仲国
「むっきーーーー!!!」
ビールの収益で大いに潤ったのを高笑いしていたのとは逆に、今度はやたらご機嫌斜めな袁紹である。
「どうしたんですかぁ?麗羽さま~」
文醜が不機嫌の理由を聞いている。
「州牧を変えると勅令を下したのに、全員拒否するのですわ!
この私を蔑ろにするのも甚だしいですわ!!」
「まあ、皇帝の権威も落ちてますからねえ」
劉協が聞いたら嘆き悲しむようなことを平気で口にしている文醜である。
「それでも、この私が勅令を下したのですから、従うのが筋というものではありませんか!!」
「もう、州牧はみんな自分がその州の王様だと思っちゃっているんじゃないですか?」
「劉表はこの私に友好的だったではないですか!」
「うーーん……同じ州牧なのに何で指示されなくちゃならないんだって思っているんでしょうねえ」
「むっきーーー!!許せませんわ!!
諸侯にこの袁紹の力を見せ付けるのですわ!!」
「はーい、わっかりましたーー!!」
事実上の宣戦布告の命令を、軽いのりで拝承する文醜である。
実は、諸侯の様子を諜報活動で調べた結果を賢人会議で議論し、もうどうあっても諸侯は皇帝や袁紹に従わないだろうという結論に達していた。
諜報活動は、漢の有しているシステムを使った。
凋落したとはいえ、まだまだ大国である。
こういうところに、やはり漢は大国なのだということを感じる田豊ら参謀の感想であった。
袁紹も諜報機関を持ってはいるが、漢の有するものに比べればまだまだであった。
皇帝を確保したのは、こういうところにもメリットとなっていた。
そこで、ありえないとは思ったが、ビールを餌に袁紹の出した勅令に従うかどうかを確認したのだ。
袁術から手紙が来たのは丁度よいタイミングだった。
その結果は、予想通り誰も勅令に従わないというものだった。
今後は袁紹軍で諸侯を制圧していかなくてはならない、と決めていた。
袁紹の手紙が諸侯の反感を買っても、諸侯が一致団結して袁紹に対抗するとは思えなかった。
漢から袁紹を抜くと、それだけの存在感がある諸侯はいなかった。
やはり、袁家の力は偉大だった。
それどころか、諸侯間で戦いが勃発する可能性のほうが高いと見ていた。
袁紹に従うかどうかを確認するなら今をおいてないだろう、ということで手紙を諸侯に送り届けたのだ。
全員拒否の意志を確認したあとは、袁紹がその気になればOKだ。
そして、予定通り袁紹が諸侯の制圧を指示する。
これからは順番に反乱分子を潰していくだけだ。
というところに、袁術から手紙がやってくる。
妾は漢に見切りをつけ、仲を建国することにするのじゃ。
妾が初代皇帝じゃ。
妾に従うなら今じゃぞ。
今なら厚くもてなしてしんぜよう。
贈り物も歓迎するぞよ。
袁紹がどうしてもビールを贈りたいというのであれば受け取ってやってもよいぞよ。
仲皇帝 袁術
これを読んだ袁紹は……当然激怒する。
「むっきー!!
可愛さ余って憎さ百倍ですわ!
美羽を倒すのです!!」
だが、揚州に兵を動かすには、途中に曹操、陶謙が邪魔ですぐには向かえない。
おまけに、袁紹を叩こうと思ったら、孫策が出てくること間違いない。
「一刀、出番よ」
賢人会議で田豊が一刀に指示している。
「はいはい、袁術を倒すのは後で、ってことだろ?」
「そういうこと」
「一応聞いておきたいんだけど、どんな順番で漢を再統一していくんだ?」
「まず、河北を平定する。
黒山、南匈、烏丸を抑えて河南を向いたときの後方の安全をとる。
それからは河水に近いほうから順番。
曹操、陶謙、劉表、袁術、そして最後に劉焉というところかしら。
どう思う?みんな」
「その方針でいいと思います」
「一番素直ね」
「問題ないでありんす」
他の参謀も同意している。
「わかった。それじゃあ、ちょっと説得に行ってくる」
ということで袁紹の許に向かう一刀。
もう、このフェーズに入ると恋姫の知識はほぼ皆無だ。
袁紹が、公孫讃をやっつけたという事実と、曹操にやっつけられたという事実しか示されていないので、今後はその時その時に応じて最適と思われる選択をしていくしかない。
河北を最初に統一するというのはリーズナブルな選択に見えるので、一刀もそれに同意してその方針を袁紹に伝えに行く。
「麗羽様」
「何ですか?一刀。
美羽を倒す方法はまとまりましたか?」
「それなのですが、相談が……」
「何かしら?」
「袁術様を倒すのは最後にしませんか?」
「どうしてですの!
あんな失礼な手紙をよこした相手を、最後までのさばらしておくというのですか?」
「まあ、そうといえばそうです」
「認めません!一番に美羽を倒すのです!!」
「確かに華麗で勇猛な袁紹軍をもってすれば曹操領をやすやす突破し、袁術様を討つ事は容易でしょう」
「なら、問題ないではないですか」
「ですが、考えても見てください。
あの袁術様ですよ。
まだ年端もいかぬ子供です」
「敵が子供かどうかなど、関係ありませんわ」
「そうなんですが、子供相手でしたら、こんな作戦はどうでしょう。
まず、麗羽様が反抗する諸侯を端から順番に攻め滅ぼしていくのです。
そして、残るのは袁術様お一人。
袁術様はここにきてようやく麗羽様の偉大さを理解するのです。
麗羽様に許しを乞いに来るかもしれません。
でも、麗羽様はそれを拒絶するのです。
そして、袁術領を端から少しづつ攻めていくのです。
じわりじわりと袁術様を追い詰めていくのです。
最後王宮だけになったら、攻め落とすことなく、朝から晩まで攻め続けるのです。
もちろん、蜂蜜を城内に入れるなんてもってのほかです。
もう、袁術様は恐怖の余りちびってしまうかもしれません。
発狂するかもしれません。
やはり、華麗な麗羽様にたてつこうとした袁術様には、そのくらいの報いがあって然るべきではないでしょうか?
真っ先に討伐するなんて生ぬるいと思います」
袁紹は、しばらく間をおいてから返事をする。
「……一刀」
「はい」
「面白すぎますわ。
面白くて華麗ですわ。
その作戦で進めるのです!!」
「はい、分かりました!!」
「一刀」
「はい?」
「随分悪どくなりましたわね」
「えーまー、麗羽様のためなら何でもやります」
「今後も期待しますわよ。
オーッホッホッホッホ!!」
「あーっはっはっはっは…………(はぁ)」
時代劇なら「お主も悪よのう?」というシーンだろうか。
説得の後で。
「さすが一刀さん。麗羽様のことをよくご存知です!」
顔良が感心したように話しかけてくる。
「あそこで、途中に曹操さんや陶謙さんがいるから、難しいっていうと駄目だと思うんだ。
最後のほうがもっと面白い!っていう風にもっていかないと、説得できないと思ったんだ」
「勉強になりました」
「まあ、麗羽様限定の知識だけど、斗詩さんも俺がいないときは麗羽様をおだててくださいね」
「はい。側室として頑張ります」
「うん、頑張ってくださいね…………って、今何て言いました?」
「え?頑張りますって」
「いや、その前」
「ああ、側室として、のところですか?」
「………何それ?」
黙って見詰め合う二人。
もちろん、愛し合う二人という雰囲気ではない。
二人揃ってきょとんとしている感じだ。
「……………
……………
……………
……………
えーー?一刀さん、私を側室にしてくれるんじゃないんですか?」
「そそそそんなこと一度も言ったことないんだけど!」
「この間、正室が決まったので側室をとっても問題ないということになったじゃないですか」
「だからと言って側室を取るって訳じゃありません!」
「この間交わった仲じゃないですか!」
「そそそそんなこと言ったら、俺、側室だらけになっちゃうから。
とにかく、今、側室をとるなんて気は全然ないから」
「むぅーー!!負けないんだから!!」
「負けてください!!」
やはり不屈の顔良であった。