幇間
幇間【ほうかん】
宴席やお座敷などの酒席において主や客の機嫌をとり、自ら芸を見せ、さらに芸者・舞妓を助けて場を盛り上げる男性の職業。太鼓持ち。
顔良の言うとおり、田豊、沮授は最初入った部屋に佇んでいた。
顔良も、案内してくれればいいようなものの、後から興味深そうに付いてきている。
恋の告白でもあると思っているのだろうか?
「田豊さん、沮授さん」
一刀は早速彼女等に声をかける。
「あなたは……」
「天の御使いの……」
「ええ、一刀です。ちょっとお話をしたいのですが、いいですか?」
「ええ」
「構いませんが」
「二人とも優秀な参謀だったと記憶しています。
でも、城内の雰囲気から二人ともその能力を出しているとは思えません。
どうしてその能力を発揮しないんですか?」
およそ原因は分かっているが、念のための確認。
二人は、それを聞いて、一つ溜息をついて、それから田豊が話し始める。
「昔は色々やったんですよ。
農業改革とか政治機構の改善とか。
でも、だんだん国が大きくなってくると麗羽様は何でもできる気になってしまって、華麗でないと思うものは何も取り上げてくださらなくなってしまって……
それでも提言をつづけたら、今度は牢に入れられてしまって。
『菊香、うるさいですわ。すこし牢で頭を冷やしなさい』とか言って。
ようやく牢から出してはもらえたんですけど、もう何もする気が起きなくって……」
牢に入れられるって、確かもっと先(官渡のあたり)だったような。
発生するイベントはなんとなく史実にあっていることもあるようだけど、順序や時期は全くめちゃくちゃだということがわかった。
「そうですね、菊香、一ヶ月も牢に入れられていましたからねえ」
「今のが田豊さんの真名?」
「ええ、あなたには私の真名を預けるわ。私は田豊、真名は菊香」
「私も預けます。名前は沮授、真名は清泉。よろしくお願いします」
「こちらこそよろしく。
で、さっきの話に戻るんだけど、君達の提言を俺が麗羽様に言って、それが受け入れられるようにしてもらうといいと思うんだけど。
俺はあんまり政治経済軍事に詳しいわけじゃないけど、麗羽様、俺のこと天の御使いって思ってるから、きっと俺のいうことなら聞いてくれると思う」
田豊、沮授は一刀をじっと見つめる。
「そうねえ。天の御使いだから、もしかしたらうまくいくかもしれないわね」
「菊香、だめもとで頼んでみたらどうでしょう?」
「わかったわ」
「それで、一度にたくさんってのは難しいとおもうんだけど、まず何からやればいいんだろう?」
「えーっと……まず、軍事演習かしら?」
「賛成!」
今まで黙って聞いていた顔良がそれに相槌を打つ。
「軍事演習?今より厳しくするっていうこと?」
「違うわ。軍事演習を"する"っていうことよ」
田豊の説明に、沮授と顔良が深く頷く。
「………………それって、もしかして」
「ええ。今の軍隊は朝から晩まで遊んでばかり。少しは軍事演習をしないと流石にまずいでしょう。今の状態で勝てたら奇跡だわ。
今までは近隣にそれほど強い勢力がいなかったからまだもっていたけど、最近、曹操とか力をつけてきているから、攻め込まれたら一瞬で負けてしまうわ。」
すごい!その状態で戦争をしようと試みるなんて!
でも、公孫讃(正字は瓚)って袁紹に負けたんだよな。
よっぽど恋姫公孫讃は弱かったんだな。
「わかった。何とか説得してみる」
「おねがいね」
「お願いします」
一刀は、顔良と共に早速袁紹の許を訪れる。
「麗羽様」
「あら、一刀。なにかしら?」
「あの、早速なのですが、相談があるのですが、今よろしいでしょうか?」
「ええ、よろしくてよ」
袁紹の傍にいたのは、文醜。それに顔良を加えた3人はだいたいいつも一緒だ。
「軍隊に演習をさせてみてはどうでしょうか?」
「軍事演習ということですか?」
「ええ」
「その必要はありませんわ。
この袁家軍が負けるはずがありませんわ。
華麗な演習も不要ですわ」
「ええ、もちろんそのとおりだと思います。もう、戦になったら連戦連勝。流石は麗羽様の軍隊です」
「オーホッホッホ、そのとおりですわ」
「ですが、ちょっとお考えください。戦でないときは朝から晩まで酒を呑んではだらしない姿を兵隊が晒しているのです。
ええ、彼等が戦に出れば最強なのはよく存じております。存じておりますが、さて市井の人々がそんなだらしのない兵隊をみてどう思うでしょうか?
麗羽様は華麗だけど、兵隊はあまり華麗ではないなぁと思うのではないでしょうか?
やはり、華麗な麗羽様は、所有する軍隊も華麗でなくてはなりませんよね」
「もちろんですわ!」
「彼等が常日頃華麗に軍事演習をしていたら、それを見た人々はきっとこう思います。
ああ、やはり華麗な袁紹様の軍隊だ、とても華麗だ。
そして、麗羽様の評判がますますあがるのです!」
「斗詩!猪々子!早速軍事演習なさい!」
「え~?面倒くさいよう。
あたいは暴れるのは好きなんだけど、訓練みたいな面倒なのは嫌いなんだ」
文醜の反応は予想通り。
「文ちゃ~ん、演習したほうがいいよう。最近遊んでばかりだよう」
顔良は一刀を支援する。
「猪々子、そのとおりですわ。これは私の命令です。しっかり演習するのですわよ!」
「へえへえ」
ここで一刀は演習の方法も提案する。
「麗羽様、斗詩さんと猪々子さんを別々に訓練させて、1ヵ月後に二つの軍を勝負させ、勝ったほうにご褒美をあげるというのはどうでしょうか?
麗羽様のご褒美があれば、皆やる気がおこるというものです」
「そうですわね。では、そういたしましょう。褒美は……何か考えておきますわ。
斗詩、猪々子、わかりましたわね!」
「へえへえ」
「はい、わかりました!」
と、うまい具合に軍事演習を行わせることに成功した一刀は退室する。
「うまくいった、うまくいった」
一刀は結果を田豊、沮授に報告に行く。
「本当ですか?」
「あの、麗羽様が?」
「うん、そうすると華麗になるって言えば、あの人単純だからすぐその気になる」
「でも、最近は"華麗に"だけではうまくいかなかったのですけど」
「華麗だという理由付けが重要なんじゃない?」
「なるほど」
「理屈はわかりますけど、それにしてもうまくいきましたね」
「なんとなく、あの人の思考過程がわかるんだよね。
似たような人を知っているから」
それはゲーム中の袁紹だが。
「だから、これからも俺たちが滅ぼされないように一緒に頑張ろう!」
「ええ」
「こちらこそおねがいします!」
こうして、強い絆で結ばれるようになった3人である。
さて、一人になった一刀のところに、文醜が訪れる。
「なあ、一刀ぉ」
「なんですか?猪々子さん」
「お前の所為で面倒がおこったじゃないかぁ。あたいは面倒くさいのが嫌いなんだ。
もう、あんまり面倒おこさないでくれよぉ」
「何言っているんですか、猪々子さん。あなたのためにこの演習を考えたのに」
「あたいのため?」
「ええ。知らないんですか?斗詩さん、文ちゃんが私より強かったら私のこと好きにしていいのに、って言っていたの」
「ほんとか!?」
「ええ。だから、この演習で斗詩さんの軍をけちょんけちょんにやっつけたら、きっと、文ちゃんって強いのね、私のこと好きにしていいわ、って言うに違いありません」
「よっしゃー!がんばるぞー」
「軍師はいりますか?」
「そんなもん、いらない!あたいの力だけで充分だ」
「それじゃあ、頑張ってください」
「おー!」
ニコニコ顔で帰っていく、袁紹並に単純な文醜であった。
更に少し経ってから、今度は顔良が訪れる。
「一刀さん、どうもありがとうございました」
「何がですか?」
「私も演習をしなくちゃって言っていたんですけど、全然駄目で……
ああいう風に言えばいいんですね。参考になりました」
「ああ、そのことですか。麗羽様にこの乱世を収めてもらいたいだけですから、当然のことをしたまでです」
「でも、文ちゃんはちゃんと演習するかしら?」
「大丈夫だと思いますよ。でも、そのためにちょっとお願いがあるんですけど」
「私でできることならお手伝いしますけど」
「斗詩さんにしかできないことです」
「それは?」
「ええ、さっき猪々子さん、ここに来たんですよ。面倒くさいのはいやだって文句を言いに」
「ですよねぇ」
「だから、言っておいたんです。斗詩さん、猪々子さんが自分より強かったら、自分を好きにしていいって言っていたって」
笑顔で固まる顔良。
「だから、もし負けたら猪々子さんのいいなりになってもらいたいんですけど。
一夜だけでいいですから」
「えーーーー、そんなあ」
「菊香さんか清泉さんを軍師につけていいですから。確かものすごく優秀ですよ」
「………それだけ?」
「きっと大丈夫ですよ。猪々子さん、突撃するだけしか攻撃方法がないですから」
「本当に?」
「あとは、、、、頑張って勝って下さい!」
「えーーーん……負けないんだから!!」
こうして、顔良も勝利に強い決意を抱くのであった。