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No.15223の一覧
[0] 【習作】焔と弓兵(TOA×Fate)[東西南北](2010/02/19 00:50)
[1] プロローグ[東西南北](2010/01/07 02:13)
[2] 01[東西南北](2010/01/25 23:57)
[4] 02(改定)(エンゲーブ)[東西南北](2010/01/25 23:59)
[5] 03[東西南北](2010/01/18 00:09)
[6] 04 [東西南北](2010/01/25 23:59)
[7] 05(タルタロス)[東西南北](2010/01/25 23:59)
[8] 06[東西南北](2010/01/26 00:00)
[9] 07[東西南北](2010/03/15 23:51)
[10] 08(前編)[東西南北](2010/03/25 00:56)
[11] 08(後編)[東西南北](2010/03/25 00:57)
[12] 09[東西南北](2010/01/28 12:06)
[13] 10(セントビナー)[東西南北](2010/01/28 12:07)
[14] 11(フーブラス川)[東西南北](2010/03/31 10:36)
[15] 12(カイツール)[東西南北](2010/01/28 12:07)
[16] 13(コーラル城)[東西南北](2010/01/30 00:09)
[17] 14(ケセドニア)[東西南北](2010/01/30 00:09)
[18] 15(キャツベルト)[東西南北](2010/02/04 22:39)
[19] 16(バチカル)[東西南北](2010/01/25 23:56)
[20] 17[東西南北](2010/01/27 00:03)
[21] 18(バチカル廃工場)[東西南北](2010/03/25 01:01)
[22] 19[東西南北](2010/03/25 01:02)
[23] 20(砂漠のオアシス~ザオ遺跡)[東西南北](2010/01/31 00:02)
[24] 21(ケセドニア)[東西南北](2010/03/25 01:04)
[25] 22(アクゼリュス)[東西南北](2010/03/25 01:05)
[26] 23(魔界走行中のタルタロス船内)[東西南北](2010/03/25 01:07)
[27] 24(ユリアシティ)[東西南北](2010/03/14 23:42)
[28] 25[東西南北](2010/03/25 01:08)
[29] 26(アラミス湧水洞~)[東西南北](2010/02/09 00:02)
[30] 27(シェリダン)[東西南北](2010/03/25 01:09)
[31] 28[東西南北](2010/03/25 01:11)
[32] 29(シェリダン~メジオラ高原セフィロト)[東西南北](2010/02/14 22:54)
[33] 30(メジオラ高原~ベルケンド)[東西南北](2010/03/25 01:12)
[34] 31[東西南北](2010/03/25 01:13)
[35] 32(ユリアシティ)[東西南北](2010/03/14 23:44)
[36] 33(上空飛行中アルビオール船内)[東西南北](2010/03/25 01:15)
[37] 34(グランコクマ)[東西南北](2010/02/24 23:50)
[38] 35[東西南北](2010/03/14 23:45)
[39] 36(ダアト~ザレッホ火山)[東西南北](2010/03/14 23:45)
[40] 37[東西南北](2010/03/14 23:45)
[41] 38(ダアト)[東西南北](2010/03/25 01:17)
[42] 39(ルグニカ平原の川を北上中)[東西南北](2010/03/25 01:19)
[43] 40(キノコロード)[東西南北](2010/03/25 01:21)
[44] 41(セントビナー~シュレーの丘)[東西南北](2010/03/14 23:46)
[45] 42(ケセドニア)[東西南北](2010/03/14 23:48)
[46] 43(エンゲーブ)[東西南北](2010/03/25 01:22)
[47] 44(戦争イベント始まり )[東西南北](2010/03/25 01:23)
[48] 45(戦争イベント・一日目終わり)[東西南北](2010/03/22 00:04)
[49] 45.5(幕間)[東西南北](2010/03/25 01:24)
[50] 46(カイツール√・二日目)[東西南北](2010/03/25 00:54)
[51] 47(エンゲーブ√・三日目)[東西南北](2010/03/27 00:11)
[52] 48(戦争イベント・両ルート最終日)[東西南北](2010/03/28 00:08)
[53] 49(ケセドニア)[東西南北](2010/04/04 11:26)
[54] 50[東西南北](2010/04/12 00:02)
[55] 51(シェリダン)[東西南北](2010/04/30 01:47)
[56] 謝罪文(色々と諦めました)[東西南北](2010/04/30 01:50)
[57] 52(地核作戦タルタロス)[東西南北](2010/06/18 00:39)
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[15223] プロローグ
Name: 東西南北◆90e02aed ID:83c3ebf3 前を表示する / 次を表示する
Date: 2010/01/07 02:13




 エルドランドで鳴り響いていた轟音が止まった。










 ふらりとたたらをふんで、ルークは足もとに剣を突き刺しなんとか踏みとどまる。ひざが折れてしまいそうだった。ぜいぜいと喉の奥が煩い。身体中ぼろぼろだ。唾を飲みこめば強い塩と鉄の味。
 気を抜けば簡単に倒れてしまいそうな状況で、それでも気力を振り絞って顔をあげた。視線の先には師と慕った人が倒れ付している。

 せんせい、と。

 ぼうとした口が慣れた言葉を紡ごうとしたのだけれど、それよりも先にかのひとは金色の光に解けて消えた。
色も、温度も、重さも、何も残らない。灰もなく、骨もなく、まるでレプリカのように消えていく。


 「オリジナル、でも……こういうこと、あるんだな」


 血を流しすぎたせいだろうか。もう何も考えられ無い。考えないまま、ポツリとこぼれたその疑問に返る声は無い。
 いつもなら聞こえてくるはずの、嫌みったらしそうな声の、むやみやたらに理論まみれで小難しくてよくわかりもしない、確定はできませんがだのおそらくだのではじまる説明が無い。
 その説明に感心したような、納得したような、それでいてトンチンカンな感想を放つ声がしない。
 その感想をさらに引っ掻き回して、これ以上無いくらいがっくりとくるような回答を出してくる明るい声がしない。
 その声を嗜めるような、訂正するような優しい声もしなければ、呆れたように、けれど楽しそうに笑う声も無い。

 ああ、どうしてこう嫌な予感しかないんだろう。のろのろと首を巡らせて、見つけた。後ろのほう。



 割れためがねと、赤い水たまり。


「ジェイド」


 視線をめぐらせる。
 動かない人形を握り締めたままピクリとも動かない小さな女の子。


「アニス」


 視線をめぐらせる。
 アニスのすぐそば。回復譜術をかけようとしていたのだろうか、必死に這っていったような血のあとと、随分遠くに折れた弓。


「ナタリア」


 視線をめぐらせる。
 地面につきたてた剣の柄を握り締めたまま動かない。起き上がろうとして爪が剥げるまで地面をかきむしったのだろうか、赤い筋が茶色の大地に伸びている。そうまでして立ち上がろうとしたのに、立ち上がれなかった金色の髪の。空色のひとみは、もう開かない。


「ガイ」


 視線をめぐらせる。
―――ミタクナイ
 赤い血だまりの中で動かない。
―――ミタクナイミタクナイミタクナイ
 焦る自分を落ち着かせてくれた、励ましてくれた、優しい声も。
 変わろうと必死にもがくように足をすすめる無様さを笑うでもなく馬鹿にするでもなく、それでも見守ってくれていた青い眼も。
―――ミタクナイミタクナイミタクナイミタクナイミタクナイっ!!
 もう二度ときくことも映すことも無いのだと嫌でもわかる量の赤色が、


「…………ティア」


 なんだよこれ。なんでだよ。なんでなんでなんでなんでなんでなんで。どうして。どうしてだ。どうして!

 うそつきめ。この陰険めがね。あんた、この戦争終わったらフォミクリー技術をどうだかするって言ってたくせに。アニスがいってたぞ。アンタはアンタなりにレプリカのことをどうにかしようとしてくれようとしたんじゃねえのかよ。

 うそつきめ。このちんちくりん。初代女性導師になるだとかいってたくせに。イオンがやりたかったこととか、遣り残したこととか、やれなかったこととか。やりきるんだっていってたじゃねえか。このまえダアトに帰ったとき、フローリアンと約束してただろ。一緒に隠れんぼするんだろ。勉強するんだろ。料理を教えてやるって言ってたじゃないか。お前の親父さんとおふくろさん、どうするんだよ。お前がいないとだめなんだ、って笑っていってたじゃねえか。

 うそつきめ。この説教魔人。せっかく、人がものすげえ頑張ってあの短気なヤツと約束させたんだぞ。ナタリアが悲しむからな、って。必ず帰ってくる、って。約束なんて嫌いだとか抜かしやがってたあいつと約束させたんだぞ。死んだからなんだ。ばかばかしい、あいつが俺とのはともかく、お前との約束を破るもんか。だってアッシュだぜ? すぐに閻魔大王だの地獄の門番だの、殴り倒してけちらかして気合で帰ってくるだろうが。なのになんで。お前がいなきゃ、どうしようもないだろ。あいつの頭ん中、六割占めてるお前がいなきゃ、どうすんだよ。

 うそつきめ。この女嫌いの女好き。花、見に来いっていったくせに。ペールが育てた花見にこい、って言ってたくせに。どうすんだよ。おまえがいないとこに、いけるはずないだろ。気合で生き残ったって、一人だけおめおめ生き残っていけるわけ無いだろ。どうすりゃいいんだよ。せっかく行く気だったのによ。しかも、お前こないだマルクトの貴族に戻ったばっかだろ。家を復興させたのに、またいきなり断絶かよ。おまえの姉さんが、メイドが、家族がみんなが命張って助けてくれたんだろ。それで、やっと復興させたんだろ。何やってんだよ。……ほんと、何やってんだよ、お前。

 うそつきめ。

 ―――ずっとみててくれるっていってたのに。

 なあ、まだ、おれ、生きてるよ。この戦いが終わったら、俺、死んじまうんだろうなって思ってた。それはわかってた。でも、俺、まさか、皆に、こんな風に置いてかれるなんて、思ってもなかったんだ。
 なのに何で。どうしてだ。どうして? どうしてこうなった? なにを間違えた? どこで間違えた?
 なあ皆。間違えてなんてなくて、あるべき形としてこうなったとでも言うのなら、俺はそれこそ世界を恨んでしまいそうだよ。

 自分達で悩んで、自分達で選んで、自分達で決断して手に入れた結果だというのに。まるで場違いな恨み言を言いそうになる自分を自覚して、唇をかみ締めた。力を入れすぎたのか血の味がにじんで、慌てて緩める。
 こんなときに自分で自分にダメージを与えられる余裕があるわけでもない。


「……ローレライ、を」


 解放しないと。
 つきたてた剣の柄を改めて握りなおす。これで最後だ。
 ありったけの力を振り絞って、超振動をおこす。地面に光が浮かび上がって、その光が紋を描く。鍵を回す。
 そうすれば辺りに地割れが走って―――大地が、崩落を始めた。


「…………あ」


 当たり前といえば当たり前だったのかもしれないけれど。
 そうすれば、倒れていた仲間達が落ちていった。自分だけがふわふわとゆっくりと下降していく紋に囚われたまま、他のみんなは奈落の底へと。それがどうしてだかひどく悲しくて、手を伸ばそうとして、剣を支えにしてようやっと立てていた体はあっと言う間にがくりと崩れた。

 それでも必死になって手を伸ばすのだけれど、伸ばした手はかすりもしない。届くことなく、暗い場所へと落ちていく。アニスもガイもナタリアもジェイドもティアも、みんな。

 苦しくて、悲しくて、痛くて、辛くて、もう眼を閉じてしまいたいと思って―――どさり、と。すぐとなりで聞こえた音に。首だけをどうにか回して、見えてきたのは目をさますような鮮やかな赤。
 泣きたくなった。


「アッシュ……?」


 もういやだ。何でこうなった。どうしてこうなった。

 一番初めに死ぬのだろうと思っていた。みんなの中で誰よりも先に行くのだろうと思っていた。レムの塔で、瘴気を中和してから。いつ死ぬかも解らない体になって、死にたく無いと強く思って、生きたいのだと強く願って、それでもこの中なら誰よりも早く死ぬのだろうと思っていた。
 なのにどうだ、結果はこれだ。真っ先に消えていくはずのヤツがこうして最後まで残ってる。これからももっと時間があるはずだった人たちが、よりにもよって、最後の最後で。
 こんなの、こんなの、こんなの、……こんなの。


「……ぜったいに、おかしい」


 おかしい。間違ってる。こんな結末、間違ってる。正しいはずが無い。皆が死んで、これから消えるはずの俺だけが生き残ってて、こんなの。


「……くしょう、くそ、……ちくしょォ!!」


 声を出すだけでも喉の奥が焼ける。それでも、それがどうしたといわんばかりに声をあげた。気を持たなければ簡単に擦れてしまう声を、世界に叩きつけるように振り絞る。
 星の記憶そのもの。そんなたいそうにで呼ばれるのなら、ちっぽけな人間一人の願いくらい、せめて聞くだけきいてみせろと声を枯らす。


「……ローレライッ!」





「―――ふん、ぴーぴーひよこがないとるかと思えば、なんだ小僧。随分と愉快な格好だ」




 不意に聞こえたのは、いつも脳裏に響いていたものとは違う。
 聞いたこともない、場違いのようなつまらなそうな低い声。
 ぞくりとする、だけじゃすまない。怖気が走る。紅い瞳だというならジェイドのものと同じだともいえるはずなのに、何かが違う。金縛りにあったかのように、体が動かなくなるほどの重圧。
 灰色の短髪と顎を覆うような髭。見た目よりも若そうではないかという印象もあるが、見た目以上に年をとっているのではないかという予感もある。言ってしまえば、訳が解らない存在だ。

 そうだ、きっと。彼という存在を、自分では認識することが精一杯で、理解なんてできるはずがない。


「やれやれ、開いた時間と世界がよほどふっとんでおったようだ。まるで御伽噺のようなせかいではないか」

「だれだよ、あんた」

「おまけに喋るひよっこは無礼者ときた。……まあ、表情と腹の中が一致しとるだけかわいいもんだ、ということにしておくか。おい、そこの赤ピヨコ」

「ぴよ?! ……くっそ、だれがひよこだよ!」

「ああ? 年も経験もなんもかんもがピヨっこな小僧などと、お前しかおらんだろうが。……わからんか? 髪型も含めて命名するに、まさにー……そうだな、赤ひよこ」


 だろう? などと首を傾げて言われても、どんな反応を返せばいいか。いや、もうここはいっそソウデスネとでも言ってしまえば丸く収まるのかもしれないが、そもそも確かに七歳といえばこの人から見れば十分ひよっこかもしれないななどとつい思ってしまったが、それでも従順に頷くなんて納得できない。


「だれがだ! 俺は、ルークだ。ルーク・フォン・ファブレ。たとえ無知で未熟で大馬鹿で本当にどうしようもない阿呆で臆病者で偽者だろうがおまけに名前すら借り物だろうが、それでも俺は俺で、俺であるときめたんだ! 俺は、ルークだ。それ以外のなにものでもない!」

「ほう……?」


 にやりと細められた瞳に、ルークは思わずびくりと体を強張らせた。それでも視線だけは逸らさない。本当は逃げてしまいたかった。けれどこの場合は、もう身体中ズタボロで満足に動けなかったことが幸いしたのかもしれない。


「おもしろい。散々自分を卑下して自虐して自分で言ったくせちょっと落ち込みかけおって。そう言う趣味かと思ったが、目と意思だけは一人前でどうにもそうではないらしい。おもしろい、ははははは、面白いな小僧!」

「……っ、だから」

「『ルーク』」


 赤い目が。彼が知っている色とは違う。まるで、人のものではない様な、赤い目が。
 こちらの胸中を見透かすように、ぐいと覗き込んでくる。


「さきほどから、泣きそうな声で叫んでおったな。見たところだが共に何事かをなした仲間が皆死んだか。どうだ―――やりなおしたいとは、おもわんかね?」

「……な」

「過去にもどしてやろうかときいている」

「過去、に?」

「そうだ。今ある全てを捨て去る覚悟はおありかな?」


 押し寄せる重圧に世界のうねりに歯を食いしばりながら耐えて、必死に前を見て歩きながら選んで掴んだその結果も。今まで築いた思いも誓いも約束も信頼も、何もかもを無かったことにして。

 それでも、


「過去に戻ってやり直したいかときいているのだ」

「…………」


 過去。やり直し。なかったことにして?
 そうすれば。


 やれやれ、なあルーク、聞いていいか?
『な、なんだよっ』
 あのさあルークぅー……私も聞いていい? なんでこげるの?
『そりゃ、そのー……あー、あれだ、こう……一味工夫をと』
 そうですか、工夫ですか、工夫しようとして熱処理ですか……フルーツミックスで
『ぐぅっ……』
 ですが、なにか創意工夫をしようといろいろ挑戦することはとてもすばらしいことだと思いますわ!
『だ、だよな! だよな、何事もチャレンジは悪いことじゃないよな! さすがナタリア!』
 そうね、悪いことではないわね……この場合では発想の転換が少しいただけないけれど。ねえ、まさかとは思うけどルーク、熱処理しようとしたのはうっかり食材を落としてしまったから、なんてことは
『ぎくっ』
 ……ルーク? あー、今、ぎくっとか言わなかったか? 思い切り口で。
 ぎくって言ってたねー。思い切り口で。アニスちゃんにもばっちりきこえちゃったよぉー?
 そうですか、ぎくっ、ですか。そうですか……わかりやすいひとですね、あいかわらず
 ぎく? 効く? 菊? どこにありまして?
 ナタリアあのね、そうじゃなくて……



 また逢える?
 朝寝坊しただとか必死に準備して降りたら寝癖だとか呆れられたり笑われたり。
 危なっかしい料理の手つきを心配して、隣や後ろから教えてくれたり。
 空や海の蒼とか。森の緑とか。夕日の金色だとか花の白だとか。思わず呟いた言葉に、そうだねと笑いながら答えてくれる人たちと。

 また逢える?


「俺、は……」


 今までの全てをなかったことにして、そうすれば。
 やりなおせば、今度こそきっとこんな風にじゃなくて。

 きっと、もっと、たくさんの人が、皆が幸せで救われる―――そんな結末を、


「できません……」

「む?」

「なかったことになんて、できない……」

「なんだ、仲間にはもう逢いたくないのか?」

「そんなわけない!!」


 悲鳴のような声になる。声がかすれて泣き喚いているみたいだったかもしれないけれど、情けないだとかそんな余裕もなかった。あれだけ恐かった眼をこちらから合わせて、真っ向からあの赤い瞳を睨みつけて、それでも感情のせいか声の震えはどうにもならない。


「そんなわけない、会いたい、逢えるならまたみんなにあいたい! 決まってる、そんなの! 確かに何度も何かを決めてその選択でこの結果になった。でもそのたびにこんなはずなんじゃなかったってばかりの事だってあった。本当はもっとやれたはずのこともあったかもしれない。でもそれはぜんぶ、その時の俺達が俺達なりに必死になって考えて、選んで、それが最善だと信じて進んできたんだ! その結末は俺だけのものじゃない……仲間と、みんなで選んだものだから」

「だから、巻き戻せない? ふん、ここは一応誉めるべきか? しかしな、ルーク。その答えは、正しい。正しいが、情がない。理性だけの答えだ。気に食わん。気に食わん、気に食わんな。なんだ、お前も心が壊れた行き着く現象と同じ口か? 貴様にとっては仲間など、情を抱いても執着を持つほどではないと、」

「違う! ちがうちがうちがう! 俺は、俺はただ―――」


『お前も見にこいよ。陛下だって待ってるんだぜ。気楽に、ま、遊びにくるような感じでさ』
『うっは……うん、わかった。しかたないなぁー、解った。うんうんうん、このアニスちゃんに任せなさい!』
『やれやれ……悪い子ですねぇ、まったく』
『あなたは私のもう一人の大切な幼馴染でしてよ』
『……お願い。もう私に隠し事はしないで』


 たくさんの約束をした。言葉を交わした。大変だったけど、悲しい事だってたくさんあったけど、優しいことばかりなんかじゃ決してなかったけど、それでもきっとすごく楽しい旅だった。
 あの時感じた喜びも、怒りも、悲しみも、苦しさも幸福も――――胸をえぐった、あの現実の冷たさも。

 そんな記憶や、築いた信頼を。


「なかったことになんて、できない―――したくない……っ!」


 ティア。お前、俺には傲慢さが足りなくなってるって言ったよな。あれ、きっと違うよ。俺はこんなにも傲慢だ。
だって、そうだろう? 本当ならたすけられたはずの、助けられなかった人たちを救う方法を目の前に差し出されて―――それを受け取ることができないんだから。
 きっとそうするべきなんだって解ってても―――俺は、おれ自身だけの理由で、その方法を拒絶して。

 こんなの、傲慢以外の何物でもないんだから。


「く、くくくく……はははははははは! そうかそうか、心底欲して、同じだけ否定して、そして理性が否定する、か。なるほど、欲求が一で否定が二。ならば回答が否定になるのも道理といえば道理だな」

「なんで、笑って……っ、俺の答えがおかしいからですか!」

「はん、たわけ。そんなの『気に入ったから』にきまっとろうが。いいだろう」


 そう言って、彼は徐に片手を上げた。その手に握られているのは、きらめく輝き。世界中の光を集めて反射する世界を開く刃。刀身まで宝石で作られた剣で、どう考えても実用的ではなくて、威圧感など感じるまでもないはずのその剣に、ルークは背筋を凍らせた。
 圧倒的な、何かの流れ。


「実をいうとな、お前さんの叫びは正しいのだよ。『この世界』の結末は、こうなった。こうなった結末ができた時点で、すでにそういう『可能性』は生まれているのだ。ならば、たとえ同じ世界の時間軸を巻き戻した世界に貴様を送ったとしても、可能性の分岐としての『平行世界』は確として存在する。巻き戻しても、歴史を変えても――お前が今この場で辿っていたこの世界はなくならない。ただ、分かたれた分岐、可能性のひとつとしてお前を忘れて欠けさせたまま進んでゆくのだ」

「このせかい……? かのうせい? 何を、言って」

「まあ、小難しい理論はいい。つまりだな、小僧。いやルークか。気に入ったから、お前に一つ可能性の旅をプレゼントしてやろうと思ってな」

「?!」


 振り下ろされる宝石の刃。断絶する空間、空気が荒れ狂う。混乱が酷い己の喉からはもはや声すら出ない。


「これからお前が行く世界はお前がもと居た世界とは違う。舞台も、条件も、全てが同じ。ただ違うのは異世界からの『お前』と言う存在の有無のみ。その世界には既にその世界のお前もいる、仲間もいる」
「何もかもが同じだ。ただ、その世界に生きている人たち全ては真実の意味で『本当の』お前の世界の住人たちではないというだけのこと」
「自分の世界ではないよく似た違う世界で、本当は違う自分のものではない世界を―――こうなる可能性もあったのだと、せいぜい足掻いて掴めるように努力するんだな」


 ああそうだ、ものはついでだ。孤軍奮闘ずたずたになってそれでもかけていく姿も胸を打つがさすがに酷だともおもうので、相棒を一つつけてやろう。なに、磨り減りきったヤツではなくて一応答えは得ただとかほざいていたたわけのほうにしておいてやる。くく、まあ、この問答が縁といえなくもないだろうというか縁だということにしてやるさ。

 そんな、めちゃくちゃなことをと呟いた彼にひょいと脇に抱え上げられて。


「よーし、なげるぞ。舌かまないようにしておくように」

「っはぁ?!」

「いち、にーの、」

「あ、ああああああの! すみませんその前にあのあなた一体誰なん」

「さーん!」

「ええええええええええ?!」






 もうめちゃくちゃになって訳が解らなくなる寸前。



 キシュア・ゼルレッチ・シュバインオーグ。
 覚えきれ無いなら宝石翁とでも呼んでくれ。





――――――そんな声が、聞こえた気がした。








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