宴会
その晩は顔良の言っていたとおり宴会が催された。今晩、宴会!と言って、これだけの料理を揃えられるとは、やはり袁家の厨房、伊達ではない。
「オーッホッホッホ、天の御使いを拾ったということは私の華麗な未来が約束されたということですわ。
みなさん、私の華麗な未来を祝して乾杯ですわ」
「かんぱ~い」
やはり、袁紹のテンションは異様に高い。だが、今日は文醜、顔良のテンションも妙に高い。
「フフ、斗詩、そのきれいな体がとうとうあたいのものに!」
「ふん、文ちゃん、簡単に勝てると思わないことね!」
二人のテンションの高さに、他の家来たちは不思議そうな表情をしている。
「一刀さん、何かしたんですか?」
一刀の隣に座っている田豊が不思議そうに尋ねる。
「ええ、ちょっと二人ががんばるようなおまじないを」
「すごいですね」
「3人でこの国を盛り上げようと誓ったではないですか」
「一刀さんがいてくださるならなんとかやっていけそうな気がします」
「私も」
反対側に座っている沮授も相槌をうつ。
今の一刀、諸手に花状態だ。
顔良の好意か勘違いか知らないけど、思わずにやけてしまうのを止めるのが難しい一刀である。
さて、料理に目を向けてみよう。
「これは……何?」
差し出された白い飲み物を飲んだ一刀の感想である。宴会だったら酒だろう、と思うのだがどう考えても甘くない甘酒というか、米か何かのジュース。あまり酒っぽくない。
「お酒ですけど」
「酒ぇ?これが?」
「ええ。なにか?」
酒といわれた飲み物はノンアルコール白酒にしか見えない。一刀は過去の知識を総動員する。
この時代の酒は……確か醸造技術が進んでなくて度数1%程度の酒を造るのが限界だったか?
って、恋姫では強い酒が出てきているようだけど、酒だけリアル?
「そうですよね。ええ、酒ですよね」
これじゃあ酔えねえ!一体酔うためにはどれだけ呑めばいいんだ?
ノンアルコールビールで酔うようなものだから、缶ビール1本で酔うとしてもアルコール度数が5倍は違うから、350ml缶換算で5本は飲まないと。
缶ビール3本で酔っ払うとすると15本!
酔う前に腹が破裂する。
……確かに厳顔は朝から晩まで呑んでいたけど酔いつぶれてはいなかったようだ。
ということは酔うのは困難?
そうだ!蜂蜜酒は度数が高いはずだ。確か10度を超えるくらい。
でも、ほとんど出回っていないんだろう。蜂蜜自体が高級品だから。
もしかしたら、強い酒と言っているのは蜂蜜酒かもしれない。
それにしても、この時代の蜂蜜酒の度数は高かったのだろうか?
ともかく、あとでもっと度数の高い酒を造ろうと決心した一刀である。
というわけで、食事に中心を移すことにする。
食事は……うん、おいしい。普通においしい。
別段異国風味の変わった味付け、香りということもなく現在日本で出店しても繁盛しそうなおいしさだ。
価格にもよるけど。
袁紹さんが出店したら「オーホッホッホ。華麗な料理は華麗な値段ですわ」とか言って、べらぼうに高い値付けをして、客がこなそうな気がする。
古代の宮廷料理では、ゲテモノを珍味と食することがあったらしいけど、そんなものはないので安心。
よかった。
だって、皇帝しか食べられない珍味です、とかいって生きている蚕の幼虫がうじゃうじゃ皿に入っていたら卒倒してしまうもん。
本当によかった。
おいしいはおいしんだけど、リアルとは程遠い。
ジャガイモはあるしサツマイモはあるしピーマンはあるし。
この時代にあるとは思えない食材だらけ。
さすが恋姫三国志。
豚肉、牛肉は理解できるけど。
加工食品がないというのが、恋姫三国志の良心だろうか?
結局分かったことは、何がおこるかさっぱりわからないというのがこの世界だということだ。
持っている歴史の知識も微妙に役立つようなそうでもないようなところだろうか。
宴会の醍醐味は色々な人と話ができること。
麹義さんは肝っ玉母さんといった雰囲気のおばさん。……おばさんって言ったら殺されそうな気がする。雰囲気は厳顔さんのノリ。
胸は厳顔さんといい勝負だが腹回りは圧勝だ。
少なくとも18禁ゲームの攻略対象ではなさそうな体形だ。
馬がかわいそう。
「麹義さんって、ものすごく強い将軍さんですよね?」
「ガハハ。そんな麹義さんなんて堅苦しい。朱雀と呼んでくれ」
「朱雀?!ものすごい真名ですね」
「もちろんだ!最強の将軍には最強の真名だ!」
「朱雀さんはもう戦わないんですか?」
「まだまだ若いものには負けんが、後身に道を譲るという謙虚さも必要だろう」
「朱雀、そんなこと言ってていいのか?
馬にも乗っていないから体がぶよぶよじゃんか。
あたいが斗詩を頂いてからあたいの強さを思い知らせてやる」
「ほう、猪々子も言うようになったものだ」
「大丈夫ですよう、朱雀さん。文ちゃんは私にやられちゃいますから」
「へっへっへ。まあ、今だけは斗詩に華を持たせておこうかな」
武に関してはシビアな将軍達であるが、そのほかはフレンドリーだ。
「文ちゃん、このおまんじゅうおいしいよ」
「どれ?あ、本当だ。それに斗詩のおっぱいみたいにふわふわだぁ」
「も、もう、文ちゃんったら。触ったみたいに言わないでよ!」
「でも、もうすぐ斗詩の生おっぱいを……生おっぱいを……でへへへ」
「文ちゃん、知らない!」
「猪々子、まんじゅうより酒だ!呑め!」
「あ~ん、朱雀さ~ん、そんなに呑めませーん」
荀諶さんは、確か……
「荀諶さんってお姉さんいます?」
「何よ。天の御使いだか何だか知らないけど、いきなりなれなれしくしないでよ。死んで」
間違いない、荀彧の妹だ。
猫耳フード装備済み。荀姉妹のトレードマークなのだろうか?
顔かたち、雰囲気もゲームの荀彧から受けるイメージそのまま。妹だから少し若いか?
胸もないし。
でも、年が若い分、希望が持てるかも。
胸が小さい家系だったらどうしようもないけど。
「いや、その、いきなり死んでといわれても……」
「まあまあ一刀さん、柳花さん、いつもああですからあまり気にしないで。
人付き合いは悪そうに見えますけど、本当は結構優しいですし、王佐の才があるんですよ」
と、田豊がとりなしてくれる。
桂花の妹で柳花ね。
「菊香、うるさいわよ」
「はいはい、ごめんなさいね」
でも、荀彧は曹操にべったりだったんだけど、荀諶は……まさか麗羽と?いや、それはなさそうだ。孤高の参謀なのだろうか?
他にも張合(郃)・高覧・審配など主だった武将、参謀は全て揃っている感じ。
逢紀は田豊と何か仲が悪そう。というより、逢紀はあまり誰とも仲良くない感じ。
郭図は、確か碌な策を出していなかったはずだから、ちょっと注意しないと。
陳琳には曹操の悪口でも書いてもらうといいかも。
ここにいない武将、参謀は広い領土に散らばっているんだろう。
そんなことを宴会で知った一刀である。
夜、支給された寝巻きを持って風呂に行く。
丁度、旅館で浴衣を持って風呂に行くのと同じ雰囲気。
支給された服も、何となく浴衣っぽい。文官の衣装の様でもある。
寝巻きだからなんだろうけど。
下着は……そういうものがないらしい。
みんな服の下はすっぽんぽん。
ということは、褌娘と半ズボン娘以外は、あの下何もなし?……でへへへ。
ま、まずい。文醜さんがうつった。
一刀が風呂に入るのは最後ということに決まった。
誰かと風呂で鉢合わせしないように、女性が入っているときは女の看板をかけることにした。
そして、一刀が入るときは男の看板。
風呂の入り口は民宿仕様に変わってしまった。
これで、男女が問題なく風呂に入れるようになったので、一刀も安心して風呂に向かう。
「はぁ~~……」
やはり風呂はいい。
体が休まる。
旅館の風呂っぽいけど、入れれば何でもOK。
本当に、古代中国の城という印象がすくない生活だ。
それにしても一体これから何が起こるのだろうか?
まあ、できる限り袁紹さんを助けよう。
湯船に浸かりながらそんなことを考えている一刀であった。
こうして、恋姫三国志をリアルにしたような世界にやってきた初日が終わった。
あとがき
ようやく初日が終わりました。
これ以降は一日にそんなに時間がかからないので、もっと早く進むと思います。
が、黄巾の乱までまだかなりかかりそうな予感ですが。
地道に読み進めてください。