ご主人様ってば基本的に武器は持たない。というか私の目の前で戦っているのは今回が初めてだからそうも言えないんだけど。
といっても持ってないと言っているだけで使わないというわけではない。
ちょっと混乱する言い方だけど、これはご主人様に限った話ではないのよね。
おそらくは魔術師の人たちにもこういうことは言えるかもしれないし。
話の正体は『武具の召喚』っていう魔法。魔術師の間じゃそんなに高度な魔法でもないみたい。
別に難しい魔法じゃなくて、マジカを消費することによって魔力で編まれた防具武具を召喚する魔法なんだけどご主人様はこれを戦闘に用いる。
魔術云々はご主人様の口から語られたものばっかりだから、ちょっとばかり魔術師の常識と照らし合わせる必要がありそうな気もするけどね。
でもその召喚された武具って普通のものより頑丈で質がいいだけで、何かしらのエンチャントが付いてるってわけでもないみたい。
まぁ……普通は1分くらいで消えてしまう召喚武器がいつまで経っても消えなかったり、それでデイドラたちをボッコボコにしてるご主人様はやっぱり異常なんだろうけど。
なんにせよ重たい武器を背負う手間を考えるとそっちの方が楽なのだそうで。
「エンチャント武器使うほどの敵もいないしねー」
とはご主人様の言葉。
なんとも頼もしい話で、と半ば投げやりになっちゃったんだけどいちいち驚いていたら気が持たないし。
ちなみに武具云々の話をしたけど、ご主人様が放った雷撃魔法がデイドラをバラッバラにしてたのはここだけの話。
ミスリルフルメイルの癖に主力にしているのは破壊魔法だったらしい。
誤射されないことを切に祈る。
「これ、何なんです?」
「んーこれは未だ予想の域を超えてないんだけどね」
オブリビオンの中にあった馬鹿でかい塔を目指して爆進してきたわけなんだけど、そこに近づけば近づくほどにその高さを思い知る。
シロディールの中心とも言える帝都の建物とかはまだ見たことがないけど、おそらくそこにあるどんな建物よりも大きいんじゃないかしら。
といっても外壁は赤黒のごつごつした岩肌ようなものだし、外見も刺々しいオブジェクトがあったりでそこに美的感覚を要求することはできなさそう。
こんなんが家の隣に立ってたらすぐに逃げ出したくなるもの。
でもって中に入ってみればこれまた暗いのなんのって。
デイドラたちってなんでこんな不気味で気味の悪い内装なのかしらって思ったんだけど、ご主人様の話じゃ全部がこんなおどろおどろしいものじゃないみたい。
オブリビオンの中ってそこを治めるデイドラ・プリンスの傾向がほどよく反映されるんだとか。
世界に反映……ってねぇ。やっぱり別次元のお話だ。
「炎が……上に、ですよね?」
「うん。この世界をタムリエルに繋げるためのエネルギーなのか、頂上にある印石に直結してるんだよ」
暗がりの中でもその塔の中心を貫く真っ赤な炎。
弱まる気配さえ微塵も見せずに上へ上へと昇っていくその様は不思議、と言う他ないもので。
私の見る限りじゃただ塔の真ん中を炎が頂上へ昇っていくようにしか見えないんだけど、ご主人様はこれにエネルギーやら門やらと詳しいようで。
ま、世界の仕組みなんかよりも今この瞬間の自分の命の安全の方が私にとっては重要だ。
でもちょっとだけ気になることがある。
「印石ってどんなものなんですか?」
「あ、やっぱり興味ある? そりゃそうだよね。この世界を」
「そういうことではなくてですね」
ちょくちょく自分の体験談と感動を押し付けるのは勘弁してください。ご主人様が特殊すぎるだけなんで。
でも私の言葉にご主人様はちょっと機嫌が悪くなったようで、不愉快そうに眉が垂れ下がってしまった。
やばっ、ちょっと調子に乗りすぎたかも。
「あの、その印石には興味があるもので、つい」
「そういうことにしておいてあげる」
ここでご主人様にへそを曲げられちゃ私の生存率が軒並み下がってしまうので注意せねば。
で、私が印石について何が聞きたかったっていうと別にこの世界の成り立ちがどうのってことじゃない。
それを奪えばこのオブリビオンはタムリエルから離されるらしいけど、そんな平和的な目的で印石を集めているんじゃ絶対ないし。
その印石が何の役に立つのか、ってことが聞きたいのだ。
「エンチャントの仕組みって分かる?」
「魔法生物や野生モンスターの魂を魔法の形態に変化させ、その効力を武具に付加する、でしたか?」
「だいたい合ってる。まぁ魂っていうよりも霊力ってほうが一般的かな」
確かご主人様の蔵書にあった本の中にそんなことが書いてあったような、なかったような。
どちらにせよこの人のメイドをするにあたり、エンチャント関係の知識はどれだけ合っても無駄にはならないだろう。たぶん。
「どうやらその霊力が込められた魂石と似たような傾向が印石にはあるみたい」
「ということは印石にも?」
「おそらくはね。たぶん世界を繋ぎ止めるっていうんだからそれなりに濃密な……おそらくは人間の魂とか。一人二人じゃ決してないだろうさ」
うぁー……じゃあ道中に見せ付けるように転がってた人間のそれってその成れの果て?
ご主人様の様子から世界滅亡なんて、って侮っていた感じもあったけどやっぱりそのキャモランって外道なんだ。
いや、デイゴンが命じている可能性もあるけど。
ということはご主人様はその強力な印石をエンチャントに活用するってわけね。
なんだか危険そうな気がしないでもない。
「でも実際生贄って深遠の暁信者から出てるらしいんだよね。たまーに分塔みたいなところの頂上に嬉しそうな顔で死んでる信者とかいたもん」
「……狂ってますね」
「いいんじゃない? 余計な犠牲者は出ないし、俺は此処に来れるし、信者は減るし。いいこと尽くめだね?」
あぁ、はい、それでいいです。もう。
結局は何もかもが不透明なままだけど、ご主人様の目的は変わらないようで。
なんかシビアな世界のはずなのに、どうにも間抜けに思えてきてるなぁ、私。
誰が一番間抜けなのかって話は置いておくことにして。
とりあえず私は、手に持ったメイスをぶんぶん振り回して威嚇するご主人様の後ろにこそこそとついて行くことにした。
酷い話だよね。何が、とは言わないけど。
首が痛くなるほど見上げる高さの塔を登るっていうのは存外きつい。
頂上へ行くための道なんて階段一つ見当たらない急な傾斜が螺旋状に続くだけ。
お年寄りや子供を尊重しない作りじゃ、人も寄り付かないよ? いや、人なんて来ないけど。
ステップ混じりで飛び跳ねるように駆け上っていくご主人様の後ろを、私はゼーハーゼーハー言いながらついて行ったわけなのですよ。
もちろんその道中に襲い掛かってくるデイドラたちはたくさんいた。
でもちょっと目を放した隙に急な傾斜の道をさっきまで襲い掛かってきたデイドラの撲殺死体が転がってくるっていうんだから、何回腰を抜かしそうになったことか。
即死? 瞬殺? なんでもいいけどご主人様とデイドラの戦いはかねがねそんな感じで進んでいた。
ちなみご主人様といえば武具の回収とかがどうしても連想されちゃうんだけど、ドレモラの武器などはよっぽどのことがないと回収しないらしい。
なんでもデイゴンのオブリビオンにある武器関連のものはあまり質がよくないらしい。
施されたエンチャントもエグイ効果ばかりらしくて、時にローブを来たドレモラさんの持ってる指輪やネックレスを奪うくらい。
一応おしゃれする気はあったのね、ドレモラさんって。
にしてもここまでご主人様の無敵っぷりが披露されると、こちらとしてはデイドラ側に申し訳ない気がしてくるわけで。
もはや特攻部隊と差し支えない勢いで向かってくる敵に対して、飄々としながら塔の仕掛けのギロチンを起動させるご主人様。
なんでその罠を知ってるんですか?
急激に破壊魔法を際限なく放ち始めれば、傍にあったマジカの噴水と言われる場所から失ったマジカを補給する始末。
「俺ってマジカ回復しないからさー」なんて笑いながら言われてもこっちとしては苦笑いするしか出ないです。
ああ……こうやって毎朝血に塗れながら帰ってきてたんだな、としみじみ思う今日この頃。
「こ、ここは通さんぞっ! シェ……」
「うるさい」
ああ、また一人哀れなドレモラさんが挽肉にされてしまった。
おそらくは印石を守る最後の砦であったろう敵をたった一言の下、倒してしまったご主人様は一息つくと持っていたメイスを消した。
黄色の靄がかかったようにご主人様の右手の中で霧散していく召喚武具。
ってことはもうここが頂上ってことでいいのかしら。
はっきり言ってご主人様の後をついて行くのが大変で、周りなんか見てられないし、どこまで登ったのかも実感がない。
うぇっ……吐くかも。
「ほら、これが印石」
「う、は、はい?」
膝に手を当てていかにも苦しそうっていう雰囲気を醸し出している私に、ご主人様はふと目の前を指差した。
そこにあったのは丸いナニカ。
遥か下から登ってきた燃え盛る炎を全身に受けながらも、その球体はどこまでも黒く、薄く張った緑の光が霧のようにかかっている。
低く唸るような轟音を立てながらも燃え尽きることなく、不自然な鼓動を鳴らすこの球体が印石。
……だ、そうだが。
「じゃあ、これで、帰れるんですね!?」
「……感想がそれ?」
印石? もう知らねぇよそんなもん。
こんなわけのわかんない場所に連れてきて、従順なメイドに修羅場を潜らせて、そしてその最後の目的がこの石っころ?
早く家に帰せ。
「あの、すみ、ません。ホント、限界なんで」
「うーん、やっぱり辛かったかな?」
当たり前だろーがっ!!
今にも叫びたかったけどそんな気力もなく、力なく地面に座り込むばかり。
さきほど倒されたドレモラさんの視線が、どことなく可哀想な人を見る目でこちらを見ていた。
あぁ、やっぱりあなたもそう思いますか……。
確かに私はこの地獄の中でかけがえのない友を見つけたのだ。相手死んでるけど。
「しょうがないなぁ。それじゃさっさと回収するね」
「もう、早く……」
朦朧とする視界の先で、ご主人様はその燃え盛る炎の中に何の躊躇もせず手を入れた。
熱くないのか、なんて疑問が浮かび上がる間にご主人様が引っ込めた手の中には真っ黒な印石が既に納まっていた。
そこまではなんとか見て取れたけど、徐々に暗くなっていく私の意識は最後まで保てなかったようで。
最後に見れたのは燃え盛る炎をバックににっこりと微笑むご主人様の姿だけ。
「お疲れ様」
なんだか口の動きがそう見て取れたのは、たぶん私の妄想だったんだろう。
<あとがき>
なんだかつまらない感じになった。
オブリビオンの門の中って4、5度目になるとつまらなく感じてしまう。
設定は捏造多し。きちんとした設定が存在する場合はお手数ですが感想にてご一報くだされば幸い。
ネタとしてどこまでうやむやにしていいやら。
資料多すぎやー。
『超越の印石』
負担 100pts 20sec
軽量化 125pts