易京
こちらは、公孫讃。
「何だって?官位剥奪?!」
公孫讃が袁紹から受け取った命令書には次のように書かれていた。
公孫讃は軍備増強しており、叛意ありと判断。
その全ての官位を剥奪し、配所の地を涼州と定める。
弁明がある場合は一週間のうちに業に参じ、納得のできる弁明を行うこと。
相国 袁紹
ここで、叛意などない!と言い切れれば弁解をすることもしたのだろうが、ないとも言い切れない気持ちを抱いていて、弁解も厳しい。
そもそも、何で軍備増強をしたのか?と問われて、一刀のように口先でにげたり、劉備のようになんとなく相手を煙に巻くという高等な、というかずるいテクニックは公孫讃は持ち合わせていない。
基本的にまじめだから。
かといって、はい、分かりました、流刑を受け入れます、というのも自尊心が許さない。
そこで、公孫讃のとった作戦は籠城。
史実では、所謂界橋の戦いで麹義に敗れ去った後に易京に引きこもることになったそうだが、残念ながら恋姫公孫讃、そこまでの戦力はなく、最初から籠城だ。
謝るのは難しそうなので、暫く籠城して、もう攻撃する意志がなく、反省したことが分かれば許してくれるのでは?という、涙ぐましいほどに消極的な作戦であった。
だが、残念ながら、そんな涙ぐましい努力も袁紹軍の前には意味がなかった。
「籠城するのは叛意の証ね。
攻撃しましょう」
ということで、攻撃が決定されてしまった。
攻撃するのは将が顔良、軍師が荀諶。
顔良は兵1万を率いて易京に向かう。
呂布や張燕ほどではないが、なかなかの素早さだ。
史実では公孫讃と(最終的に)ぶつかったのは麹義だが、戦の原因からして顔良が将になるのは必然だ。
易京に着いた顔良達を出迎えたのは、驚くべき光景だった。
「急げーー!!急ぐんだーー!!」
公孫讃自ら陣頭指揮をとって大工事をしている。
「あの~~、何をしているんですか?」
顔良が、公孫讃に尋ねる。
「ああ、袁紹軍が攻めてくるから大急ぎで城壁を強化しているんだ。
今の手勢ではとてもじゃないが袁紹軍を防ぎきれない。
だから、城壁を強化してどうにか袁紹軍を防げるようにしている。
早く作り上げないと来てしまう!
おい、そこ!もたもたするな!!」
公孫讃は尋ねた人の顔もみないで、指示を出しながら片手間に答える。
「そ、そうなんですか。
それじゃあ、できる前に袁紹軍が来ちゃったらどうするんですか?」
「それは逃げるしかないだろう」
「でも、見張りも立てていないみたいですけど」
「……あ!本当だ!
おーい!人手が足りなくても見張りだけは立てないとだめだー!」
「その袁紹軍、もうここにいるんですけど。
どうしたらいいでしょうか?」
「えっ?!!!!!」
ようやく話している相手を見る公孫讃。
「………顔良…………さん」
「お久しぶりです、公孫讃さん」
公孫讃が見てみれば、何とも困った表情の顔良であった。
そして、二人揃って、ばつが悪そうに黙って俯いてしまう。
「「あの……」」
二人同時に話し始める。
「あ、公孫讃さんからどうぞ」
「い、いえ、顔良さんからどうぞ」
「そ、それでは……
私はどうすればいいんでしょうか?」
「そそそそうだな……
私は降伏して逃げるから、見逃してくれるっていうのはありだろうか?」
「そうですね。
それがいいかもしれません」
「ご協力感謝する。
それでは、ちょっと仕度があるので……」
公孫讃は城壁の中に入っていってしまった。
もちろん、工事はその時点で終了。
巨大要塞易京は恋姫三国志では工事が始まったばかりで終了してしまい、登場することがなかった。
「いいの?それで……」
荀諶が尋ねている。
「何か、この様子を見たら可哀想になっちゃって。
そんなに悪い人じゃないし……」
もともと嫌っていたのは劉備であって公孫讃ではないから、こんな涙ぐましい姿を見せられてしまうと、やっぱり助けたいと思ってしまう優しい顔良である。
かといって、今更無罪放免とすると、袁紹の顔に泥を塗ってしまうことになるから、妥協の結果だ。
「まあ、そうね。その気持ちは分かるわ」
「麗羽様は一刀さんになんとかしてもらいましょう」
「わかった」
それから程なく……どどどど、と城内から白馬がたくさん飛び出してきた。
百頭以上いるかもしれない。
先頭はもちろん公孫讃。
「顔良さん、ありがとう!」
「お元気でーー!!」
公孫讃は顔良に別れを告げて去っていった。
顔良は公孫讃の治めていた所を、全て無血で手に入れた。
公孫讃の部下も、公孫讃でなくては!という人々は公孫讃と共に去っていってしまったので、袁紹にそのまま鞍替え。
袁紹領の治世も良いとの話が伝わっているし、一刀の農業指導もあったので、民も治める人間が袁紹に変わっても、何の不満も抱かなかった。
こうして、領内の独立勢力は全て排除することに成功した袁紹であった。
河北で残っているのは、あとは南匈、烏丸だ。
着々と河北の平定が進んでいる。
業に戻った顔良は、早速結果を一刀に報告する。
そう、こういう面倒な報告は、まず一刀である。
「……まあ、何となく気持ちは分かります。
で、俺が報告するんですか?」
「お願いします。そのまま報告したらまた麗羽様癇癪をおこしそうで……」
「そのまま報告しなければいいじゃないですか。
柳花さんと口裏合わせて、行ったらもう公孫讃さんは側近と共に逃げた後で、全く戦いもなく華麗に公孫讃さんを駆逐することに成功しました!って言えばいいんですよ」
「……それもそうですね。
どうも助言ありがとうございました」
と、袁紹対策が済んだところで、一刀は疑問に思っていたことを尋ねる。
「ところで、公孫讃さん、劉虞さんに嫌がらせしていたって聞いたんですけど、何をしていたんですか?」
「ああ、劉虞さんって、宗教家なんです。
布教活動をしているのが、丁度公孫讃さんの領内で、公孫讃さんは宗教が嫌いみたいで、あれこれ嫌がらせをしていたらしいです。
具体的に何をしていたかまでは知らないですけど」
「ふーん、そうなんですか」
どうやら、劉虞は政治家ではないらしい。
だから、今まで登場しなかったのだろう。
それでも、南匈、烏丸と仲がよいというからには、それなりの権威のようなものを持った人なのだろう。
もしかしたら南匈、烏丸というのは信心深いのだろうか?と何となく考えている一刀であった。
あとがき
公孫讃の扱いが悲惨な気もしますが、これが一番平和裏に劉備の元に行ける方法だったので、こういう話にしました。
戦いがあって、這々の体で逃げ出した、というストーリーも考えたのですが、公孫讃兵が数多く死んでしまうことになり、その後の統治のことも考えて死者が少ないほうがよいだろうと思ってこうしました。
まともに界橋の戦いをしたり、易京を作ったりしたら、公孫讃死んでしまいそうですし。
公孫讃の扱いが不自然と言う話もその通りだと思います。
ただ、公孫讃はどうしても劉備のところに行かなくてはならないのです。
それなのに恋姫公孫讃は弱小そうなので、扱いが難しかったのです。
以前、公孫讃が州牧にするのを止めたので、公孫讃は袁紹の部下っぽくなってしまっていて、なので無理やり攻める口実を作ったのがちょっと話の展開上無理があるのは承知していますが、これよりましな案が思いつきませんでした。
ということで、色々あることは承知しておりますが、ご了承、というよりある程度我慢してくださいますよう、お願いします。
尚、今後公孫讃はあまり出番が無い予定です。
……多分。