昨日の伯爵様のご来訪は確かに度肝を抜かれたが、本来は此処に訪れる客人は非常に少ない。
ご主人様の立場上どうしても知り合いは多いんだろうし、多かれ少なかれそういった人達の応接とかにも応対するんだと思ってたんだけど。
私がメイドの立場についてから来た客人といえば……思い出したくはないがあのおじ様と伯爵様の二人だけだったし、どうにもご主人様の仕事って本当なんだろうかと疑ってしまう。伯爵様のことだってあるし。
そういったことにもご主人様と話したほうがいいかしら、と思うんだけどどうにも聞きづらい。
そもそも遺跡潜りって言っても1、2日で帰ってこれるような場所ばっかりなのか疑問に残る。
結構ご主人様って謎が多いのよね。知る気になれない私が言うのもなんだけど。
そんなご主人様を横目に見ながら食事の後片付けをする。
ちょっと頑張って作ったポルシチを完食してもらったけど味はどうだったのかしら。
ご主人様って必ず私の作ってくれた食事においしいって言ってくれるんだけど、どうにも今日のは違う意見が聞きたい。
後で聞いてみよう。
まぁそんな食後のひと時だったんだけど、どうにもこの家に住む限りトラブルやらには事足りるようで。
銀の食器がぶつかる音と、流し台の流れる水の音だけが聞こえる中で、何かを蹴りつけたようなけたたましい音が鳴り響いたのだ。
驚いて音の方へと走っていけば、案の定外からやってきたお客様だったようで。
赤茶色の皮製っぽい装備に見を包み、右手には物々しく頑丈そうな盾。
腰にはアグメットさんの店でも見られないような細身の剣。
肩で息をしながらも椅子に座ったまま気まずそうな表情をしているご主人様を睨みつけているのはどういうことだろうか。
ご主人様の表情からしてまたしてもアレな知り合いなんだろうかと考えたが、頭にあの不適な笑みのおじ様が浮かんですぐさま頭を振る。
一人悶える私なんて眼中にないようで、その人は唐突にご主人様に向けて怒鳴り声を上げた。
「デイドラの秘宝はどうしたぁ!!!!」
このレッドガードのボーラスさんの来訪のせいで、伯爵様が言っていた事を理解できてしまった。
「お前はいつになったらデイドラの秘宝を持ってくるんだ!?」
「いや、なんで俺に言うんですか。俺以外のブレイズだって暇でしょ?」
「マーティン様をお守りする義務があるから動けんのだろうが! いいから早く持ってきてくれ! もうマーティン様も待ちくたびれているんだぞ!?」
「嘘言わないで下さいよ。前に手紙が来ましたよ? もう読む書物がなくて暇だって。アルゴニアンの侍女送ってやりましたけど」
「お前ええええええぇぇ!!!!」
「いや、他にもいろいろ送りましたよ? グレイフォックスの盗み技術が書かれた本とかも送りましたし」
「お前か! マーティン様が近頃人の後ろを付回しているようになったのはお前のせいか!! たまに私の剣が無くなっているのもお前のせいか!」
「というか実際のところそんなに急いでないでしょ? 一応俺もしぶしぶシロディール中の門を閉めまわってますし」
「しぶしぶ言うな! そこまで暇があるならさっさと秘宝を探せばいいではないか。最近なぞ深遠の暁からブレイズに寝返る奴が出てきたんだぞ!?」
「いいじゃないですか。たぶん今頃キャモランなんか涙目ですよ? 新しく開く門の片っ端から印石奪ってますし」
「確かに寝返った奴からキャモランが柱に縄を吊り始めたという情報は聞いているが!! 根本の解決には至らんだろうがっ!」
いつまでこの口論は続くんだろうか、とうんざりしてしまうのは仕方ないわよね?
というかそんなに大きな声を出されると隣のアグメットさんの頭痛が酷くなるんで静かにしてください、ボーラスさん。
つい最近手を貸してもらった立場としてあまり機嫌の悪くなるようなことしたくないんで。
と、咎めるような視線を向けてみるものの一切無視。
いや、まぁ、話を聞いてるとどう考えてもご主人様が悪いんだろうけどさぁ……。
どうにも聞いた話じゃ皇帝暗殺の事件はこの世界、タムリエルを滅ぼそうとしているなんとかキャラモンやらの仕業らしい。
でもってその裏にはデイドラの王子のメェ……メエルー……デイ、ダイゴン? ……あーもうとにかくその大根とやらがいるらしい。
ご主人様はその事件やら何やらに関わってるらしくて、本当ならそんな世界滅亡の危機を阻止するためにブレイズに入ったってことみたいだ。
で、紆余曲折あって今はギルドマスターやらアークメイジやらの職を持った気ままな冒険者をやっているんだって。
意味不明です、ご主人様。
「いいか? 確かにキャモランは自殺寸前の鬱病らしいが、本当に危険なのはデイゴンなんだ!」
「あー、他のデイドラの王子もドン引きなくらい頭が痛い子らしいですからね、デイゴンって」
「お、おまっ、お前! どこからその情報を!」
「他のデイドラたちが愚痴ってましたから。だってタムリエルに過去三回侵攻して全部返り討ちらしいですし」
「……え、ホント? ホントなの?」
ボーラスさん、キャラ、キャラ崩壊してます。
にしてもここまで来るとご主人様の正気が疑われるんですけど。
ご主人様の話じゃ別に大丈夫みたいな話ですけど、タムリエルの危機だっていうのは初耳だ。
確かに皇帝暗殺のせいでなんとなく世界に暗雲が立ちこめている雰囲気はあったんだけど、クヴァッチが解放されたって話が出てからそうでもなくなったのよね。
へ? クヴァッチ解放? ご主人様が? ……いや、もう驚きませんけど。
「いや、え? 俺が焦ってるのは空気読めてないのか? 焦ってるのは俺だけなのか?」
「たぶんボーラスさんだけだと思いますよ?」
「…………」
「大丈夫ですって。たまに街中で深遠の暁の信者っぽい人と会うと露骨に目を逸らしてきますし。ホント、襲ってくる人なんて半ば自棄になった人だけですよ?」
徐々に白くなっていくボーラスさんが酷く儚げに見えたのはたぶん気のせいじゃないと思う。
結局、真実に落胆したのか、それともご主人様に言いくるめられたのかは分からないけども、ボーラスさんはおぼつかない足でそのまま去っていった。
紅茶も碌に出せずにお帰りになっちゃったけど良かったのかな。
今回はめまぐるしく変わる話の展開にメイドとしての仕事なんて何も出来なかったんだけど。
ていうかこんな話私が聞いてもいいの? 一応次期皇帝が生きているのってまだ秘密なんじゃないの?
湧き出る疑問に対する答えなんていろんな意味でおそろしくて聞けなかったけど、さすがにご主人様の世界の危機に対する態度はやばいと思う。
さすがに私もこのことについては無関心、なんて言えるわけもなく、恐る恐るご主人様に聞いてみた。
この機に乗じて他にもいろいろ聞きたいことあるし。
「あの……よろしいのですか?」
「ん? 世界が滅亡するってこと? さすがに俺だって全く気にしてないってわけじゃないよ」
「何故、と聞いてもよろしいでしょうか?」
「まぁ、簡単に言えば、シロディールのため?」
は?
え、いや、世界滅亡の危機を止めないのがシロディールのため?
すいません、さすがにそういうことを言われると辞表届けを書く準備をしなければならなくなるのですが。
ポカンと口を開けっ放しの私に、ご主人様は笑いながら答えてくれた。
「ほんとはね、俺も普通の冒険者やって世界中を飛び回れたらいいなーって思ってたんだけど、あれよあれよとギルドマスターやらブレイズやらと面倒くさい立場に就いちゃってね」
「め、面倒、ですか」
「うん。しかも実のところ両ギルドなんて最近のごたごたのせいで今にも解体しちゃいそうなくらい安定してないし、ブレイズなんて皇帝暗殺でしょ? まぁとにかく面倒なことには変わらないわけなんだ」
いや、面倒って問題じゃねええぇぇぇ!!
いくらなんでも責任感なさすぎですご主人様。
「それでちょっとシロディール滅亡のことは置いといてギルドの話をするんだけど」
「いや、優先事項が」
「それでね」
「聞けよ」
私の言葉なんて聞かずにべらべら喋り始めたご主人様だったんだけど、その話の内容は深刻そうでその実あまりにぶっ飛んだ話だった。
とりあえずご主人様の優先事項って冒険、ギルド、世界平和の順になってるらしくて……いや、まだ突っ込んじゃいけない。
とにかくいくら面倒くさがりのご主人様とはいえ、シロディールに来た頃からお世話になった魔術師ギルドと戦士ギルドには恩を感じているらしく、どうにかして再建の兆しまでは漕ぎ着けたいそうだ。
ちなみになんで皇帝暗殺云々とかに消極的かっていうと……。
「いやさぁ、俺も最初は帝都について一花咲かせるぞって思ったんだけど、ふと立ち寄った店で店内に落ちていた展示品を拾っただけでスタァァァァァァップとか言われてさぁ」
「…………」
「こっちは善意で拾ってやったのに衛兵から強引に牢屋へ叩き込まれてね。しかもそこであの皇帝のじじいに会うし、勝手に世界存続の危機に巻き込まれるしさぁ。俺としてはさっさと帝都なんか滅んじゃえって思ってるんだよね」
だ、そうだ。
……すごいわよね。ご主人様ってば。
シロディール滅んだらギルドとか関係ないじゃん。
だからご主人様が優先するのって自分が冒険するのとギルドの再建だそうで。
でもってギルドの運営はオレインさんとボラスさんて人に任せているらしくて、ご主人様が担当してるのは主に資金面ってことらしい。
けど資金ていったってたかだか一人の人間が集めることの出来る金なんてギルドを動かすには値しないだろうに。
そこでご主人様が目をつけたのが昨今のシロディールを騒がせて『いた』オブリビオンの門。
過去形になっちゃってるのは、ボーラスさんと話してた通りにご主人様がフルボッコにしてるからだって。
だったらさっさと世界を救ってからギルド再建に取り掛かればいいのに、って思ってるんだけどこれこそがご主人様が変人って言われる証だった。
「オブリビオンの中ってさーもう、タムリエルでは見られないような文化やら物資やらで溢れててさ。お金っていう面で考えるともの凄い価値がある場所なんだよね」
「世界平和は……?」
「もう植物なんて新たな錬金術の発展が見込めそうなものばっかりだし、掘り起こせる鉱物はレアメタルばっかだし、立ってる塔の建築様式なんてそれこそ見たことないようなものばっかりだしさ」
「世界平和は?」
「最初はシロディール内の遺跡品とかを金に替えてたんだけど、さすがに罰当たりすぎるかなって思ったからね」
「世界平和は!?」
もう目をキラキラさせながら語ってゆくご主人様なんだけど、これ絶対にギルド云々とか考えてないよね?
もうこの人自分が冒険したいから適当に理由つけてるだけだよね?
すでにご主人様を見る私の目はこれ以上ないくらい濁っていたに違いない。
「だからもうちょっと深遠の暁には頑張ってもらおうかなぁって。だけどさっきのボーラスとか帝都側がうるさくってさぁ。こっちはちゃんとバランスが保てるように調整してるのにねー」
「ねー、じゃねぇよ」
「まぁ、そんなこんなで世界を回ってるんだけど、どうしても一人じゃ難しくってね」
んなもんギルドの連中に頼めばいいじゃないですか。
もはや私の言葉なんて意図的に無視し始めたご主人様は、その眩いばかりの光を湛えていた瞳をこちらへ向けた。
その瞳にはさっきみたいに冒険に胸躍らせた少年のような光はなくて。
っていうか……あれ? なんか、寒気が。
「資金面調達に減少したギルドの連中を使うわけにはいかないしさぁ、帝都の連中は当てにならないし、シロディール在住の人間だとどうしても不安とかが募っちゃって使い物にならないんだよね」
「あの、ご主人様?」
「今のところ俺に向かってくる人間は確かに少ないけど、無駄に身内を使って弱みを作られるわけにもいかないし」
「……すみません。実家の母が危篤らしいので……」
もうこれ絶対やばい。
早く逃げろ、ここが日常と非日常を分ける境目だ。
この悪魔に足を引きずりこまれるぞ。
誰だ、このご主人様のことを優しいなんて言ってたのは。
真っ黒じゃねーかっ!!
「いやーホントいい人材に会えてよかったよ」
そうにっこりと笑うご主人様を背後に、私は荷物を置いてある地下室へと足を向けた。
「一応待遇はシロディールの中でも一番の待遇にするからさー。俺の持ってるエンチャント技術とかあれば、門の中に放り込んでも傷一つ付かないし」
悪魔のような、それこそ話に出た大根なんかよりも遥かに恐ろしく優しげのある声が背後で聞こえていて。
「まぁ、ここまで話したらどっちにしろ逃がせないけど」
その言葉と共に私の冷えに冷えた二の腕はがっちりと掴まれてしまったわけで。
「一蓮托生ってことで。よろしくね、メイドさん」
とりあえず私はこれ以上ないくらい力を込めて、その満面の笑顔をぶん殴ってやった。
<あとがき>
なーんかそれっぽい理由付けたけど、こんなん適当です。
オブリビオンというゲームは「ぼくのかんがえたしゅじんこう」どころか「ぼくのかんがえたおぶりびおん」まで出来る自由度が魅力的。
もちろん、あまりにやりすぎれば拒否反応が出る読者の方がいるのも当たり前。そこらへんのさじ加減が気になるようでしたら感想の方でご指摘頂ければ幸いです。
作者の欲望と読者の意見を踏まえた上で……やっぱり作者の欲望が9割示すようなSSにしていけたらなと思います。
結局自己満足ですし。更新もこれからはのろのろし始めますが、これからもどうぞよろしくお願いします。
次回から常識崩壊編。
オリジナルクラス 『傅く者』
専門スキル 隠術
メジャースキル 運動 格闘 変性 幻惑 軽業 軽装 話術
速度、魅力特化のキャラになってしまった……。