頭痛
一刀が精神的なショックで沮授に慰められていたとき、別の要因で頭痛を抱えていた人間もいた。
「いたーい、いたーい。いたいよう!!
あ~ん、愛紗ちゃん、朱里ちゃん、あたまが痛いのーーー!」
「どうなさったのですか?桃香様」
「昨日、星ちゃんと一緒にお酒を飲んだの。
それが、ものすごく強いお酒で二日酔いで頭がいたいのぉ!」
「桃香様が二日酔いとは珍しいですね」
「一刀ちゃんが作ったお酒なんだって。
ウィスキーっていうらしいんだけど……すっごく強いの。
ビールが水に思えるんだから!
あ~ん、いたいよう!!
愛紗ちゃんが一刀ちゃんを連れてきてくれたら治りそうな気がする」
未だ、関羽と一刀をくっつけることに諦めきれない劉備である。
「と、桃香様!そんなことがあるはずないではないですか」
「愛紗ちゃんは桃香ちゃんの頭痛が治らなくてもいいんだ!」
「それとこれとは話が違います!」
「あ~ん、愛紗ちゃんがいぢめるぅ。いたいよう、いたいよう~~」
「知りません!!」
というのが、劉備陣営。
「え?あの子、病気で寝ているの?」
「そうらしい」
話しているのはいけないお姉さん達、即ち孫策と周瑜。
この二人、流石に北の寒さはこたえたようで、結構厚手の服を身に纏っている。
「だったら、私が誠心誠意慰めてあげるのに」
「ふ。冥琳、世間ではそういうことは虐めるというようだぞ」
「そんなことないわよう。
あの子をそれはそれは丁寧に気持ちよくしてあげて、もう出ないと言っても勃たせて搾り取ってあげて、極楽浄土を見せてあげるんだから」
「そして、それをネタに袁紹から金品を巻き上げようというのだろう?」
「失礼ねえ。
極楽浄土を見せてあげた対価と言ってもらいたいわ」
「ものは言いようだな」
「ねえ、冥琳。どうにかあの子連れてきなさいよ」
「そう無理をいうな。きっとまた機会があるから、それまで待て」
「早く慰めてあげたーいー!」
「しかし、慰めるだけでは金品を巻き上げられぬだろう。
雪蓮か誰かが犯されたという事実がないと、恐喝するのは難しいのではないか?」
「あ……そうねえ。どうしよう、冥琳?」
「知らぬ!」
ちょっと頭が痛くなってきた周瑜。
というのが、孫策陣営。
「弦が何本もあったやて?」
素っ頓狂な声をあげているのが李典。字が曼成、真名が真桜。
物作りの天才である。
「そのとおりだ。こんな感じに見えた」
説明をしているのが夏侯淵。
地面に凸凹の三日月のような絵を描いて、弦を三本ほど描き加える。
「けったいな弓やなぁ」
「そのうえ、両の端に滑車のようなものがついていたように見えた」
「滑車?」
「そうだ」
三日月の弓の両端に小さく丸を描き加える夏侯淵。
「滑車やと、弦をかけるんやろから、両側に滑車があるっつうことは………
こんな感じに弦を張るんやろな」
夏侯淵の描いた弦を一旦消して、一往復半させた弦を描く李典。
「……何のために?」
「……わからへん」
「………」
「………っあーー、その弓、手に入れたいなぁ」
「それは難しいだろう。
退却命令があるなり、袋に弓をしまっていたから、袁紹軍で改良した門外不出の弓なのだろう」
「そうやろなぁ。ああ、悔しいなぁ。袁紹軍に負けるなんて」
「許に戻ったら色々作ってみてはどうだ?」
「そう、するわ」
弓を考えて頭痛がしてくる李典。
というのが曹操軍。
そして、一刀が復活した後の袁紹軍でも………
「一刀さん、待っていたんですよ!」
顔良がそれは嬉しそうに一刀に飛びついてきた。
「斗詩さんの方が麗羽様との付き合いが長いじゃないですか!」
「それはそうなんですけど、麗羽様と一刀さんって波長が合うって言うか何ていうか……
とにかく、あの癇癪を何とかしてください。お願いします!!」
一刀は考える。
今回の仕事はレベルが高すぎる。
今までは、何かをやってもらうのにその理由を考えればよかったんだけど、今回は砦が攻略できない言い訳を考えなくてはならないのだから。
だって、どうみたって攻略できてないもん。
言い訳って言ったってねぇ……
「斗詩さん」
「なんですか?」
「今、攻めているのは曹操軍だけですよね」
「ええ」
「それだったら何とか……」
「お願いします!」
一刀は袁紹の許へと進む。
「あら、一刀。もう病気は治りましたの?」
「はい、もう大丈夫です。
ご心配おかけしました」
「そう、それはよかったですわね。
それで、この戦局は聞きましたか?」
「はい、何でもまだ虎牢関を落とせないとか」
「そうですのよ!あれから3日も攻撃しているのに全然落ちないのですわ!
どうにかなさい!!!」
「それなのですが、もう少し待ってはいただけないでしょうか?」
「どうしてですの?早く董卓を倒すためには虎牢関に留まるわけにはいかないではありませんか!」
「そのとおりです。
そして、華麗な袁紹軍が攻撃すればものの半日で攻略できることでしょう!
でも、今攻撃しているのは曹操軍。
曹操さんはちんちくりんで髑髏の髪飾りをつけるような狂った服飾の感覚の持ち主で、華麗でも何でもありません」
「オーッホッホッホ、いいことをいいますわね。
本当のことですわ!」
「ですから、そんな曹操さんが攻撃していてはなかなか落ちないのは道理」
「それでは、私の軍でさっさと攻め落としてしまえば良いではありませんか!」
「それなのですが、今麗羽様はこの連合軍の総大将」
「そうですわ!」
「曹操さんのように華麗でない人間が間近に見る麗羽様を師匠として、麗羽様のような華麗な行動を会得しようと四苦八苦しているのです。
確かに董卓を討つ事は重要ですが、総大将として華麗な軍事・政治を大陸に広めるというのも一つの大事な仕事ではないでしょうか!
今、曹操さんは麗羽様を目標に試行錯誤をしているところなのです。
ですから、ここは総大将としておおらかな気持ちで、今しばらくお待ちください!」
曹操が聞いたら、間違いなく一刀の首が飛ぶだろうという内容で、どうにか説得を試みる。
「ま、そ、そういうのでしたら、もう少し待ってあげてもよろしくてよ。
そうですわよね、この私の華麗さを広めなくてはなりませんものね。
オーーーーッホッホッホ!!」
袁紹の機嫌も直ったようだ。
「でも、それほどは待てませんわよ!
早々に攻略するよう手配しなさい!」
「はい、分かりました!!」
何で俺が?とは、もう考えない奇特な一刀である。
「何とか機嫌を直してくれましたが……言った内容は曹操さんには絶対秘密ですからね!」
袁紹の許から下がった一刀が顔良に念を押している。
「もちろん!ありがとう、助かったわ!」
「斗詩さんも」
付き合いが長いんですから、もう少し麗羽様をおだてて機嫌をとってくださいよう、と言おうとした一刀であるが、顔良の唇に自分の口を塞がれ、続きを言うことはできなかった。
濃厚なキスの後……
「続きはお城に帰ってから。ね?」
顔良の言葉に、田豊・沮授の顔が浮かび、かといって顔良を無下に断るわけにもいきそうになく、ちょっと頭痛がしてきた一刀であった。