きっとこれは運が悪かっただけのこと。
実際この件だって、本当にわたしが何も知らなければ穏便に済んだはずなのだ。
わたしがもう少しヘタレだったり、もう少しルビーが真剣にあの“夢”を心配したり、ほんの少し帰り道を急いでいればやり過ごせた。
ただすべての状況が悪いほうにかみ合って、わたしがその引き金を引いただけ。
ルビーがあれほど令呪にこだわった理由を実感しつつ、わたしは自分の所業の間抜けさを怒るルビーの前で、正座をしながら思ったものだ。
第5話 生き返る話
「…………っ!」
「……………………」
「…………。…………」
「!…………!?」
薄ぼんやりとした意識がクリアになる。
漏れ聞こえる会話にひきづられ、深海から浮上するようにわたしは意識を取り戻した。
誰かが言い合っているらしい。頭がぼんやりとしてはっきりと聞き取れなかった。
「お……超。……起き……かっ!」
「エヴ……ジェ……さん。失血死寸……った……? 今日中……きるかも怪し……ノネ」
「まったく。この……の所為で満月……が丸々潰れてしまったでは……か」
「マス……。学園に秘匿できただけでも僥倖……思います」
「……、まさか死にはしないだろうな」
「イヤ、もう大丈夫のはずネ」
声が聞こえる。会話が聞こえる。
頭がハッキリとしてきた。
わたしはベッドの上に寝かされている。
お約束としては飛び起きるものだろうが、そこまでバカではない。
意識さえ戻れば、わたしは先ほどまでのことを完全に覚えている。
忘れられるようなものでもない。
目を覚ましたけど、目は開かない。
寝たふりを続け、耳だけを澄ます。
体のダルさも尋常ではなかった。
指一本動かすのもつらいが、眠気はない。
最悪の気分だけが継続している。
頭にはタオルが乗っている。服は脱がされている。だが裸ではない。体を縛り付けないタイプの薄手の服だ。
布団ではなく何か毛布らしきものがかけられていた。
声はエヴァンジェリンと超だろうか。ルビーからのリストには確か超も超常組として書かれていたはずだ。葉加瀬はリストに載っていなかったはずだがルビーのミスだろうか。割と信頼していたいだけに“そういうこと”もあるという事実には肝が冷える。
しかし吸血鬼とぐるはやりすぎだろう。
緊張でつばがたまるが、誰に見られているかも分からない。
狸寝入りのコツはつばを飲み込まないことだ。
うっすらと薄目を明けようとして、頭に乗っていたタオルが取り除かれるのを感じ、あわてて寝たふりを続ける。
水につけるような音、タオルを絞る音、そしてまた乗せられる。
怪我の治療かと思ったが、わたしの感じているこのダルさは発熱のためか。
あれだけ寒さを感じたのに、困ったものだ。
見られている可能性もあるが、たえられない。こっそりと薄目をあける。
慎重に慎重にと周りを見渡せば、わたしの寝るベッドの横に、四葉五月の姿が見えた。
わたしのタオルを取り替えたのはこいつのようだ。
気分が悪いの相変わらずだが、頭ははっきりしている。
四葉に悟られないように、視線を動かさずに周りを見る。
工学系の研究室じみた光景だった。ごちゃごちゃとした部屋に機械と工具が散乱している。
乱雑においてある機械はまだしも、普通こういうところにビーカーやらは置いてあるものなのか? もともと何するものだったのかは分からないが、怪しげな道具が散乱している。
整理という単語とは無縁そうだ。
声はエヴァンジェリンと超。あとは葉加瀬に絡繰か? 声を発していない四葉がいることを考えると、あと数人くらいいてもいいかもしれないが、うちのクラスメイトばかりのようだ。
内容はわたしの容態か。もう命に別状はないとか、そんな内容。
どういうことだろうか。
さらに寝た振りを続ける。話を聞いていると、他の三人がエヴァンジェリンを責めているような内容だった。
わたしを傷つけたことを怒っている? 状況がつかめない。
混乱しているわたしをよそに、彼女らの会話は白熱しているようだったが、それを電話の電子音が切り裂いた。
反射的に反応しそうになり、あわてて自制する。
わたしの携帯電話の音だった。
舌打ちをしてエヴァンジェリンが何の躊躇もなく電話を取った。
パカリと開くとモニターを一瞥した。
「また宮崎のどかからのメールだな。おい、超」
そういって、エヴァンジェリンは超にわたしの携帯電話を放り投げた。
おいおいおいおい、ちょっとまて。
いまこいつらなにをしてる?
わたしの頭は混乱のきわみだった。
そして超はそれを当たり前のように受け取って、
「うーむ。あまり騙すのは控えたいガ……」
「疑われるわけにもいかんだろう、さっさとしろ」
超がひとつうなずくと、メールを勝手に打っていく。
わたしの携帯で、わたしの振りをして、わたしの友人への文字を打つ。
安全策など頭から吹き飛んだ。
狸寝入りをやめて、ベッドのそばにいた四葉の手を取り、ひきずり倒す。
驚いたように四葉が目を丸くしたが、そんなことにカマってはいられない。
わたしは人を拘束するような体術も使えないし、ナイフなどの道具は見当たらない。
考えなしすぎたことに舌打ちしながら、四葉の首をとって、その頭をベッドに押し付ける。
「手前ら、勝手に人のメールを……」
と、啖呵をきろうとしていきなり目の前が揺れた。
立ちくらみかよ、と愚痴る間もない。
四葉を押さえる手に力が入らず、逃げられる。
ふらつく体を抑えるので精一杯だった。
だが、そんなわたしに超たちは明るい声を上げた。
「イヤー、目を覚ましたカ。このまま目を覚まさなかったらどうしようかと思てたヨ」
「長谷川さん。事情は説明しますので、眼を覚ましたなら一旦身体データを取らせていただいてよろしいですか? かなり危険な状態だったので後遺症の確認を……」
「……長谷川さん。このたびのマスターの件はまことに申し訳ありませんでした」
さらには、今の今までわたしに襲われていた四葉までもが、あまり動かないほうが、などと気遣ってくる始末である。
「……どういうことだ?」
「ん? イヤ、エヴァンジェリンさんに襲われたって聞いたヨ。吸血鬼だと見破っていきなり自殺を選べるなんて千雨は決断力ありすぎネ。本当に悪いことしたよ。説明するからまずは落ち着いてほしいネ。エヴァンジェリンさんももうあんなことしないと約束したからネ」
「ええ。エヴァンジェリンさんが長谷川さんをつれて研究室に飛び込んでいらしたんです。その時点である程度処置はされてましたけど、ほんっとうに危なかったみたいでした。治療中もどたどたしてましたし、気にされていたようです。悪気はなかったと思いますけど」
「申し訳ありませんでした長谷川さん。マスターに代わって謝罪をさせていただきます。マスターも長谷川さんを傷つけるつもりはなかったのです……マスターには悪ふざけの気がありまして……」
呆然と視線を送る。
つまりこれは、そういうことか?
「おい茶々丸。謝る必要はないぞ。こいつが腑抜けだっただけではないか。軽くびびらせたくらいでいきなり自害などしおって。もう少し命を大事にしろ、ガキめが」
ほら、そう考えれば、こいつのこの言葉もかわいげが見えてくるじゃあないか。
もしかして、
――――わたしはなにか、盛大にボケをかましちまってたりするのだろうか?
◆
まずは最優先事項として、携帯を取り戻した。
宮崎からメールが来ていたぞ、というエヴァンジェリンの言葉に「聞いていたよ」と声を返して携帯を開く。
宮崎からこちらの身を心配するメールが届いていた。
遍歴を見て頭痛が止まらない。
計三通。はじめのメールは分かれたあとから数十分後。用が終わったかどうかの確認が。
次のメールはさらにその数十分後で、心配したのか一通目の確認だ。
そして、さきほどきた三通目の前に、なぜかわたしの携帯から返信が行われている。
その返信文に目をむいた。
一通目のメールに対する返事が送れた謝罪と、適当な言い訳。
わたしが書くならこう書くだろうという文が並んでいる。
だが内容は嘘八百だ。
わたしはなぜか、落し物を拾いに帰った駅前で変質者に襲われて、警察に事情聴取を受けたことになっていた。
ちらりと視線を向ければ、憮然とした顔を崩さないエヴァンジェリンと目が合った。
こいつが打ったわけではあるまい。ルビー然りと魔法なんてものに関わる古風な魔女は機械音痴が定説だ。
それにエヴァンジェリンなら、自分を変質者と書くようなまねはしないだろう。
そんなことを考えているわたしを、ものすごい不満そうな顔をしているエヴァンジェリンがにらんでいた。
「ふーん」
「……なんだ?」
「いや、別に」
だが、あってるじゃないか、変質者。
◆◆◆
「じゃあ、殺す気はなかったってことか」
「ああ、血を……魔力を頂こうとしただけだ。殺すどころか怪我のひとつも残す気はなかったんだよ。この学園でけが人を出すとわたしの立場がまずくなるからな」
「思いっきり襲い掛かっといてよく言うぜ」
「はっ、ピーピーと足掻いてたヒヨッコが調子に乗るじゃあないか」
「マントを翻して街頭にたたずむような演出しといてよく言うよな」
「まあまあ、二人とも仲良くするネ。長谷川さんも事情を聞いておいたほうがいいヨ」
さすがにここで仲良くは出来ない。ふんと、鼻を鳴らし超たちから事情を聞く。
基本的に情報交換。いや交換ではないか。
エヴァンジェリンとこいつらの事を聞いただけだ。
曰く、吸血鬼だっただの、血を吸われても死ぬことはなかったことだの、
こいつらはある程度魔法に関わっているだのそんな内容だ。
最も超たちが超常現象に関わっているという情報はルビーから聞いていた。絡繰など聞くまでもない。
こいつらのことはいいとして、逆にわたしが魔法にかかわっていることを知られているのかどうかのほうが問題だ。
こちらの言葉は断定せずに、返事はあいまいに。胡散臭い政治家のような会話を続けて、情報をもらっていく。
だが、こいつらは特にわたしのことに言及することもなく、エヴァンジェリンのことを話し続けた。
話を聞きながら、冷や汗がとまらない。
調子に乗って自殺なんてしちまったが、ありゃわたしの浅はかなヒロイン願望かなんかからくる自己陶酔からなる行為だったのだろうか?
事情を聞いた今となっては、わたしの行為はバカ丸出しだ。
もし死んでりゃピエロじゃねえか。
一息ついて、葉加瀬たちに目を向ける。
脳波を取るなどと抜かして、怪しげで馬鹿でかいヘルメットをかぶせようとする葉加瀬に、わたしの行為にしみじみと感想を述べてくる超。
エヴァンジェリンは人にバカバカと連呼するし、四葉は安堵した笑みを浮かべる以外はいつもと変わらない。すまなそうな顔をしているのは絡繰だけだ。
わたしは一応死に掛けたんだがな。なんでロボットが一番人情味にあふれてるんだ?
脳が追いついていかない。
ぼーっと話を聞いたあと、わたしは言った。
「今日は帰るよ」
まあそれくらいしか言うことはないだろう。
◆
事情を聞いたからといってわたしも同じように自分の事情を話す義理はない。
わざわざわたしから話すことなんてなにもない。
というよりそもそもの問題として、わたしには超たちから説明なんてされようが、それを本当だと思うスキルがないのだ。
まずは頭を冷やすことが肝要であり、今は百言費やす説明よりも、その言葉をつぶやく五分の沈黙のほうが価値がある。
ごちゃごちゃと今後のことについてやら、今回のことについてやら、これまでのことについてやらをエヴァンジェリンを筆頭に語ってくれたが、わたしは生返事だけを返してその場をやり過ごして寮に帰った。
悪の巣窟とは言わないが、長居したい場所ではない。
わたしは説明よりも休息を欲して、そこを離れた。
疲れたし,説明を受けるより休みたいと、そう訴えた。
――――もちろん演技である。
ルビーが始めてきた日のように、わたしは謎を流せない。
知らないほうがよいことがあることは理解できても、それに触れればそれを意識せずにはいられない。
知らないままというのは不安であり、それをよしとするのは長谷川千雨の信条に反する。
本来なら何を置いてもわたしは説明を求めただろうし、自分の安全を保障するために食い下がったはずだ。
わたしがあの場からたいした説明も求めずに逃げ帰ったのは、やつらが本当にわたしをどうにかするつもりがなさそうだったことと、
「今日は焦ったわー。千雨いきなり死んでるんだもの」
いつの間にかわたしの横に浮いているこの女がいたからだ。
寮の部屋に戻りベッドに飛び込むように寝転んだ。
発熱を訴える体を休め、ルビー印の怪しげな薬を飲む。
いきなり効きだして、気分が晴れやかになるところがまた怪しいが、恩赦に預かれる分には文句も言うまい。
これで明日いきなり体調が戻って超たちに怪しまれるかもしれないが、そこらへんは演技でもしておこう。そんなことをぼんやりと考えながら、ため息を吐く。
今日は本当に疲れた。
正直さっさと寝たかったがそうも行くまい。
気を取り直して、ベッドのそばに浮かぶルビーにさっそく詰問を開始する。
こいつ相手に聞くほうがエヴァンジェリンたち相手に立ち回るより気が楽というものだ。
「あなたって他人をほっとけないタイプみたいねえ。損をするけど好かれる性格」
「うるさいよ」
「文句くらい言わせてよ。今日は寿命が三千年は縮んだわ」
「何年生きる気だよ、お前は」
「そりゃわたしの目的が達成されるまでよ」
闊達に笑う。どうでもいいが、大声は出さないでほしいものだ。ここは一応寮の中だぞ。
「大丈夫よ。わたし霊体化してるし……というよりわたしはもういままでのようには“実体化”できないわ」
「はぁ?」
意味が分からない。
だが、たしかにこいつは実体化とやらをせずに、霊体のままだった。
ルビーは肩をすくめた。
「千雨。あなた自分が何をしたかが、いまいち分かってないみたいなのよねえ」
まあ、それに反論はしないが文句を言われる筋合いもない。
「あのね、千雨。あなた死んでいたのよ。わかる? 死にそうになったわけじゃなく、死んでいたの。たぶん気づいているのはエヴァンジェリンとか言うババアだけでしょうけど、あなたは蘇生しているの」
…………ホウ、そりゃ驚きだ。
◆
少しばかり前のこと。
わたしは一晩だけ夢を見て、死にかけるほどに衰弱した。
理由はルビーの怪我を、長谷川千雨の魔力を使って回復したためだと説明された。
ホースの水が圧の低いほうに流れるように、こっちからそっちでそっちからこっちと簡単に。
だから今回は、ルビーの体から魔力が抜けて、わたしに流れた。
「どころの話じゃないわ」
と、ルビーはわたしの解釈をぶった切った。
「あなたの今の魂の半分はわたしから流れた材料よ」
しかめっ面がとまらない。魂ってなんだよ、おい。
すこしうなってベッドから体を起こすと、カバンからナイフを取り出した。
血は付いていなかった。
没収はされなかったようだ。エヴァンジェリンたちに取られているか、わたしが首を掻っ切ったまま道端に放置されているかも知れないと思っていたが、そこまで馬鹿ではないらしい。
そういえば桜通りのあの場所にまみれているであろうわたしの血はどうなったのだろう。エヴァンジェリンが拭いてくれたとは考えにくいが、そのままだったら明日にはパトカーと非常線、来週にはわたしの元へ刑事さんが尋ねてきてもおかしくあるまい。
「あのねえ。自分が何したか覚えてないの?」
同じようなことを考えていたらしいルビーから怒りを含んだ声が返った。
むっ、と詰まってしまった。
ナイフを取り上げる。軽く手のひらに押し当ててみた。
かなり強く押し付けなければ切れないことはわかる。
横に引けば切れるだろう。適当に押し付けながらなら皮一枚ですむかもしれない。刃物とはそういうもので、人間の皮膚は意外と強い。
だがこれを横に引くことは出来そうもない。
ブルリと震えた。あの時首を走った感触を思い出し、鳥肌が立った。
「うわっ、めちゃめちゃこええ」
ナイフから手を離す。
自傷行為というのはなかなか根性がいる。
よくもまあ自殺の真似事なんか出来たものだ。
「当たり前でしょ。ほんとに信じられないわ」
ルビーがいった。
「悪かったよ。だけどマジでビビッてたんだ。いきなり吸血鬼に会えばそれくらいパニくるだろ普通」
「だからって自殺するのは少数よ。受け入れてあいつにかまれてたほうがまだ問題は少なかったわ」
「エヴァンジェリンもそんなこといってたな」
「ええ、魔力が封じられてるらしいわね。本気で殺しあってもよかったんだけど、治せるって言うから見逃したのよ」
さて、こいつのこの会話癖は何とかさせるべきだろう。
唐突に爆弾を投げ込むのはやめてほしいものだ。
「……お前エヴァンジェリンとやりあったのか?」
さっそく問い詰めるが、ルビーはかけらも悪びれずにしらっとした顔を向けてきた。
「ええ。千雨があのままなら絶対に殺してたでしょうけど、まだ死んでなかったし、先に千雨を優先したから、殺しあってすらいないわ」
「……いろいろ突っ込みいれたいが、お前のことがばれたってことじゃねえか。しかも吸血鬼に。仲間っつーか、超たちもいたし、おいおいどうすんだよわたしは」
「あー、いや平気よ。あいつとはお互いに黙ってるように契約したし。ほんっとうに不本意だけど、同類同士である程度仲良くやりましょうってね」
それを聞いてわたしがそりゃよかったとでもいうと思っているのか、こいつは。
「じゃあそれはいいよ。いや全然よくないけどどうしようもなさそうだし。それよりもっと早くは来れなかったのか? わたしはあんたが来てからトラウマをおいまくってるんだが」
首筋をなでながら言った。超のところでもすでに確認していたが、傷は残っていないようだ。地味ながらも心の底から安堵した一瞬だった。首筋に刀傷が残るってのは乙女心的な観点から見て二の腕の刺青とためを張る。
「早くもなにもあれがぎりぎりよ。千雨がわたしを呼んでやっとこれたんだもの。わたしは魔法の国の中にいたのよ。もちろん帰還用の手段は構築してあったけど、あのタイミングじゃあ令呪で呼ばれないかぎり間に合うはずがない」
どういうことだ、と首をかしげた。呼んだ覚えはない。
いつの間にか現れているのが当たり前のようなやつだったから気にしていなかった。
魔法に関わりすぎて、魔法が万能と思い込んでいた。
魔法だろうと何でもかんでも望みがかなうというわけじゃないということか。
「呼んだ覚えはないんだけどな」
「なにいってるのよ。令呪が消えてるでしょ」
小学生に計算間違えを教える教師のごとく、当たり前の口調でルビーが言った。
だがわたしの認識ではこいつに刻まれた令呪とやらは色の消えた三角の刺青であって”消える”も何もない。そのような言い方をするならすべて消えていたというべきだ。
その言葉にあわてて袖をめくると、そこには光を灯した二画の刺青と、光を消した一画が刻まれていた。
「……」
「魔法の国から遠隔で刻んだのよ。あなたが死に掛けてたからね。呼んでくれて助かったわ。令呪があっても持ったまま死んだら意味ないもの。墓に財産はもち込めず、令呪は死ねば露となるってね」
ため息を吐きながら袖を戻す。
なるほどね、これが令呪か。
魔法の国なんていう遠方から、死に際に適当に願っただけでルビーを呼べる隠しだま。
「一つ消えてるな。いつからついたんだ」
「千雨が死に掛けているときよ。魔法の国で千雨に術を施した。いや、千雨に術を施させたというべきかもね」
「よくわからんが、まあなんにせよ目的がかなったってことか。役にも立ったし無駄じゃあなかったというべきかねえ」
令呪を見ながらベッドに倒れこむ。
「しっかし、ウチのクラスメイトは本当に変なのばっかりじゃねえか。変人コンビどもはまだしも四葉だけは信じていたんだがなあ」
「あの子はたまたまって感じみたいよ。居合わせたから同席したんじゃないの? いい子みたいね」
それはなによりだが、この際あまり意味はない。
ごろごろとだれながらうなだれた。
だが一応命の危険は去ったらしいし、これから対策をわざわざ考える必要はないだろう。わたしはこのときそう考えた。
正直なところエヴァンジェリンたちから干渉してきさえしなければ、いままでと変わらないはずだろう。
秘密を持った場合、それが一人目にばれたときがすべての終わりだというのは散々言われていたことだが、いまさら悲観もできない。正直あそこまでやっておきながら、いまこうしてわたしが死ななかっただけでも、十二分に自分の幸運に感謝している。
「まあいいか。一件落着ってとこだよな」
「いえ、まだよ」
そろそろ寝ようかと思い始めたわたしに向かってルビーが言った。
「なにがだ? 話ならまた今度聞きたいんだが」
「駄目よ、だってこれはお話じゃなくてお説教だもの」
「はぁっ?」
「あのね、千雨」
油断していなかったといえば嘘になる。
こいつは先ほどまでとまったく変わらない笑顔のまま、わたしに近づいていた。
その、いつもとまったく変わらない笑顔に、なぜかわたしの体に鳥肌が立つ。
びくりと後ずさるわたしに向かいルビーはその手を振り上げて、
「――――あなた、もうちょっと自分を大切にしなさいよ!!!!!」
ガツンと、拳骨が落ちたようなイメージを打ち付けられて、わたしの目が火花を散らす。
◆◆◆
翌朝、わたしは重度の酔っ払いのごとく眠気と疲れで千鳥足でふらつきながら学校へ向かっていた。
「…………ねみい」
学校を休もうとかとどれほど考えたか分からない。
散々わたしをしかりつけた挙句、幽霊は眠らないなどと言い放ち、わたしのこのざまは事項自得だと無理やり学校へ送り出したルビーがいなければ仮病を使ってでも休んだだろう。
これで交通事故を起こしたらどうする気だ。学校で授業を受ける気にすらならない。
不自然な行動を慎めという割りに、あいつはこういうよくわからないところで不自然を許容するのだ。うっかりというかこれはただ単に物事に対して重視する点の違いだろう。
交通事故よりも悪魔に襲われることのほうが頻繁に起こるとでも考えているような気がする。馬鹿じゃなかろうか。
ふらふらとしながらも学校につく。
教室に入るが、あいも変わらず騒がしい。
肉まんを売り歩く中華まん屋に、竹刀袋を手放さない不良娘とその類友の忍者もどき。残りの武道派二人は雑談中だ。パパラッチは早乙女たちと一緒にいるし、綾瀬と宮崎はなにやら宮崎主体で会話に花を咲かせている。内容は桜通りの吸血鬼。なんともタイムリーなことだろう。いやこれは昨日のわたしが原因か。
わたしが入ってきたことに気づいて早乙女と朝倉がよってくる。昨日の変質者についての話だ。
早乙女経由で漏れたのだろう。こいつは口が軽すぎる。適当に会話をしながら視線を揺らす。
さわがしい、いつもの光景。
明石がいて、朝倉がいて、綾瀬がいて、和泉がいて、大河内がいて、柿崎がいて、神楽坂がいて、春日がいて、絡繰がいて、釘宮がいて、古がいて、近衛がいて、早乙女がいて、桜咲がいて、佐々木がいて、椎名がいて、龍宮がいて、超がいて、長瀬がいて、那波がいて、鳴滝姉妹がいて、葉加瀬がいて、吸血鬼がいて、宮崎がいて、村上がいて、雪広がいて、四葉がいて、ザジがいて、そして、最後につまらなそうな顔をしてペン回しに興じる体の透けた幽霊が、
――――幽霊?
いつもの喧騒に混じった教室の一角。いやに静かなその場所で、一人の少女が頬杖を付きながらペン回しに興じていた。
背後が透ける半透明の体で半透明のペンを持ち、ため息なんぞをついているその存在。誰にも気づかれないままそこにいる少女が今日のわたしには見えている。
「…………」
見なかったことにして自分の席に進む。
昨日のことを聞こうとする早乙女と朝倉を無視して席に着く。ちらりと後ろに目が泳ぎ、金髪の幼児体型の吸血鬼と目が合った。
にやりと笑いかけられた。
ああ、眠いしだるいし怪しげなのがクラスにいるし、幻覚を見るのも頷ける。今日は早々に保健室にでも逃げ込もう。
◆
保健室で十分な仮眠を取ったあと、わたしが教室へ戻ったのはお昼すぎ。
さらに無難に午後の授業をやり過ごし、今は放課後になっていた。
放課後のことでざわざわと騒いでいる生徒の中。いつものように即座に帰ることもなく本を読んでいる振りをして時間をつぶす。帰り際のクラスメイトに挨拶をかけられるが、わたしはもともとサークルに入っていないただ一人の生徒というだけあって、帰宅を共にするような仲のものはいない。生返事だけをして人気がなくなるのを待った。
全員がいなくなり、わたしは一人で教室のいすに座っている。
いや、一人というのは間違いか。
ぽけーっとした顔の幽霊がちらちらとわたしのことをうかがっていた。
誰もいなくなったことを再度確認してから、フェイクで読んでいる振りをしていた文庫本を閉じた。
「……もういいか」
つぶやいて立ち上がる。
ルビーが前に言っていた。魔法に関わるものの法則をいっていた。
ルビー曰く一歩目を踏み出せば、そこから二歩目まではとても短く、関係者となったものは、魔法に関わる魔物を招く。
そして、わたしはすでに“関係者”。
異能は異能を呼び寄せる。
なるほど。ここ数週間でここまでいろいろなことが起こるのはそういうことかもしれないな。
信心深くもなかったが、魔法を見て魔法を信じないほど狭量じゃないし、現実に示されて現実を信じないほど間抜けじゃない。
そしてきっと、
「おい、幽霊。あんたいったいなにもんだい?」
こんな台詞をわたしと一緒に教室に残っている幽霊に向かって口にするようになっちまったのは、わたしの内面の変化を表しているということだろう。
◆
幽霊に気づいた後の授業中、わたしは授業そっちのけでその幽霊を観察していた。お昼まで保健室で頭を冷やしていたこともあり、今日の授業は何一つまともに受けていない。成績はいいほうではないが、さすがにこんな状態を無視して平静を装い続けたいとは思わない。
やつの席が前のほうと言うのが都合がよかった。幽霊はまったくわたしに気づかずに授業を受けていた。
いや、授業を受けているというのは間違いか。やつはペン回しをしながら頬杖を付き、退屈そうにしていた。
出席のときに手を上げて、反応がないことに気落ちして、授業で挙手を求められたときに手を上げて、当然別の人間が名を呼ばれることに悲しそうな顔をする。
そんな仕草を何度も何度も繰り返して、そんな仕草が何度も何度も無駄になっていることを身にしみているかのような態度をしていた。
だから、わたしもこんなことをしちまったのだろう。
傍観者で諦観者。
幼少時に見えないものを見て、見てはいけないものを指摘して村八分を食らった狼少女。
早々にそんな状況に見切りをつけちまったわたしはそれを悔しいとは感じても、悲しいとは感じなかったが、それでもそれを悲しがる人間の気持ちは分かる。さびしがり続ける人間の気持ちは想像できる。
あいつが幽霊だというのなら、その魂をここに呪縛しているのはなんなのか。さびしそうに席に座り授業に混じりたそうに手を上げて、クラスメイトになりたくて、その気持ちのあまり出席時に誰にも聞こえない返事をするその少女。
ルビーを待つべきだったかもしれない。話を通しておくべきだったかもしれない。
幽霊が授業終わりにどこぞへ消えたらそうしただろう。授業が終わって仲間の幽霊が現れたらそうしただろう。この誰にも気づかれずに存在する幽霊が悪霊のような気配を少しでも見せていたらそうしただろう。
だがこの幽霊はたった一人で席に座り続けた。授業が終わり、みなが教室から出て行くときも、ただ渇望の視線を投げかけただけで彼女は動こうとはしなかった。
悲しそうな目をそのままに、一人でずっと座っていた。
わたしが帰ってルビーを呼び出し、そして早くとも明日になってからあいつと話す。それでもきっと十分だろう。かわいそうな幽霊少女への対応としては十分だろう。
だがそのときのわたしにはきっと打算が混じる。ルビーと話してしまえばきっと策を練るだろう。必ず思考をめぐらすだろう。
それは好意に対してよどみになる。
知らないことが必要になる。そういうことは確実にありえるのだ。
「聞こえなかったか、あんたに言ったんだが」
わたしは打算で動くし欲深い。
だが、そんな薄情者のわたしにだって、ここでこいつを放っておくべきではないことくらいは分かる。
そんなことをしちまえば、わたしは私を許せない。
大丈夫、最悪の事態には令呪があるさと気楽に考え、わたしはこっそりと左腕を押さえながら、驚きに目を丸くする幽霊に話しかけた。
「えっ!? あ、あの、長谷川さん、わたしが見えるんですか!?」
わたしの言葉に幽霊は驚いたような声を上げた。
わたしの名前も知っているようだ。やはりわたしがみえるようになる前からいたらしい。
目を丸くして立ち上がる。いや立ち上がるという表現は間違いか。彼女は宙に浮いている。
「ああ、たぶん昨日からな。あんたなにもんだよ。話くらいなら聞いてやるぞ。……一応言っとくがもし、取りつくってんならわたしにも考えがあるから――――」
「あのっ、長谷川さん」
「な、なんだよ」
「――――わたしと友達になってくださいっ!」
なんだって?
◆
「じゃあ、相坂は自縛霊ってやつかよ。六十年もよく耐えられたな。どうにかならなかったのか。この世界には幽霊以外にも魔法使いがうじゃうじゃいるらしいぞ」
「はい、わたしは学校の外には出れませんし、霊媒師や魔法使いの皆さんにもわたしが見える人はいないみたいです。わたしは存在感がありませんから」
存在してるかも曖昧だしな、とはさすがに言わなかった。
「……長谷川さんは見えているんですよね。すごいです、誰にも見えなかったのに。あの、魔法使いなんですよね?」
「いや、わたしは魔法使いじゃないんだがな」
頬をかきながらそういった。
「先ほどから言っているルビーさんという方ですか?」
「ああ。やつが言うところによるとあいつの力が昨日からわたしに同化してるらしい。相坂が見えたのもそのせいだろうな」
「うー、でもすごい嬉しいです」
相坂はくるくると宙を回った。喜びのダンスのつもりだろう。数十年ぶりというのなら納得か。
よく耐えられたものだ。わたしなら発狂する気がする。
「まあクラスメイトだ。生気を吸うとかじゃないなら十分さ。よろしくな」
「はい、こちらこそよろしくお願いします」
嬉しそうに相坂が笑った。六十年ぶりの友人ということだ、わたしのような変人相手でも嬉しいのだろう。
ああ、ちなみにわたしは友達の申し出を断ったりはしなかった。
さすがにこの展開に加えてこいつの事情を聞いた後で、いいえとは答えられない。
出席番号一番の相坂さよ。
話を聞いてみると、彼女はなんと幽霊らしい。
事故で死んで自縛霊となってこの教室に住み着いて、だがその存在感のなさから誰にも気づかれずにここに一人ぼっちで座っていた幽霊少女。
ルビーとはまた異なる幽霊の典型か。
ある程度自己紹介も終わり、わたしは相坂と雑談を続けていた。
「長谷川さんは魔法が使えるんですね」
こいつの興味は魔法らしい。
幽霊というのは魔法と同じく普通ではない特殊に分類されるが、やはり受動的な部分が多いようだ。自分から動く行為にあこがれているのだろう。自分にも使えないのかどうかという興味がその目から漏れていた。
ルビーを紹介するべきだろうが、ルビーはこの教室までは同行しない。
それに桜さんのこと以外には意外と無頓着なあいつは、わざわざ一幽霊である相坂のために骨を折るようなことはしないだろう。
寮までいけるなら連れて行くべきだろうが、こいつは寮までは出向けないらしいし、ルビーが渋るなら説得が面倒そうだ。最悪令呪があるが、これはルビーにとっては非常に重要アイテムらしいので、適当に使おうとすると怒られる。
「わたしは使えるわけじゃないな。習ってないし。全部準備を整えてもらえれば出来るらしいけど……まあいまはルビーと混じって使えるようになったってところか。相坂が見えたのもそれが原因だと思う。魔力回路とかいったかな? ちょっとよく覚えてないが」
「でも、大丈夫なんですか? その……エヴァンジェリンさんがまた襲ってきたりとか」
「かといって付け焼刃で魔法を習ったってあいつにはかなわないと思う。最強とか吹いてたしな、あのちびっ子は。まあ、大丈夫なんじゃないか? 殺す気なら昨日殺されてるよ。命をわざわざ助けておいてもう一回ってこともないだろ。ルビーとも話がついたとか言ってたしさ」
ルビーが言うには、令呪で呼ばれてまず目に入ったのが、首から血を流すわたしとわたしに馬乗りになり手にわたしから奪ったナイフを持ったエヴァンジェリンだったそうだ。
エヴァンジェリンはわたしを一応治そうとしていたらしいので、いきなりルビーとエヴァンジェリンの殺し合いが始まるということはなかったが、エヴァンジェリンは治癒魔術とやらが壊滅的にへぼだったらしく、ルビーはわたしの怪我を一時不問にしてわたしの治癒に手を貸したそうだ。
そこでまた一悶着二悶着あった末、協力関係を築いたということだ。
そんなことをつらつらと相坂に語っていると、聞き覚えのある声が割り込んだ。
「すこし違うな。あいつとは停戦しただけだ。敵対すればまた殺りあうさ。あいつとも、もちろんお前ともな」
突然の声に驚いて席から立ち上がる。ガタリと音がして椅子が倒れた。
相坂には悪いが、幽霊と話している場面を見られるなんてのは学校生活では致命傷だ。
ドアの開閉音はもちろん廊下の気配にもかなり気をつかっていたのに気づかなかった。
だが今回はそう心配するまでもない相手だった。
「そうびびるな、小心者め」
そういって笑ったのは当のエヴァンジェリンである。
後ろには絡繰を従えていた。
「あんたかよ。なんのようだ」
「なに、貴様がおもしろい真似をしているようなのでな。すこし聞かせてもらっていただけだ」
顔をしかめる。盗み聞きされていたのか。
絡繰は無言でエヴァンジェリンの背後に控えている。
ほかの人影は見えなかった。
「ほかのやつらはいないのか?」
「ああ。そもそもあのルビーのことは超たちには話していない」
ほうと声が漏れた。それはおもわぬ僥倖だ。
「そりゃなによりだ。黙っててくれたのか?」
「黙るもなにもわたしと超たちは利害が一致しているから組んでいるに過ぎない。あの場では貴様の治療で立て込んでいたし、それが終わった後にわざわざ話すことでもない。わたしの正式な従者はあの場にいた中では茶々丸だけだ」
その言葉に絡繰が軽く会釈をした。学校で黙認されている光景が一番不思議だったロボ子は、実は吸血鬼の手下らしい。朝倉あたりにリークしてもきっと信じてはくれないだろう。
「だからってあんたがただで黙ってるってのもな」
「ふん、なかなか鋭いな」
追求するとエヴァンジェリンはとくに黙秘するそぶりも見せずに言った。
「たしかにあの女との契約が噛んでいる。おまえのことを黙っているようにとな。やつは貴様の守護者を気取っていたが、わたしとしても学園内でわたしが原因の人死にを出すのは少々まずい。やつの戯言に乗って貴様を治療したというわけだ」
「あー、迷惑かけたよ」
よくわからんまま頭をかくと、ぎろりとにらまれた。
「あのとき持っていた魔法薬がありったけなくなった。回復用のものなど持ち歩いていなかったしな。あの短剣には変な呪いも引っ付いていたようだし、貴様とあの女にはどれだけ文句を言っても飽きたらん。本来ならお前はまだしもあいつは殺していたが、あいつの技術は役に立つ。協定を結んだというわけだ」
「そういうのはルビーと直接やれよ。あのことは悪かったけど、弁償しようにも魔法やら薬やらはわたしじゃわかんないぞ」
「だがマスターはお前なのだろう」
「そういうことになってるだけだよ。あいつは勝手に飛び回って好き勝手やってるぞ。正直あいつが何をしてるのかなんてなにも知らないしな」
自嘲気味にそういった。
「それを威張ってどうする……といいたいところだが、なんだ、お前聞いていないのか」
エヴァンジェリンが肩をすくめた。
「聞いていないって……なにをだよ」
「長谷川千雨、お前がルビーと呼ぶ女のことだ」
身構えたわたしにエヴァンジェリンがあきれたような顔をする。さすがに絡繰と本式な従者契約を結んでいるというだけあってわたしとルビーのような関係はおかしいと感じるのだろうか?
だがエヴァンジェリンの語る内容はわたしの想像とは違っていた。
「同化といったが、お前は自分の体の主権を握っている。つまりあの女の力を継承したに等しいのだぞ。魔法使いには垂涎のしろものだ。魔法を覚えようとは思わんのか」
「思わんね、魔法なんて真っ平だ」
「ふむ、それはそれでおもしろいが、貴様を襲ったものとして忠告しよう。最低限の力は身につけておくべきだぞ、長谷川千雨。たとえわたしと敵対しないとしてもお前が思うほどこの世界はぬるくない」
一拍やつが黙り、にやりと底意地の悪そうな笑みを浮かべる。
「それに、あの女はもうお前を助けることは出来んのだから」
目を丸くするわたしにエヴァンジェリンは言葉を続ける。
短い言葉、簡易な説明。
ルビーがわたしに力をわたした所為で、実体化すら出来ないほどに存在基盤が弱っているという内容を。
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基本的に戦闘シーンは嫌いなので飛びました。
千雨はべつだん直死の魔眼に目覚めたりはしません。
そしてようやく、まともに魔法的に千雨に絡む3-A生徒が登場。ルビーはエヴァンジェリンと組むので、これからの話には相坂さよのほうが絡んでくるかと思います。
そろそろこういう説明的な部分はへらしていきたいのですが、まあ気ままに進めていきたいと思います。
それでは。