趣味
曹操にはレズの趣味がある。
何故って、そういう設定だから。
男に興味がないかというと、本家北郷一刀としているところを見ると、無いわけでもないらしいが、男よりは女が好きらしい。
ガチではないようだ。
その曹操、許に戻るのを心待ちにしていた。
最高の獲物が手に入ったからである。
最高の獲物は、やはり自分の部屋で、いい雰囲気の中で味わいたいと思うから。
その獲物の名前は関羽。
劉備の投降を受け入れたのも、関羽の存在が大きいかもしれない。
酸棗で初めて関羽を見たとき、曹操にしては珍しく胸がときめいてしまった。
レズと言っても女なら誰でも良いわけではない。
今、一番肌が合うのが荀彧、次いで夏侯惇。
荀彧は、虐めると面白いように鳴いて、曹操を楽しませてくれる。
その後に二人で交わりあうのだ。
昔はレズ仲間の許攸とよく肌を合わせていて、二人して燃え上がったものだが、この二人が相手ではどうもそういう雰囲気にならない。
曹操が攻めて、二人が受けるという感じだから。
許攸としたときは二人で協力して絶頂を極めようと動いたものだった。
許攸は、今は袁紹のところにいて、彼女と肌を合わすことが全くなくなってしまった。
袁紹なんか止めて、一緒に乱世を生きていこうと何度説得したことか。
だが、許攸は曹操の言葉に耳を貸さず、袁紹の許に行ってしまった。
許攸と愛し合ったときのように燃え上がることは、彼女と分かれてから一度も味わったことがなかった。
だが、関羽を見て、久しぶりに心が燃えた。
彼女となら、許攸としたときのように燃え上がることができそうだ。
どうにか関羽を手に入れたい、と思っていたところに劉備の州牧就任の話がある。
曹操は歓喜した。
これで関羽が手に入る!
即座に徐州に攻め込んだ。
そして、劉備は無抵抗で降伏した。
その上、投降した劉備軍には何をしてもよいといっている。
もう、これは天の恵み、やるしかないでしょう!と思う曹操だ。
そして、わくわくしながら許に戻ったのだが、ついてすぐ!というのもがっつくようで美しくない。
やはり、自分には余裕があるところを見せなくては。
やりたい気持ちを抑えて10日間。
もうそろそろ大丈夫だろうと思って、作戦を決行しようとする曹操。
まず、自分の傍に荀彧や夏侯惇がいないタイミングを図る。
あの二人、なかなか嫉妬深いから、自分が他の女に手を出したと知ったらヒステリーを起こしそうだ。
それから、関羽の周りにも誰もいないこと。
やはり、秘め事というくらいだから、秘密にしなくては。
と、タイミングを図っていたら、絶好の機会が巡ってきた。
曹操がいつものように執務を終え、自室に戻ろうとすると、丁度向こうから関羽が歩いてくる。
曹操の胸がどきんとする。
だが、そんな動揺を悟られてはならない。
今や、自分は魏の王なのだから。
関羽は前から曹操が来るのを確認した。
普段はこんな曹操が通るような場所には近づかないのだが、今日は夏侯惇が話をしたいと言うので、彼女の部屋を訪れていたのだ。
妹の夏侯淵も一緒だった。
話してみると、二人ともなかなか砕けた楽しい人物達だった。
特に夏侯淵は、何か自分と似た雰囲気があって妙に親近感をもったものだ。
夏侯惇は張飛に似た感じだろうか?
張飛に手を焼くがやっぱりかわいいというのと、夏侯惇に手を焼くがやっぱりかわいいというのがそっくり瓜二つに感じる。
敗軍の将であっても徒に不当に扱うということもなく、なかなかいい人々だった。
万が一、桃香様が再び独立することがなくても、ここで自分の力を発揮できそうだ、そんな印象を持った。
青州にいて、曹操軍に攻め込まれてから、これほど心が落ち着いたことはなかった。
夏侯惇は曹操の側近だから、曹操のいる場所のすぐ傍に部屋がある。
今まで曹操と城内で出会うことなどなかったのだが、今、始めて曹操と顔をあわせた気がする。
相手は王。
漢を全て統一したら皇帝を名乗るのだろうか。
それなりの敬意を払わなくてはならない。
そこで、関羽は廊下の端により、跪き、頭を垂れて曹操への忠義を示す。
曹操はそのまま自分の前を通り過ぎていくと思ったのだが、自分の目の前で立ち止まり、声をかけてくる。
「関羽、こっちを向きなさい」
そういいながら、曹操は関羽のあごをぐいっと引き上げる。
身長は関羽の方が高いが、今、関羽は跪いているので、曹操が関羽を見下ろすような姿勢になっている。
「はい、曹操陛下。なんでしょうか?」
まじめに答えてはいるが、極めて怪しい(妖しい?)雰囲気に、関羽は今すぐにでも逃げ出したい気分だ。
「いいこと?今夜私の閨にいらっしゃい。
いいわね。誰にも気付かれないように来るのよ。
あなたは拒否できないの。
分かっているわね?」
曹操はそう言ってから関羽の顔をぐいっと引き寄せ、唇を奪い、
「何をするかはわかるでしょ?
私を幻滅させないで」
更にそれだけ付け加えて、にやりと嗤って去っていった。
残されたのは呆然とした関羽。
曹操の噂は聞いている。
女同士の愛を好む異常性欲者。
もしかしたら自分はその対象に選ばれてしまったのか?
確かに、今まで何度となく曹操の舐めるような視線を感じたものだった。
そして、その都度悪寒が走った。
あれはそういう意味だったのか?
唇が触れた感触が急に汚らわしいものに感じられてしまう。
自分は正常なのに。
心ときめく男性との愛を望むのに。
関羽は一刀と交わった出来事を思い出し、その場で立ち上がることもなくぽろぽろと泣きはじめてしまう。
一刀さん、助けて……
仕えているのは劉備だが、こういう問題では何故か劉備よりも一刀が真っ先に思いつく関羽である。
やはり、一度ならず二度までも体を合わせているからか?
そんな関羽のところに劉備がやってくる。
「あれ~?愛紗ちゃん、どうしたの?」
秘密裏に来いという曹操の指示である。
何があったか言うわけにはいかない。
「いえ、なんでもありません、桃香様」
「そんなことあるわけないじゃない。
廊下で跪いて泣いていて、何でもないなんて信じられると思うの?」
「お願いです、今は何も聞かないでください」
「曹操ちゃんになにかされたんでしょ」
「いえ、そのようなことは……」
「愛紗ちゃんが跪く相手と言ったら曹操ちゃんくらいしかいないもんね。
それで、跪いているときに何かされたんでしょ?」
劉備、なかなか鋭い。
「ち、違います」
あくまで曹操との約束を守ろうとする律儀な関羽だ。
「わかったー!」
「な、なんですか?」
突然大声を上げる劉備に、思わず関羽はびくっとしてしまう。
「今夜、閨に来いって言われたんだ!」
「………………そ、そんなことはありません」
「本当?」
「はい、桃香様……」
何があっても曹操との約束を守ろうとするいじらしい関羽であった。