<このWebサイトはアフィリエイト広告を使用しています。> SS投稿掲示板

チラシの裏SS投稿掲示板


[広告]


No.14323の一覧
[0] 【習作】ネギま×ルビー(Fateクロス、千雨主人公)[SK](2010/01/09 09:03)
[1] 第一話 ルビーが千雨に説明をする話[SK](2009/11/28 00:20)
[2] 幕話1[SK](2009/12/05 00:05)
[3] 第2話 夢を見る話[SK](2009/12/05 00:10)
[4] 幕話2[SK](2009/12/12 00:07)
[5] 第3話 誕生日を祝ってもらう話[SK](2009/12/12 00:12)
[6] 幕話3[SK](2009/12/19 00:20)
[7] 第4話 襲われる話[SK](2009/12/19 00:21)
[8] 幕話4[SK](2009/12/19 00:23)
[9] 第5話 生き返る話[SK](2010/03/07 01:35)
[10] 幕話5[SK](2010/03/07 01:29)
[11] 第6話 ネギ先生が赴任してきた日の話[SK](2010/03/07 01:33)
[12] 第7話 ネギ先生赴任二日目の話[SK](2010/01/09 09:00)
[13] 幕話6[SK](2010/01/09 09:02)
[14] 第8話 ネギ先生を部屋に呼ぶ話[SK](2010/01/16 23:16)
[15] 幕話7[SK](2010/01/16 23:18)
[16] 第9話[SK](2010/03/07 01:37)
[17] 第10話[SK](2010/03/07 01:37)
[18] 第11話[SK](2010/02/07 01:02)
[19] 幕話8[SK](2010/03/07 01:35)
[20] 第12話[SK](2010/02/07 01:06)
[21] 第13話[SK](2010/02/07 01:15)
[22] 第14話[SK](2010/02/14 04:01)
[23] 第15話[SK](2010/03/07 01:32)
[24] 第16話[SK](2010/03/07 01:29)
[25] 第17話[SK](2010/03/29 02:05)
[26] 幕話9[SK](2010/03/29 02:06)
[27] 幕話10[SK](2010/04/19 01:23)
[28] 幕話11[SK](2010/05/04 01:18)
[29] 第18話[SK](2010/08/02 00:22)
[30] 第19話[SK](2010/06/21 00:31)
[31] 第20話[SK](2010/06/28 00:58)
[32] 第21話[SK](2010/08/02 00:26)
[33] 第22話[SK](2010/08/02 00:19)
[34] 幕話12[SK](2010/08/16 00:38)
[35] 幕話13[SK](2010/08/16 00:37)
[36] 第23話[SK](2010/10/31 23:57)
[37] 第24話[SK](2010/12/05 00:30)
[38] 第25話[SK](2011/02/13 23:09)
[39] 第26話[SK](2011/02/13 23:03)
[40] 第27話[SK](2015/05/16 22:23)
[41] 第28話[SK](2015/05/16 22:24)
[42] 第29話[SK](2015/05/16 22:24)
[43] 第30話[SK](2015/05/16 22:16)
[44] 第31話[SK](2015/05/16 22:23)
[45] 第32話[SK](2015/05/16 22:50)
感想掲示板 全件表示 作者メニュー サイトTOP 掲示板TOP 捜索掲示板 メイン掲示板

[14323] 第8話 ネギ先生を部屋に呼ぶ話
Name: SK◆eceee5e8 ID:89338c57 前を表示する / 次を表示する
Date: 2010/01/16 23:16

 わたしは言った。
「先生。あなたは魔法使いですね」
 はっ? と先生がいつも以上に間の抜けた顔をする。

 わたしはもう一度言った。
「先生、あなたは魔法使いですね」
 先生は黙った。

 わたしは三度は言わなかった。
 先生がわたしの言ったことを理解したからだ。


   第8話 ネギ先生を部屋に呼ぶ話


 魔法使いだとばれたくなかった。
 魔法使いに関わるものだとすら言いたくなかった。
 ばれるわけにはいかなかった。ルビーがばらすべきだといったところで、わたしはバラす気など毛頭なかった。
 当たり前だ。ばらすほうが安全だといわれても、ネギ先生のあのざまを見れば、ばらすことで確実に巻き込まれるのは目に見えていたからだ。

 誤魔化し続ける自信はあった。
 間抜けに口を滑らせるとか、反射的に魔法を使ってしまうとか、そんなことあるはずない。わたしはそんな間抜けじゃない。
 そんな決意の結末が、こうして自ら口を開く羽目になるとはざまあない。

 先生を神楽坂の部屋に呼びにいったあと、場所をわたしの部屋に移動してもらった。
 神楽坂たちが眠っていたのは幸運だった。なるべくなら一対一で話したかったからだ。神楽坂が早めに就寝するということは知っていたが、ネギだけがおきていたのは完全に運だろう。
 寮室とはいえ……いや、女子寮の寮室だからこそだろうが、これが初めて部屋に呼ぶ男性である。在学中はそんなことがあるはずないと思っていたが、まさかこうなるとは、と自嘲する。
 座布団をわたし、わたしはベッドに腰掛けた。
 先生はちぢこまったままだ。
 おそらくわたしが魔法使いなのか、一般人の目撃者なのかをはかりかねているのだろう。
 事情を話すべきか、誤魔化すべきかをはかっているのだろう。
 記憶を消すべきか、一応話を聞くべきかを考えているのだろう。
 きっとそんな当たり前のことを考えているはずだ。

「宮崎を助けていただいたときに、あなたが宮崎を宙に浮かせたのを見ていたんです。神楽坂と一緒に来たときは魔法使いになんて関わりたくありませんでしたから誤魔化しましたけど、もう少し用心深くしたほうがよかったですね」
「あ……」
 先生がウルウルと目を涙でにじませた。
 泣くなよ、と思ったがネギ先生はそのまま涙目でわたしにすがり付いてきた。

「お願いします長谷川さん。誰にも言わないでくださいーっ」
 小動物系だなあ、こいつは。
 正直なところ、これをいきなりやられれば哀れさで見逃したかもしれない。
 だが、いまさらわたしはそれに心を揺るがされることはなかった。
 わたしをベッドの上に押し倒した先生を冷静に押しのけて、口を開く。

「ばれてはいけないというのは何でですか? 見る限り神楽坂にはもうばれてますよね」
「は、はい。でもばれてしまったときにアスナさんはぼくがマギステル・マギを目指していることを言ったら、黙っててくれるって」
「マギステル・マギ? なんです、それ」
 ルビーからも聞いていない言葉だ。

「あ、はい。マギステル・マギというのは人の役に立つとっても偉大な魔法使いのことです。ぼくはとても尊敬している人がいて、その人みたいになりたいんです」
 目を輝かせてそういった。
 わたしに問い詰められていることを忘れたかのように、饒舌にマギステル・マギと、そのあこがれの人のすばらしさを語る先生に、わたしのほうこそが戸惑った。

「先生、ちょっと……」
 手を上げて話をさえぎると、先生はあわてたように言葉を止めた。
 上目づかいでわたしの返答を待っている。
 おそらくわたしが誰かにしゃべってしまうか、神楽坂のように黙ってくれるかとかんがえているのだろう。
 ひどく先生との間に温度差を感じた。

 はあ、とわたしはため息を一つ吐く。
 びくりと先生が反応した。
 なんか、この先生はどうしようもない勘違いをしているようだ。

「ばれるとやっぱりまずいんですか?」
「は、はい。ぼくは修行中なので、試験には失敗してしまいますし。それに魔法のことをばらしてしまうとオコジョにされてしまうんです」
「……オコジョ?」
 また変な単語が出てきた。
 詳しく話を聞くと、魔法使いであることが一般人にばれた場合、その罪に応じた期間オコジョに変身させられてしまうらしい。
 こっちで言うところの牢獄か保護観察ということなのだろうか?
 よく分からないが、罰する際にそんなとんでも現象を引き起こすというのはなかなかすごい。

「そのわりには魔法を控えようという感じではありませんね。初日の宮崎で神楽坂にばれて、二日目は薬を飲んでいたでしょう? ……ほれ薬か何かですか。それにドッチボールをはじめとして神楽坂たちがずいぶんと楽しい目にあっていましたよ」
「えっ……はい。気をつけてはいるんですけど」
 嘘つけ。

「それに……先生は神楽坂の記憶を消したりはしなかったんですね」
「記憶ですか」
「魔法使いなんだから出来るんでしょう?」
 こちらの魔法に記憶消去がないなら、この世界はもう少し危険なものになっているはずだ。

「で、出来ます……でもアスナさんの記憶を消そうとしたら失敗してしまって……」
「ああ、やっぱり試してはいたんですね」
「はい、記憶じゃなくてパンツを消してしまって……」
「……………………そうですか」
 わざとだったらぶん殴っているところだが、沈んだ顔を見る限りどうやらマジらしい。こいつはわたしに真剣な話をさせてくれる気がないのだろうか。
「先生、それで?」
「それで?」
 無言でいる先生に続きを促す。だが先生はなにを言われたのかわからないようで、首をかしげた。

「記憶を消すのに失敗したんでしょう。それはいいとして、そのあとどうしたんですか?」
「……えっと、アスナさんとお話して、それで事情を話して……」
「話したんですね? 魔法について」
「えっ、は、はい」
 口調が荒くなった。
 予想通りだった。想像通りの答えをされて、わたしは一瞬言葉を失った。
 想像通りであったからこそ、そんな答えが返ってきたことに続く言葉を一瞬失った。

「……先生、あなたは結局何が出来るんですか? 空を飛べますか? 火を出せますか? 割れたガラスを直せますか? 人を傷つけることが出来ますか?」
「えっ……その」
 思考を切り替えて質問をする。
 先生もわたしの雰囲気がいつもと違うことに気づき始めたのだろう。驚いたようにわたしの顔に視線を固定している。
「宮崎を浮かせられるんなら、空を飛べたりもするんですか? ほれ薬を作ってましたが、ほかの薬を作ったりもできるのですか?」
「は、はい。杖があれば飛べます。それに薬も時間があれば……」
「じゃあ、充分じゃないですか」
「……充分?」
「普通の人間をどうとでもできるということです。いやそう言う問題でもありませんね、そもそもあなたには腕が二本ついている。魔法を使えば神楽坂だろうが無理やりでも拘束できるでしょう? 魔法が失敗しようが、ほれ薬を作れるならそれなりの思考操作薬だって作れるでしょう。ねえ先生。一度失敗したくらいで、なぜあなたは神楽坂に事情を話したのです? なぜなにもしなかったのですか?」
「……なにを言ってるんですか、長谷川さん」
 わたしの口調にコナくさいものを感じ取ったのか、硬質な声色が返ってきた。

「先生、あなたは立派な魔法使いを目指しているといいました。魔法ってのはばれたらまずいのでしょう。魔法はばらしてはいけないのでしょう。一度失敗すれば二度目を試せばいい。呪文が利かなかったなら薬を使えばいい。そしてあなたがどうしても記憶を消せないというのなら、その次に行うべきは事情を話すのではなく」
 一拍黙った。わたし自身も口にするのに勇気がいったからだ。
 だが黙っているわけには行かない。わたしはこの問いをこの世界の魔法使いに投げかけるために、わざわざ深夜に男を連れ込んだりしてるのだ。


「――――あなたは神楽坂を殺してでも秘密を守るべきだったのではないですか?」


 さすが魔法の国からやってきた天才少年というべきか。予想通り、その言葉に恐ろしいほどの眼光が帰ってきた。
 その雷光がともる瞳を見つめ返す。
「怒ってますか?」
「当たり前ですっ! なんでそんなことを言うんですかっ。訂正してください」
 ほんの少しの安堵感。だがここで、訂正する気はない。

「わたしの意見は変わりません。記憶を消せないし、人に言えないというのなら、先生は神楽坂を、そしてわたしを殺すべきでした。魔法とはそういうもの魔法使いであるとはそういうこと、魔法使いの責任とはそういうもののはずでしょう」
 宮崎を助けた人間に対して言うにはバカげた煽りだったが、十分に効果があった。
 思ったとおりガキが反論する。

「そんなことありません。マギステル・マギは――――」
「じゃあ誰かに言うべきでしょう。オコジョになろうが、投獄されようが言うべきです。あなたの言うマギステル・マギとはただの称号なんですか? 名さえあれば、実が伴わなくともそれで良いと?」
「そんなはずありませんっ!」

「だけどあなたの行動はそう言ってはいないようです。神楽坂にばれてあいつが秘密を守るといったらそれで円満に解決するのですか? 魔法がばれるという罪は、人にばらしたときに発生するはずでしょう。“神楽坂が黙るから”もなにもありません。神楽坂にばれた時点であなたは罪を償わなくてはいけないはずです」
「でもばれてしまったあとに、アスナさんにはきちんと説明しました。アスナさんはぼくを手伝うっていってくれて、黙っていてくれると約束してくれたんですっ」
「それは問題ではありません。得体の知れない魔法使いに詰め寄られて、そいつに対して世界中にばらしてやるなんて恫喝できるやつのほうが少数です」
「どうしてそういうことをいうんですか、長谷川さん。ぼくはアスナさんときちんと話をして、その上でちゃんと謝って……」
 ぶつぶつという先生。
 やはり子供だ。わたし以上に。

「先生。わたしはよく知りませんが、あなたは修行でこの学園にきたといいました。では学園にはあなたの上司がいるのでしょう? いや、学園にいなくとも修行の後始末をするべき人がいるはずです。知られたくない人に知られたのなら、その人に頼めば記憶を消すことが出来たはずです。それを選択しなかったのはあなたがばれることを恐れたからではないのですか?」
「……だから言ったじゃないですかっ、ぼくはアスナさん本人と話し合ったんです!」
「そう。先生は話し合っただけでしょう。先生は神楽坂にばれたあとに“魔法使い”として行動はしていない」
「……言ってる意味がわかりません。ぼくはきちんとアスナさんと話し合って、責任を取るといいました」
 強情を張る先生だが、わたしとしては納得できない。
 ルビーに習ったわたしの常識と、先生の常識がかみ合わないのを感じる。

 お互いに言っている意味はわかるのだ。
 先生はばれた代償として神楽坂と交渉し、そして彼女から黙秘の言質を勝ち取った。そこで魂にギアスの一つでもかければ対応としては十分だろう。
 だが、違う。わたしが最も間違っていると感じる部分。それは神楽坂に対して受動でいることのただ一点。

「逆です先生。どうも勘違いしているみたいですけど、わたしは神楽坂にばらしたあなたを怒っているわけじゃないんです。魔法使いがどんなやつらだろうと、ばれることはあるでしょう。ばらしたり、ばれた後に仲間に引き込むこともありえるでしょう」
「……だったら問題ないんじゃ…………」
「でも、先生は神楽坂に選択させただけでしょう。あいつにばれたから、あいつに説明して、あいつに決めさせただけです。でもですね先生、言いたいことわかりますか。神楽坂にばれて神楽坂に聞いて神楽坂が決めて神楽坂が許してあげるといったとしても、結局、あいつは魔法使いではないんですよ?」
「えっ?」
 意味がわからないという顔をした先生が疑問符を口にする。
 わたしはそのぽかんとした顔を見て、はあと深く深くため息をついた。
 先生を睨みつけ、胸倉をつかみ、顔を突き合わせる。


「――――まだわかんねえのか。わたしが怒っているのは、あいつを巻き込んだままでいることなんだよ。巻き込んで、薬を盛って、騒動起こしておいて、ぼけっと笑ってんじゃねえぞっ、このくそがき!」


 ルビーに巻き込まれ、魔法の世界にかかわった長谷川千雨。そんなわたしだからこそわかるこいつの矛盾。
 ここまでぶっちゃけたのだ、年下のガキ相手に敬語も要るまい。

「説明しようとして説明するならいいだろうさ。ばれた後に魔法という秘密を隠すのを嫌って事情を説明したってんならそれはいい。だけど先生の行為は、ばれた挙句の足掻きだろう? 記憶を消そうとして失敗して、魔法の騒動に巻き込んだあげく状況に流されて、それで丸く収まったからってそれに甘えてるだけじゃあねえか!」

 かぶっていた猫を取っ払いぎろりとにらみつけた。
 秘密を守るのは絶対というのなら、それを徹底すべきなのだ。
 そりゃ、さきほど煽ったものの、実際にここで先生が神楽坂を殺そうとしていたなどとほざけば、わたしはこいつを許せなかった。

 先生は魔法使いにしてはいい人だ。それは認めざるを得ないだろう。
 しかし。しかしだ。
 先生は自分の行為に責任をもてていない。すべてがたまたま丸く収まったというだけだ。
 先生の対応はわたしの考えとはずれすぎた。
 先生はぽかんとした顔を見せたままだ。

「魔法が秘匿されているのはなんでだ? それはそれが厄介ごとだからで、それが厄介ごとを呼ぶからだ。先生、あんたに神楽坂を巻き込んでそれでよしと決める権利はないはずだ。そりゃ神楽坂は事情を知って協力するといっただろうさ。記憶を消すことを拒んだはずだ。だけどな先生、それは当たり前のことなんだよ。百人いて百人、千人いて千人。たとえ百万人に聞いたって秘密の世界の事情を聞かされて、厄介ごとがあるからといってそれを忘れることを願ったりはしねえんだ」

 わたしがルビーから事情を聞くことを願ったように、人は無知を歓迎しない。
 すべてを忘れて眠る道を示されて、その道を選べるような賢者なんてのはそういない。
 人は赤いキャンディーを選べない。

「べつだん“まだ”ひどい目にあったわけでもないやつが魔法なんてものを聞かされて、その記憶を消して忘れさせてくれなんていうと思うか? 魔法使いはご自分の高慢がたたって気づいていないようだが、あんたらは“魔法使いより上の存在”に同じように忘れることを迫られてそれに素直に頷けるのか?」

 そんなことありえるはずがない。自分が管理するものと当たり前に捉える生き物の醜悪さ、汚れたくないとすることでさらに汚れるその心。それをわたしは知っている。

「神楽坂が先生のことを黙ってくれたのはあいつの性根が善人だからだろうけど、神楽坂が記憶を消すのを良しとしなかったのは、その行為がただ単純に受け入れられない行為だったからだ。だからこそ“そういう行為”は魔法使い側が無理やりやらなくちゃいけないはずだ。無理やり監禁しようが、あんたがやろうとしたように問答無用で記憶を消そうが、心を力ずくで縛ろうが……最後の手段で殺そうがな」
「っ!? そんなはずありません。魔法使いだからってなにをしてもいいわけじゃないですっ」

「あほか。逆だろ魔法使い。お前の方針は知らないが、てめえは一度神楽坂の記憶を消そうとしたと自分で言ったんだぞ。一度その行為に手を染めた以上、なにをしてでもいいから責任を果たさなきゃいけないんじゃないのか? お前の行為は行き当たりばったりすぎんだよ。力を持っている以上責任を果たすのは持つ側だ。自覚しろよ。魔法使いとそれ以外は平等じゃないんだろ。“知られたら駄目”なんてルールを作っといてキレイごと抜かすな」
「で、でもそれは……」
「ほれ薬をつかったよな。あれは魔法使いにとっては笑い話ですむのかい? 修行中の魔法使いが片手間に作って遊びで飲ませて、ほんのひと時、一回分の話のネタで終わるのかい? だがな、お前らにとっちゃあそれで済むかもしれねえけど、普通の人間にとっては毒よりも百倍やばいよ。誰が好き好んで心を操られたいと思う? 人を好きになるとか嫌いになるとか、そういうのをたかが試験管一本分の薬でどうにかされたらたまらない。悪気があろうとなかろうと、相手がイケメンで優等生で善人だろうと、両想いで告白前の中学生だろうと、それは魔法使い以外の人間にとっては無理やり豚に愛をささやくようにさせられるのと何一つ変わんねえんだ。わかるか先生? 魔法ってのはきれいごとで済ますにゃあぶち抜けすぎてんだよ。技術としてな」
 黙った先生にここ数日の鬱憤を晴らすように言い募る。

「バレなければいいとしているなら、それを割り切れ。ばらしたら巻き込む腹積もりなら、せめてその結果を考えろ。中途半端な対応ばっかり続けるのが一番たちが悪いんだ。ばれないようにして、ばれたら話せばいいだなんて最低だ。
 人間の心をもてあそぶならそれに責任を持て。悪いことだと割り切った吸血鬼のほうが、遊び半分でやられるよりはるかにましだ。あんたが罪を受ける覚悟で神楽坂を巻き込んだことを大人の魔法使いに言っておけば、最悪神楽坂が巻き込まれたままでいることは防げたはずだ。あんたはただ自分がオコジョになりたくないからって、そういう世界に神楽坂を巻き込んだままでいるんだぞ」
「ボ、ボクはそんなことは……で、でもぼくはちゃんと魔法学校に通って勉強をして……それで……長谷川さんは魔法使いじゃないのに……」
 泣きそうな声を上げて、稚拙な弁明を口にする。自分自身でも納得できていないのだろう。言葉はだんだんと尻すぼみになり、わたしにも先生自身にも聞こえないほどの音量となった。
 ちっ、と舌打ちをして黙る。このまま泣かせたら話が進まない。

 先生は泣きそうな目をしたまま何かを言おうと口を開き、すぐに閉じる。
 わたしはその雰囲気を感じ取り、ギリと歯を鳴らした。
 ある言葉を口にするのをためらったのだ。
 先生に対して、先生が魔法使いであることを知っていると告げたのは、しょうがないとあきらめていたことだった。
 だが“この言葉”は出来れば黙っていようかとも考えていた。

 だが、
 だが、ここまで話したのだ。
 いわないでいれば、それはわたし自身が自分の言葉に責任をもてなくなる。
 あーくそやってられねえ、やっぱり絡むんじゃなかったか?
 だがこのまま先生を無視し続ければ、先生かわたしに手痛いツケが回っていたことは想像に硬くない。
 衝動でばらすなんて馬鹿げているが、わたしは今回はその衝動に任せることにした。
 わたしは観念して口を開く。

「先生、わたしはもぐりの魔法使いなんだ」

 言った瞬間からもう言うべきじゃなかったのでは、と後悔が襲うがもう遅い。
 気を落ち着けて言葉をただす。
 ばらさないばらさない言っておきながら感情に流されてこの様だ。ネギのことを責められるものじゃないし、あとでルビーにどれほど説教をされることやらわからない。
 わたしはベッドサイドにおいてあってロウソクを手に取った。ルビーから渡されている魔術練習用の小道具だった。
 先生はまだわたしの言葉の意味がわかっていないのか無言のままだ。
 わたしは先生に見えるようにロウソクをかかげ、己の魔術回路に対する文言を口にする。
 当然日本語。特別性をもたせるために、ドイツ語を用いることを勧められたが、わたしはかっこつけで外国語を使えるほど賢くない。ドイツ語の意味を取れるようになるだけで数年がかかってしまうだろう。
 魔法はどうだかしらないが、魔術は自分に対して唱える呪文だ。最低限意味さえ通じりゃそれでいい。
 アメリカの魔術師が英語で呪文を唱えるように、ドイツ系に系譜を持つ魔術師がドイツ語の魔術を唱えるように、わたしは日本語で火を灯す。

【――――灯れ】

 ただ一言、日本語でワンワード。
 ボッ、とわたしの手から火の粉が上がり、ロウソクに火がついた。
 先ほどの言葉に目を丸くしていた先生が驚きの声を上げ、愕然とした顔を向けてくる。

「わたしは魔法についてはほとんど知らない。だけど、その心得だけはずいぶんと学ばされていてね。魔法そのものよりも重要だからだってな。黙っているつもりだったし、本当は先生にも言うつもりはなかったけど言っておく。わたしの言葉を“真剣に受け止めてもらいたいからな”」
「し、真剣……ですか?」
「あんたがこれ以上ふざけた真似するならわたしがあんたにして何かしらするってことだよ。わたしは一応クラスメイトとしてあの連中とずっと一緒にいたんだ。先生とあいつらならあいつらを選ぶよ。殺しはしたくないけどさ」
「……」
 ふん、と鼻を鳴らした。先生はその言葉を無言で聞く。

「魔法使いとして生きるなら、それなりの決意を持つべきだ。わたしはもぐりであんたら魔法使いについてはまったくといっていいほど知らない。先生のことを知ったのだって、先生が黒板消しを浮けとめたってのをきいたからだ。だけどここ数日で先生の行った行為はどれもこれも最低だってことはわかる。ばれなければいいというものではないだろう? 肩書きじゃなく、本心からその偉大な魔法使いとやらになりたいんだろう。
 だったら、まずあんたは自分のやったことを上司でも監督役でも同類の大人に告白するべきだ。オコジョになるなんていう罰がどれほどのものかは、わたしにはまったくわからない。だけど、それが魔法使いの法で決まっているというのなら、最低限それに従わなくちゃあ、すでに犯罪者と一緒だぜ。犯罪を被害者の妥協から隠蔽し続けているようなものなんだぞ」
 そう、わたしが言いたかったただ一点。


 この先生が神楽坂から許しを得ただけで“罪を許された気になっている”ということだ。


 そんなはずがない。
 被害の罪は受け手の許しによって罷免されるが、行為に対する罰は被害者の有無とは関係無しに発生する。

「こうしてシステムが出来上がっている以上、責任はあんたが取らなくちゃいけないんだよ。あんたら魔法使いがわたしら一般人の法律を無視できるって言うんなら最低限魔法使いどもが自分で決めたルールくらいは受け入れろ。十歳からでも罪を負わされるのが、魔法使いという化け物に対してのせめてもの枷だというなら、たとえ日本の法律で定められていなくても罰を受けろ。オコジョだとか言ってたが、それが人に魔法をばらしたときの罰として設定されているなら、あんたはそれに従うべきだ」
「そ、そんな……」
 オコジョごときなら安いものだろう。ルビーの世界とやらならそのような場合掛け値なしで殺されるはずだ。

 わたしの言葉に先生は一応わたしが言いたいことを感じ取ったようだ。
 先生は途中からうつむいてしまい、その姿のまま、肩を震わせている。
 ぽたぽたと涙のあとがフローリングに落ちているのが見えた。
 泣くなよ、ガキが。

「――――話はそれだけです。お時間取らせてすいませんでした」

 そういって立ち上がる。さっさと帰れという合図だった。
 十歳児をここまで苛めていたのだ。
 文句をつけるだけのはずが、言葉が止まらなくなり、その言動にいまさらながらわたし自身も吐き気がするほどの自己嫌悪を感じていた。
 知ったかぶりのトーシロがどこまでえらそうなことを言っているのか。

 だが、わたしはネギ先生に罪を償わせたかったのだ。
 こいつのやった行為、こいつの立場。わたしはこいつがこのまま罪を受けずにいることが耐えがたかった。
 その結果の行動がこれではざまあない。
 社交性のなさにあきれ果てるが、わたしは昔からこうなのだ。狼少女と馬鹿にされて、そのまま妥協を選ばずに、ネットの世界に逃避した引きこもり。自分の頭の悪さに泣けてくる。

 本来わたしの代わりに誰かがこいつに言うべきだろう。半人前以前のわたしがこうして先生に説教じみたことをするのは偽善がすぎる。わたしはここ数日の先生の行為に対する苛立ちを解消するため、ただ鬱憤を晴らしただけなのだ。そしてそれが半ば自覚できるから手に負えない。
 だがここで一言でも先生に謝っちまえば、わたしは偽善者ですらなくなり、ただ鬱憤を晴らしただけの屑で終わる。
 意地で無言を貫いた。

 先生はふらふらと立ち上がると、震える声でありがとうございました、という言葉を発した。
 ここでこんな台詞が言えるところはやっぱり子供だ。そしてとてもすばらしいと思う。
 もちろんわたしにはそんなことはいわず、どういたしまして、とだけ言葉を返して先生を玄関まで送る。

 玄関まで来ると先生は立ち止まった。
 ドアの先に視線を固定し、声を振るわせて言葉をつむぐ。


「――――長谷川さん。ぼくはマギステル・マギになる資格はないのでしょうか?」


 それはわたしにはわからない。
 こいつの生きる目的だったよりどころ。それを破壊されていったいどんな気持ちなのか。
 だが順当に考えれば、先生は教育実習生の立場を解任させられたて、魔法の学校だか魔法の国とやらに送り返されることになるだろう。
 マギステル・マギとやらが名誉称号のようなものならもう望みはあるまい。
 即日拘束されるのか、自首なら数日の余裕があるのか、2-Aの面子のことを考えると、お別れのパーティーくらい行わないとまたぞろ騒ぎ出しそうだ。

「わたしに聞いてもわかりません。わたしはただのもぐりの魔法使いの見習いですから」
「そうですか……ああ、長谷川さんも魔法使いだったんですよね」
「マギステル・マギもオコジョの刑も知りませんでしたけどね」
「でも、責任については知ってました。ぼくは、ぼくはメルディアナ魔法学園というところを卒業して、この学校に卒業後の修行というかたちできたんです。卒業後の課題がこの学校で先生をやることだって言われて……」
 ルビーの言ったとおりか。2-Aはこいつの試金石に使われたということだろう。

「でもぜんぜんわかっていませんでした。ぼくはマギステル・マギになりたくて、お父さんみたいになりたくて……それだけを考えて頑張ってきて…………だから……」
 声が振るえがひどくなり、言葉が言葉の意味をなさなくなった。
 絶望で潰れそうな声だった。何もかも希望を失ったような声だった。
 わたしは話を終えたつもりだった。これ以上言ってしまっては、わたしは私の領分を越えてしまうと感じていた。
 だがわたしは反射的に、そのままふらふらと玄関から出ようとするネギを呼び止める。
 さすがに放ってはおけなかった。

「どんな人間だってそのマギステル・マギを目指してはいけないということはないでしょう」

 先生が振り向いた。
 自分の甘さに舌打ちしそうになり、それをこらえる。この台詞はわたしのようなもぐりの半人前がいうべきことではない。わたしはマギステル・マギがなんなのかすら知らないのだ。
 ルビーの言を信じるならば先生の周りに魔法使いがいないはずがないのに、こんな役回りを自分がやっていることに疑問を感じる。

 わたしはただの傍観者。思いのたけを吐き出して、魔法使いというシステムに文句を言うことが出来ないから、先生に八つ当たりしただけだ。
 先生は玄関の先で泣きそうな目をこちらに向けているままだ。
 それにどうしようもなく心がうずいて、気がつけばわたしは口を開いていた。

「わたしはあなたたちが嫌いです」

 びくりと先生が震える。
 素直に慰めることが出来ない性分だとしても、これはさすがにやりすぎたと自覚するが、止められない。

「わたしはあなたたちの考え方が嫌いです。あなたの行いも、話に聞く魔法使いの行いも、立派だとは思いません。わたしは魔法使いとは無縁に過ごしてきました。だからこそ、魔法使いという常識を当たり前のように受け入れている“貴方たち”のことは無条件で好きになれません。だからきっとわたしはあなたたちの言うマギステル・マギだろうと尊敬は出来ません。秘密裏に人を助けることを善とするあなたたちの思考が許せません。わたしみたいなのにいきなり罰を受けろといわれて、正直に受けに行こうとしている先生は、周りの魔法使いから立派だといわれるかもしれません。だけどそれは立派ではなく、当たり前のことです。だから今、わたしはあなたを立派だともえらいともいいません」

 サディストの変態かわたしは。
 いちいち台詞にびくつくネギ先生。
 こういうときに素直に慰めが言えないわたしの性格に嫌気がさす。だがおためごかしの嘘は言いたくなかった。
 だけど、と呟きわたしははあ、と息を吐く。
 天井を仰ぎ見て、手で顔を覆った。自分自身にあきれ果てたためだ。

「でも、先生。最初に言った言葉は訂正するよ。あんたを最低といったのは悪かった。ありゃあ言いすぎだったよ」

 えっ、とつぶやき先生が顔を上げた。
「先生。失敗しないで生きると歪になるとかさ、これもよい経験だとかさ、そういうありがちなのは言わないよ。だけどわたしは、魔法使いの長谷川千雨も、普通の人間として生きてきた長谷川千雨もいまこうして泣いているあんたを見て、ざまあみろとは思わない。だから……そうだな、なにいっても素直にゃ受け取れないだろうけど、まあこれで人生が終わりってことはない。あんたはわたしと同じでまだガキだ。にっちもさっちも行かなくなったらわたしが力になってやるよ。さっきの台詞じゃないけれど、先生がどうなろうと、部外者の分際で先生をこうして煽った以上、相談くらいはのってやる。だからさ……。うん、まあなんだ。……そう、泣くなよ」
 肩をすくめた。
 こんな言葉はなにを言っても罰を受けないものからの散漫になる。
 聞いてもムカつくだけだろう。

「……ありがとうございます、千雨さん」
 だからこの返事にはさすがに言葉に詰まった。
 お人よしにもほどがある。先生はなぜかわたしに感謝の言葉を投げかける。
「お礼を言われる筋合いはありません。わたしはあなたに文句を言ってここ数日の鬱憤を晴らしただけですから」
「……」
 だが先生はぺこりと無言でもう一度頭を下げた。
 さすがに、ここまでされた感謝の念を意固地に受け取らないような真似をするほどガキではない。とくになにも言わず、その礼を受け入れる。
 そして二人ですこし黙り、先に口を開いたのは先生だった。
 涙声で、鼻水をたらして、みっともない顔をして、それでも気丈にあろうとするその姿。
 すこしだけわたしの心を動かしたことにはまったく気づかず、先生は口を開く。

「あ、あの。ぼ、ぼくがオコジョになって……罰を受けて、それが終わってどうなるかは分かりませんけど、そうしたらまた話を聞いてもらえますか?」
 ボロボロと涙を流しながら先生が言った。
 ただの泣き言、負け犬の縋り声、いまこの瞬間にわたししか縋るものがいないから衝動的にいったに決まっているその言葉。

 相談に乗るとわたしは言った。魔法使いの世界でオコジョとやらがどれほどの罰かは分からないが、わたしはわたしの考えにだけ従うと決めている。だからこいつの話を聞くといった以上、こいつがどうなろうとその決定は変わらない。

 きっとネギは教師の役目をとかれることになるのだろう。
 きっとこの半人前の魔法先生とは、これでもうお別れだろう。
 どの程度の罪になるかなんてまったく分からないが、すぐに帰ってこれるようなものでもあるまい。そもそもこいつは日本がホームというわけではないのだ。もう一度日本に帰ってこれるかも怪しいだろう。
 わたしが卒業する前に戻ってくることが出来るかどうかも怪しいだろう。
 もう一度会えるかどうかも怪しいだろう。

 安請け合いは出来ない。
 適当な返事は出来ない。
 だけど、わたしはこいつの望む言葉がなんなのかがわかってしまう。
 思い返すはルビーの言葉。

 ――――間違っていると思うならあなたが正せばいいでしょう。怒りなさい、殴りなさい。そして、

 責任だとか、なんだとか、そんなことは関係なくわたしの口が勝手に開き、


「――――――ええ、頭をなでて抱きしめてあげますよ」


 気づいたらわたしはそんな言葉をいっていた。



前を表示する / 次を表示する
感想掲示板 全件表示 作者メニュー サイトTOP 掲示板TOP 捜索掲示板 メイン掲示板

SS-BBS SCRIPT for CONTRIBUTION --- Scratched by MAI
0.028062105178833