発注
「ねえ、朱里ちゃん。
ウィスキーっていくら位するのかなぁ?」
「さあ、買ったことがないので分かりませんが。
星さんは知っていますか?」
あまり高いものだと、この仲国の台所事情からすれば発注は難しそうだ。
「うむ、いつも主殿に頂いてばかりだから、金を出して購入したことはないな。
それほど高いものではないのではないか?」
といった後で、
「いや、対価は私の体だから、やはり高価なものなのだろうか?」
といって、諸葛亮を見ながらにやりと嗤う。
いきなり顔が真っ赤になる諸葛亮。
「はわわ、はわわ」
「そうそう、代価として朱里殿を差し出すというのも良いかも知れぬ。
主殿のことだ、きっと優しくしてくれるであろう」
そんな純真な諸葛亮を更にからかう趙雲である。
だが、諸葛亮、いつまでもからかわれるばかりでもない。
「そそそそんなことはありましぇん!
そんなことを言うのでしたら、袁術様に頼んで星さんをウィスキーの代価として送り届けてもらいます!
大体、星さん、なんでここにいるんですか!
徐州で待っていると言っていたではないですか!
約束も守れない人はウィスキーの代価を体で払ってもらうのが当然でしゅ!!」
「ふむ、それなのだがな―――」
趙雲が言うには、最初はその予定だった。
ところが、徐州の軍に青州との州境を守るように曹操から指示が下り、趙雲も客将なのでそれに同行しなくてはならなくなってしまった。
そこで、麋竺が言うには、客将にそこまでしていただくのは申し訳ない、あとは徐州の民で何とかするから好きに行動してもらいたい、とのこと。
「そのまま、客将として徐州に留まろうとも思ったのだが、少なくとも下丕にはいることが出来ぬゆえ、麋竺殿の手助けは出来ぬ。
それであれば大陸のほかの場所も見てみたいと思い、仲に来た次第。
流石に今まで徐州にいたものが、桃香殿が連れ去られた曹操殿のところに仕官に伺うというのも如何なものかと思い、ここ仲国にしたのだ」
「そうなんですか。
麋竺さんにはお世話になりっぱなしです」
「そうだ、朱里殿。
麋竺殿におすがりするというのはどうだろうか?」
「麋竺様?どうしてですか?」
「麋竺殿は、前々から下丕が曹操に攻め滅ぼされなかったのは桃香殿のおかげだ、いつかはご恩返しをしたいと仰っていたからな」
「そうなんですか。
でも、そんなに頼ってしまってよいのでしょうか?」
「いや、麋竺殿も却って頼ってもらえたほうがうれしいのではないだろうか?」
「それでは、ちょっと頼んでみましょうか」
「だったら、桃香ちゃんがお手紙書くね!」
「は、はあ……」
というわけで、劉備は麋竺宛ての手紙を認(したた)める。
「朱里ちゃん、お手紙書いたから送っておいてくれる?」
「わかりました」
と、諸葛亮は手紙を受け取り……送る前に検閲をかける。
諸葛亮の見た文面は……
『麋竺さんへ
一刃ちゃんに頼んでウィスキーを送ってもらって。
お願い。
桃香ちゃんより』
「はぁ」と溜息をつく諸葛亮。
ただ、誤字がほとんどないところを見ると、曹操への手紙は嫌がらせで字を間違えたものだろうか。
麋竺なんて、普通書けない。
もしそうなら、劉備もなかなか侮れない女である。
一刀は惜しかった!
これがなければ漢字は100点だったのに。
やっぱり、この間はたまたま誤字が多かったのだろうか?
だが、それはそれ。諸葛亮は文面を大幅に変更する。
というより、自分で既に書いていた手紙と取り替える。
『麋竺様
今、劉備様は仲国に仕える身となっておりますが、袁術様との約束でウィスキーなる強い酒を入手しなければ立場が危うくなってしまうことになりました。
そこで、誠に勝手なお願いであることは重々承知しているのですが、袁紹様より、そのウィスキーなる酒を購入し、寿春まで送ってはいただけないでしょうか?
誠に当方の勝手なお願いですので、出来なければその旨連絡いただければ、別の方法を検討いたします。
ご検討お願いいたします。
諸葛亮』
諸葛亮の手紙を受け取った麋竺、早速袁紹、というか一刀にウィスキー購入を打診する。
趙雲の言うとおり、麋竺は、曹操に攻められたときに、もう自分の財産はなくなるものと、諦めていた。
それが、劉備のおかげで命も財産も守られたのであるから、その劉備のお願いなら、自分の資産を使うことに全く躊躇はない。
で、ウィスキーの価格。
ビールよりは高い酒であるが、所詮は量産品、高いといっても高が知れている。
ヴィンテージワインとは訳が違う。
スーパー大金持ちの麋竺にはあんまり痛くもない額だったので、ありったけのウィスキーを購入して寿春に送り届けた。
ウィスキーがなくなってしまった業では、一刀が「何でそんなに売れたの?」と首をひねっていた。
ちなみに、石炭は蒸留の熱源としては重宝していた。
ウィスキーがやってきた寿春では……
「おー、これがウィスキーというものか」
と、袁術が歓喜していた。
「うん、でも、あんまり一度に飲まないほうがいいよ。
本当だよ。
信じられないくらい強いんだから!」
このウィスキーと一刀が称している酒は、以前一刀が造ったウィスキーそのままの製法であった。
何が特徴かというと、繰り返しになるが普通のウィスキーとは度数が違う。
未だに、度数調整ということを知らない一刀は、蒸留したアルコールをそのまま樽につめ、これがウィスキーだと信じている。
普通のウィスキーは、蒸留後度数調整して30~50度くらいに抑えているが、このウィスキーと呼ばれている酒は度数70~90度(作るたびに若干度数が変わる)を誇るモンスターである。
一刀は、こっちの世界に来る前に、ウィスキーを自分で飲んだことがないので、違うということが分からない。
自分の作ったモンスターウィスキーを飲んで、「うん、ウィスキーって言うのはやっぱり強い酒なんだ」と思うだけだ。
もはや、酒でなくアルコール。
その破壊力は凄まじい。
「……こ、この酒からは禍々しさを感じるのう」
ウィスキーをカップ(というより、碗。200cc位?)にとり、その香りを味わおうとした袁術であるが、モンスターウィスキーからはアルコールの刺激しか感じられない。
「でしょ?でしょ?
今からでも遅くないよ。
袁術ちゃん、まだおこちゃまなんだから、飲まないほうがいいと思うよ!」
と、劉備がアドバイスしているというのに、いや、挑発しているようでもあるが、
「何をいうのじゃ!
妾に出来ぬことはない!」
というやいなや、ウィスキーをがぼっと一口で飲んでしまう。
「ああーーーっ!!!」
慌てる劉備だが、もう遅い。
アルコールは袁術の小さな体を蝕み、顔も全身も真っ赤にしてしまう。
「ななろものむろら……」
たった一口で酔いが回った袁術、張勲にもウィスキーを飲むことを強いている。
「仕方ありませんねえ。少しだけですよ」
といいながら、カップにウィスキーをとって、ちびちびと飲み始める。
「うふ♪うふふ♪
華雄もみんなものみなしゃい。
こんなきもちのよくな○ж☆◇ξ」
既に呂律の回らない張勲である。
そして、張勲のその一言で、寿春の城内は大ウィスキー試飲大会の会場と化してしまった。