「はぁ~、憂鬱だ……」
この世全てをくだらなく感じてくる。
いや、違うか。くだらない存在なのは僕か……
僕には前世の記憶があった。
自分なりに精一杯生きて、そして死んだ記憶。
ごく普通の学校へ通い、2流程度の大学を出て、市役所務めの公務員になり、そして風邪をこじらせて死んだ。
覚えているのは、泣きながら僕の名前を呼び続ける母の顔。
親不孝な息子でごめんよ、母さん……、最後にそう言って僕は死んだ。
死んだ筈だった。
ホント死んだ筈だったのに、気づけばぼんやりと見知らぬ天井を見ていて。
身体が自由に動かない。声が思い通りに出ない。目も良く見えない。
初めはね? この状況は何とか命が助かって、何らかの状況で身体が動かせないんだと思っていたんだ。
でも、ぼんやりと見える人の影が物凄く大きくて、そして自分を抱きかかえた時、気づいた。
僕は赤ん坊なんだって。
それからは自意識が閉じて、唯の赤ん坊、もしくは幼児として過ごしていたんだけど……
3歳ぐらいの頃に、ようやく意識の統合が完全に行われて今の自分になったんだ。
前世の両親には申し訳ないけれど、今世の両親の事も大好きで、その上、可愛い妹までいたんだから今度の生は幸せ一杯に生きるぞ!
なんて思ってたのに、5才くらいになった頃、気づいてしまった。
いや、見てみぬ振りをしていたのが限界になったと言うか……
僕さ、銀髪でオッドアイだったんだ。
謎だ……。だって両親は黒髪黒目だよ? 妹だってそうさ!
なのに何で僕だけ……
その上、僕がちょっとでも微笑んだりすると、老若男女問わず顔を赤らめやがる。
妙に動物に好かれまくる。異常なまでに身体能力が高い。
物覚えが良すぎるし、頭の回転率が異常。
中二だって言いたいんだろ?
ニコポ野郎だって言いたいんだろ?
でもな、一言だけ言わせてくれ。
ニコポなんて能力、最低だぞ?
微笑んだだけで惚れるんだぞ?
それってさ、本当に僕の事、好きになってくれてるのかなぁ。
もしも、何らかの要因でこの能力が失われた時に、それでも僕の事を好きになったままでいてくれるのかなぁ。
そう思ったらさ、恋愛なんて出来なくなっちまったよ。
それからは出来るだけ表情を変えない様にしてきたんだけど、無理だね!
どっかの勘違い系の主人公みたいに、表情が鉄のように変わらないなんてムリムリ。
だって僕は、両親も妹も大好きなんだもの。
顔が綻ぶのは当たり前だろ?
でもさ、両親が僕の事を好きでいるのは、もしかしてニコポのせいなんじゃ……
そんな不吉で悲しくなる事を思ってしまう様になった時、僕は両親の下を出て、学校を経営している祖父の下へと行く事にした。
泣いて止める両親や幼馴染の女の子を置いて、僕は祖父の下へと行ったんだけど……
行かなきゃ良かった。じいちゃんの所になんか。
そうしたらもう一つの嫌な現実に気づかずに居られたかも知れないのに。
祖父の名前は近右衛門。父の名前は詠春。妹の名前は木乃香。
僕の名前は近衛衛華。
今居る場所は麻帆良学園都市。
そうさ、ここは『魔法先生ネギま!』の世界だったのさ。
なんでもっと早く気づかなかったんだって?
普通さ、自分がマンガの世界に来たなんて思わねーよ!
顔見てマンガの登場人物だなんて思わねーよ!!
だって、自分の父親だぞ? 自分の妹だぞ? そんな風に思える訳なんてねーだろ!!
今だって半信半疑だ。いや、3信7疑位か?
家に女中さんと言う名の巫女さんが居たのは、僕も不思議に思ってはいたよ?
でもさ、そんなの日常なんだから、気づいたら当たり前になっちゃうんだよ!
まあ、それはもう如何でも良い事なんだけどね。
マンガだなんて、実際ここに僕がこうして生きている以上、そんなの関係ないし。
ネギま!のストーリーなんて、すっかり忘れてしまってるし。
ここがネギま!の世界だって気づいた事自体がビックリなくらいさ。
そんな訳で、初めはそれなりに平和に過ごしていたんだ。
出来るだけ人と関わらず、誰にも微笑を見せない様に気をつけながら。
でも、木乃香がやって来た辺りからそれが崩れ始め……
今も木乃香と腕を組みながら街を歩いていると言う訳さ。
「兄様、兄様! ウチのこと、好き?」
胃が痛い……
内容は覚えていないが、これからネギま!ストーリーに関わる事が決定済みっポイのがキツイ。
木乃香のクラスメイト全てが僕にポッしてると言う現実がキツイ。
ニコポを打ち消すために、神楽坂さんに叩いてもらったりとかしたのに、全然消えなかったのがキツイ。
ニコポどころか、ナデポまで持っていた現実がキツイ。
ああ、この先、僕はどうなってしまうんだろうか?
せめて、せめてニコポとナデポ能力だけは失くしてしまいたい。
神様、もしもおられるなら、僕のささやかな願いを聞き届けて下さい。
そうでないなら、アレだ。
YOKOSHIMAとかEMIYAとか召喚して下さい。別にKYOUYAでも良いです。
そうすれば彼等が全部受け持ってくれそうだし。
「はぁ~、憂鬱だ……」
今、こうして僕の隣に居る愛しい妹が、僕を好きでいるのがニコポのせいだったら……
そしてもし、突然その効果が切れて、今までニコポされていた人達が一斉に僕の事を嫌いになったら……
くだらない、本当にくだらない存在だ、僕は……
「どないしたん、兄様?」
「いいや、何でもないよ、木乃香」
多分、僕はこうして一生を過ごすのだろう。
他人の好意を信じられず、ろくに恋愛する事も出来ず。
そして、孤独に死んでいくのだ。
「兄様ぁ。ウチな、兄様のこと、だぁーい好きやっ!」
儚げに笑う僕。
それを見て頬を赤らめる妹。
近くで僕の微笑を見てしまい、ポッしてしまう人達。
本当に、くだらない。
後書き
忙しくて鬱っていたら書いちゃった。