衝車
曹操領に攻め込んだ袁紹軍の様子。
まず、青州に攻め込んだ臧洪。
曹操軍も劉備軍も撤退した後で、やることといったら盗賊の討伐と街の治安維持。
史実の通り、着実に制圧を進めている。
重要ではあるが、あまりに地味なので省略。
本筋なのが兌州に攻め込んだ顔良、文醜、麹義隊。
「つっこめーーー!!」
それはそれは嬉しそうな文醜の声が戦場に響いている。
何をどこにつっこむか、というと、袁紹軍の新兵器衝車を城門に突っ込ませるのだ。
決して一刀のナニを文醜のあそこに突っ込むわけではない。
袁紹軍の新兵器は衝車と雲梯車。
衝車は装甲付き巨大槍といった兵器で、先端の槍で城門を破壊する。
雲梯車は移動式屋上といった、兵器というか山車のようなもので、それで城壁より高い位置から弓を射たり、城壁を乗り越えたりしていく。
易京を攻撃したような超大型衝車になると、人力で高速で動かすのが最早困難となり、城門の前に下り坂、更にその手前には衝車を坂の上に上げるための上り坂が必要になる、早い話が小山を作る必要があるが、この衝車はそこまで大型ではなく、破壊力がそれほどでもない代わりに移動は人力のみで可能である。
破壊力がそれほどでもないといっても、並みの城門であれば数回突撃すれば突破できる。
文醜、こういう破壊作戦がだ~いすき!
嬉々として指示を出している。
衝車の破壊力は抜群だった。
装甲も厚く、弓や石がぶつかったくらいではびくともしない。
数回の突撃の後、衝車は城門を突き破り、そのまま城内に突入する。
「突撃ーー!!」
文醜らの指示で、歩兵部隊が上方からの弓や石を楯で防ぎながら突破した城門に突入する。
10万の大軍で押し寄せた袁紹軍である。
突撃部隊以外は雲梯車の上から城壁の兵に向かって雨霰のように矢を射ている。
地方の数千人規模の城は、あっという間に陥落していくのであった。
「今回もあっけなかったな」
「こんな小さな城相手では当然でありんす」
戦いの後で文醜と逢紀が戦を振り返っている。
それでも、衝車の威力か、三日で三つの城を落とすというのは超高速だろう。
ほとんど移動時間だ。
そこに顔良と沮授がやってくる。
「文ちゃ~ん、これ見てよう」
「何?ただの弓じゃん」
「ちがうよう、曹操兵の弓なんだよ。
もっとよくみてよう」
「う~ん……どうみても普段見慣れている弓と一緒なんだけど」
「そうだよ。だから問題なんだよう」
「どうして?」
「だって、この弓は兵器部のみんなが、天の国ではこんな弓があるらしいという一刀さんの話を聞いて、考えに考えて作った袁紹軍だけの弓だったんだよ」
複合弓は一刀が日本で見たアーチェリーの弓のことを聞いて、武器技術者が考え出した傑作だった。
この時代相応の技術はあるから、ヒントがあれば色々活用できるのだろう。
「そういやそうだな」
「それとおんなじ弓を曹操軍の兵が持っているって事は」
「弓での優位性はあまり期待できないということです」
沮授が顔良の言葉を引き継いで説明する。
「それはまずいでありんす。
戦い方を見直さなくてはならないでありんす」
「そういうことですね」
「だが、これはまだできていないだろう。
袁紹軍でも出来たばかりだからな。ガハハハ」
と、新型の弩を撫でているのは麹義である。
「そうですね。
でも、使う時期と場所は考えなくてはなりませんね」
さて、ここで新兵器の誕生の背景を見てみよう。
時は遡って一刀が業にきて、ビール醸造に成功した頃のこと。
「一刀さ~ん」
顔良が、ぺっちゃんこにつぶれた髪を8:2に分けた中年男を伴ってやってきた。
「はい、なんでしょう?斗詩さん」
「この人、破茂さんっていうんですけど、袁紹軍で武器の開発をしている人なんです。
それで、天の御遣いとして、武器の助言がいただけたらっていうんですけど……」
「お初にお目にかかりますぅ!
破茂でんがな。
あのビールっちゅう酒に感動しましてな、天の御遣い様なら武器のことも何か知ってるんちゃうやろかと相談に来たわけなんですわ」
それほど武器には詳しくないんだけど
何茂じゃなくて破茂?
○破茂から石が抜けた?○破茂って軍事オタクらしいから
と思うのと同時に、
何故、武器開発の人間は全員大阪弁?
と疑問を感じる一刀である。
「ごめん、俺、それほど武器には詳しくなくて……」
「どんなことでもええねん。
天の御遣い様の知っている武器がどんなものかちーとばかし教えてくれるだけでも役にたつかもしれへん」
「それなら……」
ということで現代日本の武器・兵器を色々説明する一刀。
その方面にはまるで素人だが、新聞やテレビやインターネットで見聞きした程度の情報でも破茂にとっては重要な意味を持つ。
中国三大発明だって知ってるし。
破茂は何度も何度も一刀のところに足を運ぶ。
とはいっても、火薬が基本になっている兵器が多いので、それは余り役にたたない。
飛行機やミサイルの情報も全く意味がない。
「その火薬っちゅうもんはどない作るねん?」
「確か木炭の粉と何かと何かを混ぜるんじゃなかったかなぁ」
惜しい!あとは硫黄と硝石だ。
「その何かが重要なんでんな」
「ごめん、余り詳しくなくて」
火薬はまだできないようだ。
前言修正。
中国三大発明が何であるかは知っている。
但し、作り方はその限りでない。
「戦車っちゅうもんもおもろいでんなぁ。
装甲は何かに使えそうでんなぁ」
というわけで、出来たのが先の衝車。
「刀や矛や弓はどうでんねん?」
「刀は確か鍛造して切れ味がいいけど折れやすい鉄を粘りのある鉄で覆って作るんだったような……」
と、日本刀をイメージして答える。
「矛や戟は全然みない。
十手なんていうのもあったけど、攻撃用じゃないと思う」
他にも江戸時代の武器を二三説明する。
「弓は、何かこんな感じのが新しいらしいけど」
と、アーチェリーの複合弓の絵を描く。
何故、複合弓かというと、たまたま覚えていたのが複合弓だったから。
映画の影響か?
「あと、手に何かつけていたかも。
持っているのかなぁ?
弦をひっかけるのに使うのかなぁ。
前のほうに触角が生えているのもあったみたいだけど、あれはなんなんだろう?
照準があるって話も聞いたことがあるような……」
この辺はオリンピックのアーチェリー競技の知識だろうか?
どうも色々知識が混ぜ合わさっているようだが、破茂にはこれほど魅力的な情報はない。
というわけで、出来たのが袁紹軍スペシャル弓+リリーサー。
これだけの情報であれだけの物を作り出した破茂、天才である。
恋姫李典や演義諸葛亮といい勝負だ。
そして、それから先は袁紹軍の経済力がものを言って、大量生産で新兵器を全員にいきわたらせた。
触角(センタースタビライザー)も作ったのだが、簡単に取り外しできるように作れず、持ち運びに不便で、またそこまでの射撃精度は要求されなかったので今のところお蔵入りになっている。
こうしてみると、農業だけでなく、現代の一般的な知識も結構役立つようだ。