夜襲
行程はつらいが、作業はこなさなくてはならない。
そうでないと出張をした意味がない。
それでも最初の目的地の河水の傍の漁村に着いたときには、心身喪失状態になってしまった一刀、仕事をこなすのはなかなかきつい。
そんな一刀に鞭打つように文官が漁業関係者で適当な人を探してきてしまう。
「いやーー、天の御遣い様。お待ちしておりますた」
「は?どうして……ですか?」
「天の御遣い様のおかげで農業が盛んになったのはここにも伝わっておりますた。
我々、漁業関係者も天の御遣い様に豊かにして頂きたいと、常日頃思っていたんだス。
今日ここにお出でくださったのは、我々漁業に携わるものにも天の御遣い様の恩恵を授けてくださるためと思って、一同大いに喜んでいたのだス」
そんなに期待されると困ってしまう一刀。
「ご、ごめん。俺、漁業はそれほど詳しくなくて……ていうか、全然詳しくなくて」
「そ、そうなのだスか……」
かなり悲しそうだった。
「で、でも、少しはそれに役にたつ話を持ってきたつもりなのですが」
「そ、そうなのだスか……」
一転して嬉しそうな表情になる。
そこで、一刀は魚肥の話を始める。
「っつうことは、今まで捨てていた魚の皮や骨や食用になんねえような魚を干して乾燥させたら買うてくれるっちゅうことすか?」
「そうです。まあ、あまり高値では引き取れませんが」
そして、傍の文官に
「同じ重さの乾燥牛糞くらいでしょうかね?」
と小声で尋ねる。
尋ねられた文官は、
「そうですねーー。
購入した後、粉砕するのはどこでやるんですか?」
「うーーん、粉砕する機械をこの村で買うかどうかですけど」
「まとめて粉砕したほうが効率的でしょう。
となると、各地の農協に集めて、そこで粉砕したほうがいいですから、そうなると乾燥牛糞よりちょっと安いくらいでしょうか」
「ああ、そうですねえ。
でも、確か魚肥って牛糞よりいい肥料だったから、ちょっと色をつけてあげてください」
「わかりました」
と、値段を見積もって、それを村民に答える。
「それでも、今まで捨ててたもんが金になるんはありがてえ」
ということで、あっさり交渉成立。
あとは、魚肥の作り方の説明。
といっても、簡単。
天日で干してからからにして。以上。
「からからになるまで干してくださいね。
そうしないと、腐りますから」
「わかったす」
「天気はどうですか?
晴れの日が続きますか?」
「雨はそんなに長く続くことはねえな」
「じゃあ、大丈夫です。
雨や霧が続くようだったら、石炭っていうのを燃やして乾燥させる方法もありますから、魚肥を収めるときに連絡してください」
その他細かいことは文官が全部調整してくれた。
伊達に文官ではない。
そして、文官が決めたことを荀諶が決裁して終わり。
荀諶も遊びに来ているわけではないから。
こうして、出張初日は無事に終わった。
夜は寝る。
あたりまえのことだ。
小さな村でも村長の家というのはそれなりに大きく、そこに泊まることはできるから、厄介になる。
それほど大人数でもないし。
で、問題なのが部屋の割り振り。
一刀の入る部屋には閨が二つあること。
一つは一刀用、もう一つは護衛の呂布用。
「お前、恋殿にいやらしいことをしようとしているのですね!」
当然つっかかるのは陳宮である。
「しねーってば。毎晩一緒の部屋で守ってくれてるけど、指一本触れたことないから!」
それを聞いた陳宮、目が点になる。
「…………今、何と言ったのですか?」
「え?何が?」
「一緒の部屋と言いませんでしたか?」
「言ったけど?」
そう、陳宮は今始めて一刀と呂布が一緒に寝ているということを知ったのだ。
それを聞いた陳宮、目から涙がぼろぼろと流し始める。
「恋殿~~~!
夜な夜なこんな狼と同じ檻に入れられていたのですか。
なんて不憫なのですか!」
「狼じゃない。ご主人様」
「この男に変なことをされていませんか?
純潔は奪われていませんか?」
「ご主人様、いい人」
「恋殿、今日はねねが恋殿を守って差し上げるのですよ。
一緒に寝るのですよ」
こくりと頷く呂布。
「お前、恋殿にいやらしいことをしようとしたら、このねねが許さないのですよ!」
「しねーって。今日は疲れたから寝る!」
疲労困憊の一刀はどさりとベッドに転がり込み、ぐーすか眠り始めてしまう。
「恋殿、一緒に寝ましょう」
陳宮と呂布も隣の閨で眠り始めた。
今日は一刀は服を着ているので、呂布も服を着ている。
陳宮に普段裸で寝ていることはばれなかった。
さて、陳宮、以前説明したとおり健康優良児であった。
口ではああいったが、早寝早起き元気な子だ。
すぐにぐーぐー眠ってしまう。
そして、朝まで目を覚まさないことになる。
夜も更けて……一刀達が寝静まった頃、一刀たちの部屋の扉が開いて、また閉まる。
呂布はその様子を見て、入ってきた人間を確認して、また眠ってしまう。
入ってきたのは2名。
その二人、一刀の閨に向かっていく。
一刀は、今日は本当に疲れてがっくりと眠っている。
二人は協力するように、そんな一刀の服を全部剥いでしまう。
そして、なにやら妖しい行為を始める。
「……ん…………ん?…………なんだ?うはっ……」
一刀が妖しい感触に目を覚ましてみれば、荀諶と賈駆がなにやら一刀の体で遊んでいる。
「ふ、二人とも何やってんだよ!
帰れよ!」
すぐ隣に陳宮がいるので、小声でどなる。
「月が襲われない様に一刀から抜いておくだけよ。
べ、別に一刀としたいわけじゃないんだからね。
勘違いしないでよね」
「しねーったら!」
「こんなに大きくして説得力ない」
「それは、お前が咥えて、う?」
話している途中の一刀の口を荀諶が塞いでしまう。
「駄目なの。
この体は一刀じゃなくちゃ鎮められないの。
一刀が鎮めてくれなくちゃいけないんだから」
疲労困憊の一刀、もはやこの二人に対抗する力はない。
二人に搾り取られつづけ、何故か途中から勝手に体が動き出し、昼にもまして疲労を蓄積していくことになってしまったのである。
尚、賈駆はこの日が始めてであった。
ちょっと雰囲気に欠ける初体験だった。
呂布は、何故この二人を放置したか?
理由は簡単である。
もう一度、田豊の台詞をみてみる。
「いい、恋?
夜、一刀に敵が近づかないようにするのよ!
側室は要らないの。
分かった?」
呂布の認識は、
夜、一刀に敵が近づかないようにするのよ!
→ 夜、一刀の命を狙うような敵が近づかないようにすること。わかった。
側室は要らないの。
→ 田豊は側室をとりたくないらしい。女が側室をとることはありえないと思うが、話はわかった。
それぞれ、独立した文と認識して、それぞれわかったので、わかったと答えたのだ。
何で、そんな脈絡のない文が出てくるのか分からなかったので小首を傾げたが、意味は分かったので、わかったとした。
呂布は、敵が来ないので安心して眠り続けたのだった。
田豊の意図は全く通じていなかった。