発明
曹操に投降した劉備軍は、曹操に連れられて許に向かっている。
曹操の本拠地である。
途中、劉備が最初に与えられた小沛の城に立ち寄っている。
「ここが劉備が最初に防衛拠点を構えた城ね」
「うん、そうだよ。
朱里ちゃんが色々曹操軍をやっつける仕組みを作ってくれたんだよ!」
尋ねる曹操に、劉備が答える。
曹操達を劉備と諸葛亮が案内している。
何故、こんな小さな城に寄ったかと言うと、劉備が小沛城なら色々兵器が揃っていたから、曹操軍でもやっつけられたのにぃ!と言っていたからである。
最初は劉備の口だけだろうと思っていたが、諸葛亮と言う軍師も自信ありげに言っていたので、ちょっと寄ってみようと思ったのだ。
確かに、下丕にも何か巨大な兵器が作りかけてあったのを曹操もその目で確認している。
下丕は劉備が到着してから曹操が来るまであまりに早かったので、結局ほとんど準備が出来なかった。
小沛にはその完成形があるというので、寄る事になったのだ。
「その仕組みを説明してちょうだい」
使えるものなら曹操軍でも採用しようと言うのだろう。
劉備軍を手中にしたので、劉備軍の持っているノウハウは全て使うことができることになる。
曹操もなかなかいい出物に出あったようだ
その質問に、諸葛亮が胸を張って答えていく。
「まず、霹靂車を用意しました」
霹靂車。
横文字で言えばtrebuchet(トレビュシェット)に相当する。
早い話が大型投石器である。
史実ではどうも曹操が発明したらしいが、物語では大体いつでも天才の名をほしいままにしている諸葛亮が、ここでもその優遇性を発揮して発明したことになってしまっている。
曹操も周瑜も、その他何人もの人々が自分の手柄を諸葛亮にふんだくられて不憫である。
「そう。投石器ね。どのくらい飛ぶのかしら?」
「1里(410m)くらいです!」
「そんなに飛ぶの?この巨石が?」
あたりには一抱えもあるような石というか岩がごろごろしている。
人一人くらいの重さはありそうだ。
「そうです!
これがあれば、どんな精強の軍でもそう簡単には近づけないでしゅ!」
諸葛亮、えっへん!と言う感じで、ない胸を突き出して答えている。
本来の自分の主は劉備であるが、劉備が曹操傘下に下ってしまった今、一応曹操の役には立たなくてはならないから、自分の知識は一通り説明する諸葛亮である。
そうしないと、曹操から排斥、具体的には殺されてしまう可能性も否定できないから。
「そ、それはすごいわね。
他には何があるのかしら?」
「霹靂車の射程より近づいたら、元戎が待ち構えています」
「元戎?弩と何が違うの?」
「これは連射が出来るのが特徴です!
だから、数は少なくても、効果は大きいのでしゅ!」
またまた、鼻高々の諸葛亮である。
連射したあと、矢の装填に時間がかかることが問題となることは、実戦を迎えていないので諸葛亮も知らないことだった。
麹義のように、連射の数だけ弩を用意したほうがいいと思うのだが。
「なるほど。
それは迂闊には手が出せないわね」
それを聞いて満足そうな諸葛亮。
軍師たるもの、自分の発明や発案を褒められると、やはり嬉しいものだ。
「劉備が州牧になるのを待って攻めて、結果として被害が少なくなったようね、桂花」
「御意。さすがに華琳様、先見の明がおありです」
曹操をヨイショする荀彧。
「た、たまたまよ」
気恥ずかしそうな曹操。
ちょっとヨイショに失敗した荀彧であるようだ。
って、最初からその台詞では無理だと分かったろうに。
曹操は、再び諸葛亮と話し始める。
「それで、元戎も突破されるとどうなるの?」
「それから後は特に新兵器はありません。
弓や石や熱湯で相手が城壁を越さないよう戦うだけです」
ちょっとトーンダウンした諸葛亮だ。
「そう。
それでも、敵が遠くにいるときにそれだけ大きな被害を出せると言うのは効果絶大ね。
真桜、領内の城で、敵と接するところから順番にこれらの兵器を配置していきなさい」
「御意。
ただ、大掛かりな装置ですさかい、ちょっと時間はかかりそうですねん」
「まあ、そうね。その辺は劉備軍の力も借りなさい」
「わかりました!
諸葛亮はん、よろしくたのみまっせ!
ウチも、こんなすばらしい発明、ようわからへんよって、教えてくれると助かりますわ」
「わかりました。協力しますでしゅ」
諸葛亮もおだてられてまんざらでもなさそうだ。
「それで、華琳様。どこから手ぇつければいいんでしょうか?」
「そうね。北と南に敵を抱えているけど、まずは袁紹かしら?
河北を平定したという話も聞こえてきているから、次は私のところでしょう。
袁術は、孫策軍が荊州を荒らしまわっているようだけど、袁術本隊は今のところ動かなそうだから、袁紹を優先すべきね」
「わっかりましたー!」
その話を聞いた劉備、
「袁紹ちゃん、河北を統一したんだ。すごいねぇ。
やっぱり、一刀ちゃんのおかげかなぁ」
と、何故か一刀の名前を出す。
「一刀?天の御遣いとかいう男?」
「そうだよ」
「何であの男が関係するの?」
あまりに突飛な名前に、曹操もその真意を確かめる。
「だって、一刀ちゃんが冀州を豊かにして兵力を増大しても大丈夫なようにしたし―――」
「ああ、農業を活性化したという話ね」
「そうそう。それにね、それにね、ばらばらだった袁紹ちゃんのところの参謀の心を一つにまとめたんだって。
それからね、参謀がまとめた意見を袁紹ちゃんに通してもらうこともしているんだって」
いつ、どこで聞いたのか、一刀の役割を正確に把握している劉備である。
それを聞いた曹操、はっとしたように荀彧とまじめな視線を交わし、
「そういうことだったの」
「はい。どうもあの男が来てから、袁紹軍の様子が変わったと思いましたが、それで納得しました」
と、荀彧と二人で納得する。
「口の悪いむかつくだけの男と言うわけではなかったのね」
「目立たない仕事だけに、把握できませんでした」
「真の敵はその男かもしれないわね」
「はい」
「劉備」
「なぁに?」
「何であなたはそんなことを知っているの?」
「あのね、袁紹ちゃんのところで客将していた人がいるんだけど、その人に聞いたんだよ」
どうやら、徐州にいた趙雲から情報を仕入れたようだ。
確かに、趙雲、陶謙のところに行くと言っていたから。
「そう。その客将はなんで袁紹のところを出たのかしら?」
「うーんとね、確か個人技を必要とされないから居場所がないとか言ってたよ」
「そう。……袁紹軍侮れないわね」
「はい。軍全体が強いというのは一番やりにくい敵です。
誰を倒したら終わりというような簡単な戦ができませんから」
曹操の言葉に荀彧が深く同意する。
「そうだ!一刀ちゃん、こっちに連れてきちゃおうよ!
そうしたら、袁紹ちゃんのところの参謀がまたばらばらになって弱くなるよ」
劉備にしては(劉備なので?)なかなか腹黒い作戦を考えついたようだ。
「それに、一刀ちゃんが来たらうれしい人もいるし……」
と付け足す。
って、関羽の方が本命か!
関羽がいれば、ねっ、愛紗ちゃん!とでも言ったところだろう。
「それは誘拐するということ?」
付け足した部分を敢えて無視した曹操が劉備に尋ねている。
「うーん……そうなるのかな?」
「華琳様、劉備にしてはなかなか良くできた作戦だと思います。
誘拐が無理なら殺害してもよいと思います」
荀彧もそれに賛同している。
「いえ、その男は袁紹のところに残しておくわ」
「えーー?どうしてぇ?」
「そうです。禍根を取り除くのは戦の基本と愚考いたします」
「それはその通りよ。
でも、崩壊寸前の勢力を叩き潰すというのは覇王としての私の倫理に反するの。
敵を潰すなら正々堂々とおこなってこその覇道でしょう。
だから、袁紹がそれに見合うだけの力を得て、私も安心して叩き潰すことができるわ」
「そうかなぁ。連れてきたほうがいいと思うんだけどなぁ」
「そんな男一人くらいで負けるようでは、この曹操も未熟だったと言うことよ」
「ふーん。面倒くさいんだねえ」
「流石は華琳様。それでこその華琳様です」
「桂花、全勢力で袁紹を叩き潰す準備をするのです」
「御意!」
こうして、曹操は対袁紹を優先するという方針で軍を動かすことに決定したのだった。