吉原
翌日のこと。
田豊と沮授の元を逢紀が訪れる。
「菊香はん、清泉はん、お願いがありんす」
「何かしら?」
「一刀はんを今晩貸していただきたいでありんす。
お礼をしたいでありんす」
「お礼?」
田豊は、昨日の会議で意見が取り上げられず、昔のような不仲になったのではと緊張したが、どうやらそうではないらしい。
「昨日の軍議での一刀はんのご意見はもっともでありんした。
あちきの思慮の浅さを見に染みて感じたでありんす。
そのことを気付かせてくれた一刀はんにお礼をしたいでありんす」
「そう。それ自体はいい考えだとおもうんだけど……」
「お礼って具体的に何をするのですか?」
………
……
…
…
一刀はいつものように夕食を終え、部屋でくつろいでいる。
あとは田豊と沮授が来て、寝るだけだ。
本を読んだりすることもあるが、そういうことは夕食前にすることが多いので、この時間はあとは寝るだけ。
灯りはあるが、電灯とは違って煌々と明るいわけではないから、何かやろうと思ったら日の光の下でやったほうが効率的だ。
燃料代も節約できるし。
その代わり朝は早い。
本当にお日様と共に生活をしているのが実感できる生活習慣だ。
そこに、田豊、沮授が入ってくる。
が、二人とも妙にかりかりしているように見える。
「許してあげます」
沮授が例によってそれは穏やかに話し始める。
こういうときはだいたい碌なことがないが、今日に限っては思い当たる節がない一刀である。
だいたい、昨日春になったばかりではないか。
ということは、何かあったとしたら今日のはずだが、と必死で自分の行動に思いを巡らせる。
「な、なにを?」
どきどきしながら、その内容を確認する。
「女遊びも男の甲斐性なんでしょうから、たまには許してあげます」
「は?女遊び?全然やったことないけど……
何かの間違いじゃないの?」
と、身の潔白を証明しようとする一刀に、田豊が
「関羽さんや趙雲さんや柳花は遊びじゃないのね?真剣なのね?」
と、昔の傷を掘り起こしてくる。
「ああ愛紗さんは昔のことじゃんか!
星や柳花さんは俺の意志は関係ない!
最近は二人だけだ!」
「そうだったわね。でも、私たちが許すのはそのことじゃないの。
今日のことなの」
「今日?」
やはりどう考えても思い当たる節がない。
「これから太夫の部屋に行きなさい!」
「逢紀さん?どうして?」
「一刀にお礼をしたいんですって!
彼女なりに真剣に!
一晩かけて!!」
ようやく状況を理解した一刀。
「………それって行かなくちゃならないのか?」
この二人に見送られながら逢紀の部屋に行くというのも、なかなか酷な状況である。
そこまでして他の女と遊びたいとも思っていないし。
「私たちだって行かせたくないわよ!!
でも、彼女なりに考えた結果だし、折角仲違いが解消していることだし、妻は二人までという法があるわけでもないし、彼女のお願いも無碍にもできないし、それに女が真剣に男を誘いたいと私たちに事前に尋ねられたら流石に断り辛いし……」
「だから、許してあげます。
でも、だからといって何をしてもいいわけではありません。
側室を設けてよいというわけでもありません。
節度を守って女遊びをしてください。
いいですね?」
こうして逢紀の部屋を訪れることになった一刀であった。
女遊びってこんなに辛いものなのか?と疑問を抱きつつ。
逢紀の部屋は、もう入り口からして違う。
朱塗りの立派な入り口、朱塗りの格子、臙脂の暖簾、たくさんの提灯。
どう見ても吉原の遊郭。
「こんばんわ……」
恐る恐る中にはいってみると、そこは江戸。
畳、金屏風、床の間、掛け軸、真っ赤な襖。
時代劇の吉原の風景そのままだ。
「おこしやす」
逢紀が三つ指ついて出迎えている。
思わず、どきっとしてしまう一刀である。
いつくるか分からない一刀のためにずっとその姿勢で待っていたのだろうか?
「入ってよろしいでしょうか?」
女性の部屋に入るのは、初めてなので妙に緊張する。
考えてみれば、田豊、沮授の部屋にすら入ったことがない。
「もちろんでありんす。
今日はあちきが一刀はんをおもてなししたいよって、ゆるりとしておくんなまし」
「はぁ……」
一刀は靴を脱ぎ、部屋に入る。
部屋には座布団が敷かれているので、そこに座る。
脇息(肘置き)なんて、生まれて始めてみた!
正座して緊張するのも逢紀さんに申し訳ないから、ゆるりとそこに座ることにする。
脇息は初めて使ったがなかなかいい具合。
でも、心の底からゆるりとするのはなかなかに無理。
ちょっと、いやかなり緊張しながら逢紀やあたりの様子を眺めている。
部屋は、花が生けてあったり香が焚いてあったり優雅な雰囲気を漂わせている。
掃除も行き届いていて、塵一つ落ちていない。
「ずいぶん、風雅な雰囲気ですね」
「気に入っていただいて嬉しいでありんす」
「いつもこんな雰囲気なんですか?」
「そうですえ。
いつご客人が来ても歓待できるよう準備をするのが、華麗の極意。
部屋にも身だしなみにも手間隙を惜しんではならないのでありんす」
「逢紀さんって結構努力しているんですね。
意外でした」
「もちろんでありんす。
それを樹梨亜那はんは努力せんと肌を見せれば華麗という始末。
あちきは許せないでありんした。
菊香はんや清泉さんに至っては華麗を否定する有様。
決して交わることはないと思っていたのでありんした」
「……いつぞやはご迷惑おかけしました」
過去の行動を思い出して謝る一刀。
「いいのですえ。
あちきも小さなことで諍いをしていたと目が覚めたようでありんした。
これからはあちきのことは太夫と呼んでくんなまし」
「いいんですか?」
「昨日のお考えも、あちきの真名を許すに足るお方とお見受けいたしやす。
是非、真名で呼んでくんなまし」
「それでは……太夫さん」
「あーいー?」
そそっと品を作って一刀に寄り添い、上目遣いに見上げる逢紀に、思わず胸ときめいてしまう。
「ああああの、今日はお礼をしてくださるとか……」
「そうでありんした。
それでは唄を聴いておくんなまし」
逢紀は部屋の隅から三味線をとりだしてきて、
ベン
ベベン
♪はぁな~~~~~~の~~~~~~~~~~~~~
ほぉか~~~~~に~~~~~~は~~~~~~~~~~
三味線の弾き語りを始めるのだが……
辛い。多分うまいんだけど辛い。
テンポが眠りを誘う。
これを聞き続けるのはちょっと厳しい!
そんな雰囲気を察したのか、逢紀は唄を止め、
「唄はお嫌いどすえ?」
「えーっとーー、嫌いというか何というか……」
「わかりんした。
もう、一刀はん、せっかちなんでありんすから」
「え?何が?」
とにっこり笑って襖を開く。
お約束のように一つの布団に枕が並べて置いてある。
「いや、あの、その……」
「ゆっくりしていっておくんなまし」
どぎまぎする一刀に逢紀は微笑みかける。
これで、逃げる機会を失ってしまった一刀は、逢紀の様子を見続けている。
打掛を衣桁に掛け、鬘をとり、髪を解き、化粧を落として、残った襦袢などを一度にふぁさっと脱ぎ落とす。
鬘だったんだ。
実際の花魁は本人の髪だったと思うけど。
中から出てきたのは、意外にも地味目の女性。
雰囲気は恋姫の中では孫権に近いか。
髪は鬘の所為か比較的短め。
背もそれほど高くはない。
が、逢紀の特徴はなんと言ってもそのスタイルのよさと黄忠並みの爆乳。
着物の下にこんな宝石が隠されていたとは!
「さ、まいりゃんせ」
逢紀は立(勃)ち尽くす一刀を布団に連れて行き、そこで服を脱がせていく。
一刀は逢紀の行動に為すがままになっているが、布団に入っても事を起こそうとしない。
「抱いてはくださらんのでありんすか?
あちきは魅力的ではありやせんのか?」
心配そうに尋ねる逢紀に、一刀は、
「そんなことない。
とっても美しいよ。
でも、俺には菊香や清泉がいるから」
節度でどうにか自分の欲求を押さえ込んでいる。
「うふふ。一刀はんはお優しいのでありんすね。
菊香はんも清泉はんも幸せもんでありんす。
そういうことでしたら、あちきも無理強いはいたしやせん。
その代わり、一度だけ口付けをしてよろしいどすえ?」
「うん」
一刀の肯定の返事に、逢紀は一刀の上にのって、突起物を脚で挟み込み、丁寧な口付けを始める。
長めの舌で、それは丁寧に一刀の口を刺激する。
口への執拗な愛撫、胸に押し付けられる爆乳、挟み込まれる下半身。
健康な男子が耐えられる刺激ではない。
一刀の節度は一瞬で吹っ飛んでしまった。
「あん、一刀はん、はげしすぎます……」
あとがき
オリキャラとしかしていないという話もありますが、袁紹軍にいると恋姫キャラは3人しかいないので、他軍と交わっていないときはオリキャラでごまかすしかなく、こういうことになってしまいました。
まもなく連合軍ができるので、多少は恋姫キャラも登場すると思います。