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No.1509の一覧
[0] 小鬼使い(短編、完結済み)[かるめん](2007/11/18 23:10)
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[1509] 小鬼使い(短編、完結済み)
Name: かるめん◆17e2a7a1
Date: 2007/11/18 23:10



小鬼使いと呼ばれる女の子の話をしよう……。
小鬼使いと言っても、彼女の使う小鬼たちは映画に出てくるグレムリンやゴブリンみたいに目に見える存在ではない。
またその女の子も魔法使いや魔女のような超能力の持ち主でもない。
しかし、彼女の使役する小鬼たちは間違いなく存在する、その子もまた本当に特別な力の持ち主なのだ。

小鬼使いは自分の力を指して『人の痛みが分かる能力』と呼んだことがある。
僕たちは皆子供の頃から、父母や先生たちに『人の痛みが分かる人間』になれといわれて育ってきた。
だが、小鬼使いの力は父さんや母さん、先生方が期待していたような可愛いものではなかった。
彼女はその人間が一番渇望しているもの、そして一番認めたくないと思っている感情を嗅ぎ付ける天才的な嗅覚の持ち主なのだ。

例えば、ここにクラスで一番成績の良い女の子がいるとしよう。
その子の一番強い欲望はいつも常にクラスでトップを維持し、自分より成績の劣る級友たちを見下し続けることだ。
同時に彼女の一番恐れていることは何時か誰かに追い抜かれて栄光の頂点から失墜し、見下される側に回ることだ。
欲望と恐怖、優越感と劣等感はいつも背中合わせの双子同士。
その子は決して、自分の中に巣食う本当の欲望や恐怖を認めたがらないだろう。
だが、小鬼使いはその子のあらゆる努力を嘲笑うようにいとも容易く彼女の本音を暴き出す。

「簡単よ」と小鬼使いは笑う。
「とっても簡単。誰も私から隠しとおすことなんてできないんだから」
小鬼使いの読心術の正体は人間のバイオリズムを読み取る能力だ。
彼女は他の人間の姿勢や動作からその体調や心の動きを読み取る悪魔的な才能を持っている。

小鬼使いの力は誰にでもあるごく普通の能力のように聞こえるかもしれない。
そう思った人は駅や街角で目の前で歩いている人間と歩調を合わせてみよう。
試して見ると分かるが、これが意外に難しい。
見知らぬ相手にリズムを合わせて歩くことは簡単じゃないし、ちょっとでも相手の足から目を逸らしただけでたちまちリズムが狂ってしまう。

小鬼使いはどんな相手でも簡単に歩調を合わせることができる。
大人だろうが、子供だろうが、女だろうが、男だろうが、背の高さや足の長さもお構いなしだ。
しかも彼女が相手の足を見るの一瞬、最初にリズムを合わせる時だけだ。
後は肩や腰の動きを見るだけで完璧に相手のリズムに合わせて歩くことができる。

それだけじゃあない。
小鬼使いは歩調だけではなく、呼吸や心臓の鼓動のリズムまで完璧に読み取ってしまう。
そして、自分の呼吸や鼓動を相手にぴったり合わせることが可能だ。
さらに一歩進んだ離れ技として瞬きをあわせるなんて芸当もある。
最初これを聞いた時、僕も小鬼使いの言うことを疑った。
そんなことができるわけないって思ったんだ。
でも、彼女はやって見せた。

小鬼使いは母親と話している時に、文字通り一瞬の狂いもなく完璧に瞬きのリズムを合わせて見せたんだ!
そして、30分以上も同じタイミングで瞬きをしているのに母は自分の娘が何をしているのか全く気付いていなかった。
呼吸や鼓動、瞬きが読み取れるなら人の心を読むなんてわけのないことだ。
さらに人の心を操ったり、誘導したりすることもできるようになる。

人は自分と同じような人間に対して好意を抱く。
話している時にぴったりと動作を合わせることができれば、相手の心に好意を芽生えさせることも難しくない。
小鬼使いに言われたとおりやってみたところ、僕は初対面の相手と簡単に打ち解ける方法を手に入れることができた。

後でわかったことだが、小鬼使いの言ったこの『友達を作る方法』は実はマッチングと呼ばれる初歩の催眠誘導のテクニックだった。
小鬼使いは誰から教えられることなく、そして誰よりも上手くこの技術を使いこなして見せた。
たった一回話しただけで、彼女はどんな人間とも親友になることができた。
相手はほぼ100%の確立で、10分前まで名前も知らなかった彼女にまるで家族みたいに接するようになった。

小鬼使いが人並みはずれた記憶力と機転の利く頭の持ち主であったことも彼女が友達作りの達人だったことと無関係ではなかっただろう。
付け加えるなら、小鬼使いはとても可愛い女の子であった。
小鬼使いの笑顔は彼女の本性を知っている僕でさえいつもドキッとするくらい素敵だった。

好意が一定量に達したと判断すると、小鬼使いはいよいよ彼女の小鬼たちを相手に植え付けようとした。
例えば、さっき言ったクラスで一番成績の良い女の子をA子としよう。
そして、ここにいつも努力しているけど後一歩で彼女に及ばない2番手のB子と言う女の子がいたとしよう。
小鬼使いはまず二人に近づき、一時間程度の会話で10年来の親友のように親しくなる。
それから、彼女たちが自分でも意識していないの心の一番痛い場所をちくっと刺激する。

A子には「どうやったら毎回1位を取れるの? あんなに努力しているBさんですら貴方には叶わないわ」と言う。
そしてB子には「どうやったらあんなに頑張れるのか教えて欲しいわ。このクラスで貴方より成績が良いのはあのA子さんだけよ」と言う。

ちくり、ちくり……。

こうしてジガバチのように小鬼使いは二人の心の中に小さな鬼の卵を植え付ける。
卵を植え付けた後、小鬼使いは頻繁に二人と会って言葉を交わし、ますます親しくなっていく

小鬼使いはA子に言う。
「今度のテストでも一番だったね。B子さんも頑張ったけど、後一歩で貴方に及ばなかったわ」
そして、笑って付け加える。
「……私だったら貴女にちょっと嫉妬しちゃうわね」
小鬼使いはB子に言う。
「今度のテストもいい成績だったわね。貴女が一生懸命頑張った結果がよく出ていたわ」
そして、慰めるようにそっと囁く。
「……でも、A子さんがいなかったら、貴女が一番だったわね」

ここで注目して欲しいのは、小鬼使いが誰の悪口も口にしていない点だ。
彼女は決してはっきり誰かを非難したり、陰口を叩いたりしない。
お互いに対してもやもやした不安を芽生えさせるのはあくまでA子やB子自身なのだ。
小鬼使いと話をする度に二人の女の子の心は自覚できないぐらいの小さな傷を負い、その急所からわずかな血を流す。

ちくり、ちくり……。

小鬼の卵は寄生虫のようにA子とB子の心の血を吸い、やがて孵化する。
小鬼使いは幼虫となった小鬼に繰り返し餌をやり、ますます肥え太らせる。
さらに彼女はA子とB子の周りのクラスメートを誘って、二人を中心にしたグループを作り上げる。
そして、グループの一人一人の心にも同じように小鬼の卵を植え付けていく。

小鬼使いの悪意を疑うものはいない。
同じように彼女に対して悪意を抱くものもいない。
だって、何も知らない人間の目にはクラスメート同士の友情や絆がどんどん深まっているようにしか見えないからだ。

だけど、小鬼使いは二人きりになった時、僕に言ったことがある。
「要するに豚や鶏と一緒なのよ」
小鬼使いは笑って言う。
「どんな家畜でもそうでしょ? 一匹一匹で飼うよりも、群として飼った方が質も安定するし、扱いやすいのよ」
事実彼女の言ったとおり、小鬼使いが作った二つのグループは群集心理によりリーダー格であるA子とB子の感情に共感し、相手に対して漠然とした不満を抱き始める。

この時二つのグループの対立はまだはっきりと面に出ることはない。
ただお互いの顔が見えないところで、相手グループの陰口を叩くぐらいだ。
ぽろっと漏らした本音はやがて習慣となり、習慣はやがて信念に昇華する。
心の中に巣食う小鬼は鬱屈したどす黒い血を栄養に幼虫から蛹に成長する。
だが、この蛹が孵るためにはまだちょっとした刺激が必要なのだ。

グループの水面下の対立がいよいよ限界近くに達すると、突然A子とB子の周りで悪戯が起こり始める。
悪戯は文房具や上履きがなくなる程度のささやかなものから始まり、やがて靴の中に画鋲を忍び込ませたり、家の郵便入れの中に小動物の屍骸を入れたり、次第に身体や心を傷つける悪質なものに変わって行く。
その後ろにはもちろん、小鬼使いの影がある。

だが、A子もB子も最高の友人が犯人であるとは疑いもしない。
小鬼使いには二人に悪戯を仕掛けるような動機は何も見当たらないからだ。
犯人に分からぬままに二人のストレスはどんどん増えていき、やがて彼女たちのプライドの拠りどころである成績にまで影響を及ぼし始める。
当然、二人と感情を共にしていた取り巻きたちも、彼女たちと同じようにいら立ち、不安に苛まれる。

この時、小鬼使いはフループの中から特に二人と親しい子を選んで囁くのだ。
A子の取り巻きには「A子さん、この頃成績が下がったわね。この調子じゃ後少しでB子さんに追いつかれそうだわ」
B子の取り巻きには「Bさん、この間のテストは惜しかったわね。後少しで今度こそAさんを追い越して1位を取れそうだったのに……」
そして、二人に同じように酷く憤った口調で言うのだ。
「それもこれも全部あの悪戯のせいよ! 一体誰があんな酷い事をしているのかしら? もし犯人がわかったら、私がお仕置きしてやるのに!」

小鬼使いは何も指図しない。
誰が犯人なのかもはっきり言わない。
だが、その時彼女の言葉を聞いた女の子たちの心の中で小鬼の蛹は大きくひび割れるのだ。
次の日か或いは次の次の日か、A子とB子と周りでまた悪戯が起こり始める。
しかし、今度の悪戯は小鬼使いの仕業ではないのだ。

こうなってしまえば、彼女はもう何もする必要はない。
仕上げは孵化した使い魔たちが全部やってくれる。
悪戯は悪戯を呼び、復讐は復讐を呼ぶ。
まるで泥で真っ黒に汚れた雪の坂道から小さな雪球を落としたように、グループの間の憎悪と怒りは果てしなく膨れ上がっていく。
もう止めたくても止めることはできない。

ちくり、ちくり……

醜く大きく育った小鬼たちは毒の篭った爪や牙でクラスメートたちの心を激しく痛めつけ、彼女たちがお互いに傷つけあうように仕向けあう。
世界中の紛争自体で起きているのとまったく同じ現象がクラスで起こり始めるのだ。
こうなればもはやクラスは完全に小鬼使いの支配下に降ったも同然だ。

二つのグループは敵のことを知りたくてたまらないのに、文字通り疑心暗鬼に駆られて話をすることもできないと言うジレンマにおちいる。
お互いの情報を得るためには共通友人である小鬼使いに頼らざる終えなくなる。
そして、少女たちはささやかな情報を得るために小鬼使いにまるでつりあわないような贈り物(いやこの場合は貢物と言うべきか)を捧げつづけるのだ。

だが、小鬼使いにとって最大の報酬はクラスが完璧に彼女の思惑通りに動いていくことだろう。
もはや担任の先生ですら、彼女の言葉に最大限に優先しなくちゃいけない。
先生の目から見たら、小鬼使いはただ一人理由もなく突然崩壊したクラスを纏められる救世主のような存在なのだ。

「簡単よ。とっても簡単」
小鬼使いはいつも僕に笑って言う。
「コツは三番手に納まること。そして、一番と二番の子のお尻をちくりと刺してやればいいのよ」
僕は小鬼使いがその気になれば何時でもA子やB子を追い越して、クラスで一番になれることを知っている。
だけど、彼女決してテストで本気を出したりしない。
その方がクラスの人間を操るのに都合が良いからだ。

大体の場合において、小鬼使いは上手に綱渡りを続けてきた。
家族とクラスメートの心に使い魔たちを植え付け、皆を思い通りに操って見せた。
しかし、そんな小鬼使いも失敗をしたことがある。
調子に乗って、A子とB子の敵愾心を刺激し過ぎたのだ。
小鬼の食われてぼろぼろになった二人の心はついに限界に達した。
彼女たちはある時、階段の踊り場で激しく喧嘩をして足を滑らせ、二人とも首の骨を追って死んでしまった。

クラスの中心になっていた二人の死を級友たちは皆、深く悲しんだ。
だけど、その中で一番激しく泣いて見せたのは二人を囃し立てた小鬼使い自身だった。
彼女は二人の葬式で棺おけにしがみ付き、滝のように涙を流した。
二人と一緒に火葬場の焼却炉中に入り、一緒に灰になりたいとさえ言った。
皆が彼女に同情した。
彼女が二人の一番親しい友人であることは誰もが知っている事実だった。
だから、誰一人として小鬼使いが二人を死に追いやった犯人だと疑うことはなかった。

家に帰った後、小鬼使いはあれほど派手に流していた涙をぴたりと止めると僕に言った。
「今度ばかりはしくったわ。まさか、あの二人が本気で殺しあうなんて思わなかったもの」
自分の心臓まで操ることのできる小鬼使いにとって、涙なんて水道水のようなものだ。
蛇口を捻るように出せるし、閉まればあっという間に止まる。
でも、珍しいことに彼女はその時ちょっと落ち込んでいるように見えた。
少なくともお気に入りだったけど、少し遊び飽きた玩具を亡くしたぐらいには……。

そして、すぐに開き直って僕に笑って言った。
「でも、失敗がなくちゃ進歩もできないしね。次はもう同じような失敗をしないようにするわ。そう簡単よ。とっても、とっても簡単よ」
事実、彼女は言ったとおりにそれから(少なくとも今までは)一回も失敗をしなかった。

月日は流れ、彼女は学校を卒業し、大学に入り、やがて勉強して資格を取って就職した。
今の小鬼使いの仕事は弁護士だ。
子供の頃、彼女が植え付けた小鬼たちは今や育ちきって悪魔のような本物の鬼になっていた。
鬼の宿主たちは相手が自分を悪魔憑きにした本人であることも知らずに、子供の頃とは比べ物にならないほどの多くの貢物を小鬼使いに捧げつづけている。
お金も時間も、血も肉も。
だけど、宿主たちは自分らの行為に疑いを抱いたことはない。
血肉を捧げることに喜びを感じるほどに完璧に小鬼使いに飼いならされているのだ。

僕は小鬼使いの悪行を全て知っている。
彼女が自分のやって来たことを全て僕に教えてくれたからだ。
でも、僕は決して小鬼使いから聞いた話を誰かに打ち明けることはできない。
なぜなら僕は小鬼使いの弟で、彼女は僕の実の姉だからだ。

毎日、職場から帰ってくると姉さんは僕に一日の仕事の内容を語って聞かせる。
誰にも話せない自慢話を僕だけに教えてくれるのだ。
そして、彼女は子供の頃よりもちょっとだけ大きくなったけど同じように形の良い胸で僕を抱きしめて言うのだ。
「愛しているわ、ゆーちゃん。こんなことを話せるのは貴方だけよ。ゆーちゃんもお姉ちゃんの言った事を誰に言わないよね?」

ちくりちくり……。

姉さんが植えた小鬼が僕の心を棘の生えた尻尾で突き刺す。
そして僕はまた何も言えなくなり、裸の姉さんの胸に顔を埋めて彼女を抱きしめることしかできなくなるのだ。

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