崩御
冀州は平和な日々が過ぎていたが、都洛陽では大事件が持ち上がっていた。
皇帝霊帝の死。
そして、その継承で権力争いが勃発する。
あの何大将軍の妹で霊帝の妻、何大后が推す少帝弁と、霊帝の母董太后の推す劉協。
だが、この争いは結構あっけなく終わった。
十常侍ら宦官の主流派も推す劉協を董卓が支援、何大后、少帝弁の一派を武力で殲滅させた。
こうして、劉協が皇帝となった。
崩御した後に諡号が与えられ、献帝と呼ばれる皇帝である。
劉協はまだ皇帝に即位したばかり、これに対し宦官は海千山千の権力闘争の中に生きてきた人種で、皇帝が勝てるはずが無い。
今までは何太后のわがままを優先させ、自分たちの栄華を自由にできなかったが、とうとうその箍が外れた。
もう、何をやるのも自由だ。
こうなってしまうと劉協を推した董太后の力も全く及ばなくなってしまう。
こうして、宦官と董卓が結託して今まで以上の悪政を敷くようになった、という知らせが届いた。
董卓が洛陽に来たときには宦官は袁紹が全滅させていたはずで、それは違うだろう!と思うのだが、この袁紹が宦官を殲滅させるとは思えないから、この世界ではありそうな話ではある。
華ルートの洛陽状況なのだろう。
恋姫仕様では……宦官が牛耳っていたかな?
きっと、気の弱そうな董卓が皇帝になったばかりで右も左も分からない献帝と共にいいように操られているのだろう、非難の目を宦官から董卓に向けるために無理やり連れてこられてしまったのだろう、と一刀は思うが違うと困るのでとりあえず公には伏せておくことにする。
本当に董卓悪人かもしれないし。
こういう話を聞くと、元々宦官嫌いの袁紹である。
「宦官も董卓も殺っておしまいなさい!!」
あっさり命令が下される。
華麗でない命令を出すのは珍しい袁紹である。
珍しく真の怒りがにじみ出ている。
「はい!」
軍師達が大方針に従い、戦略の仔細を詰めていく。
今日は袁紹も同席していて、少しやりづらい。
……かなりやりづらい。
が、袁紹もそれだけ真剣だということだろう。
それにしても下々の者の苦労も理解してもらいたいものだ。
「まず、諸侯に書簡を送り、同盟して董卓や宦官を討つか確認します」
と、田豊が提案するが、
「どうしてそんなに悠長なことをするのですか!
宦官や董卓くらい我が軍のみで十分でしょう!」
と、けちをつけられてしまう。
史実では宦官を全滅させたそうだから、宦官相手だと意気込みが違うようだ。
恋姫袁紹とは、ちょっと違いそうだ。
「はい、それはそうですが」
「なら簡単です。全軍直ちに侵攻ですわ!」
やはり、田豊は苦手としているものがあるようだ。
他の軍師は触らぬ神に祟りなし、といったところで、田豊かわいそうだ。
これじゃあ、確かに牢屋に入れられるかもしれない。
「ちょ、ちょっと待ってください、麗羽様」
「なんですの?一刀」
一刀は田豊の支援を考える。
アドリブで必要性も十分にわからない状況で袁紹の気に入る言葉をつむぎだすのは……レベルたけー!
おまけに、現在の状況は恋姫からも史実からも想定できないので、その辺の知識は全く役にたたない。
でも、田豊が他の諸侯に同盟するかどうかを確認すると言うことは……必要なんだよ。
なんでだ?
って、聞くわけにもいかないから、適当にそれらしい理由を考えて……
多分、洛陽を落とすには袁紹軍をかなり投入しなくてはならないから、背後を撃たれたり裏切られたりするのを防ぐためだろう。
違ってもいいや。それが理由で説得理由を考えよう。
とは言っても、今日は普段と麗羽様雰囲気が違う。
華麗では通じない気がする。
命令自体に華麗が入っていなかったから。
となると、説得方法は華麗では多分駄目で……恋姫ストーリーを思い出すと
……
……
……雄々しく、勇ましく、華麗に進軍!
これだ!
「たしかに、宦官や董卓軍であれば、今の袁紹軍で十分撃破出来ることでしょう」
「なら進軍ですわ」
「ですが、それを単独でやってしまうと、今度は諸侯が麗羽様が董卓のように悪政を敷くのではないかと疑心にかられてしまいます」
「そんなこと、この私の華麗な政を見れば無いと言うことくらい分かるではありませんか!」
「はい、俺や実際に麗羽様の政に携わった人々はよく知っています。
が、世の中まだまだ麗羽様の華麗さを知らない諸侯も多くいることでしょう。
そのような諸侯は、麗羽様の軍を影から襲ったり、麗羽様の留守の間に冀州を襲ったりするかもしれません」
「……それで?」
「そこで、先の菊香の発言です。
事前に諸侯の同意を取り付けておけば、そのような離反者がでることはありませんし、なによりも大陸全部が一致して宦官や董卓軍にあたるのです。
これはもう、諸侯が一致して麗羽様のすばらしいお考えに惹かれて、雄々しく、勇ましく、華麗に進軍していくのです。
これほど素晴らしいことがありましょうか!」
「……雄々しく、勇ましく、華麗に進軍。
雄々しく、勇ましく、華麗に進軍!
一刀!早速諸侯に書簡を送るのです!
併せて、出陣の準備も怠らないように!!」
「はい!」
……ああ、疲れた。
菊香が微笑みかけてくれるのがせめてもの救いだ。
「それでは、続きを。
洛陽で宦官と董卓を倒し、劉協様をお救いします」
戦の方針について、田豊が続ける。
が、ここで逢紀が異を唱える。
「待っておくんなまし。
漢の皇帝の権力はもう風前の灯。
放っておいても消えてなくなってしまうでありましょう。
それを麗羽様が延命なさる必要はないと思うのでありんす。
それよりは麗羽様が新たに国を興して皇帝を名乗ったほうがよいでありんす」
「この私が皇帝……」
逢紀の言葉を聞いた袁紹、まんざらでもないようににんまりと笑う。
宦官は嫌いだが、だからといって今の皇帝が好きなわけでもない。
史実では劉虞を皇帝に立てようとしたくらいだから、自分が皇帝になる機会があれば拒否はしなそうな袁紹である。
「それもいいですわね」
「お待ちください!」
「なんですの?菊香」
「それでは出陣の義がございません。
やはり、ここはまず劉協様をお救いするのが第一かと」
「それも言えますわねぇ」
「それに麗羽様が皇帝になるために軍を進めるとあっては、諸侯も賛同しないでしょう」
「董卓を倒してから皇帝を宣言すればよいでありんす」
「それはいいですわねぇ」
「お待ちください。麗羽様が皇帝になるかどうかは劉協様をお救いしてから考えればよいこと。
ね、一刀もそうおもうわよね?!」
ちょっと一刀遣いがうまくなってきた田豊である。
全員の視線が一刀に集中する。
参謀でも何でもないのに、と不満を思いながらも歴史を紐解いて一刀の意見を述べる。
「確かに菊香、逢紀さん、何れの意見にも採るべき点があると思います。
ですから、それぞれの意見を採った場合の欠点を考えてみればよいと思います。
菊香の言うとおり劉協様をお救いすれば麗羽様が皇帝になる時が遅れてしまいます。
これは逢紀さんの仰るとおりです。
一方、逢紀さんの意見を採った場合を考えて見ます。
麗羽様がお救いしなくても劉協様はいらっしゃいますから、どこかの諸侯が劉協様をお救いになるでしょう。
例えば曹操様。
そうすると、劉協様を頂いた曹操様から漢の皇帝としての勅令が発せられるかもしれません。
『麗羽、あなたを冀州、幽州、并州の牧に命じるそうよ。私は大将軍だけどね。フフ』
た「劉協様をお救いするのです!!」しかに漢の皇帝の権威は…………はい」
袁紹の頭から湯気が昇っているようにも見える。
こうして、軍議は田豊の意見がほぼそのまま通る形で決着した。
「好き好きだ~い好き!
もう、一刀最高よ!」
部屋に戻るなり、一刀にダイビングして閨に押し倒す田豊。
そしてキスの嵐を降らせる。
「どうしたんだよ、菊香。そんなに積極的になって?」
と答える一刀の服は、もうほとんど脱がされている。
質問はしているが、理由は大体分かっている一刀だ。
こちらも嬉しそうに田豊の服を脱がしている。
「だって、あの麗羽様の御前で私の意見が通ったのよ!
しかもあの太夫の意見を退けて!
こんな嬉しいことないわ!」
「最初に約束したじゃない。
俺たちが滅ぼされないように一緒に頑張ろうって」
「知ってるけどうれしいの!
もう、一刀なしではいられない!
今まで冷たくしてごめんね。
今日はたくさん喜ばせて!
私の体中一刀の喜びで満たして!!あぁっ……」
「もちろん!!」
「私も一緒に……」
「うん、清泉、3人で楽しもう」
その晩はいつになく激しく交わり続けた三人であった。
ようやく一刀の冬が終わりを告げたようだった。