蜂起
「何?愚民が暴動を起こしただと?」
暴動の報は何進の許へも即座に届けられる。
「は、数え役萬☆姉妹を迎えに行った兵が殲滅させられ、更に牧府の許へと向かっているとの情報です」
「わしに歯向かうとは許せん。
直ちに暴動を鎮圧せよ!」
「御意!」
何進、大将軍にはなったが、戦場に赴いたことがない。
いつも行け!で終わりだったので、今回も命令だけしかしない。
そして、それで全てうまくいくと思ってしまうところが問題だ。
兵士達は、自分が相手にしようとする敵の数を見て、驚愕してしまった。
街全体が自分達に叛旗を翻したような大規模な暴動。
この頃には、民衆達も持てる範囲の武器を携行しており、素手で戦ったときより戦闘能力が上がっている。
もちろん、武器と言っても棒や鍬などのありあわせのものでしかないが、素手とは比べ物にならない。
とても自分達だけで対応できる規模ではない。
急いで城に戻り、そして城門を固く閉ざす。
「何大将軍、暴動は大規模でとても鎮圧できるものではありません!」
「何をふざけたことを言っている!
そんな愚民ども、わしが鎮める!
城門を開けえ!」
「いや、それはお止めになったほうが……」
「わしの命令が聞けぬというのか!」
「そこまで仰るのなら……」
何進、大将軍になったので、自分には何でもできると思い込んでしまっている。
漢の大将軍である。愚民どもが跪かないはずがないと思っている。
「わしが何大将軍だ!
武器を置いて投降せよ!!」
水戸黄門じゃあないんだから、と思うのだが、群集は一瞬静かになる。
何進は、やはり自分は偉大なのだと満足する。
だが、その直後、
「てめーが何進か!」
「ぶっ殺してやる!」
「俺たちの苦労を思い知れ!!」
何進に向けて群衆が突進する。
何進は水戸黄門にはなれなかった。
助さん格さんもいなかった。
何進は、文字通りその体を八つ裂きにされ、その生涯を終えた。
暴徒たちはそのまま城内に突入し、城内の兵士達の殺戮、金銀財宝の略奪、愛妾達の強姦、そして武器の奪取を行っていった。
もちろん兵や家臣の中にも節度のある人間もいる。
愛妾の中にも元は農民で、無理やり連れてこられた者もいる。
だが、暴徒達にそんな理由をつけてもだめだ。
今まで圧政で苦しんでいた反動が一気に解放される。
その力が全て城に向かう。
城は破壊され尽くした。
さて、暴徒達であるが、略奪を終え、少しは落ち着いてきた。
自分達でもやればできるんだ、そんな自信ができてきた。
今、街は自分達のものだ。
漢なんかなくてもやっていける!
そんな雰囲気が漂っていた。
でも、これからどうすれば……
破壊が終わった後、皆をまとめる人間が必要だ。
それも、全員が納得するような頭が。
民衆の意見は何も言わなくても結論を導き出していた。
俺たちが従えるのは彼女達しかいない!!
「天和様、地和様、人和様。
お願いです、俺達を束ねる頭になってください!」
ぎらぎらした目の男たちが張三姉妹を訪れている。
「えー、どうしよう、ちーちゃん、れんほーちゃん」
長女の張角が二人の妹に相談する。
「ここは受けたほうがいいわ。
彼等は今正常な判断が出来てない。
ここで断ったら襲われる可能性が高い」
三女張梁が冷静に状況を判断し、小声で答える。
「ちいもそう思う」
次女張宝もそれに同意する。
「わかったわ」
張角はそう言って、男達に向き直る。
「いいわよー。
わたしがみんなの大将になってあげるーー!!」
「ほわぁぁぁっ!!」
「それじゃあ、今日はお家でゆっくり休んでねーー!」
「うぉぉぉぉぉぉぉーーーー!!」
とりあえず、その日は群集を家に戻すことに成功した張角であった。
張三姉妹だけになってから、張角が妹達に相談を始める。
「ねえ、ちーちゃん、れんほーちゃん。これからどうしよう」
「どうしようっていっても……人和、何かいい考えある?」
「そうね。とりあえず彼等の力を発散させないと。
ここに留まっていたら不満が溜まってきそう」
末娘なのに、なかなかしっかりした考えの張梁である。
「そうだね。私もそう思う。
だったら、どうしようか?」
「うーーん、他の街の官僚もやっつけよーっていうのはどう?
そしたら、彼等の力も発散できるし、適当な時期に行動を別にすることもできそうだし」
「私も賛成、ちぃ姉さん」
「だったら、あしたみんなに他の悪いやつ等もやっつけちゃってー、って言えばいいのかな?」
「それがいいわね」
「そう、思う。
とりあえず、何進が治めていた他の街に力を向けさせればなんとかなるんじゃない?」
「わかったわ」
そして翌日。
「みんなーーー!!」
「ほわぁぁぁっ!!」
「他の街にも、苦しんでいる人がいると思うのーーー!!
だから、みんなで助けに行きましょうーーー!!」
「ほわぁぁぁっ!!ほわぁぁぁっ!!ほわぁぁぁっ!!ほわぁぁぁっ!!」
城から武器を奪って、武装も充実した人々、数え役萬☆姉妹ファンの証である黄色い布を全員が身に着け、後に黄巾党と呼ばれる集団はこうして蜂起したのであった。