黄巾
張三姉妹率いる(?)黄巾党は、次々と街を落としていった。
守備兵の人数が少ないというのも、兵士たちが敗れた一因ではあるが、それ以上に黄巾党に同調する民衆が街の内側から蜂起したというのが大きい。
黄巾党は冀州(何進統治部)、幽州を制圧し、その勢いは他の州へも広がろうとしていた。
「え~ん、ちーちゃん、れんほーちゃん。これじゃあ逃げられないよう……」
「困ったねー」
黄巾党のリーダーを成り行きで引き受けた張三姉妹であったが、本人たちは別にそんなものになりたいわけではない。
早く元のアイドル歌手に戻りたいと思っている。
だが、三姉妹を取り巻く環境は日に日に悪化している。
まず、黄巾の乱であるが、最初のエネルギーを発散させれば終わりになるかと思いきや、あちらこちらの街で武装蜂起が起こり、沈静化どころかエキサイトする一方であった。
そのエネルギーが冀州、幽州を制圧してしまったのは最初に述べたとおりである。
漢王朝から見れば反乱軍なのであるが、何大后が「何進を殺した?いい暴徒達ですこと」とか言っていて、王朝から組織だった討伐指令は出されなかった。
このため、討伐にあたるのは地方の名士たちだったのだが、その討伐隊が「たかが農民の反乱だろ」と高をくくっていた上に、黄巾党の数の力がものをいい、それらは全て撃破されてしまった。
こうなると、地方からの陳情も山のように洛陽にもたらされる。
王朝もとうとう重い腰を上げ、黄巾党の討伐を指示することになった。
とはいっても、この時期本気で討伐する気がない。
各地に指示を出しておしまい。
これでは黄巾党を鎮圧できるはずなく、今までとあまり変わらない状況が続いていたのだった。
さて、張三姉妹であるが、幸運にも張角、張宝、張梁という名前だけが黄巾党の幹部と伝えられ、それが数え役萬☆姉妹と同一人物とは思われていなかったので、張三姉妹を直接狙う動きはなかった。
とはいうものの、いつ狙われてもおかしくない状態なので、黄巾党員、三姉妹から見たらただの熱狂ファンが彼女等の警護を厳重にし、黄巾党を離れるのが難しくなっていた。
「標語でも作って、あとはみんなに勝手にやってもらったら?」
「どういうこと?ちーちゃん」
「どうせ、私たちってお飾りでしょ?
だから、別に私たちでなくてもいいと思うの」
「そうね」
「そこで、標語。
なにかみんなをまとめるような標語を作って、それに私たちの代わりをしてもらうってわけ。
そうしたら、あとはみんながまとまって勝手にやってくれるんじゃない?」
「う~~ん……何かうまくいくような気がしないんだけど」
「やってみたら?」
「れんほーちゃんはそう思うの?」
「何もしなくても逃げられないのなら、何かやっても今以上に悪くならない」
「まあ、そうかもしれないけど。
じゃあ、どんな標語がいいの?」
「そうねぇ…………
うーーーん………
『蒼天已死
黄天當立』
なんていうのはどう?」
「うっわー、ちーちゃん。それって、漢王朝に思いっきり喧嘩売ってるよ!
蒼って漢の色だし、私たちの象徴は黄色い布じゃない」
「だからいいんじゃない。
自分達で出来ると思うから」
「う~~ん。何かだめそうなんだけど……」
「今以上に悪くならない」
「本当かなぁ」
大いなる疑問を抱きつつも、地和、人和に言われたとおり、天和はスローガンを公表する。
「みんなーーー!!
今日は私たちのために標語を考えたのーーー!!
聞いてねーーー!!
『蒼天已死
黄天當立』
いいでしょーーー!!」
「蒼天已死
黄天當立
おおおおーーーーおおおおーーーーおおおおおおーーーーーーーー!!!!!」
スローガンを聞いた民衆は大いに鼓舞されたのであった。
さて、張三姉妹のその後は………
「みんな大好きーー!」
「「「てんほーちゃーーーーん!!」」」
「みんなの妹ぉーっ?」
「「「ちーほーちゃーーーーん!!」」」
「とっても可愛い」
「「「れんほーちゃーーーーん!!」」」
「みんなで悪い漢王朝をやっつけようーーーー!!」
「「「おおーーーーーーっ!!」
「やっつけようーーーー!!」」」
「「「おおーーーーーーっ!!」
「やっつけようーーーー!!」
「「「おおーーーーーーっ!!」」」
相変わらず漢全土を黄巾党党員鼓舞のため、コンサートツアーを催している。
というより今まで以上に精力的にコンサートツアーを行っている。
コンサートであるから、もちろん歌や踊りも行うので、やっている活動そのものは数え役萬☆姉妹の活動そのものだが、政治的背景がまるで異なる。
彼女たちが直接指示を出しているわけではないが、煽動しているといえばそのとおりの行為である。
スローガンは効いた。
そのスローガンが漢全土に伝わるや否や、全土で一斉に黄巾の乱が蜂起された。
そして、波才、張曼成、卜己といった幹部が現れ、漢軍に対し統率して対抗できるようになってきていた。
そんな彼等を鼓舞するために張三姉妹はコンサートツアーを催している。
張三姉妹は、今まで以上に黄巾党の総帥としての地位を固めていき、その警護もより厳重になっていった。
「え~ん、れんほーちゃん。前よりわるくなっちゃったじゃない!」
「……ごめんなさい、天和姉さん」
さて、漢王朝である。
流石にそろそろ本腰を入れなくては、と考え出したようだ。
各地の太守に黄巾党殲滅を命令すると共に、仕方なく党錮の禁を解き、清流派を登用するようになってきた。
皇帝――諡号が霊帝――を皇甫嵩が説得したというのが大きい。
「陛下!もう猶予はありませぬ!
大至急党錮の禁を解き、野に下っている清流派の士太夫を登用すべきです!
そうせねば、宦官の力のみでは黄巾党は倒せません」
「えー?そんなことやったら、宦官おこっちゃうじゃあん」
「黄巾党は洛陽に向かっているのですよ。
宦官の機嫌と、洛陽の治安とどちらが大事なのですかっ!」
「うーん………わかんな~い」
「洛陽が攻められたら、陛下とてそのお命が危ういのですよ!」
「それ、だめじゃあん。
じゃあ、党錮の禁解くことにする。
陽、大将軍にするから、あとやっといて。
宦官の機嫌が悪くならないようにね」
こうして、大将軍に命ぜられたのが皇甫嵩。字が義真、真名が陽。
何進は既に死亡しているからありえないが、それにしてもいい人物を大将軍に命じたものだ。
濁流派は中央の権力闘争では抜群の力を発揮したが、武力闘争にはからっきしだったので、苦渋の譲歩であった。
皇甫嵩自らが黄巾党本部鉅鹿のある冀州、そして皇甫嵩が信頼し、公孫讃、劉備の師でもあった盧植が冀州の次に大規模な反乱が生じている豫州・潁川に向かうこととなった。
史実とは逆だが、恋姫仕様なのだろう。
これで、邪魔さえ入らなければ史実よりは楽に黄巾の乱を収めることができそうなのだが……。
あとがき
中途半端なようですが、三姉妹の出番はこれでおしまいです。
そうしないと曹操のところに行きづらくなってしまいますので、いつの間にか冀州からでたということにしておいてください。
皇甫嵩も最終的には冀州に向かったようなので、出陣先はこれでOKということで。