側杖
公孫讃という人物も、袁紹同様、恋姫三国志では不遇な待遇を強いられている人物だ。
史実では河北を袁紹と二分するほどの勢力を持っていたようだが、というより最初は袁紹よりも大勢力だったようだが、どうみても袁紹より遥かに格下に扱われている。
劉備が尋ねてきたときも、劉備を客将として扱うというよりは、ほぼ対等な立場に扱われている。
影が薄いとも言われ、踏んだり蹴ったりだ。
それでも地道に施政をこなし、盗賊の討伐を行い、袁紹の掛け声の下、董卓討伐にもあたり、袁紹から任される郡の数も次第に増えてきた。
とりたててどこが素晴らしいというものでもないが、何でも卒なくこなす万能選手である。
実直を実体化したような人物である。
このまま地道に活動をし続ければ、袁紹軍の中でもかなりの存在を占めることができたと思われる。
あくまで、袁紹軍の中で、という制約つきだが。
それが、公孫讃にとってよいことなのか悪いことなのかはわからない。
そんな公孫讃の頭の中で、劉備の言葉が悪魔の囁きのようにリフレインする。
「白蓮ちゃんも、まだまだ通過点だよね。
きっと、大陸全部を統べることができるよ!応援してる!!」
公孫讃は考える。
「そうだな。私はもっと上を目指さなくては。
まだまだ私はやれる!」
ということで、兵士の募集を始める公孫讃。
本気で大陸全部を統べる気でいるのかどうかは不明だが、少なくとも現状より勢力を拡大することを狙っているのは間違いないようだ。
ここは幽州で、幽州牧は袁紹なので、一刀の農業指導もたなぼた式に受けられており、最近結構潤沢になってきていた。
多少兵を増強しても大丈夫だろう、と公孫讃は考えた。
そんな公孫讃の動きを心待ちにしていた人物がいる。
顔良である。
顔良は公孫讃を、正確には公孫讃のところにいる劉備を叩きたかったのだ。
だが、今や劉備は公孫讃の元を離れ、陶謙の元へと行ってしまっている。
さすがに陶謙を叩こう!というわけにもいかず、劉備を袁紹の元へ連れてきた公孫讃だけでもどうにか叩きたいと思っていたのだ。
何で顔良がそんなにも劉備を嫌っているか、というと、例の宝剣事件が関わっている。
折角もらったのにー!!
気に入っていたのにー!!
と、宝剣を奪われたこと自体が顔良の勘に触っていたというのに、更に董卓を討とうと酸棗に集結したときの事件が決定的だった。
その日も劉備は歌を歌っていた。
わたしの宝剣 靖王伝家
とってもき~れい~な 宝のかた~な~
盗~られ~るこ~とが いっぱいあるけど
わたしのともだち さ~がし~てく~れ~る~
た~だでかえして や~さし~いね
「ハイ! 斗詩ちゃ~ん!」
アンアンアン とってもう~れし~い 桃香ちゃん
「あ、斗詩ちゃんだ~!
元気~?」
顔良を見つけて、嬉しそうに手を振る、というより手に持っている宝剣を振り回してこれ見よがしに見せ付ける劉備。
「はは、あはは……」
と、冷や汗混じりに笑顔で手を振る顔良。
だが、表情と裏腹に、顔良は怒りではらわたが煮えくり返っていた。
劉備の歌詞の内容が許せない。
私のだった剣を見せびらかすところが許せない。
真名を預けてもいないのに平気で呼んでいる事が許せない。
それでも、根が優しい上に、劉備も連合の一部であるという状況なので、何とか怒りを抑えてその場を乗り切るのだが、やはり考えれば考えるほどむかついてくる。
どうにか倒すきっかけがないものかと、業に戻ってからも参謀に公孫讃の状況を逐一確認していた。
そのうちに、劉備が公孫讃の元を離れたという情報が入ってくる。
えー!!と思った顔良であるが、いないものは仕方がない。
この怒りをどこかにぶつけなくては!と思った先が公孫讃。
完全に無関係とは言いがたいが、ほとんどとばっちりである。
というところに入ってきた公孫讃軍備拡張のニュース。
「公孫讃さんをやっつけましょう!」
と軍議で発案する顔良。
「それはどうして?」
田豊が尋ねる。
「だってー……最近兵士を募集し始めたっていうことですし……」
発案の理由からして、どうにも歯切れが悪いが、言っていることは間違ってはいない。
「確かに公孫讃が兵を集めているというのは事実ね。
勢力も麗羽様の所領の中では最大で、独立気運も強い。
早いうちに潰しておいたほうがいいかもしれないわね」
荀諶も顔良の意見に賛同する。
「他の皆はどう思う?」
「他の州を攻撃するときに、味方として動くかどうかですね、結局は」
沮授が答える。
「一刀の意見は?」
時々先の知識を持っているので、こういうことなら一刀も意見を求められる。
「……多分、今後公孫讃さんが麗羽様と協同することはない」
史実でも恋姫でもなかったから、きっとないに違いない、と一刀は思うものの、それを言っていいのだろうか?と、罪の意識も少なからずある。
ここで言い切ってしまったら自分が公孫讃を倒す口実を与えたようなものになってしまう。
「でも、俺の知っていることがすべてではないから、もしかしたら麗羽様の役に立つのかもしれない」
と、一応フォローもしておく。
実際、可能性が0でもないし。
だが、それを聞いた逢紀、
「ただ、公孫讃は匈奴や烏丸と仲が悪いでありんす。
麗羽様が公孫讃を重用すると、今後匈奴や烏丸と対するときに不利益となるでありんす。
匈奴や異民族と友好的な劉虞にもさんざん嫌がらせをしていたでありんす」
と、公孫讃を突き放す発言をする。
劉虞っていたんだ!!
「それは言えるわね。
それじゃ、公孫讃は官位を全て剥奪、反抗するようなら攻撃。
これでどう?」
「いいと思います」
「いいと思うわ」
「良いでありんす」
「いいんじゃない?」
「ボクも賛成」
可哀想に、公孫讃は地位を剥奪されるか、攻撃されることが決まってしまったのだった。
公孫讃には不幸としかいえないが、運命だったのだろう。
あとがき
……どうしても劉備が悪女になってしまいます。
申し訳ございません。
ご批判は拝聴いたしますが、最後の敵で、そうしないと話がなりたたなくなってしまいますので、この方針は変わりません。
ご承知おきくださいますようお願いします。