濮陽
史実では、袁紹軍が濮陽を攻撃したことはなかったようだが、恋姫袁紹軍、遠回りして変なところから攻め始めたので濮陽を攻略することになってしまっている。
呂布が袁紹軍にいるから、曹操-呂布戦もまざっているのだろうか?
袁紹軍、疲れない程度の行軍速度で侵攻しているだけだが、着実に進んでいるので、濮陽の前に布陣するまでになっていた。
新兵器の雲梯車が早速組み立てられて、翌日の決戦に備える。
「みんなぁ、今日はゆっくり休んでね。
濮陽は明日一日で片付けるから。
見張りの人はしっかり見張りをお願いしま~す」
顔良が兵達に今日の作業の終了を告げ、兵はそれぞれに休憩にはいる。
いよいよ濮陽決戦だ。
濮陽を守るのは楽進と郭嘉。
彼等は今城外に袁紹軍を見て、いよいよ明日が決戦だろうと感じている。
恋姫の中では、第一線ではないが、堅実な武将と軍師が宛がわれている。
楽進。字が文謙、真名が凪。
郭嘉。字が奉孝、真名が稟。
史実では、エース級の武将と軍師である。
楽進は、官渡の戦いの時には冀州に攻め込んで暴れていたようだが、色々史実と差異があって、今は濮陽の守備を任されている。
その楽進、郭嘉に今後の展望を尋ねている。
「稟殿、我々は袁紹軍に勝つことができるでしょうか?」
「勝つ必要はありません。
この城を今年の収穫が終わるまで持ちこたえさせればいいのです。
唯でさえ兵の数で負けているのですから、この城という有利な位置を出て、相手を叩こうなど考える必要はありません」
「…そうでした。すみませぬ、つい先走ってしまって」
「いえ、あの袁紹軍を目の前にしたら緊張するのが当然です」
「それでは、稟殿。我々は袁紹軍の攻撃を防ぎきることができるでしょうか?」
「それは……」
郭嘉、言葉に詰まる。
「下丕では弓や霹靂車が有効に働いているという話ですが、袁紹軍は弓は私達と同じか、それよりいいものを持っていますし、城壁を破壊する衝車という新兵器を使っているという話も伝わってきていますから、どこまで私達の武器が通じるか」
と、やや弱気に言った後に、強い決意でこう続ける。
「霹靂車で衝車をどこまで防げるかが袁紹軍の攻撃を防げるかどうかの重要な点になると思います。
私達が防げないと、全軍で袁紹軍に抗する必要がでてきますが、そうなると今年の収穫が減ってしまいますから、戦には勝っても経済的には厳しい状況に陥ってしまいます。
袁紹領はその点備蓄だけで何年もやっていける大国ですから、そうなると一度は勝てても二度三度と攻め込まれたら曹操軍はもうもたないでしょう。
ですから、何が何でも私達はこの濮陽を守りきらなくてはならないのです」
「そうですね。私達の命をかけて、この城を守りきりましょう」
楽進も袁紹軍を防ぐという強い決意を持ったのだった。
翌朝、風上に雲梯車を移動させた袁紹軍。
櫓と違って移動できるのがこの雲梯車の特徴だ。
弓の射程ぎりぎりのところから城壁の上を狙う。
「撃てー!!」
顔良の声で、一斉に弓が城壁に向かう。
弓の性能は同等、弓を射る位置も雲梯車のおかげで同等、ということは風向きが矢の飛距離を決める唯一の要素になる。
曹操軍、いくら撃っても弓があたらず、敵の的になる一方だ。
城は動かせないので、風上に移動することもできない。
「見張りを除いて、全員城壁から避難!!」
楽進、仕方なく弓隊を城壁から下がらせる。
「つっこめーーー!!」
それを見た文醜、嬉しそうに突撃を命ずる。
何をどこにつっこむか、というと、袁紹軍の新兵器衝車を城門に突っ込ませるのだ。
決して一刀の…………いや、繰り返しになるので止めておこう。
衝車には矢や石を防ぐ装甲が施してはあるが、視界を確保する関係で万全ではない。
矢がないほうが衝車も扱いやすい。
そこで、まず弓隊が城壁の上の敵兵を一掃して、それから城門に向かうのだ。
と、そこまではいつもの楽勝パターンだったのだが……
ボガン
いきなり吹っ飛んできた岩に、衝車の進行が阻まれる。
さすがに、直径10cm程の丸太を並べて作った装甲なので、人一人分くらいの重さの岩一発で破壊されるほど柔な衝車ではなかったが、装甲がかなりへっこんでしまった。
あと数発、下手したら一発でも岩を食らうと流石の衝車といえども破壊されてしまいそうだ。
「一時退却ーー!!」
文醜、大急ぎで衝車を下がらせる。
「命中ーー!!」
城壁の見張りの声に、城内はやんやの大喝采。
「敵の状況を報告!!」
尋ねる楽進に、見張りは袁紹軍の様子を伝える。
「岩は衝車に命中して、装甲の一部を破壊しました!
衝車は大急ぎで戻っていきました!
もう、射程圏外に下がっています!!」
「よし、わかった!!
また、近づいてきたら連絡しろ!」
「わかりました!!」
そして、今度は郭嘉に話し始める。
「とりあえず、敵の攻撃の第一波は防げましたね」
「はい、でも油断は禁物です。
敵も別の作戦を考えてくるでしょうから。
それからです、私達の真価が試されるのは」
「はい、気を抜かずに守り抜きましょう」
「ええ」
「敵に動きあり!」
城壁の上の見張りが大声でどなっている。
見張りは、楯を被って亀のように身を守りながらの見張りである。
かなり厚めの板で出来た楯なので、弓がいくら当たっても平気。
弓を射る場合には、そんな風に亀のようになれないから、今城壁に昇れるのは亀のようになっても大丈夫な見張りだけだ。
「何をしている?」
「弩を櫓の上に上げているようです」
「弩?」
「はい、そうです!!」
「弩を櫓に上げて、何をするのだろう?」
問われた郭嘉もよくわからない。
「さあ。弩はそれほど飛びませんから、櫓が近づいてきたら霹靂車の餌食になると思うのですが。
でも、何か嫌な予感がします」
「しっかり見張りを続けてくれ!」
「はい、わかりま」
見張り兵の言葉は最後まで発せられることがなかった。
城壁を見上げる楽進や兵の間に、楯と一緒に射抜かれた兵がどさりと落っこちてきた。
即死である。
麹義の破茂弩が2里程離れた位置から発射され、楯を突き破り、見張り兵を破壊し、それでも勢いは衰えず、見張り兵を城壁から城内に吹き飛ばしたのだった。
射程5里を誇る弩である。
2里なら的を外すはずが無い。
曹操軍に恐怖を与えるのに十分な威力だった。
そして、程なく二人目の見張りも、同じように弩の餌食となって城壁から城内に落っこちてくる。
他の見張りは全員城壁から降りてしまう。
曹操軍の間に沈黙が訪れる。
弓で城壁から追いやられ、更に楯を持って上がった見張り兵まで楯ごと殺されてしまう。
城壁の上は遼か遠方の敵に完全に制圧されてしまったことになる。
これで、どう戦えばいいのだ?
城壁に昇れないのでは城に立てこもっているメリットが全く生かされないではないか。
「だ、誰か見張りに立つ者はいないか?」
楽進が尋ねるが、それはちょっと酷だ。
目の前の死体を見たら、誰も行きたいとは思わないのは当然。
そのうちに、城門がドーーーンと大きな音をたてる。
衝車が城門を突き破ろうとする音だ。
「霹靂車を使いなさい!!」
郭嘉の指示に、兵たちは霹靂車で岩を飛ばし始める。
だが、標的がどこにあるかもわからずに闇雲に撃っているだけなので、残念ながら当たらないようで、再び城門に衝車があたり、城門はドーーーンと大きな音をたて、ミシミシっと亀裂が入る。
「全軍、突入に備えて迎撃態勢をとれ!!」
もう、城門が破られるのは時間の問題と諦め、城内に飛び込んできた敵と戦う態勢をとる。
城門に三度衝車が突撃する。
もう、7割方城門は破壊され、恐らく次に衝車が来たときに、敵が突入してくると、曹操軍全軍で身構える。
と、城壁の上から声がする。
「撃てーー!!」
見張りがいない、というか立てられないので、袁紹兵が易々と城壁を登り、そして弓を射る準備をしていた。
敵が城門の傍に集中して待っているのは容易に想像がついたから、それを背後から撃てば簡単に敵を屠ることができる。
顔良の指示で、矢が曹操軍の背後から襲いかかる。
そして、態勢が崩れたところに、衝車が突入し、それに続いて文醜隊も続く。
楽進は降伏を申し出た。
濮陽3万の兵は、ほんの数時間でその数を半減させ、陥落した。
曹操軍の完敗だった。
あとがき
破茂弩の出番はこれが最初で最後です。
まあ、効果は絶大でしたが。
いんちき発明ですが、そういうことですのであまり深くは突っ込まないでください。