人選
袁術が劉表を倒そうと計画を練っている時……袁術が孫策に劉表を倒せといって、孫策がその計画を練っている時、袁紹は黒山賊を倒すことを画策していた……袁紹の参謀は黒山賊を倒すことを画策していた。
「最近、また黒山賊の攻撃が頻繁になってきたわね。
麗羽様が漢を再統一しようと決めた今、黒山賊は徹底的に抑え付ける必要があると思うの。
この方針はいいと思うのだけど」
田豊が他の参謀に尋ねている。
「そうね。今までは片手間に侵略を防いでいた程度だったけど、もう完全に麗羽様に服従させるまで叩くというのに賛成するわ。
殲滅させたほうがいいでしょう」
荀諶もそれに同意している。
「ですが、黒山賊は機動力がありやすんで、徹底的に叩こうにも逃げられてしまうことが多かったでありんす」
逢紀が過去の対黒山賊戦の歴史を指摘する。
「機動力が問題なんだったら、恋に行かせればいいじゃない。
折角助けてもらったんだから、ボクも何か役にたたないと」
賈駆が呂布を向けることを提案する。
「でも、呂布隊は100名程でしょ?
黒山賊は何度も討伐を繰り返して勢力が落ちてきているとは言っても、精鋭5000は下らないと思うけど」
尋ねる審配に沮授が答える。
「今の呂布隊が対応不十分な軍に対抗するなら、敵が5000でも10000でも大丈夫でしょう」
「ボクもそう思う」
「本当なの?それは」
田豊が驚きの声をあげる。
「うん、敵の弱いところを突いて、すぐに引く、これを繰り返せば時間はかかるけど確実に敵を倒すことができる」
「そして、呂布隊にはそれが出来るだけの機動力が備わっています」
賈駆と沮授が答える。
「でも、退却するところを追いかけられたら?」
審配が尋ねる。
「単純に逃げるだけでも出来るでしょうけど、折角ですから追いかけてきたところを歩兵で叩きましょう。
そこに突入したら、袁紹軍の強さが発揮されます」
沮授が、それに答える。
「ということは、袁紹軍5000位に呂布隊を動員して、突撃は呂布隊、戻ってきたところに敵がついてきたらそれを袁紹軍が迎え撃つと、そういう作戦でいくわけね?」
田豊がまとめる。
「そういうことです」
沮授が答える。
「どう?それでいいかしら?みんなも。
私は賛成だけど」
尋ねる田豊に、全員が賛同する。
「それじゃあ、今回の作戦は沮授に任せることにしましょう。
他に同行する軍師は賈駆、将は呂布と斗詩でいい?」
「呂布が行くなら一刀も必要でしょう」
当然のように沮授が指摘する。
田豊のように嫌味ったらしくないところが恐ろしい女である。
「何でだよ!」
隅で黙って聞いていた一刀が反論する。
が、誰も一刀の反論が正論だとは思っていない。
「呂布が一刀から離れて戦いに向かうと思うのですか?」
沮授が指摘する。
「え?……うーー……
それは………………」
たったの一言で反論を封じられた一刀である。
情けなし……。
「そうすると、斗詩はここに残ったほうがいいから、猪々子に行ってもらいましょうか」
袁紹を抑える力は
1 一刀
2,3,4,5 空き席
6 顔良
7~ 空き席
なので、一刀が袁紹から離れるならば、顔良を残す必要がある。
皇甫嵩も袁紹を抑える力は(恐らく一刀並に)あるが、皇甫嵩を説得することと袁紹を説得すること、どちらが易しいか?というレベルなので、皇甫嵩や劉協がいても袁紹を抑える役にはたたない。
皇甫嵩様、怖いから。
だいたい、意図したように抑えてくれない可能性が高いし。
「おう、いいぜ!」
戦いに出られそうなので、嬉しそうな文醜。
「でも、猪々子。ほとんど待つだけで、全然戦わないかもしれないわよ」
荀諶がにやっと嗤いながら指摘する。
「へー?マジかよう。
そんなの戦いじゃないじゃん!」
「落ち着きの無い猪々子には丁度いい戦いね」
荀諶がまたまた嗤いながら指摘する。
「はあ……修行じゃんか!」
文醜の一言に、どっとその場が沸くのであった。
「恋殿!黒山賊でもなんでも最強の恋殿の前では敵ではありませぬ!
さっと行って倒してきましょう!!」
呂布が戦いに出向くと知った陳宮が嬉しそうに呂布に駆け寄ってくる。
残念ながら陳宮は軍師として認められておらず、軍議には参加できない。
というわけで、それを知ったのは軍議が終わった後だった。
それを聞いた陳宮、出陣する気満々だ。
だが……
「ねねはお留守番」
と、つれない返事。
「えーーっ!!どうしてなのですか!
ねねと恋殿はいつも一緒なのではないのですか?!」
「危ない」
「そんなー!
今までねねと恋殿はいつも一緒だったではありませんか!」
「それは逃げるので仕方なく。
今回はここが一番安全。
だからお留守番」
「お願いです。いつでも恋殿のおそばにいたいのです!!」
「だめ……」
呂布は、そういって陳宮のあたまにぽんと手を置く。
「ぅううぅぅ~~……」
陳宮の憾み節が、というより無念の念仏が聞こえてきた。
諦めざるを得ないと悟ったのだった。
「じゃあさあ、俺も留守番でいいよな。危ないもん」
呂布がいるので、一刀もいるが、陳宮が留守番と聞いて自分も留守番したいと言い出す。
そりゃそうだろう、現代日本の一般的な一青年が、好き好んで戦場に行きたいと思うはずが無い。
だが……
「ご主人様は一緒」
「何でだよ!俺だって危ないじゃんか!
全然強くないんだし」
「恋はご主人様の部下。
ご主人様は恋を見守る義務がある」
確かに呂布を部下として押し付けられてしまった経緯があった。
「でも……」
どうにか行かなくてよい理由を考えている一刀に、陳宮が不満をぶつけてくる。
「あーー!お前、ねねの目が届かない間に恋殿とお楽しみをしていたのですね!
だから恋殿に好かれているのですね!!」
子供なのに大人相手にため口で話す陳宮である。
大体、お楽しみって何?
劉協よりも色々知っていそうな陳宮だ。
実は陳宮は健康優良児であった。
夜は早くに寝て、朝は早くに起きて愛犬音呂と散歩にでかけている。
もちろん散歩中に口ずさむ歌は
♪LALALA LALALA ~
という某アニメの主題歌のような歌。
それはそれで問題だが、それ以前に犬の名前が音呂(ネロ)は変ですから!
音々音と呂布からネーミングしたのかもしれないが、ネロは人間ですから!
犬の名前はパトラッシュですから!
と考える一部の人々の突っ込みを他所に、犬の名前が決まっている。
大体、陳宮、フランダース地方なんて知らないだろうし、それ以前に時代から考えてこの世に存在していないだろうし……。
散歩から帰ると朝食の時間。
その頃には呂布も起きだしている。
呂布と会うのは朝食後から寝る前までの間。
というわけで、陳宮は、呂布が夜、一刀の部屋に行っていることを知らない。
それ以前に崇拝する呂布がそんなことをするなんていうことを、考えたことも無い。
尚、この世界では赤兎は史実通り馬であって、犬ではなかった。
「してねーよ!それどころか……」
付きまとわれて困っているんだ、特に夜、と言いたいところだが、本人を前にそれは言いづらく、ちょっと言いよどんでしまうと、そこを陳宮に突っ込まれる。
「あーー!恋殿といやらしいことをしようと考えていたのですね!」
「考えてねーっ!
だいたい、この間結婚式挙げたばかりだろうに!!」
結婚すると、こういう言い訳が出来て、時々便利だ。
「ああ、そう言えば……」
陳宮もなんとなくだまされてしまう。
「だからといって、恋殿、この男を無闇に信じてはなりませぬ。
男は須らく狼なのですから!」
「狼じゃない。ご主人様」
「しかし、気をつけるのは当然です。
妊娠させられてからでは遅いのですよ!」
「大丈夫だって。俺の力で恋を襲うことができるはずねえだろ!」
「……それもそうですね。
恋殿、この男が狼になったらいつでもやっつけちゃってください!」
こくりと頷く呂布。
むしろ、呂布が襲ってくることのほうが恐ろしいのだが、と一刀は考えているが、とにかく陳宮の気を鎮めることは成功したようだ。
……陳宮のやっつけると、呂布のやっつけるは考えている内容が違うのか?
こうして、黒山賊の討伐には呂布があたり、一刀も半ば必然として同行することになってしまったのだった。