予言
曹操が劉備に搾り取られている頃の袁紹のところの様子。
「河北はこれで全て平定したわね。
次は河南。
位置的には次は曹操ね。
陶謙・劉備を滅ぼして魏の独立を宣言したし、漢への対抗姿勢が明確だから、攻め込むことには何も問題ないでしょう。
青州、兌州、豫州に同時に攻め込めればいいのだけど……」
例によって田豊が軍議を仕切っている。
州の配置は、だいたいこんなかんじ。
涼涼涼________并并并并幽幽幽幽
_涼涼涼______并并并并冀冀冀幽幽幽幽
__雍雍雍____司并并冀冀冀冀冀冀幽幽幽幽
益益雍雍雍雍雍雍雍司司冀冀冀冀冀冀冀幽幽幽幽幽幽
益益益益雍雍雍雍司司司冀冀冀冀冀冀冀
益益益益雍雍雍司司司司兌兌兌兌兌青青
益益益荊荊荊荊荊荊豫豫兌兌兌兌兌青青青青
益益荊荊荊荊荊荊豫豫豫豫豫豫徐徐徐
益益荊荊荊荊荊荊豫豫豫豫豫豫徐徐徐
荊荊荊荊荊荊揚揚豫豫豫豫豫豫徐徐徐
荊荊荊荊荊荊揚揚豫豫豫豫豫豫徐徐徐
荊荊荊荊荊荊揚揚揚揚揚揚揚揚揚揚揚
荊荊荊荊荊荊揚揚揚揚揚揚揚揚揚揚
荊荊荊荊揚揚揚揚揚揚揚揚揚揚揚揚
荊荊揚揚揚揚揚揚揚揚揚揚揚揚
__揚揚揚揚揚揚揚揚揚揚揚
だから、曹操領のうち、青州、兌州、豫州が袁紹領と接している部分になる。
益州、荊州、揚州は実際にはもっと馬鹿でかいし(地図より左がまだある)、面積もなんとなく異なっているが、配置はまあこんな感じだ。
袁紹領というか皇帝領に接しているのは、他に涼州、益州、荊州があるが、涼州、益州は今のところ態度を保留している。
荊州は孫策に攻め込まれているところ。
だいたい袁紹領ともっとも国境を長く接しているのは曹操で、どう考えても魏王を名乗り、漢の打倒を考えているから曹操の所に攻め込むのは必然だ。
ちなみに劉備は幽州の出身で、冀州を通って徐州の牧となり、今は豫州に囚われの身となっている。
史実では益州に蜀を作ることになっている。
大陸の反対側でようやく建国しているが、恋姫劉備はどうなることか。
「いくらなんでもそれは無理ね」
「私もそう思います」
荀諶と沮授が否を唱えている。
まあ、そうだろう。
「青州は劉備から支配が曹操に移ったばかりだから、防衛は手薄でしょう。
他はともかく青州は攻め込むべきね」
と意見するのは審配。
「ボクもそう思う。
青州は比較的小規模な兵力で全て制圧できると思う」
賈駆も審配の意見に賛同している。
「許都はどうすべきだと思う?
短期決戦で一気に方をつけるか、許都は後回しにして他から勢力を奪っていくか。
地理的には業都と許都はすぐそばで攻め込みやすいけど、曹操軍は青州兵を加えてかなりの勢力だから短期決戦を挑むとなると、こちらにも相当の被害を覚悟しておかないとならないとおもうのだけど」
「短期決戦も魅力的でありんすが、そこまで無理をしなくても焦らず攻めたほうが失敗が少ないとおもうのでありんす」
逢紀らしからぬ地道な提案をしている。
「それで、攻め込んでいる途中で投降してくれれば一番華琳の被害も少なくて済むのだけど、彼女のことだから絶対投降はしないのでしょうね」
と言っているのが許攸。
許攸。字が子遠、真名が美杏。
史実では官渡の戦いで袁紹軍の兵糧のありかを曹操にリークして一躍有名になった人物である。
今は袁紹軍にいるが、実は曹操とは旧知の仲で、以前から曹操に味方する……ほどでもないが、曹操の被害が出来るだけ少なくなるような提案をしている人物である。
だいたい、真名が美杏(ビアン)というだけで、以前どのような関係を持っていたか分かろうというものだ。
「それじゃあ、常備兵の2割、4万人で青州、半分の10万人で兌州、残りが防衛。
特に許都との間の防衛を重点的に行う。
収穫が終わったら予備役兵20万を兌州に追加投入。
こんな感じでどうかしら?」
「妥当なところでありんす」
「いいと思います」
田豊の意見に大方の参謀が同調して、これで河南の侵攻方針が固まった。
「じゃあ、一刀。お願い」
「わかった。
陛下と麗羽様が河南侵攻にうんと言えばいいんだろ?」
「そう」
「……けど、俺でなくてもいいだろうに。
誰が言ってもうんっていうよ」
「……私が言ったら全て拒否されそうで」
「まあ、いいけど」
ということで、劉協と袁紹の許に許可をもらいに行く一刀。
「陛下、麗羽様。
河北が全て平定されましたので、これからは漢の力を河南に向けるときと思います。
中原では曹操様が魏、江の周辺では袁術様が仲の建国を宣言し、漢への反抗をあらわにしております。
河南への侵攻を許可いただきたく、ここに参りました」
劉協は玉座、袁紹はその脇に座っている。
高さは劉協のほうが一段高いが、というより一段しか高くない位置で、漢の中での袁紹の重要性を示している。
「出来るだけ戦死者がでないように配慮することを切に希望します」
優しい劉協の言葉だ。
「まず、どこに向かうのですか?」
と、質問するのは袁紹。
まるで、国家の指導者のような質問をする袁紹である。
時々、馬鹿でないところを見せる袁紹だ。
「はい、まず河水(今の黄河)に接している魏に攻め込みます。
その中でも青州は陶謙様・劉備様から曹操様に統治が変わったばかりですから、ここは必ず攻め込む予定です」
劉備も一時は州牧になったので、様付けだ。
ちょっと違和感あるが。
「それでも兵力は余るでしょうから、兌州も同時に、というのが基本方針です。
許都は業都から遠くないところにありますから、兌州を通っていきなり許都を陥としにという作戦も考えたのですが、そうなると曹操軍も必死に抵抗するでしょうから味方兵力の被害も多くなることが予想されます。
これでは華麗に勝利する麗羽様の美学に反すると思いましたので、兌州は業都からは遠いですが、青州に近い側から攻めていく予定です」
キーワード"華麗"は外さない一刀だ。
確かに、田豊が説明したらまっすぐ許都を陥とせ!と言われておしまいになるかもしれない。
そうしたら官渡の戦いがすぐにでも起こってしまう可能性がある。
「オーッホッホッホ。よく分かっておりますわね。
華琳も美羽も昔可愛がってあげた恩を仇で返すようなまねをして許せませんわ。
この麗羽様の力を見せ付けるのです。
華麗に進軍ですわ!」
「わかりました!」
皇帝と相国の許可が出た。
これで、曹操も袁術も漢の反逆者とみなされてしまったことになる。
袁紹は、以前は顔良や文醜とちょこまかと出歩いていたようだが、相国ともなるとあまり好き勝手に遊びまわることもできない。
そんなことをしたら皇甫嵩ににらまれそうだし。
だから、戦も本当に大事なときだけ出陣し、ほとんどは部下だけが出陣する形態に変わっている。
黒山の時もそうだったし、南匈・烏丸の時もそうだった。
おかげで戦いやすくなった、といったら袁紹切れそうだから、それは黙っている。
今回もそのスタイルでいこうと思っているのだが……
「私は兌州に出陣しますわ」
え゛?!
そ、それはまずい。
「いえ、麗羽様は、まだ業に留まっていただいていて大丈夫です」
「何故ですの?
曹操を倒すのであれば、この私が出陣するのは道理ではありませんか!」
「ええ、その通りです。
ですが、地理を考えてみてください。
兌州に攻め込んでも、最初のうちは地方の名も無いような城を順番に落としていくだけですから、しばらく曹操と当たることはありません。
麗羽様が必要なときは出陣をお願いいたしますから、その時に出陣していただきたいと思います」
それを聞いた袁紹は……
「それも、そうですわね。
わかりましたわ。華琳と当たるときはすぐに声をかけることですわ」
「はい、わかりました!」
あっさり了承する袁紹。
一刀の説ももっともだから。
一刀が劉協と袁紹に許可をとりに言っている間、参謀・将たちは、誰がどこに向かうかを決めていた。
「あとは、誰をどこに送るか、ね」
「青州は私が向かいましょう」
と立候補したのが臧洪。
臧洪。字が子源、真名が一徹。
そう、呂布を虎牢関から連れ帰ってきた武将である。
三国志の中ではそれほど目立つ存在でもないが、反董卓連合を起案したのも彼だし、実際に荒れている青州を袁紹に命じられて鎮圧したのも彼である。
"漢"と言っていい人物だろう。
「兌州はあたいが行こうか」
「文ちゃんが行くなら私も」
なんとも単純な決定方法であったが、結局、青州は臧洪、軍師が審配、兌州が顔良・文醜に麹義、軍師が沮授・逢紀という割り振りとなった。
田豊は業に残って情報整理。
荀諶は姉がいるから出陣しないのか?
「陛下と麗羽様の許可はおりました」
一刀が軍議に戻ってきて結果を報告する。
「ご苦労様」
「それで、誰がどこにいく事になったの?」
田豊は割り振りを一刀に説明するのだが、
「えっ!!」
一刀は驚きを隠せない。
「何か問題でも?」
臧洪は確かに青州を袁紹の命で平定した人物だが、その後は男を貫き通して袁紹に攻められ、最後には殺されている。
文醜、顔良が殺された官渡の戦いがあった場所は兌州にある。
「臧洪さんは青州を鎮圧したらすぐに冀州に戻って、青州を治めるのは別の人物とさせてください」
そうすれば、正史のような進行になることはないだろう。
「斗詩さんと猪々子さんは兌州に攻め込んでもいいですけど、陳留と東郡にはあまり行かないようにしてください。
特に延津と白馬、中でも官渡は絶対駄目です!」
「どうして?」
「死にます」
軍議の場が水を打ったように静まり返る。
「そ、それじゃあ、別の人選にしたほうがいいのかしら?」
ようやく田豊が一刀に質問する。
「いえ、今の注意を守ればきっと大丈夫でしょう。
それに、今の時点ではその人選が一番適任だと思います」
臧洪は実際に青州を鎮圧しているし、文醜・顔良と曹操が戦ったのも恋姫史実では事実だ。
多分、官渡までは攻め込めるだろう。
だから、何もしなければ将来問題となる可能性があるが、現時点では一番適任だと一刀は思う。
「そう。わかった。
それじゃあ、みんな、その方針で進めましょう。
各自、準備をお願い」
「「「はい!」」」
河南侵攻がいよいよ始まる。