教育
一刀や田豊が劉虞のところにいる間、業都ではなにが起こっていたかというと………
「陽、今度という今度はこの私が華麗にあなたを打ちのめして差し上げますわ」
「止めておけ。返り討ちになるのが関の山だ」
なにやら袁紹と皇甫嵩の間に険悪な雰囲気が漂っている。
「行きますわ!勝負!!」
袁紹は手を皇甫嵩のほうに突き出す。
その手には、なにやら札が2枚握られている。
皇甫嵩はそれをじっと見て……
「こっちだな」
と、一枚の札を袁紹の手許から抜き取る。
「むっきーー!!どうしてですの?
どうして、いつも私のところにババが残るのですの?」
何のことはない、袁紹、皇甫嵩らがババ抜きをしているようであった。
一刀がババ抜きを教えたら、結構みんなはまったのだ。
ルールは簡単だし。
だが、一刀もしらないババ抜きの本来の意味を知ったら、袁紹はどう思うだろうか。
ババ抜き。
起源は19世紀のイギリスと言われているオールドメイド。
ルールはババ抜きの通り。
そして、その意味は、オールドメイド=嫁ぎ遅れた娘を押し付けあうというもの。
オールドメイド=老婆の女中ではない。
それが毎回袁紹のところにいくということは……
いや、これ以上言及するのは止めておこう。
「麗羽様は表情が分かりやすいんですよ」
「そうそう。ババをとりそうになるとパッと嬉しそうにするんですもの」
ゲームをしているのは、札をとりあった袁紹と皇甫嵩、今発言した文醜と顔良、それに劉協、董卓である。
皇帝と相国らが楽しむ雅なゲームである……ようには見えないが、みんな楽しそうだ。
「陽は表情が読み取りにくいですからね」
劉協が花が咲いているようなにこやかな表情で話しに加わってくる。
劉協も董卓も、業に来て本当に自然に笑うようになった。
だいたい、劉協、政治に全然関与していないし。
かといって、それに不満を持っているわけではない、というより、今の居心地に大変満足しているようだ。
政治を行うよりも安心して生きられることの方が余程重要だし。
「そうなのです!陛下。
陽は何があっても表情一つ変えないのですわ」
深く同意する袁紹。
袁紹も普通に劉協と接することが出来るようになったようだ。
「でも、よく見ると表情があるのがわかりますよ」
「そうですかぁ?
何年も一緒にいますが、全然わかりませんわ。
……それでは今はどんな様子なのですか?」
「そうですね、何か安心した様子です」
「安心?」
「ええ。麹義や田豊が南匈・烏丸と交渉に行ったあたりから安心した表情になりましたね」
「そ、そうですか?
あまり違いが分かりませんが……
陽、何で安心しているのですか?」
「自分ではそんな表情をしているつもりは無いのだが……
敢えて言うなら危ない男がいなくなったからだろうか?」
それを聞いて、顔良と文醜はプフッと吹き出す。
袁紹はなるほどねえという表情に変わる。
董卓は顔が真っ赤になる。
劉協は、頭の上に?が点灯する。
「皇甫嵩様、一刀さんはそんなに危なくは無いと思います。
言い寄る女性が少し多いだけですよ」
と、顔良がフォローする。
「それが危ないと言うのだ」
「じゃあ、皇甫嵩さま~。そうなっちゃったらそうしちゃえばいいじゃないですか」
文醜が冗談か本気かそんなことを言うと……
「猪々子。それほど死にたかったのか」
刀の柄を持つ皇甫嵩。
「じょ、冗談ですってば、皇甫嵩様。
少しは冗談もわかってくださいよ。あはは……」
顔面蒼白になりながら、なんとか皇甫嵩を鎮める文醜。
「そ、それで麗羽様。ババ抜きでババが知られない方法ですけどね……」
顔良が話を他に振ろうとする。
「ええ」
顔良は袁紹の耳元で何やらひそひそと小声で囁く。
「なるほど、それはいい考えですわね。
陽!もう一度勝負ですわ!」
「返り討ちにしてやろう」
ということで、また6人でババ抜きを始める。
顔良の作戦は簡単明瞭。
札を取られるときに目を瞑れ!これだけだ。
だが、効果は絶大だった。
袁紹も、何度か勝つことが出来るようになったのだった。
雅……でもない遊びも終わり、袁紹、皇甫嵩らは劉協の部屋から退室する。
残ったのは劉協と侍女の董卓の二人。
「月」
「はい、献様」
「以前から疑問に思っていたのですが、一刀が危険とはどういうことですか?
命が増えるとはどういう意味ですか?」
「そ、それは……」
さすがに皇帝。
超純粋培養で、その手の知識は皆無のようだ。
だが、聞かれた董卓は困ってしまう。
顔を真っ赤にして
「わわわわ私もわかりません……」
と誤魔化そうとするが、皇甫嵩の表情を読み取れるほどの皇帝を誤魔化せ切れるものではない。
というより、誰が見ても董卓は何かを知っていることが明らかだ。
仕方なしに話し始める董卓。
「あの、献様。
花にはおしべとめしべがありますね」
「はい」
「おしべの花粉がめしべに受粉すると、種が出来るのです」
「そうなのですか。知りませんでした」
「それで……つまり、その……………………そういうことなのです」
さて、意図は通じるだろうか?
「……………………月」
「はい?」
「全く意味が分かりませんが。
一刀とどう関係があるのですか?」
劉協相手ではそうなるだろう。
結局、本格的な性教育をやる破目になってしまった董卓。
しかも、自らの体を使った実物の描写付!
よく見えるように脱衣!!
劉協、言葉だけじゃ分からないと言うから。
挙句の果てに、太筆を使った挿入実演までする破目になってしまったのである。
劉協は恥ずかしそうにしながらも裸の董卓の、性教育に必要な箇所を凝視している。
劉協は董卓の教育を見聞きしながら、次第に顔、というか全身が真っ赤になっていくのであった。
教育のあとで、董卓がはぁはぁと喘ぎながらしばらく劉協の閨から動けなかったのは、教育熱心だったからだろうか?
劉協も少し息を荒げ、手で妖しいところを愛撫していた。
最初の授業にしては衝撃的過ぎたかもしれない。
それから暫く経って、田豊や一刀が戻ってくる。
一刀は早速劉協と袁紹に結果の報告に向かう。
事件はその最中におこった。
その日の劉協は最初から変だった。
何かそわそわして、顔も赤く見えた。
それでも最初は静かに話を聞いていた劉協であったが、程なく顔を真っ赤にして
「そんな……恥ずかしいです!!」
と、叫んで顔を両手で隠して謁見の間を飛び出していってしまった。
一刀の股間の太筆が自分に入ってくる姿でも想像したのだろうか?
残された一刀は、劉協の背中を見ながら頭に?が何十も現れるのだが、それは一瞬で消え去った。
「貴様ぁ!献様に何をした!!」
と、一刀に迫ったのはもちろん皇甫嵩。
一刀でも分かるほどに皇甫嵩の全身から怒りのオーラが感じられる。
首に当てられる刀。命の危険を感じる一刀!
「なな何もしていませんって。
本当ですって!」
「そんなはずは無いだろう!!」
「だって、今の今まで劉虞さんの所にいたんですから、出来るはず無いでしょう」
「お前ならやりかねん!!」
「本当です。信じてください!
何にもしていませんから!!」
涙目になりながら、必死で自分の無実を訴える一刀であった。
あとがき
董卓健気です。
一刀不憫です。
次回から官渡編に入ります。
といっても官渡の戦いはかなり先ですが。
それでは。