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No.14323の一覧
[0] 【習作】ネギま×ルビー(Fateクロス、千雨主人公)[SK](2010/01/09 09:03)
[1] 第一話 ルビーが千雨に説明をする話[SK](2009/11/28 00:20)
[2] 幕話1[SK](2009/12/05 00:05)
[3] 第2話 夢を見る話[SK](2009/12/05 00:10)
[4] 幕話2[SK](2009/12/12 00:07)
[5] 第3話 誕生日を祝ってもらう話[SK](2009/12/12 00:12)
[6] 幕話3[SK](2009/12/19 00:20)
[7] 第4話 襲われる話[SK](2009/12/19 00:21)
[8] 幕話4[SK](2009/12/19 00:23)
[9] 第5話 生き返る話[SK](2010/03/07 01:35)
[10] 幕話5[SK](2010/03/07 01:29)
[11] 第6話 ネギ先生が赴任してきた日の話[SK](2010/03/07 01:33)
[12] 第7話 ネギ先生赴任二日目の話[SK](2010/01/09 09:00)
[13] 幕話6[SK](2010/01/09 09:02)
[14] 第8話 ネギ先生を部屋に呼ぶ話[SK](2010/01/16 23:16)
[15] 幕話7[SK](2010/01/16 23:18)
[16] 第9話[SK](2010/03/07 01:37)
[17] 第10話[SK](2010/03/07 01:37)
[18] 第11話[SK](2010/02/07 01:02)
[19] 幕話8[SK](2010/03/07 01:35)
[20] 第12話[SK](2010/02/07 01:06)
[21] 第13話[SK](2010/02/07 01:15)
[22] 第14話[SK](2010/02/14 04:01)
[23] 第15話[SK](2010/03/07 01:32)
[24] 第16話[SK](2010/03/07 01:29)
[25] 第17話[SK](2010/03/29 02:05)
[26] 幕話9[SK](2010/03/29 02:06)
[27] 幕話10[SK](2010/04/19 01:23)
[28] 幕話11[SK](2010/05/04 01:18)
[29] 第18話[SK](2010/08/02 00:22)
[30] 第19話[SK](2010/06/21 00:31)
[31] 第20話[SK](2010/06/28 00:58)
[32] 第21話[SK](2010/08/02 00:26)
[33] 第22話[SK](2010/08/02 00:19)
[34] 幕話12[SK](2010/08/16 00:38)
[35] 幕話13[SK](2010/08/16 00:37)
[36] 第23話[SK](2010/10/31 23:57)
[37] 第24話[SK](2010/12/05 00:30)
[38] 第25話[SK](2011/02/13 23:09)
[39] 第26話[SK](2011/02/13 23:03)
[40] 第27話[SK](2015/05/16 22:23)
[41] 第28話[SK](2015/05/16 22:24)
[42] 第29話[SK](2015/05/16 22:24)
[43] 第30話[SK](2015/05/16 22:16)
[44] 第31話[SK](2015/05/16 22:23)
[45] 第32話[SK](2015/05/16 22:50)
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[14323] 幕話2
Name: SK◆eceee5e8 ID:89338c57 前を表示する / 次を表示する
Date: 2009/12/12 00:07

幕話2


 長谷川千雨の朝は遅い。
 寝起きが悪いわけではない。純粋に目覚ましのなる時間がこの学園の標準的な生徒と比べて30分ほど後ろにセットされているということだ。
 夜、HPの更新や掲示板の返信、時たま行われるチャットなどで夜更かしすることが多いためである。
 それでも自炊を推奨する寮暮らし。美容のためにも朝食をしっかりとる千雨はほぼ一人部屋ということもあって起きるのが遅いというほどではない。
 小心者の性分か、ルビーがいればある程度の見栄を張って早起きもしていたが、だんだんバカらしくなって今ではとくに隠しもしない。むしろルビーを目覚まし代わりにでも使おうかと彼女は真剣に考えていた。

 目覚ましの音でもぞもぞとベッドが動き、長谷川千雨が起き上がった。
 目覚ましを止めて、伸びをする。
 洗面所に行って顔を洗って、メガネをかけて、いつもどおりの身支度を済ませ、彼女はダイニングで改めてため息を吐く。
 気持ちのいいはずの朝に見合わないその動作。
「どうしてこうなったんだろうな」
「なにが?」
 と首をかしげるルビーの姿。
 その前に、ばっちりとそろった朝食一式を見て、千雨は感嘆とあきらめの混じったため息を吐いたのだった。
「まあ、助かってはいるんだけどなあ」
 なじみすぎだろ、この女。

   ◆

(今日はついているんだな)
(まあいつもどおり途中までね。ちょっと空きが出来たというか、いまは作戦会議中、見たいな?)
(まあ、わたしを巻き込まないなら何でもいいけどさ)

 学校へ向かいながら、ルビーと千雨が会話をしていた。
 実際にしゃべっているわけではない。念話である。
 ラインを通したとか、パスをつなげたとかその辺の内容に関しては千雨はほとんど理解していない。
 いままで口を開かなくてはルビーに対して言葉を伝えられなかった千雨が、人気のあるところで好き勝手しゃべるために、この技術だけは必要だと、ルビーに習ったのである。

 だが、それでお終い。
 彼女はそれ以外に、炎の出し方も、風の操り方も、ガラスの再生も、傷の修復も習おうとは言い出さなかった。
 長谷川千雨には決定的に魔術に対する興味がかけていたためだ。
 ルビーとしては、教えを請われれば十分に教える気もあったのだが、千雨からはとんとアプローチがない。
 だから千雨は、たまにこうして引っ付いてくるルビーと会話をするくらいで、魔法自体にはあまり関わることはないのだった。
 とはいっても――――

(千雨ー、そういえば、ほんとに魔術を覚えないの?)
(うるさいな。そろそろ人も増えてくぞ。口閉じてろよ)
(どうせ聞こえないって。千雨の分までわたしが迷彩かけてるし。それに本気で気をつけなきゃいけないのは数名だけよ)

 嫌そうに千雨の顔がゆがんだ。あらためて、自分を取り巻く環境に思いをはせたためだ。
 初めて千雨の元に来てから、ルビーはまず行ったことは身辺調査である。
 聖杯戦争のような情報システムが確立していない召喚の場合は、自分の立ち位置を知ることから始めなければ、利用されて終わってしまう。
 千雨の周辺は言うに及ばず、同じクラスから麻帆良学園全体に続き、最後はこの世界全体での魔法というシステムについてを調査した。
 その結果のほとんどに、千雨は興味がなかったが、最低限ということで、同じクラスの注意すべき人物の一覧は貰っていた。
 魔法使いであることが確実なもの、おそらく関わっているもの、通常の人間とは言いがたいもの。として渡されたリストにクラスメイトが半分近く載っているのを見て立ちくらみを起こしたのは千雨の記憶にも新しいことだった。
 リストだけで、そいつらがどの程度の存在なのかは分からなかったが、箒も無しに空を飛ぶ魔法使いの口から注意しろといわれるような存在だ。まともではあるまい。

 初日には、麻帆良学園に張られる認識阻害の結界が魔法使いの事を隠すために存在するということにビビッていたが、それは完全に蚊帳の外として考えていた。
 もちろん幼少より世俗と自分自身の認識にズレがあることに迷惑をこうむってきた身である。それが麻帆良学園と世界樹による結界だと聞いたときは、長谷川千雨には、むしろ安心に近い納得があった。
 だが、それでもさすがにその魔法使いというのは警察署長とか、学園長とかそのレベルの人間たちによる独裁的なものだと思っていたのだ。
 魔法に関わった人間というのは、やはりそれなりに怪しげな雰囲気を持っているべきだという偏見があった。
 まさか魔法に関わる人間が自分のクラスにいるとは、と驚いたものである。
 ロボがいるのだ。当然考えるべき結果だったが、こうして改めて告げられると尚更だった。
 しかも、麻帆良四天王だのとよばれるものたちはまだしも、リストには春日美春などのどちらかといえば自分と同じ常識人だと思っていたやつまではいっている。

(でも、それを言うなら千雨もでしょ。あなただってほかの人から見れば、すでに魔法に関わっている人間よ。)
(くそっ、自覚させんなよ)
 ルビーが肩をすくめた。
 千雨からすれば、自分からははっきりと姿を視認できるルビーが、空に浮かびながら自分に話しかけているだけで戦々恐々なのだ。

(せめて、教師までだよなあ……高畑先生はなんとなく納得も出来るが、うちのクラスだけでもこんだけいるっておかしすぎる)
(まあ千雨のクラスは普通じゃないわ。異能の数が多すぎる。2年生のクラスが十を超すほどにあってあなたのクラスだけが異質に異質。わたしが来る前からあなたの特異性も感づかれていたのかもね。でもわたしの隠行はそれなりなのよ。それも含めて正直なところ、そろそろ信用してもらいたいものだけどね)

 あきれたようにルビーが言う。
 千雨としても自分は魔法については大家であるというルビーの言葉を信じたいのだが、やはり一般人として暮らしてきた性か、まさか、もしも、といったことを考えてしまうのだ。
 たまたま自分の横に浮かんでいる人物が視認できる輩が偶然通りかかっただけで、自分の日常はその後永遠に失われるだろう。正直勘弁してほしい。

 だが、これに関してはルビーのほうが正しいのだ。

 おちゃらけた調子と自分の力をそれほど誇示しないルビーの性格によって、どうにも千雨は信じ切れていないが、彼女は魔術の天才と呼ばれた少女が無限の研鑽を積んだその終焉。カレイドルビーを名乗る宝石剣の使い手である。
 現在は千雨を依代としているため魔力の出力そのものに難があるが、そもそもルビーの強みとはその技術であって力ではない。
 宝石剣をもちいた一時的なブーストや生前行っていた天性の魔力量から繰り出される魔術よりも、宝石剣の奥義にたどり着けるその根源的な才能と技術こそがルビーを最強足らしめる要因である。
 ゆえに、まさに技術に依存する結界や迷彩について千雨が心配することは何もないのだ。
 山を吹き飛ばす力と人払いを行う力は別のベクトルである。

「あっ、長谷川さん、おはようございます」
「んっ、おはよう、宮崎」

 教室に入り、たまたま入り口のところにいた宮崎と挨拶を交わすと、千雨は自分の席に直行した。
 カバンを置いて、ふうと一息をついたところで、横から声をかけられる。

「おはようございます。長谷川さん」
「ああ、おはよう」
 相手は綾瀬夕映である。
 手にはいつもながらに、得体の知れない飲み物が握られている。ラベルには大きく乳酸菌と書かれていた。

「やっ、おはよう」
 そしてこっちは早乙女ハルナだ。夕映と話していたままに、夕映の隣に座った千雨に抱きついてきた。
「おい、早乙女、抱きつくな」
「いいじゃーん。ちょっと聞いてよ、昨日のことなんだけどさあ」
「うるさいぞ、さっさと離れろ」

 ぐいぐいと押しのけるががっちりとホールドされて動かない。
 苦笑しながらも綾瀬夕映がとめる気配はない。
 たわいもない会話だが、それが意外と心地よいと感じてしまうのだから長谷川千雨も世話はない。
 正直宮崎のどかつながりでもなくば、千雨が彼女らとここまで親しく口をきくことはなかっただろう。
 それを分かっているので、内心ネットアイドルのことがばれはしないかとビクビクしながらも、千雨はとくに邪険にはしていなかった。

 クラスメイトについて、初日こそ物珍しそうにしていたものの、無愛想なクラスメイトに友達が出来た程度のことで改めて大きく騒ぐことはない。内心は別にしてもそこらへんの空気は読めるらしい。
 千雨が図書館組と呼称されるグループと親しくなったのだなあ、と認識しただけである。

 ちなみにルビーは教室内まではついてこない。校舎どころか中等部前の駅が精々である。
 理由は純粋にばれる危険を冒さないためだ。このあたりも含めてルビーは自分自身の技術に自信を持っていても過信しない。
 ばれない自信はあるが、そんな彼女でも数名が、とくにエヴァンジェリンと名乗る人外はさすがに警戒している。
 だが、それを千雨に告げることはない。
 心配させることでその動揺を逆に悟られても困るからだが、そこまでの警戒が必要なほどに、エヴァンジェリンはやばすぎた。
 ルビーとしては、千雨に目をつけられたくはなかった。
 自分自身が隠れられても千雨が確固として存在している以上、千雨の反応から反射的にルビーの存在を悟られる可能性は十分にある。

 そのため、ルビーは教室自体には入ったことはないし、千雨に過剰な注意をうながすこともしていない。
 よって教室で千雨が図書館組と戯れていたころ、ルビーは学園内を散策していた。

 場所はもちろん。

(さて、今日も攻めますか)

 学園内の魔境、現代のダンジョンである図書館島である。

   ◆

 霊体化して、空をすべる。
 地下にどこまでも伸びる階下式のダンジョンを降りていく。
 本棚を飛び越え、隙間をくぐり、階段を下りて、穴から落ちる。
 たいていの扉はすり抜けられるが、たまに封印がかけられたものがある。目的としては扉を開けさせないためのものだろうが、それが霊体化したルビーの侵入をも阻んでいるのだ。無理やり通っても良いが、自分の存在を宣伝する気はない。

 二時間ほど奮闘して、割合大きめの魔法関係の本棚に狙いを絞った。
 ここで、今日は粘ってみるかと、ルビーは実体化する。
 本を読むためには実体化する必要があるからだ。
 同時に遮音、人払い、認識阻害、偏光屈折による視覚誤認と、必要な結界をすべて張った。
 このあたりの手際は並みの魔術師に太刀打ちできるものではない。
 彼女にとってこれは道を歩くのと同様、息をするのと同レベル、片手間で行う絶技である。
 一瞬にして場を整えると、ルビーはとくにそれに満足することもなくさらに強固な隠蔽用の結界を張り、やっと本を読み始めた。

 それからさらに数時間がたち、無音のまま紙をめくっていたルビーが顔を上げた。
 あらためて時間を確かめれば夕刻か。はっきり言ってこの図書館での隠遁時間としては常軌を逸するレベルである。
 だが、それでも不満なのか、不服そうにルビーは本を戻した。
 意識を本からはずし、耳を済ませるかのように、魔力の流れを感じ取る。
 そのまま数秒して、ルビーは体を消した。
 何一つ強行を考えずに、逃げを打ったわけだ。
 実体化をコントロールできるのは魔力体の強みであるが、千雨にでも見られればヘタレとでも言われたかもしれない。
 それほどに清々しいまでのあきらめの良さである。

 そしてその二分と数秒後、結界をすべて破って、一人の男がつい先ほどまでルビーのいた場所に現れた。
 七不思議公認の謎の司書、図書館島の秘密の守り手、アルビレオ・イマである。
「ふむ、逃げられましたか」
 知り合いが見れば驚くだろう。その顔には微笑とともにかすかながらの焦りが見て取れた。
 彼が焦る姿というのは天然記念物ものなのだ。

 その場に立ち止まると、床に手を這わせる。
「結界の基盤はここですか。ああ、これはすごい……魔法体系が根底から私の知るものと異なっていますね。構成を読み取るのは無理ですか……」
 次は本棚に目を走らせる。
「しかし、読んでいた本は初級の魔法学に“向こう”の歴史書。しかしこれは初等部の勉強用ですが……もう少し秘匿レベルの高いものを読むべきでしょうに、これは何か意味があるのでしょうかね」
 どのような技術なのか、先ほどまでルビーが読んでいた本を言い当てる。まさか、すべての本を覚えているわけではあるまいが、アルビレオは司書としても無能ではなかった。

 先ほどまでルビーが読んでいた本を取り出すと、ぱらぱらとめくる。
 中身と表紙を確かめたのだ。
 こちらの世界で言うならば、中学生レベルの魔術教本と、実質合憲の小学生には好かれないタイプの年表主体の歴史書である。
 中学生のいたずらよろしく表紙と中身が異なっているということもない。

 アルビレオはフードに隠されたあごに手を当てて、ふむ、と息を漏らした。
「まあ、いいでしょう。逃げるなら見つけるまで。秘匿するなら暴くまで。しゃべらないならしゃべらせるまでですからね」
 その瞬間、ルビーと同様にその姿は掻き消えた。

   ◆

「ばれたか」
 逃げ始めて二分と二十秒。いきなり警戒が厳しくなった。
 引き際と見て、上を目指しているが、道がない。
 思ったよりも手間取った。
 ばれるかばれないかは、最初の一歩目までが重要だ。
 一度ばれれば、警戒網をしかれるし、それが千雨に届かないとも限らない。
 潜入するからには絶対的な隠密性を求めるべきだった。
 軽い口調で悔やむような台詞をはきながらも、実際には忸怩たる思いを隠せていない。
 だが、それでも、ここでつかまるというようなことは論外だ。
 ゼロと1には無限の差があるが、1と2にだって差がないわけではない。
 ばれた以上、ここから逃げ帰ることだけを考える。

「行きはよいよい帰りは怖い。天神様の細道は、ってね」
 つぶやきながら、先ほどまで開いていたはずの扉の前で立ち止まる。
 そこはやはり結界によって閉じられていた。
 あたりを見渡せば、大きく囲むように魔力壁が張ってある。位置を特定できないからドーム上にまるまる一帯を結界で囲ったのだろう。
「あらー、まずいわ。完全にばれてる。しかもお構い無しって感じね」
 ルビーはそうつぶやくと、解析をスタート。
 彩り鮮やかな魔力の流れがルビーと結界の周りを行き来する。

「うーん、隠蔽は無理かあ、手荒なことはごめんなんだけど……」
 そんな気弱な台詞をつぶやきながらもその手並みは怪盗のそれである。ものの数秒で結界を破り、そのまま防壁を突破した。
 だがこの場所の結界が破られたことでこちらの位置もばれるはずだ。
 逃走とは、戦闘以上の思考戦である。
 逃げ手を読み、追い手の思考を読み、逃走経路を確保するために思考をめぐらす。

 しかし、さすがに場所が悪すぎた。
 ここは学園の七不思議。稀代の魔窟、図書館島の地下である。

 それからさらに数分がたち、ルビーはまだ地下のど真ん中で逃走をやめて振り向いた。
 後ろに気配を感じたためだ。
 追いつかれた。自分も並ではない自信があるが相手も同じレベルらしい。
 ちっと舌打ちをして、実体化。顔をさらすことになるが、ルビーは異世界人の強みとして、自分の顔の情報に意味はないことを知っていた。
 相手が霊体化した自分に干渉できる以上、実体化しておかなくては初手で勝負を決められる恐れがある。
 霊体というのは隠密性は高いが戦闘能力は皆無なのだ。

「お兄さん、あまり人を引き止めるものじゃないわ。それに、わたし荒事は嫌いなのよ。もちろん苦手ってわけじゃないけどね」
「ふむ、女性ですか。そう簡単に姿を出すとは意外ですね」
 ルビーの軽口に反応して、目の前の空間からにじみ出るように、アルビレオ・イマが姿を現した。
 大き目のフードをかぶっているが、彼も顔を隠しているわけではない。つまり、目が見える。
 ルビーは視線をたどって暗示を叩き込もうとした。

 本来の魔術戦では暴挙に近いが、ここは異世界。魔術の基本が通じる可能性を考えたのだ。
 相手がルビーの知る魔術師なら戦闘中の精神操作など、よほど腕に差があるか、致命的なレベルで隙を突かないかぎり効くはずないが、相手が“ここでいうところの魔法使い”ならば話は別だ。
 どんな達人も未知の技術には弱いものだ。

 実際に以前の女学生には通じていた。
 だが、ルビーの思惑は外れた。視線の魔術がはじかれるどころではなく、暗示効果が通り抜けた。
 防がれるならまだしも、素通りは不可解すぎる。

「…………効かない? いや違うか」
 舌打ちを一つ。ルビーは相手が幻術体であることに気がついた。
 この存在はこの場に実体を持っていない。ルビーを追跡するためなのか、違う理由なのか、遠隔にて動かされているだけだ。
 テレビごしでは暗示は効かない。電話の向こうに催眠術はかけられない。分体ごしでは精神操作も何もない。
 そのくせ、こいつはルビーと同様に物理的な影響力も宿している。ルビーはこの世界の出鱈目っぷりに文句を言いつつ、結構やばい自分の状況に気がついた。

 暗示が聞かないのはルビーにとっては痛手である。ルビーが生きた世界では魔術師は基本的に記憶を操作することと認識を操ることで厄介ごとを乗り切るのが普通であった。
 魔法という力があるかわりに、魔術というシステムが確立されていないこの世界ではこういう小手先の魔術の効果はかなり高いのだが、相手が幻影ではそれもできない。
「ちっ、その体は幻術体なのね。趣味が悪い」
 暗示をキャンセルして、別の魔術を組み上げながら、ルビーが口を開く。

「おや、すごい。わかりますか? 確かにこの体は幻術で編まれています。わたしはいつもはこの図書館の深部で勤務しているもので」
「はっ、お客の邪魔をするのが勤務とは笑わせるわね」
 言いながらも、ルビーは魔術を編むのをとめない。足元に破砕陣、空間に転移陣、そして周りには逃走用の威嚇術。
 それに気づいているだろうに、図書館の司書は動きをみせない。

「ここは広いわりに働き手は少なくて……警備員の真似事ですよ」
「警備員に追い回されるのもねえ。わたし本読んでただけよ? 盗むつもりも暴れるつもりもないんだけど」

 返事としてアルビレオは肩をすくめた。
 ルビーもさすがに説得力がないことは自覚している。

「やっぱ駄目?」
「駄目ですね。一応魔法関係の図書の観覧には許可をとっていただかなくては」
「そういうの知らなかったのよ。わたしはちょっと世事に疎くていろいろと勉強中なの。こっそり忍び込んだのだって、戸籍も身分の証明も出来ない人間に見せてくれるとは思わなかったからで、悪意があったわけじゃないわよ」
 その割にはずいぶんと手練のようですがね、とアルビレオが視線を走らせる。
「いえ、やはり駄目ですね。最低限の身の証は立てていただくとしましょう」
 そういうと、アルビレオは一枚のカードを取り出した。それと同時にルビーも構える。
 さすがに笑いながら戯言を応酬するのは終わりのようだ。

「Fixierung, EileSalve――――!」(狙え、一斉射撃!)

 アルビレオ・イマの動作と同時にルビーの指から光が走る。
 簡易版にしてその実相手に悪病を宿らせるというたちの悪い呪いである。相手が魔力体であるならその存在をかき消すくらいの威力はある。
 ドイツ語の詠唱にアルビレオがやはりと唸る。通常魔術は統一言語に連なる言葉、東洋なら梵字が、西洋なら一般的にラテン語が用いられる。例外もあるにはあるが、経験豊富なアルビレオも魔具の開放ですらないドイツ語の魔法詠唱は聞いたことがなかった。
 この女が魔法の一般常識から外れているのは真実だ。

「ふむ、ではわたしも」
 ポッ、とアルビレオの指先に光が灯る。その瞬間、重力場が一転した。
 防壁と結界術。自身と同じ幻術体であるルビーをただ倒せば捕まえられるとはアルビレオは思っていない。
 それなりの仕掛けを打たなくては逃げられるだろうと考えていた。
 実際のところはルビーは霊体であり、幻術体とは異なり体がそのまま本体でもあるので、このルビーを倒せばそのまま存在の死につながるのだが、そこまではアルビレオもさすがにわからなかった。
 捕獲しようとしただけである。
 だが、相手はルビー。魔術においては右に出るもののいない天才だ。
 交戦の気配を感じた瞬間にすべての術式を起動。
 床が揺れ、大気が揺れ、壁が揺れ、世界が揺れる。

 混乱に乗じて逃げようとするが、ルビーが一歩目を踏み出した瞬間にはアルビレオがその眼前で手を振るっていた。
 その体の回りにカードが浮いている。

「んなっ!? 冗談でしょっ!」
「体術は苦手ですか?」
「そういうレベルじゃないでしょうがっ」

 避ける避けないというレベルではない。速すぎる。
 まともに一撃を食らったが、体にまとった防壁がなんとかガード。
 正直なところルビーには攻撃が視認できていない。いきなり相手が消えて、唐突に自分の防壁がひび割れた。
 続く連撃。ルビーの防壁が悲鳴を上げる。バーサーカーの一撃にも耐えうる物理力対処用の防壁が、けん制レベルの攻撃による純粋な圧力で崩壊しかけている。
 避けようと後ろに飛んで、壁を蹴る。

「少々手荒に行きますよ」
「っぁっ!?」

 だが、上に飛んだ瞬間にさらに上にアルビレオの姿があった。
 そのまま地面に蹴りつけられる。フェミニストという言葉に喧嘩を売るような一撃だった。
 防壁はもったが、衝撃がルビーを貫いた。

「かはっ!? ……っ! このっ!」
「むっ!?」

 爆音が図書館島に響き渡る。
 体術では話にならないことを悟って、地べたにたたきつけられた瞬間に、無差別に霊撃を放って牽制したのだ。

 アルビレオが距離をとる。
 ルビーもあわてて立ち上がるが、その顔は苦りきっていた。

「おやおや、ここは図書館ですよ。あまり本に傷をつけないでください」
「うっさいっ!」

 ルビーは舌打ちをひとつした。
 自分の腕に自信はあったが、この相手は大概すぎる。
 戦闘はするべきではなかった。
 一度ばれた以上、ここでこいつの記憶を奪うという手が最善だったのだが、甘すぎた。
 記憶を奪うどころではなく、そもそも戦いになっていなかった。

 苦戦善戦以前に意味が分からない。
 かつてのセイバーやバーサーカーだろうとある程度戦える技量はあると自負していたが、この世界の手練というのは戦闘に限って言えば打ち抜けている。ルビーでは単純火力戦に持ち込みでもしない限り相手にならない。
 しかも見たところ相手は手を抜いているようだ。
 力を秘匿しつつ勝てるような相手でもない。
 ここでばれてしまったのは最悪の一歩手前だが、それでも戦闘を始めてしまった以上、最低でも逃げ帰る必要がある。

 ルビーは全身に力をこめた。
 ルビーには戦いの才能はない。魔法の才能を戦いに流用して凌いでいただけだ。
 手は少ない。

「――――Acht……!」(八番!)

 だが無いというわけではない。
 思い切ればそこから行動までの速さは宝石魔術師の特権だ。宝石を発動させ、体の回りに無色の魔力を爆発させた。
 さすがに早い。アルビレオも介入できなかった。これは実体としての宝石ではない。場所が場所なら宝具として分類されるであろう、霊体であるルビーに依存して存在する固有魔具である。
 空間ごと吹き飛ばすような一撃をいきなりはなったルビーにさすがのアルビレオも表情を変える。

 ルビーが無拍で爆撃級の一撃を起こせると知ってアルビレオが距離をとる。
 ルビーもルビーで相手の瞬間移動じみた移動と、隙を見せれば一撃でしとめられる予感に動きを止めた。
 お互いがけん制しあい一瞬戦場が停滞する。

「いまの“気”ってやつでしょ? 凄いわあ。やっぱり本だけじゃ駄目ね。百聞は一見にしかずってことかしら」
「それはそれは、しかしあなたの魔法は読み取れませんね。ずいぶんと特殊なようです。初級魔術教本を読み込んでいたのもそのあたりに理由が?」
「んー、誤魔化さなくてもいいから言うけど、答えはイエスよ。わたしは“魔法”に関しちゃ初級以下なの。常識がないから情報集めてたのよ。……本当にあなたたちに迷惑をかける気はなかったのよ。むしろわたしは逃げる側だし」
 ここまで下手打つとは思わなかったけどね、とルビーは続けた。

 アルビレオはその言葉を聴いて思考をめぐらす。
 咸卦法を知らないことはありえるが、気を見たことがないのは裏の人間にはありえない。そもそもいまの瞬動は魔法ですらない基礎の基礎だ。
 知る知らない以前の問題として戦闘の大前提。知らなければまず裏の舞台にすら上がれまい。
 こちら側の人間の言葉とは思えない、とアルビレオが内心首をかしげる。

「そのようなことのためにここに忍び込んだのですか」
 実際ルビーが忍び込んだのは今日が初めてというわけではない。だがそれをわざわざ口にするほどルビーも愚かではなかった。
「だって、ここが一番いきやすいんだもの。入られるのがイヤなら入り口から閉じときなさい。開放してるんだから図書館で本を読まれて文句を言うな」
 べーっ、とルビーが舌を出した。

「でもまあ迷惑かけちゃったわね。後々問題なりそうだから一応言い訳だけしておくけど、秘密を探るためじゃなく、迷惑にならないように隠れてたんだからね。この図書館にはいろいろ隠し事ありそうだけど、そっちには興味もなかったし、魔法について調べるにはここが一番楽そうだったし」
「この図書館島を一番楽そうとは、驚きの言葉ですね」
 なかなか優秀な陰行だったでしょ、と笑うルビーにアルビレオが眉根を寄せる。自分自身が性悪だと素直に人を信じられないものだ。
 相手が信じていないことなどお構い無しにルビーがさらに宝石を取り出した。
「まっ、潮時ね。ここにはもう来ないことにするわ」
 むっ、とアルビレオもカードを取り出し、そして――――


   ◆


「――――んっ? いまなんか揺れなかったか?」
「なにいってるの千雨ちゃん?」
「いや、揺れただろ、絶対。宮崎たちは感じなかったか?」
「えっ、いえ。わたしも分かりませんでしたけど、ゆえは?」
「いえ……わたしも……地震ですか、長谷川さん?」
「ウチはちょっと揺れた気がしたわあ。なんか下のほうから……」
「ああ、だよな。わたしもすげえ揺れたような気がしたんだが」
 図書館組にたまたま付き合っていた千雨は首を傾げる。

 結局二度目の揺れは起こらずに、千雨はこの理由を寮に帰ったあと、ルビーから聞くことになる。

「いやー、図書館島に忍び込んだら、変なやつと殺しあっちゃったわー。千雨も上にいたでしょ? もう行かないほうがいいわよ。あそこって意外とあぶないのねえー」
「はあぁっ!?」




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