほど簡単に停船したり方向を変えたりすることができない。
楼船群は前方にいた劉備軍の船をいくつか沈め、さらに劉備軍の真ん中で最後の大爆発を起こす。
ドドーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーン!!
この衝撃で、劉備軍の船団はほぼ壊滅した。
赤壁の戦いが終了した。
あとがき
まあ、ネタということで。
これほどうまくはいかないでしょうし、持っている船のほとんどを破壊してしまう作戦をたてるとも思えません。
万が一失敗したらぼろ負けになってしまいますから。
爆発物は火薬があれば最適だったのですが、作り方を知らない前提でしたので、単品で爆発する粉塵にしました。
問題は、船を引っ張る鎖か綱かそのようなものが準備できるかですが、綱なら何とかなるかもしれませんね。
それでも、かなり厳しいと思います。
あと、曹操と荀彧の絵も、残っていると何かと問題が起こりそうなので燃やしてしまうことにしました。
そのついでに最後の公開をしたということもあったりしたのでした。
次回最終回です。
それでは。