恩賞
諸侯に官位をばらまいて、配下のものには恩賞、早い話がボーナスをばら撒いて、さあこれでよいか、と思っている袁紹のところに顔良がやってくる。
「一刀への恩賞?」
「はい。今回は呂布が洛陽に戻ることを阻止した功績が認められると思います」
「そうですわねえ、そういわれてみれば。
それでは彼にも恩賞を…………って、彼にはお給金は出ているのですか?」
袁紹さん、それは酷すぎます。
顔良もたら~っと冷や汗が出ている。
「もちろんです。
農業への貢献が大きいですから」
他にもっと重要な仕事があるが、袁紹の前では言えない。
「それでは、彼にも恩賞を」
「それなんですが、私に考えが」
「何ですの?」
そして、翌日の賢人会議に袁紹が顔を出す。
「一刀」
「はい?」
「此度の虎牢関での活躍、誠に立派でした」
「……何かしましたっけ?」
「呂布が洛陽に戻るのを防いだではありませんか」
「ああ、そういえば……」
他の世界から来たためかこの世界の立場とか名誉とか言うものは全く眼中になく、自分の功績には無頓着な一刀である。
純粋に、袁紹がんばれ!である。
あとは日々を安心して過ごせればそれでよい。
それに、今のままでも日本にいたときより十分贅沢な暮らしだ。
これほど主君に心酔している部下は、荀彧と賈駆と張飛くらいではないだろうか?
…………一刀は心酔はしていないか?
「そこであなたにも恩賞をだすことにしましたわ」
「別にいらないですが。
今のままでも十分華麗な生活を楽しめますから」
「まあ、そう言わず受け取ることですわ。
一刀は田豊と沮授と結婚することを正式に認めますわ。
そして、その仲人をこの私が務めることといたしますわ」
「えっ?!」
さすがに驚いた表情を袁紹に向ける。
次いで田豊と沮授を見てみると、二人も最初は「えっ?!」と驚いた表情をしていたが、すぐに嬉しそうに顔を赤らめて、下を向く。
「結婚式は斗詩が仕切ることといたしますわ。
楽しみにしていいですわよ。
オーッホッホッホ!」
と、本人の返事も聞かずに結婚式の宣言をして帰っていく袁紹。
まあ、日ごろの様子から、拒否はありえないとは皆思っているが。
そんなこんなでこの世界で本当に結婚することになってしまった一刀である。
結婚式はとんとん拍子で進んでしまって、もう今日がその当日である。
田豊、沮授はそれはそれは見事な花嫁衣裳に身を包んでいる。
元々美人な二人である。花嫁衣裳を身に着け、より美人に見える。
一刀も漢の花婿の衣装を身につけて嬉しそうである。
最初に結婚式を行う。
袁紹音楽隊の演奏の許、天地の神に結婚の許しを乞う。
3人とも親はいないので、両親を拝むのは割愛。
次に、一刀の髪を切って、田豊と沮授、それぞれが自分の髪にくっつける。
それから、一刀は赤い糸に結ばれている杯の酒を、田豊、沮授と交互に飲む。
これで無事結婚式は終了。
3人は業の街を結婚披露のために練り歩く。
業の人々も、天の御遣いが結婚すると言うので、爆竹をならして祝福している。
爆竹といっても、まだ火薬がないので本物の竹である。
それをパンパン破裂させながら3人が歩いていくところを声をかけながら祝福している。
時々、間が悪く竹が破裂するのはご愛嬌。
「天の御遣いさま~、ご結婚おめでとーごさいますーー!!」
田豊、沮授とも有名ではあるが、食料に直結していて、なおかつ常日頃畑を歩いている一刀のほうが、今や知名度が高く、かけられる声も一刀へのものが多い。
業は3人の結婚祝い一色に染まった。
3人とも幸せいっぱいだった。
心の底から袁紹に感謝していた。
街への披露も終わり、城内でいわゆる披露宴が始まる。
ここでも3人が主役である。
仲人としての袁紹と共に、一番の上座に座っている。
仲人は未婚でもよいのだろうか?
まあ、袁紹だからどうでもいいだろう。
ここで、袁紹が仲人の挨拶を始める。
「菊香も清泉も前々から正室を名乗っておりましたが、これで本当の正室となりましたわね。
これからも、一刀と仲良くするのですわよ。
一刀もこれで正式に正室が決まったことですから、安心して側室を取ることができますわね。
正室と側室の仲が悪くならないように気をつけることですわ。
オーッホッホッホ!!!」
田豊の持っていた箸がバキッと折れた。
沮授の持っていた碗がぐしゃっとつぶれた。
一刀は急に顔が青くなった。
そして、3人とも顔良が小さくガッツポーズをとったことを知らない。
この結婚はこの一言を袁紹に言わせるための、顔良の苦心の策であった。
正室は無理そうだから何とか側室に!と思う顔良の想いの第一歩である。
顔良、軍師でも通用するかも。
その顔良も、董卓が嬉しそうな表情に変わったことを知らない。
その董卓、皇帝劉協と話をしている。
「月」
「はい、献様」
「あの一刀という男は妖術遣いなのでしょうか?」
「……いえ、そういうことはないと思いますが。どうしてでしょうか?」
「あの男が結婚するのを見ていると、胸が苦しくなるのです。
あの男に抱かれていると心の臓がどきどきしてくるのです。
そして、降ろされると、切なくなって、もっと抱いていてもらいたいと思うのです。
これは妖術の類かなにかをかけられているのではないのでしょうか?」
明らかに恋である。
だが、本当の恋なのだろうか?
董卓共々、洛陽で助けられたときの状態の吊橋効果で恋愛感情を抱いているように錯覚しているだけではないのだろうか?
錯覚でも思い続ければ本物になるから、やっぱり恋なのかもしれない。
何れにしても、現時点で恋愛感情を持っていることには間違いなさそうなので、董卓にとっては最強の、一刀にとっては最悪の片思いの女が一人現れたようである。
「……献様、それは妖術では無いと思います。
そして、その気持ちの理由は、何れ献様ご自身で見つけることができると思います」
「そうですか。
月がそういうのであれば、そうしようと思います」
この会話が皇甫嵩に聞かれなくて、一刀は本当に幸運だった。
聞かれていたら、新婚初夜にして未亡人二人が現れていたかもしれない。
で、結婚式が終わると3人で一刀の部屋に向かう。
結婚前と何も変わらない。
正確には董卓戦を行う前と何も変わらない。
この部屋には、今居ついているのがいるのだが………
「あのさ、恋。
俺たち正式に結婚したから、夫婦水入らずで過ごしたいんだ。
恋が俺を主人と思ってくれる気持ちはうれしいんだけど、今日からは自分の部屋で寝てくれないかなぁ?」
まるで親犬に見捨てられた子犬のようにさびしそうな表情に変わる呂布。
「寂しい」
「あの、さ。気持ちは分かるんだけど、やっぱりここは我慢してもらえないかなぁ?
その代わり、一緒にいられる時間を出来るだけ増やすようにするから」
という一刀の説得でどうにか自分の部屋で寝るようになった呂布である。
これでようやく3人の生活も安泰になった。
よかった、よかった
………というほどゲームの意思は親切ではない。
一週間後の朝………
「………」
「………」
田豊と沮授が閨の足許を見て絶句している。
「恋。どうしてここにいるんだ?」
そう、3人が目を覚ましてみれば、呂布がいつぞやのように足許に丸くなって安心して眠っていた。
「ご主人様と一緒」
「あの自分の部屋で寝てって言ったじゃん」
「寂しい」
「それはわかるけどさ、やっぱり夜は夫婦の時間だから」
「迷惑かけない」
ベッドでは呂布の存在自体が迷惑なんだけど……といいたいが、そこまで冷たくはなれない。
「だからね……」
と、説得を続けようとするが、うるうるした瞳でじっと見つめられ、ふるふると首を振られると、どうにも説得が難しい。
「はぁ……」
溜息をついて説得を断念する一刀。
「何とかしてね!」
「問題が解決するまでは自分の部屋で寝ます」
結婚前と全く変わりがなかった。
あとがき
正室正室とうるさいので、結婚させてしまうことにしました。
って、自分で書いているんですが……Ahaha...
女性関係はひとまずこれで一段落です。
今後暫くはなりを潜める予定です。
断片は時々(頻繁に?)出てきますが。