義真
「麗羽様ぁ、各地で黄巾の乱が勃発しているようですねぇ」
「そうですわね、猪々子。みんな大変そうですわね」
まるで、人事のように言っているのは袁紹。
そう、袁紹にとっては正にヒトゴト。
袁紹領には黄巾の乱のこの字もない。
豊富な食料に低い税制、賢人会議の行う善政。
これで黄巾の乱が起こるほうがおかしい。
「そりゃ麗羽様の華麗な政で、乱がおこるわけないじゃないですかぁ」
「オーッホッホッホ、そのとおりですわ、猪々子。
何進や、他の太守は華麗な政を行わなかったから今頃になって苦労しているのですわ」
……ある意味、正しい。
「でも、麗羽様ぁ、冀州の黄巾党やっつけなくていいんですか?」
「そうですわねぇ、斗詩。
王朝からどうしても、と乞われたらすこーし考える振りをしてみてもいいですわよ。オーッホッホッホ」
王朝、即ち実質宦官からの依頼になるから、宦官嫌いの袁紹が「畏まりましたわ」といってすぐに従うとも思えない。
「何進様の治めていた土地ですが。
昔は一緒に宦官に立ち向かった仲ではないですか」
「斗詩、何をいうのですか。
何進と一緒に立ち向かったのではありませんわ。
何進にいいようにこき使われただけではありませんか!
あの男、結局自分本位ですから、自分のことしか考えないのですわ。
ですから、行動を共にしたこともありますが、別に恩義は感じておりませんわよ」
「討伐隊は大将軍になった皇甫嵩様があたられるという話ですが」
「陽ね。まあ、彼女が頭を下げたら、協力してもよろしくてよ」
「そうか。それを聞いて安心した、麗羽」
いきなり登場する皇甫嵩。
「よ、陽!いつの間に?」
「先ほど到着した。
斗詩や猪々子には黙っておいてもらった」
きっ、と斗詩と猪々子を睨みつける袁紹。
「ごめんなさい、麗羽様。
皇甫嵩様がどうしても来訪を黙って、こういう質問をしろって仰って」
「いやぁ、皇甫嵩様、怖いから」
ぎろっと文醜を睨みつける皇甫嵩。
「じょ、冗談です、皇甫嵩様」
すくみ上がる文醜。
皇甫嵩は袁紹に向き直る。
「久しぶり、麗羽。
相変わらず、けばいな」
「う、うるさいですわ、華麗と言っていただきたいですわ。
そういうあなたこそ、相変わらず無表情で冷たいではありませんか!」
「その通りだ。何か問題あるか?」
「むっきーーー!!」
「麗羽こそ、いい加減年を考えたらどうだ?」
「むっきーむっきーーー!!」
皇甫嵩の圧勝のようだ。
「それで、黄巾党を倒すのを手伝ってくれるのだな?」
「陽が頭を下げれば、と言いましたわ」
「頭は下げないがやってもらいたい」
「お断りですわ」
「だが、麗羽は断れない」
「どうしてですの?」
「何進の治めていたところが麗羽のものになったからだ」
「え?そ、そうですの?」
「ああ。だが、すまない。
今の私の力では治める領土を拡げさせるのを認めさせるのが精一杯だった。
麗羽も洛陽に戻りたいだろうけど、それは叶わなかった。
本当にすまない」
「ま、まあ、あなたと私の仲ですから、聞かないこともありませんわよ。オホホホホ」
この二人、何だかんだ言っても仲がいいらしい。
「それは助かる。
それで、兵を4万ほど連れてきたのだが、その、街の外での野営と食料支援をお願いしたいのだが……」
「よろしいですわ。
何日でもいてよろしいですわ。
まあ、すぐに出立するのでしょうけど。
ここにいる間は全員に酒も振舞いますわよ」
「酒?全員に?
ふふ、冗談でもそう言ってくれるとうれしいぞ」
無表情といわれながらも、微笑んだような表情をする皇甫嵩。
史実の田豊の性格が、皇甫嵩に乗り移ったのだろうか?
「冗談ではございませんわ。
4万人くらい問題なく振舞うことが出来ますわ」
「…………うそだろ?
4万人だぞ。4人ではないのだぞ」
「本当ですわよ。
一日50万人分の酒を造っておりますから、4万人くらいなんとかなりますわ」
「50万人分の酒といったら、大量の穀類を消費するではないか。
そんなことをしたら民が飢えてしまうだろう!」
酒は多量の米や麦を使用するが、それらはまず最初に食料にまわされる。
このため、食料生産量がそれほど多くないこの時代、多量の酒を造ることができなかった。
酒を多量に造れば民が飢えてしまう。
禁酒令を敷く太守もいたほどだ。
50万人分の酒といったら、恋姫仕様を凌駕する桁外れな大量の酒の生産なのだ。
袁紹領のビール生産量は、どうやら、以前に比べ生産量が2~3倍になっているようだ。
「いえ、それだけ酒を造っても、まだまだ潤沢に麦がありますわよ」
呆然とする皇甫嵩。
「………………信じられん。
確かにここに来るまで、一面の麦畑ではあったがそれほどまでとは」
「オーッホッホッホッホ。恐れ入りましたか?」
「ああ、恐れ入った。
いったいどういう妖術を使ったのだ?」
「その道の専門家がいるので、彼に任せたのですわ」
「そうか。それはそのうち話を聞きたいものだ。
それで、早速だが黄巾党撲滅の作戦を立てたいのだが、将軍や軍師を集めてもらえるか?」
「ええ、よろしいですわよ。
斗詩、早速皆を集めなさい!」
「わかりましたー」
袁紹軍の黄巾党殲滅作成が始動する。
あとがき
袁紹と皇甫嵩が仲がいいという話は聞いたことがありませんが、なくもなさそうな話なのでそういうことにしておいてください。