軍議
軍議が開かれるので、一刀も召集されている。
座る位置は例によって部屋の隅だけれども。
「みなさ~ん。知っている人もいると思いますけど、皇甫嵩大将軍が来ましたので紹介いたしますわぁ」
袁紹様の発声で軍議が始まる。
(あの人が皇甫嵩さんか。
どういうわけか大将軍。
冀州方面が盧植でなく皇甫嵩というところが、史実と違う。
皇甫嵩さん。
長身で真っ黒なロングの髪をストレートに伸ばしている。
服は黒のパンツスーツっぽい衣装。
表情は冷たく、表情が読み取りにくい。
クールビューティーというよりコールドビューティーといった感じ。
仕事は確実にこなしそうだけど、この人と個人的に親しくなりたいとはあまり感じない、そんなタイプの人)
と、皇甫嵩を観察する一刀である。
「皇甫嵩大将軍を助けて、冀州の黄巾党をやーっつけることにいたしますわ。
何進の治めていた土地は私が治めることになりましたから、華麗にや~っておしまいなさい!」
「麗羽、どうしてお前はいつもそう単純なのだ。
作戦は敵の状況をしり、こちらの兵力を確認してから、どのような作戦が最善かを考えるのだ。
孫子も言っているだろう」
皇甫嵩さんが冷静に袁紹様を諭している。
「あら、今まで私がそう言いましたら、軍師や将軍が華麗にやってくれてましたわよ」
「そうか」
皇甫嵩さんはちょっと溜息混じりに話を続ける。
「それでは、華麗な行動をとってきた軍師や将軍に聞いてみることとするか。
今回私の連れてきた兵は約4万。
これに袁紹軍の応援を加えて敵の撃破にあたることとなる。
まずは、袁紹軍で参戦できる人数や装備などを聞きたいのだが」
皇甫嵩の問いかけに沮授が答える。
「袁紹軍の現有勢力は約20万。
現在黒山とやや交戦状態にありますから、全軍を出すことはできません。
最低限の防衛隊は残す必要があります。
黒山の規模からして2万残せばいいでしょう。
ですから、出撃可能なのは18万、内騎馬隊が5万です。
兵糧は20万人が10年戦っても備蓄だけで間に合います」
何気に袁紹軍すさまじい!
「そうか。さすが麗羽、"華麗"な軍だな」
皇甫嵩さんもお世辞をいうらしい。
「オーッホッホッホッホ。当然ですわ」
「それでは、現在の敵の状況だが、数は約100万だと言われている。
だが、それが一丸となって戦っているわけではないから、集団毎に撃破していけば対応できるだろう。
あとは進軍してその都度状況を確認、随時適切な戦術をとることにするのがよいと思うが」
「おー、腹が鳴るぜー!」
「文ちゃ~ん、それをいうなら腕がなるだよう」
「そ、そうともいうな!」
文醜が嬉しそうに、でも顔良の指摘でたら~っと冷や汗を垂らしながら肩をぐるぐる回しているのを、皆(除皇甫嵩)で見て笑っている。
これで方針は全て決まったと思ったが、
「ちょ、ちょっと待ってください」
部屋の隅のほうから男の声がする。
「なんですの?一刀」
「ん?誰だ?お前は」
皇甫嵩の問いかけに一刀は自己紹介をする。
「俺は北郷一刀。麗羽様の下で農業指導をしています」
「ああ、お前が……で、何か意見でもあるのか」
「黄巾党って、もともとは虐げられていた農民達です。
彼等も戦いが好きで戦っているわけではないと思います。
彼等が平和に働けて、そして働きに見合った充分な報酬を約束できるなら、彼等も戦いを止めると思います。
幸い、麗羽様の領地は華麗な政をしていると評判ですから、今後この土地は麗羽様が華麗に治めるからもう戦はやめろ、今までのことは不問に処すと言ったら、必ずや投降すると思います。
それに、黄巾党の人間を殺戮したら、今後の生産活動にも影響してしまいます。
この作戦は、麗羽様の軍隊が活躍をするのでなく、麗羽様がいる、それだけで人々が付き従うという華麗な麗羽様にしかできない作戦なのです」
「オーッホッホッホッホ。いいこと言いますわね。
早速、その通りに執り行いなさい!」
「ちょっと待て、麗羽。物事そんな単純にはいかぬだろう。
一刀とやら。本気でそんなこと出来ると思っているのか?」
一刀は歴史の知識を呼び起こす。
(曹操は青州軍を取り込むときに、食料に困窮していた彼等に食料を供給、交渉することで黄巾党を降らせていたはずだ。
今回も条件さえ整えば降伏するに違いない。
現時点では彼等は食料に困窮しているとは思えないし、青州軍と違って内部に投降しようという動きが全くないのが厳しいところだけど、というより決定的にまずい点だけど、麗羽様の善政は伝わっているだろうから、それだけでも投降する可能性大だ。
説得方法さえ間違えなければうまくいく。
…………多分)
「はい、そう思います」
「そうか。では麗羽が黄巾党の前にたって、投降を呼びかければそれに従うというのだな?」
そ、それは、火に油か爆弾を注ぐような気がする。
「いえ、麗羽様は業で朗報を待っていればよいと思います。
華麗な麗羽様がわざわざ黄巾党ごときが反乱を起こしている地に出向く必要はないと考えます。
降伏して、それから土地が豊かに、華麗になってからお出でになればいいと思います」
「では、誰が降伏を勧めるというのだ?」
誰って……?
参謀じゃ説得力不足だから、将軍かな。
となると、二枚看板と言われている斗詩さんか猪々子さんが適当だろうけど、性格から考えて……
「斗詩さんが適任だと思います」
全員の視線が一斉に顔良に向く。
「え?え?私?
そんな大変な役、できないよう。
戦うほうが楽だよう」
「いえ、斗詩さんならできると思います。
というよりも、斗詩さんしかできる人がいないと思います」
「そんなこと言われても困るよう……
そうだ。口のうまい一刀さんが行けばいいですよ」
「へ?俺?」
まさか我が身に戻ってくるとは夢にも思っていなかった一刀。
「そうですよ。いつもれぇぇえ~っと、説得するのが難しい人と交渉しているでしょ?
絶対適任です!」
「そ、そんな。俺、ただの農業担当ですから。
やっぱり袁家の代表となるには将軍でないと……」
袁紹がこの口論に決着をつけてくれた。
「二人で行けばよいではありませんか」