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No.15223の一覧
[0] 【習作】焔と弓兵(TOA×Fate)[東西南北](2010/02/19 00:50)
[1] プロローグ[東西南北](2010/01/07 02:13)
[2] 01[東西南北](2010/01/25 23:57)
[4] 02(改定)(エンゲーブ)[東西南北](2010/01/25 23:59)
[5] 03[東西南北](2010/01/18 00:09)
[6] 04 [東西南北](2010/01/25 23:59)
[7] 05(タルタロス)[東西南北](2010/01/25 23:59)
[8] 06[東西南北](2010/01/26 00:00)
[9] 07[東西南北](2010/03/15 23:51)
[10] 08(前編)[東西南北](2010/03/25 00:56)
[11] 08(後編)[東西南北](2010/03/25 00:57)
[12] 09[東西南北](2010/01/28 12:06)
[13] 10(セントビナー)[東西南北](2010/01/28 12:07)
[14] 11(フーブラス川)[東西南北](2010/03/31 10:36)
[15] 12(カイツール)[東西南北](2010/01/28 12:07)
[16] 13(コーラル城)[東西南北](2010/01/30 00:09)
[17] 14(ケセドニア)[東西南北](2010/01/30 00:09)
[18] 15(キャツベルト)[東西南北](2010/02/04 22:39)
[19] 16(バチカル)[東西南北](2010/01/25 23:56)
[20] 17[東西南北](2010/01/27 00:03)
[21] 18(バチカル廃工場)[東西南北](2010/03/25 01:01)
[22] 19[東西南北](2010/03/25 01:02)
[23] 20(砂漠のオアシス~ザオ遺跡)[東西南北](2010/01/31 00:02)
[24] 21(ケセドニア)[東西南北](2010/03/25 01:04)
[25] 22(アクゼリュス)[東西南北](2010/03/25 01:05)
[26] 23(魔界走行中のタルタロス船内)[東西南北](2010/03/25 01:07)
[27] 24(ユリアシティ)[東西南北](2010/03/14 23:42)
[28] 25[東西南北](2010/03/25 01:08)
[29] 26(アラミス湧水洞~)[東西南北](2010/02/09 00:02)
[30] 27(シェリダン)[東西南北](2010/03/25 01:09)
[31] 28[東西南北](2010/03/25 01:11)
[32] 29(シェリダン~メジオラ高原セフィロト)[東西南北](2010/02/14 22:54)
[33] 30(メジオラ高原~ベルケンド)[東西南北](2010/03/25 01:12)
[34] 31[東西南北](2010/03/25 01:13)
[35] 32(ユリアシティ)[東西南北](2010/03/14 23:44)
[36] 33(上空飛行中アルビオール船内)[東西南北](2010/03/25 01:15)
[37] 34(グランコクマ)[東西南北](2010/02/24 23:50)
[38] 35[東西南北](2010/03/14 23:45)
[39] 36(ダアト~ザレッホ火山)[東西南北](2010/03/14 23:45)
[40] 37[東西南北](2010/03/14 23:45)
[41] 38(ダアト)[東西南北](2010/03/25 01:17)
[42] 39(ルグニカ平原の川を北上中)[東西南北](2010/03/25 01:19)
[43] 40(キノコロード)[東西南北](2010/03/25 01:21)
[44] 41(セントビナー~シュレーの丘)[東西南北](2010/03/14 23:46)
[45] 42(ケセドニア)[東西南北](2010/03/14 23:48)
[46] 43(エンゲーブ)[東西南北](2010/03/25 01:22)
[47] 44(戦争イベント始まり )[東西南北](2010/03/25 01:23)
[48] 45(戦争イベント・一日目終わり)[東西南北](2010/03/22 00:04)
[49] 45.5(幕間)[東西南北](2010/03/25 01:24)
[50] 46(カイツール√・二日目)[東西南北](2010/03/25 00:54)
[51] 47(エンゲーブ√・三日目)[東西南北](2010/03/27 00:11)
[52] 48(戦争イベント・両ルート最終日)[東西南北](2010/03/28 00:08)
[53] 49(ケセドニア)[東西南北](2010/04/04 11:26)
[54] 50[東西南北](2010/04/12 00:02)
[55] 51(シェリダン)[東西南北](2010/04/30 01:47)
[56] 謝罪文(色々と諦めました)[東西南北](2010/04/30 01:50)
[57] 52(地核作戦タルタロス)[東西南北](2010/06/18 00:39)
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[15223] 23(魔界走行中のタルタロス船内)
Name: 東西南北◆90e02aed ID:8d676ee3 前を表示する / 次を表示する
Date: 2010/03/25 01:07




 目を覚ます。ここはどこだ。窓から見える空は紫。障気の空。ああ、あの青が見たい。


「気づいたか、マスター?」

「今はいつだ……」

「タルタロスの船室だ。グレン……自分の体のことは分かってるな」

「ああ……ルークは」

「甲板に居る」

「連れてってくれ」


 溜息をつきながら、エミヤはグレンを担いで甲板にまで出て行った。がちゃり、と甲板への扉を開けると一人だけそこで立ちすくんでいるルークがいた。
 ぼんやりと視線を向ける。甲板にいるのは一人きり。皆が居ないのなら、あの後か。情報源がアッシュだとしたら、壊したのはルークだということになっているはずだ。がたがたと震えながら自分の掌を見つめている。ああ、やはりこうなったのか。いくら少しずつ柔らかになったとは言え、いきなりこの状況に放り出されたら混乱するだろう。
 ルークは、優しい。俺と同じだなんて思えないくらい真人間で、けれど優しいからこそこの崩落に耐えられない。己の力のもたらす破壊に衝撃を受けているのは、他の誰より彼自身なのだから。


「……ルーク」


 擦れそうになる声でグレンが呼べば、ルークはびくりと肩を揺らす。小刻みに震えながら、怯えたような緑の瞳がこちらを向いた。


「俺は、俺はわるくねえ! 俺は、俺はただ……俺は!」

「ルーク……あんま、でかい声、出せねーんだ。こっち来てくれるか」


 小さな声は酷く弱い。ルークは恐る恐る寄ってきて―――その体が一瞬透けたのを遠目に見て、愕然とする。何もかもが吹き飛んで、嫌な予感しかしないのにそれを否定することが出来ない。走って駆け寄る。グレンの顔色は青い。


「グレン……?」

「お前は、悪くないよ。なんて、俺でも流石にいえないかな。でもな、ルーク。あえて言っておくか。悪いのは、お前じゃない。この崩落は、お前のせいじゃないんだ」


 ふらりと伸びてくる手を掴めば冷たい。体温が、無い。
 ルークは自分の血の気が引く音を聞いた気がした。


「グレ、ン……?」


 ああ、そうだな。本当は言わなきゃいけないのは違う言葉だったのだろう。ルークを見ながらぼんやりと思った。
 騙されてたからって、罪は消えない。仕方なかった、分からなかったんだってなんて理由にはならない。どうやったって、起こした事実からは逃げられない。お前はヴァン師匠に裏切られたんだ。そう言ってやらなければいけなかったのかもしれない。それでも、言えるわけが無い。言えるわけが無いのだ、自分だけは。だって、ルークが超振動を使ったのは。


「お前は、俺の願いをどうにかして守ろうとしてくれただけだろう?」


 ルークの眼が驚きに見開かれる。どうして知ってるんだ、言葉にはしなくともそう言っている。


「分かってたのに、防げなかった。どうにかしようって思ってたのに、結局何もできなかった。なら、これはお前を守れなかった俺の咎さ。俺の罪だ。……お前が背負わなくても良いよ」


 ほんとうに言わなきゃいけない言葉は別にある。
 なあルーク、お前結構酷いことしようとしてたんだぞ。俺と同じ事をしたなら、それは責任転嫁だ。仲間を責めて、嫌なことを他人に押し付けて、自分は悪くないんだって思いたくて、自分だけ綺麗なままでいたいって思っていたくて、誰かのせいにしようとした。本当に身勝手だ。でもな、ルーク。これは自分で認めなきゃいけないんだよ。自分にある、そういった汚い、身勝手なところを認めなきゃ、前に進めないんだ。
 そう言うべきだったんだろうか。でも、こんな目をしたルークに言えない俺はやっぱり馬鹿なんだろうなぁ。皆に置いてかれて、怯えた目をしたルークに言えるほど俺は強くなかったから。だって、このまま進んでしまえば、下手をすれば俺みたいなバカな考えを持つかもしれない。
 罪に押しつぶされそうになって、理由を必死に探して、障気を消して死ぬために生まれてきたのかとバカな考えをもたれては困るのだ。


「俺の存在がお前を追い詰めるだなんて、思ってもみなかったんだ……俺は、お前を守りたかっただけだったんだが……どうにも、上手くいかなくてな。悪いな、ルーク。俺がもっとしっかりしてれば良かったんだが」

「……違う」

「だからさ……アクゼリュスが崩落したのは、俺のせいなん……」

「違う!」


 ルークは冷たい手のひらを握り締めた。あんなに温かだったのに、嘘みたいだ。こんなに冷たい。嫌な予感しかしない。誰か助けて。なんだってするのに。この掌の温もりを取り戻せるなら、地獄にだって落ちていい。冷たくなっていくだけのグレンの手を、必死になって握り締めた。


「俺のせいだっ……俺のせいなんだ! だってグレンはいつも言ってくれてたじゃないか! 信用してくれって、話してくれって、いつも言っててくれたのに! いつも教えてくれてたのに! 守ってくれてたのに、俺は……俺が! 俺が……話してたら、こんな……俺の、せいで……」

「違う。お前のせいじゃない」

「だって! お前も見たんだろ?! 俺があの時、パッセージリングを……!」

「違う。お前こそ見ただろう、ルーク。……どの光が、あのパッセージリングを完全に砕いたのかを」

「光……まさか」

「そうだ。壊しかけたのはお前の超振動だが―――止めをさしたのは俺だよ」


 大きな音叉のような形。パッセージリング。崩れかけたとき、後ろから放たれた光が一瞬で焼きつくした。粉も音素も残らず掻き消えた。


「だから……本当の罪人は、俺なんだ……」

「グレン……?」

「アレは、俺のせいだ。悪いな。俺がぶっ倒れてたから、みんなの前でお前を庇えなかった……でも、だからってお前が苦しむことは無い。生きてくれ、ルーク。死にたく無いなら生きてくれ。生きて生きて生きのびて、幸せになって、かっこいいおじいちゃんになってくれよ。そんでもってな、『自分』にだけは負けるな。頑張れよ。お前なら大丈夫だろうから」

「グレン!」

「エミヤ、あとは頼ん……、」

「グレンっ!」


 グレンの意識がなくなる。掌から零れ落ちる。体温がない。光が明滅している。彼の体が時折透き通っていく。消えていく。その予感がはっきりとした事実になるのはきっとそう遠くない。半狂乱になって肩を揺するも、グレンは目を開けてくれない。


「グレン、グレン! おい……どうして、こんな!」

「――――あの光を使ったからだ」


 聞こえてきた声に顔を向ける。そこにあるのは刃色の瞳。責めるでもなく、慰めるでもない。圧倒的な理性をやどした瞳は、淡々と事実のみを話してくる。


「あの光を使うと、こうなると分かっていた。これ以上のラインの逆流は、私の体が乖離する。もう時間を止められない。これからは少しずつ零れていくだけだ。分かっていて使ったのはグレン自身の意思だ。だから小僧、お前がどうこう思う義理は無いのだぞ」

「義理って……そんなわけねえだろ! 俺が馬鹿だったから……俺があれを壊しかけたから、グレンは俺の代わりにそれを被ろうとして使ったんだろ?! 俺だってそれくらいわかる! なら、俺のせいじゃないか……っ俺のせいで、グレンは死ぬのか?! ふざけるな!」


 なんだっていい。なんだってくれてやる。どんなものでも犠牲にしよう。初めて一緒に木登りをして、空を見上げた親友を救ってくれるなら。なんだって差し出すのに。絶望に染まった瞳をするルークを見て、一瞬だけ、アーチャーは目を閉じる。が、やがて開いた瞳はやはり凪いでいた。
 その瞳のまま、アーチャーはルークを呼ぶ。のろのろと顔をあげれば、真剣な顔をした彼がそこに居た。


「グレンを、助けたいか」

「助かるのか!?」

「可能性があるというだけの話だ。ただし、下手をすれば片目が潰れて精神汚染が来るやもしれんし、最悪命すら落とす可能性もある。それでも成功するかどうかは分からんぞ」

「なんだって良い、可能性があるなら何だってする! 片目くらいくれてやる、俺を使ってどうにか出来るならやってくれ……グレンを生かせるなら、なんだっていい!」

「そうか……では、『ルーク』。お前と私の間に仮契約のラインを引く。お前がフォンスロットで取り込む第七音素を、私が魔術行使をするときにのみこちらに流れ込むようにする。そのための準備として、お前にこれから譜眼の処置と譜陣を刻み込むぞ。こちらの譜術とやらは技術の色が濃くて助かるが……私だからな。上手くいくかは半々だ。激痛もするだろう。それでもいいか」

「こいつが助かるならなんだって良いって言ってるだろ! 早くしてくれ」

「そうか。では、譜陣を刻む。歯を食いしばれ」


 アーチャーの手がぼうと光を放つ。その掌がルークの顔を覆いまるで顔面をつかまれるような格好になる。これでどうやって譜陣を刻むのかと思った瞬間、激痛が体中に走る。神経が、直接切り刻まれているように感じる。悲鳴が口の隙間から零れそうになって、それを意地でもかみ締める。溢さない。溢してなるものか。
 一番痛むのは左目だった。恐らく譜眼の処置も同時に行っているのだ。同時平行なのは痛む時間を少なくする為だろうか。それとも、痛みを大きくして己の犯した過ちを思い知れとでも思っているのだろうか。解らない。いたい。でも、これでグレンが生きる可能性が出てくるというなら軽いものだとも思う。
 神経と言う神経を直接ナイフでズタズタに切り裂かれていく痛みの後に、視神経を焼いて捻って粉微塵にするような衝撃が襲い掛かってくる。悲鳴は上げない。悲鳴は上げないが、奥歯を噛みすぎたのか血の味がした。歯が砕けたか、頬の内側を少し噛み切ってしまったのか。

 ルークが必死になって痛みに耐えている間、アーチャーは冷静に譜陣と譜眼の状況を見ていた。どうやら成功したようだ。やはりルークは第七音素と相性がいいらしい。ローレライの完全同位体で、更にレプリカだからだろうか。ほぼアーチャーの思惑通りの譜陣が刻めて、譜眼の効果も期待できる。手を頭から離せば、どさりとルークが甲板に倒れた。仰向けにして、心臓部分に掌を当てる。通すのは、魔術行使時のラインのみ。わざわざ契約破棄をするでもないし、この世界には聖杯もない。好き勝手できる便利さに少しだけ感謝し、ラインを通す。


「――同調、開始(トレース・オン)」


 あれこれ試行錯誤し、どうにかラインを繋いだ。試しに魔術を使おうとすればルークのほうから第七音素が集まってくるのが分かる。……下手にフォンスロットから取り込める量以上の第七音素をルークから搾り出したら、体を構成する第七音素を使用してしまうから気をつけなければならないが……この譜陣と譜眼の効果なら、その日一日ルークは使い物にならないくらい疲労するだろうが、三分くらいは固有結界も張れそうだ。そう、これだけの第七音素を取り込めるなら、きっとあれも投影できるだろう。
 ひとまずは完了か。そして、ルークの疲労を慮ることなく次に行ってしまうが……グレンを助けるためだ、恐らくルークもそうしろと言うだろう。思い浮かべるのは、遥か昔。己が人であったころに投影をした願いの形。


「投影、開始(トレース・オン)」


 創造の理念を鑑定し、
 基本となる骨子を想定し、
 構成された材質を複製し、
 製作に及ぶ技術を模倣し、
 成長に至る経験に共感し、
 蓄積された年月を再現する。

 こうであってほしいという願い、ただ人々の想いで鍛え上げられた最強の幻想(ラスト・ファンタズム)を包む絶対防御。輝く鞘を投影する。……まだ、この鞘を投影できるとは思えなかった。もう投影できないものと思っていた。かつてを思いだした彼だからこそなのか、それでもこの鞘自体がまだ彼を覚えていてくれたのだろうか。
 今は考える時ではない。この世界での、この鞘の主は今エミヤだ。この世界に、彼女が居ない。これは彼女の宝具で、彼女が居なければ宝具の意味を成さない。けれど、この世界には彼女は居ないのだ。作り手であり、主は彼。例えそれが偽りのものであっても、この世界での主は彼なのだ。

 それゆえに、彼は世界に宣誓する。


「全て遠き理想郷。この世界にのみ、その所有権を一時わが主に譲る。全ての時間から我が主を切り離せ」


 ぼう、と輝く鞘はアーチャーの願いを聞き届けてくれたようで、そのままグレンの手の中に握られる。ほっとする。が、解析をして眉根を寄せた。この世界でのみ主とは言え、やはりこれは彼の宝具というわけではない。完璧にとはいかないようだ。


「なるほど。代償は眠り続けることか。眠り続けることで乖離していく第七音素を少なくし、その少ない乖離現象のみ時間から切り離せるといったところか……起こせば緩やかに乖離し始めるな。やれやれ、それでも眠れば死にはしないのだから……まあ、よしとしよう」


 マスターの願いが叶う頃に起こしてやるさ。小さくそう嘯き、ルークのほうを向く。譜陣を刻んですぐに全力で回されたため、意識が朦朧としているようだ。ぼうとした光が服の下から光っていて、異様な様相を浮かび上がらせている。何十にも重なり合って紋を描く大量の譜陣は体だけでなく顔の左半分までを侵食し、本来ならきれいな緑だった左目は髪の色とよく似た赤橙色になっていた。その赤橙色の瞳から、赤い血が流れていた。
 アーチャーは眉をひそめる。譜陣と譜眼は刻んで、効果は十分だがやはり負荷が大きいようだ。魔術行使をするたびに譜眼から血を流されるでは気分が悪い。これだけ譜眼に負荷が行っていると言うのなら、下手をすれば視力が落ちていく可能性もある。剣士にとって視力というのはかなり重要だ。やはり宝具投影などの魔術は使わないようにしていく方向でいたほうがいいだろう。

 魔術行使の名残が消えると、アーチャーのよく知っている雪の少女のように、ルークの体中に浮かんでいた譜陣も消えた。この調子では、アーチャーが魔術行使……恐らく宝具の投影をするたびに光って浮かび上がっては血の涙を流してしまうのだろう。そのたびに周りの人からすごい眼で見られてしまうかも知れないが、仕方が無いと諦めてもらうしかない。まあ、なるべくこちらもギリギリまでは魔術行使は控えるつもりではあるが。
 ぜいぜいと息が荒いながらも必死にこちらを向き、ルークはかすれる声で聞いてくる。


「グレン、は……?」

「ああ、大丈夫だ。眠り続けることになるが、今すぐ死ぬということは無い」

「じゃあ」

「だが命を繋いだだけだ。もう、グレンの体は治らない」

「そんな……」

「しかし、命は確かに繋いだ。マスターの体は、元から脆かった。それはお前のせいではない。今は助かった、それだけで十分だろう。ルーク、貴様のおかげだ」

「俺は……」

「今は眠れ。譜陣を刻んですぐにラインを通して聖剣の鞘を投影したのだ、ひどい負荷がかかっているだろう」


 懸命に起き上がってグレンの様子を見ようとするルークの額に手を置いて、ゆっくりと念じるように呟く。


「今は、眠れ」

「………………」


 ふ、とルークの体から力が抜けた。眠りの海に落ちた彼を見て、アーチャーは紫色の空を見上げる。やはりこうなってしまったか、と。こうならなければいいと思っていた。けれどこうなるのだろうと思ってもいた。と言う事は、自分は彼があの時言っていたとおりにしなければならないのだ。そうならなければいいと思っていたのだが、なってしまったのなら仕方ない。今出来ることをやるだけだ。


「しかしな、マスター。導師イオンは泣いて、きっとルークは怒るだろうよ」


 アーチャーのぼやきに答えるべき主はそれでも目覚めない。






* * *






 夢を見た。誰かが必死になって生きようとする夢だ。


 始まりは夜のタタル渓谷。なり行きの二人旅。バチカルへ。親善大使。アクゼリュス。たくさんの人たちを殺してしまった。償えるはずの無い罪だ。恐怖のあまりに誰かのせいにしたかった。似ている景色を知っている。けれどその時よりも何倍も酷い。皆に見放された。世界でひとりきり。
 そして知った自分という存在の歪さ。劣化複写人間。本当ならいなかったはずの存在。奪ってしまっていた場所。


 ユリアシティ。セレニアの花。ナイフを受け取る。髪を切った。
―――俺、変わりたい。……変わらなきゃいけないんだ
―――……そうね。見ているわ、あなたのこと。

 アラミス湧水洞。洞窟の中。待っていてくれていた。信じていてくれた。
―――俺にとっての本物はおまえだけってことさ。


 ダアトへ。一度失った信頼はすぐには取り戻せない。いろいろなことがあった。目の前のことをどうにかしようとして必死に走り回って、それでも次々に出てくる問題たち。それでも必死になって走り回った。少しずつ信頼もしてくれるようになった仲間たち。必死になって走っていく。


 地核の振動を止めようとシェリダンへ。六神将が襲ってくる。足止めをする人たちが。
―――時間がない! 早くせんかぁ!
―――あたしら年寄りのことより、やるべきことがあるでしょうっ!
―――こんな年寄りでも障害物にはなるわ。
―――仲間の失態は、仲間である俺たちが償う。

 雪の町。明日で最後の戦いだと信じて。
―――一緒に生き残って、キムラスカを良い国に致しましょう。
―――僕はイオンの変わりだけど、僕の変わりは誰もいない。


 終わったと思った。自分がどうしてここに居るのか分からなくなった。戦いは終わらなかったことに気づいて、みんなとまた世界を走り出す。本当はほっとしたのかもしれない。何か役目があればそのことだけを考えている間は余計な事は考えずにすんだから。けれど、本当の戦いの始まりはここからだったのだろう。


 セントビナー。死に際のフリングス将軍が教会で呟いた。
―――始祖ユリア……スコアを失った世界に、……彼女に……祝福を……。

 ザレッホ火山。間に合わなかった。イオンが死んだ。
―――今まで……ありがとう……。
―――イオン様……私のせいで……死んじゃった……!

 チーグルの森。初めてイオンと会った森だ。アニスとアリエッタの決闘。アリエッタを殺した。
―――ママ……みんな……ごめんね……。仇を討てなくて……。

 ダアト。障気中和の方法。レプリカ一万人を殺して障気を中和すれば、中和した者も死ぬ。一人の命か、世界か、なんて考えるまでもないのに。死にたくない。死にたくない。死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない!
―――あなたは偽者ではありません! あなたは私のもう一人のおさななじみですわ。
―――石にしがみついてでも生きることを考えろよ!
―――そうですね。私は冷たいですから。……すみません。
―――もう……イオン様みたいに誰かが消えていくのは見たくない! こんなのイヤだよ! どうしてこんな思いしなきゃならないの? もう……嫌だよ……。
―――……ばか……。

 レムの塔。死を待つレプリカ。俺はこれからこの人たち一万人の命を喰らって世界を生かす。
―――我らは我らの屍で国を作る。
―――ルーク、やめて!
―――……みんな。俺に命を下さい。俺も……俺も消えるからっ!



 死ぬはずだったのが生きている。生きている理由ばかりを捜していた。そんなのじゃなくて、俺は生きていたいから生きるんだと思えるようになれた。けれどそう簡単に世界は回らない。
 その死が目の前に訪れているけれど、あっと言う間に俺を喰らうはずだったそれが、酷く緩慢になってきただけだった。ジェイドにばれた。一番隠して起きたかったはずのティアにまでばれた。本当に上手くいかない。みんなには内緒にしてくれるように頼む。本当に、心配ばかりかけてる。ゴメンな、ティア。


 アブソーブゲートへ。ラルゴがナタリアの実の父親だった。スコアに殺された妻と奪われた娘。
―――……いい腕だ……。メリル……大きくなったな……。

 ケセドニア。夜の海と月。世界は綺麗だ。とても綺麗だ。ままならない事だってたくさんあるけど、楽しいことだけじゃないけど、思い通りになることなんてすごく少なくて、それでも時々本当にきれいなこの世界が好きだった。
 みんなが居る、みんなと居られるこの世界が好きだった。きっと今が一番幸せなんだろう。
―――保つわ。明日も……明後日も明々後日も……ずっと……。
―――『今』が一番幸せなんかじゃないって……思えればいいのに。

 エルドラント。リグレットを殺した。シンクを殺した。アッシュと一騎打ち。
―――それだけが私の意思。ただそれだけ……よ……。
―――ヴァン……ローレライ、を……消滅…。
―――うるせぇ! 約束してやるからとっとと行け!



 終わった。やっと戦いが終わった。なのに。誰もいない。声がしない。動かない。どうして? どうして俺だけ残ってる。どうしてこうなった? 何が間違っていた?
 こんな結末、間違っている。叫んだ。世界の記憶。星の記憶。たいそうな名前で呼ばれるヤツだ。奇跡だって起こせるんだろう。それならみんなを返せと叫びたかった。叶わないことだと知っていた。ジェイドはそれを思い知ったと言っていた。誰にもかなえられないことなんだ。それでも一言言ってやりたかった。今すぐ俺の仲間を返せと叫びたかった。
 あらわれたのは、赤い目をしたきっと悪魔だ。恐いひとだと思った。宝石翁。キシュア・ゼルレッチ・シュバインオーグ。吸血鬼の死徒。魔法使い。
 あまりにも甘い誘惑。もう一度やり直せると。今までをなかったことにして、もう一度。この結末を書き換えることが出来るのだと。言われて、手を伸ばしたいのに―――手が伸ばせない。なかったことになる。あの約束も、誓いも、交わした言葉も信頼も。なかったことにして、もう一度。
 手を伸ばせない。そうするべきだと分かっているのに! 無くしたくないのだと、無かったことにはできないと、心が悲鳴を上げている。もう一度と渇望して、なくす事は嫌だと子どものように泣いている。どっちも選べない。どっちも選びたい。答えはきっと出ない。

 赤い目をした魔法使いは高らかに笑い、そして。


『自分の世界ではないよく似た違う世界で、本当は違う自分のものではない世界を―――こうなる可能性もあったのだと、』


 可能性。可能性? 可能性というものがあるなら、どうか。
 俺が願うのは、ただ―――幸せに。彼女の隣に焔が生きて、そして俺にとって大切な人達が、皆笑える世界があるといい。
 そのためになら、俺はもう一度■■の■■……


 ぶつん、と景色が途切れる。意識が浮上していく。遠ざかる誰かの記憶。本当は、知っていた。起きるたびに忘れて、それでもきっとどこかに残っていた。苦しくてたまらないのに、いとしくて仕方ない。時々こちらを見て泣き出しそうに笑う。

 この記憶は、きっと。





* * *





 そのためになら、俺はもう一度■■■■■……


(ふざけるな……っ)


 そのためになら、俺はもう一度■■の■■を―――


「ふざけるな!」


 自分の叫びで目を覚ます。場所はタルタロスの船室。のろのろと起き上がり、周りを見る。落ちた衝撃であちこちに物が散乱していた。片付ける間もなかったのだから当たり前だが。そして、その一角。もうひとつのベッドに寝かされているグレンをみて、ルークは顔を歪めた。
 言いたい言葉はたくさんある。たくさんありすぎて、礼を言いたいのか怒りたいのか泣きたいのか笑いかけたいのか、よく解らない。グレンの眠るベッド脇。腕組みをして彼の傍にたたずむエミヤを見て、ルークは確認するように呟く。


「エミヤ」

「なんだね」

「グレンは、俺とは違う可能性の『ルーク』なんだな?」

「何?」


 すっと目を細めるエミヤの目を見返して、ルークは淡々と夢で見た、と答えた。その答え方に自分でも驚いた。まるで自分ではないようだ。こんなふうに感情を揺らすことなく声を出すことが出来たなんて、知らなかった。凪いでいる。タルタロスの甲板にいたときの自分の感情を思えば、有り得ないほど冷静な思考。
 ああ、多分。俺は知ってしまったから。これから起こるだろう事を、起きた結果どうなるかを、そして知らなかったら辿っていただろう結末を。知らなかった頃の俺にはもう戻れないんだろう。


「グレンは、誰よりも俺と近い、けれど圧倒的な別人だ。いや、違うか。グレンが友人になってくれた俺は、どうやったってグレンみたいな俺にはなれない」

「夢を見た、と言ったな。どのような形式で夢を見た?」

「他人の日記を読んでるみたいな感覚。でも、多分感情の揺らぎが強烈に残ってるところではその感情が感じられる。それくらいだ」

「なるほど……ではそれは同調フォンスロットではないな。ッチ、グレンが起きたら私が叱られるか。恐らくは私を媒介にしてお前とグレンが繋がってしまったのだろう。ただ、私というワンアクションを挟んでいたせいか自分としての記憶の流動は無かった、と。そんな感じだろうな」

「……エミヤ」

「なんだね」

「グレンは、本気であんな終わり方をしようとしてたのか」

「―――――…………」


 アーチャーは何も言わない。ただ、じっとルークの目を見返すだけだ。けれど、否定もしない。つまりはそう言うことなのだろう。


 そのためになら、俺はもう一度■■の■■を―――


「ふざけるな……っ!」


 そんなのは許せなかった。今までずっと頑張ってきて、頑張ってきた後も頑張って、ずっとずっと走り続けて、誰かを助けようとばかりして。全てを助けようとして、手を伸ばし続けて。バカな自分を見ていても見捨てないでずっと助けて守ってフォローして。……そうして散々苦労させられた相手にそれでも生きろといいやがって、そいつの罪を被って自分は死にかけて。ふざけるな。ふざけるな、一番幸せにならなきゃいけないのは、一番救われなきゃいけないのは、お前のほうだろうに。


「……エミヤ。俺に協力しろ」

「……なに?」


 そんなヤツが、全てが終わった後ののんびりとした世界にいないなんて、そんなのおかしい。
 頑張った人は報われて欲しい。全てが報われるなんてそう思わないけど。それでも、アレだけ頑張ったなら報われて欲しい。だってアイツは本当に必死になって走り続けてきたんだ。そう思うことは、おかしいのだろうか。


「グレンの願いは、俺が叶える」


 静かに言い切った。緑と赤橙色の瞳。そこでアーチャーは確信する。
 すまない、マスター。君は、あの頃の『ルーク』のままのこの世界の『ルーク』を守りたかったのだろう。けれど、変わってしまうようだ。いや、もう既に変わってしまったのか。一度知ってしまえばもう戻れない。一度色を変えた水はもう元の透明には戻れないのと同じように。


「ただひとつを除いて、グレンの願いは全部俺が叶える。そして、俺自身の願いも叶える」

「……お前の願いは?」

「さあな。言ってしまえば叶わない気がする。ゲン担ぎにでもその願いを叶えるまで決して口にしないでおこうか」


 小さくくつりと笑う。ああ、無邪気な子どもはもういない。捻くれていてもまっすぐで、あきれるくらい優しくて、何だかんだいいながら柔らかな心を持っていた、グレンが守ろうとしていた『ルーク』はもういない。これは、決意してしまった眼だ。
 自分の願いを叶えるためなら、立ち塞がる他者の願いを切り捨て進む。それに迷うことを己に許さぬ殉教者の目に似ている。
 ―――こんな目をするように、させてしまったのは。


「それに、エミヤだって俺の首に縄をつけときたいんだろう? なら、俺に協力しといたほうがいいと思うけど」

「……譜陣と譜眼の過多な重ね掛けが精神汚染ではなく感情障害で表れたということだな。擦れたか。いや、それとも擦れたふりをして心を押し殺したか? 七歳には確かにいろいろ衝撃が強かっただろうが、まさかこのように変わるとはな。グレンが起きたら私とて殺されそうだ……仲間はどうするのだ」

「置いていく」


 さらりと。当たり前のように吐き出された言葉に、アーチャーは目を閉じた。


「グレンは悲しむぞ」

「俺を先に怒らせたのはグレンだぜ」


 置いていく、と彼は再度静かに呟く。


「これから辿るはずだった未来を知っている。結ぶはずだった信頼も、築くはずだった信用も、交わすはずだった約束も、友愛も親愛も誓いも全てを置いていく。そうだな、それくらいを対価にしたら、等価交換とやらで俺の願いも叶ってくれないかな」


 くるはずだった未来があって、そうならなかった今がある。
 汚れるはずだった手は、血を吐くような想いで守られ続けて未だに潔癖だ。

 グレンの記憶を覗いて知った。人を殺すことを本当に怖れていた彼の心を。俺は今まで、ずっとそんな思いを俺の代わりに背負わせて。ずっとずっと背負わせて。アクゼリュスの崩落とういうものまで、二度も背負わせてしまったのだから。
 グレンが、あれは己の罪だと言い切った。ならばもう何を言っても翻さないのだろう。どれだけルークがあれは自分の罪だと言っても、グレンはそれでも止められなかったのだと、己の罪だと言って引かないのだろう。
 違うのに。あの崩落の罪人は俺なのに。大きすぎる力を分かっていないとアリエッタに言っていた言葉が引っかかっていたくせに、結局考えることを放棄して。いつも何かを考えていろと教えてくれたのに、師匠が言うのならと思考を停止させて。考えることもなく力を使った。

 そんなどうしようもない大馬鹿では、あれくらいの対価を払わねば願いも叶わぬだろう。


「来るはずだった未来は、そうだな。オリジナルにでも全部くれてやる」


 そうだ、それがいい。そうあるべき姿。レプリカがいなかったらそうであったはずの本当。全部全部被験者に返そう。俺の全部をくれてやる。だから。


「なあ、エミヤ。ひとつだけ、どうしても叶えたいんだ。グレンの願いは、ちゃんと叶える。一人でも多くの人が死なずに、たくさんの人が笑っていられるように、仲間の誰もが死なないように。その願いは、ちゃんと叶える。だから協力してくれないか」


 わざとだろうか、それとも偶々だろうか。ルークの口から零れる言葉は、グレンが一番強く想っていた願い以外だ。一番欲しいものは手に入らないけど、二番目以降はすべて手に入るよ。それを幸福と呼ぶか不幸と呼ぶか。けれど、ルークの言葉はグレンにとってはそう言われているのと同じ意味を持つ。
 ならば、グレンを主とするアーチャーとしては、こう答える以外にない。


「良いだろう。ただし、協力者だ。互いの利害の一致のための協力者」

「なるほど。俺がエミヤの裏をかいてもいいけど、エミヤが俺の裏をかくかもってことだな。まあ俺がエミヤの裏をかけるわけがないから、俺がいつも気を張ってないといけないんだろうけど」

「お前の願いはどうもグレンにとって見過ごせないもののようでね。……おまけに今のお前にしたのは私のせいでもある、私がどうにかせねばなるまい。だが、グレンの願いをかなえるというところでは完璧に協力しよう。どうだ、不服か?」

「いいんじゃないか。途中のがよくわからないけど、お前はグレンの従者で、俺の相棒ではないんだから。それで十分だよ」


 ゆるりと笑う。ルークでないルークの笑顔だ。心が完全に死んだわけではない。ただ、残されたほんの少しさえも押し殺している。それは願いのために全てを置いていくと決めたからだ。全く。グレン、懐かれすぎだぞ、これは。
 その表情の危うさに、アーチャーはこれからのことを考える。これは、ルークを一人にするわけには行かない。この表情を浮かべる人間は、えてして自分の命を勘定に数えないタイプが多い。嫌になるほど知っている。せめて仲間のうちから誰か一人を引っ張り込まねばなるまいが……全てを置いていく発言をしたルークは猛反発をするだろう。これ以上無くどうしようもないほどの理由をつけるとして……引っ張ってこれるのはあの一人だけだ。が、それは恐らく一番ルークも反発をするだろう人物で。
 どうしたものか、とアーチャーは一人溜息をはいた。タルタロスは暗い海を進んでいく。



 こうして岐路の先はあるべき道筋から逸れていった。彼は彼自身の願いを持ったが故に。







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